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(さて、その翌々日、我矛羅の経営する、小さなバーにて、婀陀那のささやかな送別会が行われていた。)

婀:ささ姐上、一献いかがですか? 

阿:ありがとう、婀陀那さん(クイ) さ、お返しに・・・どうぞ。
婀:いや、これはかたじけない。

団:いょう、我矛羅よぅ、どうじゃい、最近店の方は。
我:あっ、兄ィ。 まぁまぁ・・・ってとこですよ。

  ・・・で、どうしたんです? 真沙螺のヤツ。

団:あぁ〜、ちょいとおイタをやらかしてな・・・、この通りじゃよ。
真:
(ただ今、魂抜け中(^^;;)    あ゛〜は・・は・・は・・・・、笑えなひ・・・・  ゜~(=フ=ll)~゜

我:お前・・・・またなんかやらかしたのか・・・(--ll;;)

  しょ〜がねぇやつだなぁ。


阿:あの、ところで、杜下様は?

我:あ〜、まだ来てねぇようですねぇ。

団:そういゃあ、御前、用意があるとかで、遅れる・・・って言ってたぞ?

婀:用意?! (何の用意じゃろかの?)


(ここで、だいぶ遅れて驍、登場)
驍:いや〜、すまない、すまない。

 ちょいと用意に手間取ってしまってね・・・あ、それ、そこへ運んでて。

婀:(んな、アンプやらドラム、バンド用品一式ではないか? 一体、この方は何をするつもりなのか?)

驍:それでは、遅刻したお詫びと、森野さんのこれからの成功を祈って、ワシから一曲送らせてもらうよ。

婀:は・・・・はぁ。 それは有り難う・・・・ございまする。

阿:あ、あの・・・・一つご質問が・・・。
驍:はい、何でしょう、柾木さん。

阿:杜下様は、一体何の楽器を?? ドラムにシンセサイザー、和太鼓、尺八までありますが、

それにはそれぞれ一人づつ入ってますよね?

驍:ははは、ワシの得物は・・・・・これですよ。

阿:はぁ?                             婀:なぬ?                        我:えええっ?!

真:み゛ょ?!                                    団:・・・・・・・・・。

(皆が驚いたのも無理はない、何と驍が手にしていたのは、確かに“三味線”だったからである。)

阿:あ・・・・あの・・・、これ・・・って・・・・?

驍:ええ、三味線ですが・・・それが何か?
真:い、意外と驍様・・・ってお茶目・・・ってゆーか、マイナーなのがお好きなんですねぇ。
婀:(これで一体何を?)

(皆が怪訝そうな顔つきをして見ている中、彼が弾いたものというのは・・・・)

〔ペン・・・・ペンケ・ペン・・ケペンケ・ペンケペン・・・・〕

 

我:なぁ、これ・・・って、『沖縄蛇皮』だよなぁ?

真:あ、あぁ・・・・そうだよね。
阿:あ・・・こ、ここから・・・・
津軽の『じょんがら節』

婀:(ほぅ、これは見事な変化。)

〔ベケ・・・ベン・・・・・〕



 

真:す、すごい!! あたい、なんだか感動しちまったよ!!

我:あぁ! 三味線だからって小バカには出来ないよな!!?
阿:でも、それでしたら、どうしてバンドの皆様は。

婀:それもそうですよなぁ・・・。

驍:ふふ、何も三味線だからといって、『沖縄蛇皮』や、『じょんがら節』、果ては、お座敷の類だけじゃあないんだよ?

団:ふふ、御前もお人のお悪い。

婀:な、何じゃと??
団:まぁ公主様、見ていていなせぇ・・・・・。


(そう、先程は『沖縄蛇皮』から『津軽じょんから』へと、見事な変化で皆を圧倒させる驍。

しかし、彼はその後、その三味線で意外なフレーズを弾き出すのである。)

〔ペケテケテケテケテケテケ・・・・テンケ・テンケ・テンケ・テケ・・・・〕

 

 

阿:な・・・っ! (こっ・・・・これは!!)

婀:あ、あの『ベンチャーズ』のフレーズを?

我:し・・・三味線で??!

真:そ、そんなバカな!!

阿:で、でも、ちゃんとそう聞こえるから不思議。

婀:それでも、あのバックのバンドが動かぬとは・・・・一体どういう?

団:ま、アレですな、いわゆる、今までのは『チューニング』っちゅうヤツですよ。

日頃ワシらが、マイナーだの、何だのと小バカにしてる三味線でも、あそこまで出来る・・・っちゅうね。

 

御前、そろそろいいんでないでやしょうかねぇ・・・・。

驍:うむ。

 

(なんと! 今回は、あの一世を風靡した、『ベンチャーズ』のフレーズを・・・

彼は難なく弾き出していったのであります。

しかし・・・・奇妙なのは、このフレーズだけでも目を見張るものなのに、

団蔵と、その主上はまだなにやら隠しているみたいです。)

〔ペン・・・・ケ・ペンケ・テンケ・ペンケ・テンケ・テン・・・・・・・・〕

 

 

阿:(あら? これ・・・って、またさっきと同じ、『沖縄蛇皮』じや・・・・)

  ねぇ? ちょいと、これってどういう・・・・
団:しっ! お姫さん。 ここからが本番。 お喋りしてると聞き逃しますぜ?
阿:はっ!! 
(うぐっ・・・!)

 

 

婀:(おや? ここから・・・先程と同じく、『津軽じょんがら』よなぁ・・・・)

(そして、その『じょんがら節』が終わらんとする頃、そこにいた者は皆、普段聞きなれない三味線の音色に魅了される事となるのです)

阿:(ああっ! 終わってしまうじゃないの!!)

婀:(今回もやはり、バックのバンドは・・・・・・) なっ! なにぃ!!?

阿・婀・我・真:(こっ・・・これは!!)

 

杜下驍

『游』(ゆう)

 

 

真:(な・・・・なんだい? この音色・・・これが・・・あ、あの三味線??)

 

(そう、そこにいた誰もが、耳を疑ったのも無理はなかったのです。

確かに“音”そのものは、三味線なのに、その弾き出されるフレーズは、いまだかつて聞いたことの無い、
斬新かつ、アグレッシヴなものだったのだから・・・)

〔ベィン・・・・・〕

 

阿:はぁぁぁぁっ・・・・・!! (す・すごいっ!こ、こんなアレンジ法があるなんて)

 

婀:杜下ど・・・いえ、驍様、有り難うございまする。

  妾はあなた様に教わったような気がいたします。

 

確かに、中身、外見と、一見古臭いものが使いようによっては、全くその質を異にするという事が。

 

この婀陀那、この事ようく肝に銘じておきます!!

 

驍:うん、それでこそ、ワシがこれを選んで演った甲斐があったというものだよ。

まぁ、異国の地で何があろうとも、あなたは、あなたなのだから・・・・。

その事を忘れないでいてほしいものだよ。

 

婀:はいっ! 有り難うございまするっ!!

 

 

阿:あ・・・・あの・・・杜・・・・いえ、驍様!

驍:はい?! 何でしょう?

阿:あの、わたくしあなたに一つお詫びしなければならない事が。

  初め、三味線を出された時、
  

『今時の若い方にしては、なんとも酔狂なマネを・・・・・』

 

と、そう思ったこと、心より詫びさせて下さい。

 

驍:ははは、いいんですよ。

  ま、大体において、それが普通の人の反応だろうからね、別に気にはしちゃあいませんよ。

阿:あ、有り難う・・・・ございます。

驍:それより、今の曲、気に入って頂けましたか? 姫君。

阿:え・・・、は、はい! もちろんです!

驍:そうか、それは良かった、それじゃ引き上げるとしようか。

阿:あ、あの・・・、それと、今一つ。

  あ、あなた様は、二年になられると、雷鳳の生徒会に入られるのですか?
驍:いいえ、別にそのつもりはありませんが・・・・なぜそれを?

阿:い、いえ・・・、もし、あなた様が・・・ら、雷鳳の生徒会長になられた暁には・・・・・

そ、その・・・・、わたくしと会合が出来るのでは・・・ない・・・・・・か・・・・と。

驍:・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

阿:す、済みません! とんだ戯れ言を・・・・。

驍:した方が・・・・いいというのですか。           ワシが会長に立候補。

阿:えっ?!

驍:もし、ワシなんかが、雷鳳の会長になりにでもしたら、今の(学校の)風紀が、より乱れてしまいますよ。

 それが強いては雷鳳の名をおとしめる結果になってしまう、それだけは絶対に避けねばならん事です。
阿:・・・・・。

 

驍:それでは、皆さんのご健康と、ご多幸を祈って、また会えるその時まで。

 

婀:(驍殿・・・・・)


団:ふぅ〜う、御前も何かと難儀なもんじゃのぅ。 あっさり受け止めちまえば楽なものを。
真:へっ?! それ・・・って、どういう事だい?

団:見てて分からんか。 ありゃあ、柾木の姫さん、御前にホれちまったみたいだぜ。
真:はぁ〜あ、成る程。 んで、こっちの御前は、目の前のいい女にホれないもんかねぇ・・・・。
団:うんっ?! 公主様の事か・・?!

 

ゲィン!!

団:ぶお゛っ!! 何しやがる! こんのヤロウ!!

真:ふんっ! このドンガメ!!#

 

 

―――了―――

 

 

 

まえ                                                    あと