白昼堂々に血風舞う―――
そんな不測の事態に、周囲りはただ固唾を呑んで見守るばかりでした。
そこを、見知らぬ異国の地にて騒がれるのを良しとしなかった謎の彼は、囲みの隙をついて敵中突破を図ったのです。
その彼の動きを見て、刺客達も彼のすぐ後を追って行きました。
そして、その場に残されたのは、リリア唯一人のみ―――・・・
それにしても・・・拭えない違和―――
驍本人ではないにしろ、どこか似たような言葉を吐き―――どこか似たような身のこなし方をする・・・
すると―――また・・・リリアの胸が熱くなってきたのです。
そのすぐあとに、いつもの様子と違ったリリアを追い、すぐに見つけたラスネールと市子は、
町のメイン・ストリートに、まるで棒のように立ち尽くしたリリアに駆け寄ってみたところ・・・
市:大丈夫なのですか―――リリアさん。
リ:市子・・・ああ、私なら大丈夫―――でも・・・なんだろう、この感覚・・・
ラ:どうしたお嬢、奴らの誰かにやられでもしたのか。
リ:ううん・・・違う―――そうだ!それより・・・あいつが生きていたんだよ!
市:「あいつ」・・・それは驍とか云う方のことですか。
リ:そうなんだよ! その驍が、私を追ってきた奴らに・・・そうだ、こうしちゃいられない―――あいつを助けてやらないと!
身体に目立った外傷は見られませんでしたが、どこか不調を訴えているかのような口調に、二人は心配をしたものでしたが・・・
すぐにリリアが奇妙なことを云い始めたので、寧ろそちらの方に注意を払わなくてはならなくなったのです。
それにしても―――奇妙なことを云い始めたものでした・・・
いえ、「奇妙」と云うには、あまりにも「奇妙」に過ぎた・・・
常識的には、死んだ人間は生き返りはしない―――況してや、肉体を持たないようにするために、荼毘に臥したものなのに・・・
そんなことは、万が一にもあろうはずがありませんでした。
けれどリリアは―――自分の両の眼で、はっきりと確認をしていたのです。
瓜二つと云えるほど・・・よく似た―――今は亡き、宿敵の面影を宿す謎の彼を・・・
だから居ても立ってもいられず、謎の彼が去って行った方角に駈け出したのです。
而してその先には、やはり謎の彼が、刺客と思われる者達に囲まれており―――
しかしリリアも、先ず自分の目的を優先させるめ、なにより謎の彼を手助けすることが先決だと思い、
わざわざ刺客達の囲みを割って入り、謎の彼に加勢をしたのです。
リ:た、多勢に無勢とは卑怯なり―――故あって加勢・・・助太刀する!
謎:お主は先程の・・・だが、助勢は一切無用―――!
リ:あんたには無用でも、こちらにはちゃんとあるの!
これが済んだら・・・あんたに訊きたいことがあるんだからね―――
謎:なんと・・・
フフ―――フフフ・・・なんとも、面白きことを云われる娘御よ。
されど・・・先程の拙者の一言に、一切の偽りなし―――須らく片付けて候・・・
そう謎の彼が云い放った刹那―――歪な音が、リリアの鼓膜に響きました。
その直後、謎の彼とリリアを囲んでいた五人もの刺客は、血を吹いてその場に倒れた・・・
しかし一体、何が起こったのか―――
リリアは全く要領を得なかった・・・と、云うより、「見えていなかった」のです。
つまりは、謎の彼が刀の柄に手を掛け、横薙ぎに払い―――それをリリアが本能的に自分の剣で防ぐまでの間・・・
リリアには、謎の彼の抜刀の瞬間を、その目で捉えきれていなかったのです。
それにしても・・・驚くべきは、謎の彼の膂力も宛らにして―――鞘の内にて飛燕すら斬るとされる、精妙な太刀筋・・・
だとしたらなぜ、その驚異の剣術を修めた謎の彼が、リリアが刺客達に絡まれた時に、彼らと斬り結ばなかったのか・・・
けれどそのことは、簡潔にして明瞭―――謎の彼にはなにやら訳があるらしく、今は取り分け目立ちたくはなかったのです。
だから人気の多いメイン・ストリートではなく―――それを避けた場所で、刺客達を一掃したと云うわけなのです。
それにしても、こちらもようやくにして―――・・・
リ:終わった・・・わね。
さあ、訊かせてもらうわよ、色々と・・・
そう―――「色々」・・・
リリアは、つまるところ、訊きたいことが山ほどありました。
けれど、リリアが質問をするよりも前に、謎の彼の方からある事をリリアに訊いてきたのです。
そう・・・初対面であるはずの自分達―――なのに・・・なぜ「あの名前」で・・・
謎:そう云えばお主・・・先程拙者のことを「驍」・・・と、呼びなすったな。
リ:(!)ああ・・・そうだ―――そうだとも! あんたは、驍・・・
謎:なぜ見ず知らずのお主が、拙者の「兄」のことを知っておるのだ。
リ:え・・・? 兄・・・?! 驍―――は、あんたの兄だと云うのか!!?
十二話;その男―――蓮也
道理で似ているはず―――と、そう思っていたら、謎の彼こそは、リリアの宿敵であった驍の実弟だったのです。
しかも、驍の弟である彼―――「千極蓮也」は、ここ二・三年音信が途絶えている兄のことを心配し、
兄である驍の消息を辿って行きついた先がこの町だった―――と、云うことだったのです。
そのことを聞き、リリアは―――或る真実を彼に伝えるのでした。
リ:実は・・・あんたの兄は―――・・・
蓮:なんですと?! そんな莫迦な―――!
その事実は、伝えるリリアにとっても辛いものでしたが、血の繋がりのある肉親である蓮也にとっては、殊更に重たく響いたものと見え、
実際に驍の最期を看取ったリリアよりも、その落胆ぶりは激しかったようでした。
そこにはやはり、敬愛して已まない自分が、臨終の際に側にいてやれなかったこそからか・・・
そして蓮也たっての願いで、兄・驍埋葬の地を教えて貰いたいと乞われ、ならば一緒に―――と、云う事で、リリア達が築いた塚に案内したのでした。
すると・・・到着するなり、すっかり変わり果てた姿となってしまった兄を見て―――
蓮也は声を張り上げ・・・漢泣きに泣きました―――
こんな屈強そうな男でも、声を上げて泣くことがあるものだ・・・そう思うと、一緒にいた者達も皆、涕を貰わずには居られませんでした。
こうして、一頻泣き終えると―――改まって蓮也は・・・
蓮:兄を看取ってくれたこと、感謝の極みに存じます。
・・・が―――おい、そこの・・・そろそろ出てきたらどうなのだ。
リ:うっ・・・何、こいつら―――いつの間に?!
ラ:他人の悪い、気付いていたら一声かけてくれれば・・・
市:ラスネールさん・・・それは無理な話しと云うものです。
この者達は、こう云った影の仕事を生業とし、高度な技術や訓練を受けてきた「忍」なのですから・・・。
それに、抜かりました―――私も、ここまで接近を赦してしまうとは・・・
蓮:それは当然でしょう―――何しろこ奴らは、「九魔」なのですからな・・・
「九魔」―――この名称を聞くと、市子の表情がいつもより強張りました。
それに反面、納得した表情も同時に出していたのです。
これは事後に市子から聞かされたことなのですが、この九魔なる忍の一派は、数ある流派の中でも総合力的に抜きん出ており、
時には身分の高い人間達の警護や情報収集役―――「お庭番」まで務めていたことすらあったと云うのです。
それに、今回はその内でも手足れの者達を揃い集め、蓮也必殺の計を用いようとしていたようなのですが・・・
どうしても判らないことには、なぜ蓮也がそんな連中に命を狙われなければならなかったか―――と、云う事なのです。
=続く=