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(婀陀那に促され、本道の座敷に通されるアィゼナッハ、そして、ここで単刀直入に、こう切り出す婀陀那)
婀:そなた・・・・、この前、空港におられましたな・・・? アィ:えぇ、そうですが・・・・それが何か・・・?
婀:あの時・・・、どなたと会われておりましたか・・・? アィ:以前より親しかった友と・・・・だが?
婀:そうではないであろう・・・、正確には、どこの誰と会われておったのじゃ?
アィ:それを聞いてどうしようと・・・・? わしがここで誰に会おうと、あなたには関係のないことだが?
婀:いいや、大いに関係がある・・・! ズバリ言わせて頂こう、そなた・・・、杜下の現当主に会われていたのではありませぬか?
アィ:フ・・・・フハハハハ! ワシがあんな器の小さなやつと?! 笑わせないでくれたまえ、ワシが会っていたのはだな、もっと器の大きなお人だよ!!
婀:では・・・・・驍様か・・・? アィ:なぜ・・・・・・その名を・・・・?
婀:やはりな・・・、そなたが妾と空港ですれ違った際にした香水の香り・・・、そして、墓碑銘のない墓への参拝・・・・。
どうもあの時会っていたのは現当主ではない・・・・と、妾はこう考えたのじゃが・・・・。 この推察に間違いは・・・・?
アィ:・・・・・。あなたの御ん名は・・・・? 婀:森野が“公主”婀陀那にございまする・・・。
アィ:成る程・・・、驍が常々言っておったあの・・・・。 (ふぅ・・・)良いだろう・・・・、ただし、これから話す事はオフ・レコで頼むよ・・・・。
婀:恐縮の極み・・・・ありがとうございます・・・。 アィ:その前に・・・・お茶を所望できるかね・・・?
婀:(うん・・・?)おぉ!これは気が付きませんで・・・ (コポコポ・・・・) どうぞ・・・・粗茶ではありますが・・・・。
アィ:うむ、ありがとう・・・・(ズ・・・・ズズズ・・・・) ふむ、うまい・・・・中々のお点前ですな・・・・?
婀:ありがとうございます・・・・・・・・。
アィ:ワシが以前、ハナコに淹れてもらったのと同じだ・・・・・。(ズ・・・・ズズ・・・) 婀:ハナコ・・・・・ですと?
アィ:えぇ、そうです、ワシが今しがたまで会ってきた・・・・女性ですよ・・・・。 婀:(今しがた・・・・?) ま、まさか??!
アィ:そう・・・・、あの墓の下にて眠っているお人ですよ・・・・・。
婀:それが、二年前に亡くなられた杜下のメイド長だ・・・・と? だが、それと、妾の聞かんとする事と何の係わり合いが・・・・?
アィ:それより・・・・、あなたは直に驍にお会いした事は・・・? 婀:あります・・・四年前に・・・・一度きり・・・・。
アィ:そうか・・・・・、で、どうでしたね? 会われた時の印象は。 婀:はぁ、実に懐深い、立派な方だと・・・・。
アィ:そうでしょうな・・・・・(ズズ・・・・) 婀:(何が言いたいのだ・・・・話の先が見えてこぬ・・・・)
アィ:あなた・・・その時不思議に思われませんでしたか・・・・・。 婀:うんっ?!
アィ:あの家・・・杜下という家に産み落とされながらも、どうして心が曲がらず、真っ直ぐ育つ事が出来たのかと・・・・。
婀:あ・・・・。 そ、そう言われてみれば・・・・、かつてあのお方は、妾達と同じくして、自分の父親に命を狙われた事すらあったのに・・・。
それで・・・・?
アィ:成る程・・・・、ワシの与り知らん所でそんな事が・・・・。 まぁ、今はそんな事は良い、どうして驍がその心根を曲げずに育ってこられたか・・・・。
それは、ハナコ=マツモトの躾があったればこそだったのだよ・・・。
婀:ハナコ=マツモト・・・・?
アィ:うむ・・・、彼女は稀代の女丈夫でね・・・・。 だが、その強さを少しも誇張する事はなかった・・・・。
それゆえ、上からは一目置かれ、下からは誰からも信頼されていたものだよ・・・。 今にして思うと、彼女が驍の躾担当だったのは至極当然の事だったろうね。
婀:(なんと・・・そう・・・・じゃったのか・・・) いや・・、貴重なご意見・・・・それから今までの数々のご無礼の段、平にご容赦の程を・・・・。
アィ:いや、良いんだよ・・・・。 婀:それから今ひとつ・・・・あなた様のお名前を・・・。
アィ:ワシは・・・・『リヒャルト=アィゼナッハ』だが・・・、驍は親しみを込めて“アイゼン”とこう呼んでくれるよ・・・。
婀:それではアィゼナッハ殿・・・お車までお送りいたしましょう・・・。 アィ:(ほぅ・・・) それでは、宜しく頼むよ・・・。
(寺の本堂を出、それぞれの持ち車に向かうアィゼナッハと婀陀那・・・、その途中の石段で・・・・)
アィ:ほう、という事はあなた・・・・、四年間欧州の方へ・・・・?
婀:えぇ・・・、今までの自分から脱却を図るため・・・・と聞こえはよいようですが・・・・、実際は何も身に付いておらなかったようじゃ・・・。
アィ:いえいえ・・・、そんなに落胆される事はない、それに・・・、そんなあなたを見ているとかつてのハナコを思い出す・・・・。
婀:は・・・? い・・・・今なんと??
アィ:あなたは自分で思っているよりも、立派な方だ・・・と、こう言っているのですよ。
婀:な・・・・何を言われる・・・・、世辞を言われて喜ぶ年ではございませぬ・・・・、赤面してしまいます、お止め下され・・・。
アィ:(フ・・・・)フハハハハ・・・!! いや、これは失礼、ワシが過去にハナコを口説いたときに返ってきたのと同じ返事が、時を隔てて聞けるとは・・・。
それではお先に・・・・。
(アィゼナッハの車が見えなくなるまで深々と頭を下げる婀陀那・・・・・)
婀:(フフ・・・・、この妾が、かような人物に・・・・・しかし、悪い気が全くせぬな・・・・) おぉ、もうこんな時間じゃ・・・・・急がねば・・・・。
(そして、ここで婀陀那、ギルドへ向かって車を走らせるのです。)
婀:お早うございます、申し訳ありませぬ、遅くなりまして・・・。 お:あら、婀陀那さんにしては珍しいわね、いつも時間に厳しいのに・・・。
婀:いや・・・、これは申し訳ありませぬ、姐上・・・、実はとある人物とあっていましたもので・・・・・。
お:あら、そう・・・・。 ス:おんや? 婀陀那っち来てたの? 今日休みかと思っちったよ〜〜。
婀:そういうお主も、今日はやけに早いではないか、何かあったのかの? お:そうなのよ・・・・、今日に限ってね、雪降らなきゃ良いんですけど。
ス:ワシだってたまには、早く来る時だってあるわィ!!(ぷりぷり)
婀:はは・・・、悪い悪い・・・・・(スン・・・・うん?この香り・・・・) お主、ここに来る前、墓でも参ったかの?
ス:はへ? なんで?? 婀:いや・・・何・・・ほのかに菊と線香の香りがしたでな・・・・。
ス:なに言っちゃってんだか、この人は・・・(ケラケラ) ほれ、今日のワシの予定帳見てみ?
お:あら、仏壇仏具店の搬送の手伝い・・・。 ス:ざしョ?
婀:(気のせいじゃったか・・・・)
ス:ところで婀陀那っち、誰と会ってたの?
婀:うんっ?! 妾は・・・・、とあるお方の知り合いの方と会うてきたのじゃ。 そなたには関係ない・・・。 それより仕事じゃ。
ス:へぃへ〜〜〜〜い・・・・・。 お:んもぅ! いつも生返事なんだからっ!!
婀:(しかし・・・・同じような事が二度も・・・・? これは、単なる偶然で片付けてしまうには、あまりにも短絡過ぎるな・・・・)
(この、ふとした婀陀那の疑問・・・、これが後に大きな波紋を投げかける事になるのですが・・・・、それはまた別の講釈にて・・・!)
―――了―――