屈強な者達二十人余りに、すっかり囲まれてしまい―――必殺の計に嵌ってしまったリリア達は、意気消沈してしまうものかと思いきや・・・
ラ:フハハハ―――先ずは重畳・・・
お嬢、ワシの分はちゃんとあるんだろうな―――!
リ:さぁてなぁ・・・勢い余って、私が全部片付けてしまうから―――お前の分なんてないかもよ!
ラ:ハッハ―――そいつは困るな・・・
何しろ最近は、しょぼい活躍しかなかったもんでな・・・久々にこいつを―――振るわんと、いい加減腕も鈍ってくると云うモノよ・・・。
すると周囲りの忍達から、「おお・・・」と、感嘆の声が漏れました。
それもそのはず―――金が払われた額によって、相応の働きをするのが傭兵稼業・・・
その、老練なる傭兵のラスネールが片手で振るっていたのは、常人でも両手で持ち上げるのがやっとの・・・「ジャイアント・バスタードソード」―――
しかも―――・・・
ラ:フフフフ・・・どうした―――このワシの得物を見て、思わず怯っちまったか!?
なんとも・・・可愛いものよ―――これしきで肝を抜かれるとはな。
だ・・・と、すれば―――所詮お前らはワシの「敵」ではない・・・「黒狼」と呼ばれた―――このラスネールの、な!
彼の者の名は―――ラスネール・・・バールゼフォン=ローボ=ラスネール
それも、傭兵仲間の間では、「黒狼」と綽名されるほど、獰猛な漢でした。
彼がこれまでにこなしてきた依頼は、総て完璧に結了させ―――「黒狼」が通った痕は、必ずや屍山血河が築かれる・・・とさえ云われたほどだったのです。
そして、もう一方の市子も―――・・・
市:わが剣閃く時―――彼方の命は露と果てるべし。
―=心眼剣・壱の太刀=―
リ:やぁっるぅ〜♪ 流石は市子―――これで私も負けてられないね。
盲目なのに間合いが読めているのか―――盲目ゆえに間合いが見えるのか・・・
されど、相手の攻撃は市子に掠ることすらなく、逆に市子は一撃・一刃の下に忍達を葬っていたのです。
すると・・・その最中であるにも拘らず、蓮也はある事に気付いたのです。
蓮:(あの御仁の太刀捌きに―――あの訛り・・・)
もしやするとそなたは―――・・・
市:千極様、それより先は、この者達を片付けてよりに致しましょう・・・。
その前に気付いていたのは市子の方でした。
それに・・・そう―――市子に蓮也は、この界隈では異邦人であり、同郷とも見られた・・・
その顕著な例として、彼ら二人が身に着けていた衣服があるのでした。
リリアやラスネール、ソフィアやギルバートなどは、このお話しの舞台が「中世の欧州」と云う設定上、身に着けているのはドレスやシャツと云った形式ではありましたが・・・
驍や蓮也、市子などは、見かけも名も東洋風であったため、身に着けていたのは着物や袴といった格好が目立つ傾向があったようです。
それに―――「千極」という家名・・・
気にはなっていたものの、ここにきてようやく自分の郷里でなされていた噂の裏が取れる事になろうとは・・・
だから市子は、同郷の人間がいるのと同時に、郷里にて噂になっていたことを知る人物がいる事を知らしめようとしていたのです。
それはそうと、今回ばかりは雑魚相手と云えど、かなり手古摺ったモノと見え―――
けれども皆の努力の甲斐あって、忍の撃退に成功したのです。
そして蓮也は、予てから気になっていた事を訊く事にし―――
蓮:忝うござる―――それより、そなたの郷里は・・・
市:いかにも・・・私の産は、飛騨高山―――
蓮:やはり・・・美州細川藩の才女とは、そなたのことでありましたか。
いや・・・神憑り的な抜刀の妙―――篤と拝観させて頂き申した。
市:いえ・・・ですがその前に細川とは―――何かの間違いではありませんか。
蓮:滅相もない、「名家細川の家に市と名乗る女児ありき・・・」それにそなたも市を冠する身―――拙者の思い違いなどでは・・・
市:いえ、千極様―――やはりあなたは、私と誰かとを混合なされていると見受けられます。
されど・・・私は嘗ての家を捨てた身―――故に、ここにいるのは「細川市」なる者ではなく、ただの市子なのです。
ここで図らずも、女座頭である市子の身元が割れてしまいました。
それも・・・彼女と同郷である―――東の最果ての国出身者の手によって・・・
それより、市子の本当の名前は―――細川市・・・
けれども故あって、生家である細川の家より離れ、流浪れ旅をする前までは人里離れた山奥で、生母替わりの乳母を母と慕って暮らしていたのです。
それが二年前―――各地に散らばる大大名たちが、天下に覇を唱える為の大戦を興し、その戦火が市子が暮らしていた地域にも波及してきた・・・
そしてその影響によって育ての母を亡くした市子は、一転して決意し―――流浪の旅にと出たのです。
そんなことより・・・何よりも、期待に大きく胸膨らませた者が、ここに一人―――・・・
リ:ねぇ・・・ちょいと、お二人してお熱い処申し訳ないんだけど―――
あんた―――蓮也だっけ? あんた強いんだね。
だったら私と勝負してよ。
蓮:助けて頂いた―――と、云うのに・・・死合いを申し込まれる謂れは・・・
リ:チ・チ・チ―――それがあるんだよね〜〜
原因は、あんたのお兄さん―――
蓮:兄が―――?
リ:そ・・・まあ、話せば長くなるんだけど―――
第十三話;抑えられぬ・・・この感情い
自分の兄を看取ってくれたどころか、助太刀をしてくれた事に感謝極まっていた処に、
なんとその女性―――リリアと名乗る女性から、全く不要と云って差し支えない対決を迫られ、蓮也は困惑してしまいました。
そんな彼に、自分がこんな行動に至ったのは、驍がいたからこそだ―――と、云い、
その実弟である蓮也にも責務がある・・・と、半ば強引ともいえる無理難題を吹っかけてきたのです。
けれども、こんな強硬な姿勢で迫ってくるリリアに、蓮也は―――・・・
蓮:判り申した・・・そなたには、兄を看取ってもらった恩義もござる。
そなたがそこまで望むなら―――拙者の方もお受けいたそう。
但し―――死合いと云う形式上、一切の手加減はご容赦願いたい。
蓮也から、たった一つのその条件を聞き届けると、いつになく緊張するリリアが・・・
また―――高なってくる・・・この胸の鼓動・・・
気持ちの高揚感―――・・・
驍の逝去で実現しなかった真剣勝負を、実弟である蓮也に無理に押し付ける象で挑んだ時―――
驍に勝負を挑もうとした時の抑揚感が、また再びこうして甦ってきた事に、リリアは歓びました。
しかし―――彼女の著しい変化を、同性である市子が気付かないはずもなく・・・
市:(リリア―――さん・・・? この感じ・・・まさかあなたは―――!?)
そんなに激しく動き回ってはいなかったはずなのに、少々荒い息遣い・・・
「緊張」―――いや・・・これは「興奮」のそれ・・・
それにどうも、ここ最近のリリアの態度をおかしく感じていたけれど、まさかそんな事はないだろうと思ってはいたのです。
そう云えば・・・リリアは驍と云う男を探し、再度の勝負を挑んで―――これに勝った時・・・
それからあとはどうするつもりだった―――?
それに、現在リリアの前に立ち、彼女から挑まれた勝負を受けようとしているのは―――
奇しくも、驍と云う男の実弟だとも云う―――・・・
迂闊だった・・・
けれどそれは仕方のないこと。
それと云うのも、リリアはこの事に対しての経験が浅く、
この感情―――・・・自分が「戀」をしていることなど、気付くはずもなかったのです。
そう―――それは・・・紛れもなく「戀」・・・
けれど、それは誰が誰に対しての―――?
そのことは最早、云うべくもない・・・推して量ること―――
しかし、リリアが抱いていた感情とは裏腹に、両者の刃は交わり合い―――・・・
リ:征くわよっ―――覚悟ぉおおっ!
蓮:―――――――――!!
=続く=