女傭兵と女座頭が活躍していた同じ時代・・・

その周辺では大きく纏められている国の一つに、「サライ」と云う国がありました。

 

この国の有り様は、草創期にはあまり目立って大きくはありませんでしたが、

現在国を治める立場の人物より三代前から着実に勢力を伸ばし始め、今では周辺の大国と肩を並べられるだけの実力をつけてきたのでした。

 

けれど、この国が(まこと)に強国に成り得たのは、現在の国王・・・

それも女性の王である「女王陛下」が、実際の政治の指揮を執り、国威発揚を促せてきたからなのです。

 

それにまた、この国の女王は国民の意見を取り入れている度量もあるらしく、

実際に自分が治めている国の民たちが、どんな意見を持って暮らしているのかを見聞するため、

「目安箱」や「意見交換会」などを開いて、より良い暮らし造りに尽力していたそうなのです。

 

 

それはそれとして―――

サライの国の近くにある別の町にて・・・あの峠の対決から、この町に流れ着いたあの二人の姿が―――・・・

 

 

 

ア:あ〜あ・・・やんなっちゃうよな―――

  世の中金!金!金!!〜って・・・金がなけりゃ生きていけねぇのかよ・・・。

ラ:お嬢―――そいつぁ愚痴ってなもんだ。

  それに大体、お嬢ときたら計画性がなさ過ぎるのさ。

 

ア:お前まで、ンなこと云うのかよぅ・・・ラスネール、幻滅したぜ。

ラ:そいつは結構―――

  ただ、たったあれっぽっちでここを貸してくれたあの爺さんには感謝するこったな。

 

ア:感謝・・・って云ったって、これじゃ馬小屋の方がマシ―――ってな感じだよ。

 

 

 

これまでのお話しで、触れられても判るように・・・この二人の傭兵の資金不足―――つまりは手持ちの路銀の少なさには定評がありました。

けれどこれは持ち合わせがないわけではなく、女傭兵であるアルディナが、全くと云っていいほどお金と云うモノに無頓着であったからなのです。

 

事実―――初回のお話しでも、次の旅路までに必要な報酬のみを受け取り、それ以外は全く受け取ろうとはしなかったし、

(さき)のお話しでも、やくざ者一家からせしめた筈の金品を、被害に遭っていた集落へと返還するし・・・

だからお話の流れ上、この二人がお金に困っていると云うことは、至極当然だったと云うわけなのです。

 

それだから―――つまり・・・お話しの始まる時に、お金が足りない〜などと云うのは、

お金に執着心を持たない・・・早い話、傭兵としては不適格でもあったわけなのです。

 

とは云え―――このまま何をするわけでもないため、

次の仕事を取る為の情報集めと、色々な物資の確保のため、ラスネールがアルディナと離れた時分(じぶん)に・・・疲れた体を休める為に仮眠を()っていたアルディナ・・・

 

すると―――どこで聞きつけてきたのか、アルディナ達がこの町に宿泊していることを突き止めたと見える、ある集団が・・・

 

そう・・・傭兵と云う職業上、恨みを買わないと云うことはないらしく、見るからに如何(いかが)わしい―――ならず者達が、

(またた)く間にアルディナが寝泊まりをしていると見られる建物に殺到し―――・・・

 

 

 

暴:おい・・・ここで本当に間違いはないんだろうな―――

暴:ああ―――ここに入っていくのを見た・・・って云う奴が、そう云っていたからな・・・。

 

 

 

やはり・・・彼らも、アルディナとラスネールが請け負った仕事の成り行き上、甚大な不利益を被ってしまっていたから、

こうしてその時の恨みを(そそ)ぐべく、彼らの後を追いたて回していたようです。

 

すると・・・ならば―――今こそがアルディナの一大事。

 

今ならば随伴のラスネールもいないし、なにしろ彼女自身は深い夢の中―――の、はず・・・

そこで―――

 

 

 

暴:覚悟しやがれ―――女傭兵! 今日がお前の年貢の納め・・・

暴:―――ち、いねぇ・・・逃げやがったか。

暴:どうやらそのようだ・・・まだ温かい―――

  それにしても、随分と焦っていなさるようだな。

  見るがいい・・・こいつは確か、あの女が着けていたモノだ。

 

 

 

ならず者達が、一斉にアルディナが寝泊まりしている部屋に踏み込んだとき・・・

事前に危険を察知したのか、アルディナは既に逃走を図っており、中は(もぬけ)の殻でした。

 

それにしてもどうやら、本当に事前で察知したため、相当に焦っていたらしく・・・

身につける衣服は愚か―――得物の剣でさえも置き去りにしたまま・・・

それにこのままでは、彼女本来の目的を遂げる前に、彼女自身に危険が及んでしまうことを意味しているのです。

 

―――と、そんな騒動がこの町で起こっているとは知らずに、

偶然か否か・・・この町に足を踏み入れた人物が―――・・・

 

 

 

市:ふ・う―――・・・ここまで来れば、あともう少しですね・・・。

  彼の国の女王様、お噂の通りのお人柄なら宜しいのですが・・・。

 

 

 

女座頭である市子も、ここ近年で評判となっているサライ国の女王陛下を一目見るため、遥々(はるばる)旅をしてきたものと見られました。

それに彼女の旅の目的も、総ての人民に分け隔てなく自由と平等を与える―――と、公言した女王陛下の真意を汲み取り、

彼の国に永住権を獲得しようとさえしていたようなのです。

 

そう・・・意図的とはいえ、彼女は盲目の身―――

そんな、身体の不自由な市子に、世間の風当たりは弱かろうはずもなく・・・

ならば―――と、「四民平等」を謳い文句に掲げるサライ国に、骨を(うず)める覚悟でいたのです。

 

そんな折・・・市子は、この町の一角で住民の叫声(きょうせい)が上がるのを聴き、

急いでその地点にまで駆けつけてみた処・・・

 

 

 

市:―――どうされたのです、何かあったのですか。

民:あっ・・・ああ―――

  なんでも裸の若い女が、十人は下らない悪漢達に取り囲まれているんだとさ。

 

市:そんな破廉恥なことが・・・しかも白昼堂々と?!

  ・・・判りました、私がなんとか致しましょう。

 

 

 

目の不自由な市子が得た情報とは、一人のうら若い女性が多勢(おおぜい)の悪漢達に取り囲まれ、今まさにこの町の住民たちの前で、公開強姦を受ける一歩手前―――だと云うのです。

 

そんな、人とは思えない逸脱した行為に、市子はそのうら若い女性を助けるため、近くにいた悪漢の一人を杖の当て身で―――・・・

 

 

 

暴:―――ぐへぇ〜・・・

暴:あっ?! お前・・・一体何をしやがる!!

 

市:それはこちらの云うことです。

  白昼堂々・・・か弱き婦女子を辱めんとは、いかなる所存からか!

暴:ン〜だとぅ―――このヤロウ・・・お前もついでに痛い目に遭わせてやろうか!

 

ア:・・・あれっ? ひょっとして市子―――? 市子じゃないか!!

市:その声・・・アルディナさん―――もしかしてアルディナさんなのですか?!

 

 

 

思いも掛けない再会・・・

(かつ)てはその生命(いのち)同士を賭け―――決闘をしたこともあった者同士が、またも数奇な巡り合わせで再び会った瞬間でした。

 

しかも、思いも寄らないことに、全裸のうら若い女性の正体がアルディナだったと知った市子は、素早く彼女の下へと駆け寄り・・・

 

 

 

市:それにしても・・・どうしてこんなことに―――

ア:いや〜それにしても助かったよ。

  それより・・・一つお願いがあるんだけどさ―――市子のそれ、今だけ貸してくんない?

 

市:えっ?? ・・・だっ―――ダメです!

  これは、座頭である私にとって大事な杖・・・それを今あなたに貸して、そのあと私はどうしろと・・・

ア:いや〜〜そか〜〜そだよね〜〜・・・。

 

市:それにしても・・・どうしてこんな状況に? それと―――恥ずかしくないのですか?

ア:ああ〜〜それがね―――普段はそうじゃないんだけれど・・・つい微睡(まどろ)んじゃって・・・

  それで反射的に宿の窓から跳び下りて逃げてきたまでは良かったんだけどさ〜〜気がついたら自分の剣を忘れちゃってて―――

 

市:それは判りましたけれど―――ならばなぜ全裸に??

ア:ああ―――これ? 基本的に私ってさぁ、寝るときには何も着けなんだけれど・・・これのどこに問題が??

 

市:なるほど・・・そのまま逃げたモノだから裸に―――って、そうではなくて〜〜・・・

  あの・・・あなたは年頃の女性なのですから・・・その―――恥じらいと云うモノが〜・・・

ア:はあ? どして―――(かあ)様や親父から貰ったこの身体、他人に見られて恥ずかしい道理がどこにあるっていうの。

 

第六話;豪放磊落

 

なんとも大胆不敵―――豪放磊落とでも云うのだろうか・・・

自分の豊満な(からだ)を、見せるのも惜し気がない―――と、云った風に、悪漢達にも威風堂々たる立ち居振る舞いをするアルディナ。

 

そしてこのとき市子は、この女傭兵のことをまた少し理解したのです。

斯くもこの女性は―――良い意味で自由に育てられてきたのだ・・・と。

 

けれども、欠点を挙げるとするならば、恥ずかしいことは恥ずかしいことだと思わなければならない。

そこは人間としての最低限の分別であり、年頃の若い女の子ならば、身体の大事な個所を見せびらかせるものではないとしていたのです。

 

するとここで―――ようやく用事を済ませたのか、現在自分達が寝泊まりしている宿に戻ってみれば、

伴をしている女傭兵の姿はなく・・・代わりに、この町の一角が騒がしくなっている―――・・・

そんな自分の胸騒ぎを抑え、ラスネールがそこへと駆けつけてみれば・・・

 

 

 

ラ:ち・・・やっぱりそう云うことか―――おいお嬢!これを!!

ア:ラスネール!いいタイミングだ・・・

 

ラ:全く・・・あれほど云っといたじゃねぇですか―――寝てる時でも何か着けてろ・・・って。

ア:あいよ―――次からそうする。

 

ラ:全く・・・すいませんねぇ〜市子殿、ヘンなことに付き合わせちまって。

市:いえ・・・こちらは構いませんよ。

 

 

 

宿に置き去りにされていた、アルディナの剣と服を彼女の下へと放り込み、これでこちらも―――遅まきながらの臨戦態勢に入ることが出来ました。

 

とは云え・・・圧倒的な多勢に無勢―――なのですが、なぜか三人は、どこか余裕すら浮かべる笑みが漏れていました。

 

(おのれ)の技量を(わきま)えているから、背中を仲間に預けさせて、存分に相手と刃を交り合わせることが出来る・・・

その言葉に偽りがないと云うように、圧倒的な不利の中にあっても、彼女達はお互いが()ける気すらしていませんでした。

 

そして・・・騒動が起きてモノの5分―――

ほうほうの(てい)逃げ帰る、ならず者達の姿があったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと