<漆>
(でも・・・しかぁし、なぁんとなくですが、婀陀那さんのほうは、薄っすらとナニやら分かってきたようでありまして・・・
ステラが、拵えたモノを、二人してお客人のところまで持っていく運びになったようでつ・・・。)
お:(よ・・・よりによって、初日でこんな羽目になるとはぁ〜〜っ・・・)参りましたわ・・・。(はぁ・・・)
婀:姐上お気の毒すぎ・・・。(しんみり)
(し・・・しかし、あの方の造られたコレは・・・一体なんだというのじゃ、
ただ見ておるこちらでも・・・・なにやら鳥肌が立ってくるようじゃとは・・・)
お:(さあっ!そんな事より・・・気合を入れて・・・!!)
・・・・失礼いたします・・・・
ス ・ ・ ・ ・ ・
阿:うむ・・・。
お:(えぇ〜〜っと・・・)こ、ここの若女将をやらせてもらっておる者です・・・。
こ、今後ともよろしく・・・・ (ほげぇっ?! 煤i◎ロ◎ll;;)
婀:(う゛・・・っ、ぐおぉぉ・・・な、なぜにこの方がここにィ??)
(おひぃさんと、婀陀那さん、緊張の面持ちでこのお客人のトコに来た・・・のはいいんですが、
この二人が驚いたことには、そこには柾木家の当主だけではなく、ここの大女将もいたからなのです。)
瀬:・・・どうやら、出来上がったようね・・・・。
す っ
瀬:どうも・・・大旦那には、ご迷惑をおかけしたようで・・・。
それ故に、今回の昼食代(ちゅうじきだい)、ロハ・・・と、いうことで、あいまかりなりませぬか?
阿:フ・・・ッ、 ロハ だと?タダほど高いものはない・・・と、いうが、まぁよかろう。
瀬:恐悦に存じます・・・。
つきましては、今回の一品、そこにいるお二人のように、今日入ったばかりの新人が造ったモノ、
でございますことを、先に申し述べおきたいと、存じます。
阿:ナニ??今日入ったばかりの? お前のところは・・・・
瀬:まぁ・・・お小言なら、後でたっぷりと聞きますので・・・まづはご賞味の程を・・・・
阿:・・・・・うむ・・・・。
瀬:さ、お出しして・・・。
お:は・・・はいぃ・・・。(ササ・・・)
婀:・・・・・。(サササ・・・・)
(そして・・・なんと、女将が、瀬戸が申し開いた事とは、別に言わなくてもいいような事。
今日入ったばかりの新人が造ったモノ・・・とは、
この時ばかりは落雷がおちるモノ・・・と、おひぃさんと、婀陀那さんの二人は、覚悟をしたようではありますが・・・
そこはそれ・・・瀬戸さんが上手くフォローをいれたようデス。
でも・・・この後、この二人は、とんでもないものを、目撃してしまう事となるのです。)
お:・・・・・。(ドキドキ・・・ドキドキ・・・・)
婀:・・・・・、(ドキドキ・・・ドキドキ・・・・)
阿:・・・・・うぅむ・・・。
瀬:・・・・いかが・・・・なされたのです?
阿:・・・・誰だ。
瀬:・・・はぁ?
阿:いま、板場にいるのは、誰と誰だ・・・。
瀬:二番の・・・“惣”と、“安”・・・それに、あと一人・・・“新人”でございます・・・。
阿:板長の“政”は?
瀬:あいにくと・・・いま出はからっておるようです。
阿:そうか・・・では、これを造ったのは、“政”のヤツではないということだな?
では、二番が?いや・・・違うな・・・だとすると・・・・“新人”が・・・?
瀬:・・・・・。(ニィィ・・・・)
阿:そうか・・・(フフ・・・)そういうことか!どうやら、ここは恐るべき人材を手に入れたようだな!?
やはり、高いものについてしまったようだ。
お:え・・・っ?!ど、どういう事で・・・ございますか?
阿:うんっ?!(フフ・・・)なぁ・・・若女将よ・・・
お:は、はい・・・。
阿:今は、ロハになってよいかも知れぬが・・・こんなモノを見せられたのではたまらん、しばらく通い詰めになりそうだからだよ。
お:(えぇ?)
婀:(や・・・やはり!)
阿:(フ・・・・)まさに、恐るべきは、この包丁の線の確かさよ・・・。 いや、実に見事なものだ・・・なぁ、亜沙華よ。
瀬:はい、それはもう・・・。
絵描き、書かきは筆の線・・・焼き物やきは、ロクロと絵付けのそれが・・・そして、何より包丁人は、包丁の線が、命でございますから・・・。
阿:フフ・・・・今回は負けたよ、さすがに・・・。 ロハだと言われたが・・・これはご祝儀だ、皆で分けなさい、“若”女将殿。
お:(え・・・)は、はいっ!
婀:・・・・・・。(驍様・・・)
瀬:ありがとうございましたぁ〜〜
ピシャンッ――☆
お:ふぅ・・・一時は、どうなる事かと思いましたが・・・。
婀:それにしても・・・瀬戸・・・いえ、大女将様、これは一体どういう事で?
瀬:・・・・あの子の切った線・・・あなた達も見たでしよう?
お:え?えぇ・・・はい。
婀:・・・・・はい。
瀬:で、どうだった?
お:エ??いや・・・・別に・・・どうも・・・
瀬:あら・・・。(ズリ・・・) ・・・・・・・。(―W―;;)(んじぃ〜〜・・・)
お:あ・・・あの・・・何か・・・?(^^;;)>
瀬:(はぁ・・・)別に? ところで・・・婀陀那ちゃんはどうなの?
婀:妾・・・ですか・・・、妾は正直、肌に粟すら覚えました・・・。
瀬:(ニャッ)・・・・どうして?
婀:どうして・・・と、言われましても・・・。
ただ、こう・・・切り口がピーンと立っておって・・・鋭い・・・そう、鋭すぎるのです。ただの刺身にしては・・・。
瀬:(フフ・・・)そこのところが、まだまだ勉強不足のようね・・・。
まッ、いいでしょう、そこのところだけ分かっただけでも及第点ってコトにしといてあげるわ。
お:(ええ?)ど、どういうことですの?わたくし、さっぱりワケが・・・
瀬:刺身なんてものはね・・・ネタの鮮度だけが、その良し悪しを決めるものじゃあないって事よ。
料理・・・“ただの”なんかじゃあなくて、刺身も立派な料理の一つ・・・って事なのよ。
それに、さっきも言ってたでしょ? 包丁人は、包丁の線が命 だって・・・。
包丁人は・・・包丁の線を見れば、自ずとその人の性根が分かってくるもんなのよ・・・。
婀:あ・・・・・(成る程・・・)
お:(そ、それで・・・)
(そう・・・二度目に、柾木の当主が見たそれは、まさに生粋の包丁人の 業 であったことは、疑う余地のなかったことのようであります。)
――――――了――――――