(いわ)れのない―――理不尽な暴に屈しようとしている小店舗に、座頭の女は多いに同情する処ではありましたが、

自身の身体の一部が不自由なことを知っているからか、敢えて深入りしようとはしていませんでした。

 

一方―――座頭の女とは別の行動をとった傭兵の二人は、この一帯を完全に牛耳ろうと企んでいる、やくざ者の屋敷に出入りしていたのです。

 

 

 

ア:―――ぃよう、兄弟。

  今行き詰っているんだって? 力になってやろうじゃないの・・・。

コ:なんだお前は―――どうしてそのことを知っている。

 

ア:いや、なに、偶々(たまたま)そこのお兄さんが難渋してるのを見かけてね・・・。

コ:・・・余計な気遣いだ、それに余所者に分ける銭などここにはない。

 

ア:おやおや、つれないことを云うもんじゃないよ。

  お互い悪党同士―――つるむのも一つの手なんじゃないの。

  それにあの相手・・・出来ると見たね、あんた達の手に負えるかどうか―――怪しいもんだわ。

コ:なんだと? それじゃなにか・・・お前だと、そいつと対等に渡り合えるとでも―――

 

 

 

するとアルディナは、「論より証拠」―――と、ばかりに、持参していた金貨を放り投げると、得物である剣でその金貨を縦に四分割して見せたのです。

 

その腕前を見て、この女傭兵が口先だけではない―――と、感じたやくざ一家の親分は、

渋い顔をしながらも、これで自分の野望にまた一歩近づけると思うと安いモノであると考え、それでも(あん)(れん)(あたい)で二人を雇い入れることにしたのです。

 

しかし・・・それにしても、このお話しの主人公でもあるアルディナが、どうして悪党共に肩入れをしようとしたのか・・・

どうして、力莫き者の味方をしなかったのか―――・・・

(あなが)ち、勝ち目のない勝負よりは、勝ち目のある勝負を好んだモノか・・・

 

それとも・・・?

 

それはそれとして、非力な自分を詫びながら、あの茶店を後にした座頭の女は―――

聞き込みに聞き込みを重ね、なんとあのやくざ者・・・コステロ一家の屋敷の前に立っていました。

 

どうして・・・なぜ・・・?

 

(かつ)ては弱者の味方をした彼女も、やはり力の均衡は変えられないからか・・・

それとも、非力であるが故に、知らずの内に力ある者に抗ったことを詫びようとしていたのか・・・

しかしそれは―――・・・

そのいずれもが、間違いであったことが知れるのです。

 

そう―――座頭の女が、諸悪の巣の前に立っているというのは・・・

 

 

 

座:もし―――ここはコステロと云う者の家でありましょうか。

侠:ああん? なんだ―――手前ぇ・・・

 

座:―――御免・・・

侠:うおおっ?! お・・・女―――手前が持ってやがる杖・・・仕込みか!!

 

 

 

ここが今般(こんぱん)の目的であることが知れると、宣戦布告とでも云うかのように、尋ねたやくざ者を一刀の下に斬り捨てにした座頭の女―――

そう・・・彼女が持っていた杖の内側には、刀が仕込まれていたのです。

 

第三話;座頭市

 

それにしても・・・眼の見えない彼女が、どうして―――

いやしかし、それにしても太刀回りや太刀捌きは相当手馴れているものと見え、相手のやくざ者の手下が繰り出す斬撃は(かわ)していくのに対し、

自分の必殺の一振りは、的確に手下共の生命(いのち)を奪っていくのです。

 

すると、自分の屋敷の玄関先での騒動を聞きつけた、コステロ一家の親分は・・・

 

 

 

コ:おい女ぁ―――! お前・・・余所者の癖に、オレ様の島を荒らすたぁどう云った量見だ!!

 

座:・・・フッ―――(まこと)に弱い者ほどよく吠える・・・。

  昔の方は、本当に良きことを云ったものです。

 

コ:なんだとぉ?! ヤロウ・・・舐めてやがると―――

 

座:どうすると云うのです。

  地に伏せているこの人たちのように、むざむざと生命(いのち)を棄てられますか。

 

コ:洒落臭(しゃれくせ)ぇ〜〜! おい―――こんな時のために雇った先生はどうした!

侠:へ・・・へえ―――いえ、それが・・・

侠:親分より先に、ここの異変を嗅ぎつけて向かったはずなんですが〜〜―――

 

コ:逃げやがったと云うのか?!

  あんの(すけ)ぇ〜〜! 大金せしめときながら・・・見つけたら(ただ)じゃおかんぞ!

 

 

 

実に身勝手なことを述べるやくざ者の親分に、半ば呆れながらも座頭の女は、彼を護衛していた者を(ことごと)く斬り、

改めてやくざ者の親分が、いざと云う時には何もできないことを思い知らしめしたのです。

 

屈強な(おとこ)達を従え、得意の絶頂にあったやくざ者の親分も、頼れる仲間たちがいなくなると、路頭に迷える仔猫や仔犬の様に怯えたものでした。

 

けれども―――しかし―――彼が今までしてきた悪事は、決して拭いされるモノではありませんでした。

 

非道・悪辣・卑怯・外道―――・・・

ありとあらゆる唾棄すべきことに手を染め、自らは絶対に手を汚さない手口で縄張りを広げてきたツケが今、ここに払わされようとしていたのです。

 

そんな今・・・流す後悔の涕を感じたのか―――座頭の女にもある変化が・・・

 

 

 

コ:あ・あ・・・あ、ああ―――! お、お前・・・見えるのか?!

 

座:ええ、見えますが・・・それが何か?

 

 

 

やくざ一家の親分が、対面している者に恐怖を覚えた―――そのこと以上に驚いた事実。

それが・・・今まで盲目だと思われていた女の両目が、大きく見開かれている―――??

 

とどのつまり、座頭の女は、生来から目が見えないと云うのではなく―――自分の意図として、敢えて目を瞑り・・・眼が見えない振りをしていたと云うのです。

 

ならば・・・なぜ、そんな不自由を自らが選択しなければならなかったのか―――その問い掛けに、座頭の女はこう答えるのでした。

 

 

 

座:目を開いていると、見なくてもいいような不都合まで見えてしまいますから・・・。

  だから敢えて私は、目を閉ざしているのです。

  けれども不思議なモノでしてね・・・今では、目が見えずとも相手がどう思いなにを考えているのか、判ってきてしまうのですよ。

 

 

 

座頭の女―――市子は、自らの意思で両目を瞑り一時的に視界を塞いでいました。

 

ではなぜ、そこまでしなければならなかったのか―――・・・

そこには、恐らく他人に話したとしても、どうにもならない・・・他愛のない理由があるのかもしれない―――

 

それに、確かに日常当たり前に出来ていたことを、出来なくなってしまったとすれば、不便を感じたこともあったことでしょう・・・

 

けれど、その不自由が日常的に切り替わってしまったとき、女座頭・市子の持つ感覚は倍増され、

今では相手の所作などによって、相手が考えていることが大概にして読み取れる域にまで達していたのです。

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと