前のお話しで、とある集落に巣食っていた小悪党どもを蹴散らした老男若女二人組の傭兵は、
元々その集落に住んでいた住人の代表から報酬謝礼を受け取る段取りになると、これから先の旅に必要な路銀だけを受け取り、
残りは住人達のために・・・と、敢えて受け取るのを拒否したものでした。
その情け深さに感謝をした住人の代表は、地べたに何度も額をこすりつけてその態度を表したものでしたが、
傭兵の女―――アルディナは、さすがに照れ臭そうにし・・・伴の男―――ラスネールと共に、また旅を始めるのでした。
それとはまた別のお話しで―――
ある街道を、杖をついた女性が一人・・・歩いていました。
しかも―――その女性は盲目らしく、自分の進む先に障害物がないかどうかを、杖で探る仕草を繰り返していたのです。
第二話;座頭の女
そして・・・街道にある一つの休憩所に立ち寄ると―――
座:ふ・う―――・・・
店:いらっしゃい・・・何にするね―――
座:すみません・・・それでは、お茶を一杯―――
店:はいよ・・・ところでお前さん、眼が見えないのかい?
座:はい・・・それが何か?
店:いや、若いのに苦労をしてるんだね―――なんだか悪いことを聞いちまったみたいだよ。
座:いえ別に・・・お構いなどなさらずに―――
このお話の時代背景は、中世の欧州―――ですが・・・現実としてあったわけではない、虚構の世界でもあったのです。
そんな世界の中で、どこか東洋風の女性が、この世界の簡易性の飲食店に立ち寄る・・・
現実の世界では有り得ないとすることが可能となる、虚構ならではの世界観の中で―――また一つ物語りが紡がれていくのです。
それはそうと、盲目の・・・座頭の女が足休めのために立ち寄った、この茶店で―――・・・
客:おいババァ―――! オレが頼んだもんの中に・・・蠅が入ってるじゃねえか!!
店:そんなはずはないよ―――! あんた達が云いがかりをつけるために、勝手にやったことだろう!
客:うるせえやい! つべこべ抜かしやがると、こんなポロ小屋ブッ壊してやるからな!!
店:やれるもんならやってみな! 飽くまであたしゃ抵抗するよ!!
客:〜んだとぉ―――云いたいこと云いやがって・・・
おい!そこにいろ!今から捻り潰してやる!!
いつの世もこんなものか・・・力のある荒くれ者が、力莫き弱き者を虐げる―――
こんな理不尽な世の中で、ほんの些細な・・・少しばかりの抵抗を試みても、所詮力莫き者にとっては過酷なものだったに違いはなかったでしょう。
そして今も、街道沿いにあるこの小さな茶店も、そんな理不尽な粛清の渦中に埋もれようとしていたのです。
―――ところが・・・
例の悪漢が、あの座頭の女の脇を通り抜けようとした時―――・・・
客:どわっ―――??! な・・・なんだこりゃ―――杖?
誰だい―――こんなもんを立て掛けやがった奴は!
座:・・・・・・その杖は、私のです―――返してください。
客:あんだあ〜? 女ぁ・・・これは手前の持ち物か―――!
座:その通りです―――ですから、返してください。
座頭の女が腰掛けていた席に立て掛けておいた杖に蹴躓き、暴力の捌け口が今度は座頭の女に向けられてしまったのです。
けれども―――座頭の女は怖じるどころか、毅然とした態度で応じるモノだから余計に、悪漢も苛立ちに怒りを募り増していったモノだったのです。
怒りを露わにし、増していくと・・・冷静さを失ってしまう―――けれどもそんな中で、冷静さを失わない者―――・・・
両者の状況は両極にありましたが、果たしてどちらが優位だったかは、この際申すべくもなかったことでしょう。
するとここで―――座頭の女は、自分の手元にあった呑みかけのお茶を悪漢にかけると、
怯ませところで悪漢が手にしていた自分の杖を取り戻し、更にはその杖を悪漢の急所―――人中に突き入れたのです。
その衝撃にもんどり打ち、挙句に棄て台詞を吐いて逃げ出す悪漢・・・
そのことに、寸での処で危うい処を救われた茶店の老女店主は―――
店:いや・・・危うい処を、有難うよ。
座:いえ、お構いなどなさらずに。
それにしても・・・あのような者が頻繁に?
店:ああ・・・多分、コステロの一味だろうさ。
あいつらは、この街道を広げるためだのと云いながら、ここら界隈の地上げをしてるんだよ。
しかしね―――そのヤリ口がひどいったら、ありゃしないのさ・・・
感謝することしきり―――でしたが、次第に黒幕の存在も露わになってきたのです。
それが「コステロ一家」―――この界隈の土地に根付く、やくざ者の群れ・・・
しかも最近になって、その手口が悪辣・巧妙さを増し、この茶店の老女店主のように抵抗をしてきた者達を、半ば強引に排除してきたというのです。
そして―――・・・そんな強引な手口でこの一帯を牛耳ろうとしている「コステロ一家」の屋敷に、
先ほど座頭の女にやり込められたあの悪漢が・・・
コ:どうした・・・―――その様子じゃ、やり込められたようだな。
侠:すいやせん―――若頭ァ・・・
コ:バカヤロウ―――! オレはもう若頭じゃねえ!!
この一家を取り仕切る親分なんだ! そこんところを間違えるんじゃねえ―――
侠:す、すいやせん―――今日は生憎邪魔が入ったもんで〜〜・・・
コ:邪魔だと? もうここに、オレの邪魔をするようなバカな奴はいない―――と、思ったが・・・
自分の野望あと一歩のところで、地団駄を踏まされて思うようにいかないことに、苛立ちを隠せないやくざ一家の親分・・・
しかし、ここ最近で代替わりしたのが判るように、若く血気に逸る未熟な言動が目立つのです。
今まで従えさせてきたのが、まるで自分であるかのような・・・そんな間違いも甚だしい見識を持っている者の下で従っている者達の境地は、果たしていかなるものであろうか・・・
それはさておき―――実は、あの騒動があった茶店に・・・あの二人もいたのです。
ラ:・・・なあ、お嬢―――
ア:どうした―――
ラ:なんであの時の報酬を断った。
ア:またその話し? いいじゃない―――別にそっちが目的じゃないんだから。
ラ:・・・とは云ってもなぁ―――路銀が尽きかけているんだ、もう少し計算をして・・・
ア:―――ちょっと待って、あそこ・・・
アルディナとラスネール―――この二人の傭兵が、流れ旅の果てに行き着いた先が、偶々あの茶店だったのです。
そこでは、前回の依頼で僅かばかりの旅の資金を得たことに意見・・・と、云うよりは、愚痴に近いことを吐くラスネールが―――
けれどもアルディナは、本来の旅の目的がそこ(お金目当て)にはないとするのですが・・・
本当に僅かしかないため、本来の旅の目的の前に挫折をしてしまいかねない―――と、ラスネールが宥め、
ならばこの土地でも傭兵の仕事をすればいい―――と、アルディナは云うのですが・・・
果たして、そんな旨い話があるのでしょうか・・・。
すると、あったのです―――しかもお誂え向きに、勧善懲悪がはっきりとしている図式・・・
そこでアルディナは、例の諍いを目に収めると、これで旅の続き―――云うなれば路銀の足しになるモノと踏んだのですが・・・
なぜかその足は、あの悪漢―――つまりはコステロ一家の下っ端の後を尾けて行ったのです。
=続く=