<ろく>

 

婀:ふう、手間を掛けさせてすまなんだな。                                       サ:いや、こっちは恥なところ見られなくてすんだんだからいいんだけどよ。

J:なぁに言っちゃってんですか、にくいよー、このトンちきが。                   サ:(トンちき・・・(--;;) それよか、おひぃのやつぁ・・・?

 

婀:うむ、あそこで何があったかは知らぬが、今の姐上は塞ぎ込んでしまっておられる。 あまりよくない傾向じゃ。

  それに、この雪・・・、お体を崩されておらねばよいのじゃが、妾は今それが一番の気がかりなのじゃ。

サ:ま、まぁ、あんたがおひぃのやつを心配するのはわかるが、こっちの方のけじめもちゃんとだなぁ・・・。

婀:わかっておる・・・。(と、ここで婀陀那、黙って壇上に立ち・・・・)

 

婀:本日お越し下された皆々様方、どうも今まで妾の我儘につきおうて下されて大変恐縮に存じ上げまする。

つきましては、もうしばらく妾の我儘につきおうてはもらえませぬか?

客:ったりめーじゃねーか、おれたちゃあんたのその歌声聞きに来たんだぜー・・・?

 

婀:ありがとう・・・・・・ありがとう・・・・・。

 

(しかし、このとき、ステージ隅でその様子を見ていたJokaに微かな変化が・・・・)

J:・・・・・・。(ハラハラ)                                              ソン:(ハッ!)ど、どうされたんですか? 泪なんか流されて・・・。

J:ううん、なんでもない(泪を拭って) ただ、今のあの子の背中、泣いている様に見えて・・・・。 そしたら、なんだか急に泣けてきちゃってさ・・・。

  ヘンだよね、可笑しいよね? たかが、今は他人同士なのに・・・、その心の痛みまで分かっちゃうなんてさ・・・。

 

 

婀:それでは、妾が心を込めて歌わせて頂きます。 そして・・・、この曲は、妾の、最大の友とも言うべき、お方に捧げるものである事を、予めご了承戴きたい。

 

【婀陀那≪弾き語り調で≫

We are all Alone〕

 

サ:あ、あのJAZZの名曲を・・・。(しかし、なんなんだ? この哀しいような調べは・・・)

 

(それは・・・あまりに哀しすぎる調べであったのです。おおよそ『クリスマス』にはらしからぬ・・・・。

ですが、この時の婀陀那はどうしてもこの歌を歌わずにはおれなかったのです。 今ここにはいないトップの二人の・・・・・

今は叶うはずもない、この願いを・・・・。)

 

:そして、次なるは、今夜お忙しい中を、妾達のためにお越しくださった皆々様のために、贈らせて頂きたく存じます。

 

【婀陀那≪弾き語り調で≫

When you wish upon a star〕

 

サ:これは・・・、『星に願いを』? (って、ええ?) お、おい、Jokaなんでおめ・・・泣いてんだ?

J:(ひん・・・ひん・・・)なんだかさぁ・・・、この曲聞いてっと無性に哀しくなっちって・・・。   う゛え゛〜〜ん

サ:あ〜あ、鼻水と泪でぐちゃぐちゃ・・・・、ま、あの『ピノキオ』の主題歌だったもんなぁこれ・・・、泣けない気持ちも分からなくもないけど・・・。

J:(ビィ〜〜〜ン) ごみんね? サヤちゃん、せっかく楽しい『クリスマス』だったのに、湿っぽくしちゃって・・・。

サ:な〜にもおめぇが謝る事ないって。 これはこれで、オレは十二分に楽しめたからな? ま、野暮な事はいいっこなしだよ、さ、泪を拭いて。

J:うん、ありがと、サヤちゃん。

 

婀:そして・・・、最後になりましたが、この曲は皆々様もご存知のこの曲であります。どうも、長丁場ご迷惑をおかけいたし、申し訳なく存じます。

 

【婀陀那≪ア・カペラで≫

〔イーハ・ヒュー・イン〕

 

サ:な、なぁ・・・・これ・・・って??                                         J:うん、間違いありませんね、『聖しこの夜』ですよね。

サ:でも・・・、あまり聞きつけん言葉だなぁ。分かるかぁ?                       J:さぁ・・・、ところどころ英語みたいな発音してますけど・・・?

 

(彼女達が知らないのも無理はありません、今婀陀那が口にしている言語こそ、その昔イングランド地方で使われていた『ケルト』という言葉であったのですから。

そして、この歌が終わると同時に、拍手喝采の嵐となったのであります。)

 

 

 

 

<そしてその後の楽屋にて>

(今までの労をねぎらう婀陀那と、サヤ、Jokaの姿があった)

 

婀:いや、今回は皆に迷惑をかけたな、ご苦労であった。                           サ:何、いいってことよ。 それよりさぁ・・・(うおっ!)

J:あたしはぜ〜んぜん気になんかしてないもん!                                 サ:ウソつけぇ、さっきまでビービー泣いてたくせに・・・

J:ほよ? な〜んか言ったかい? サヤちゃ〜〜ん・・・?                       サ:べぇ〜〜っつに、なぁ〜んにも? 空耳なんじゃねぇーの?

 

婀:ぷっ・・・あははは、いや・・・、お主らには、正直救われたよ、妾達の居らぬ間、そして今・・・な?

サ:あ? なんかあったんか? やっぱり・・・                                   婀:何、詮無き事よ、やはり楽しい時は、かくあるべきものよな。

J:そうですよね〜〜。                                                         サ:ん? あ・・・あぁ・・・(なんか煙に捲かれた気分なんだよなぁ)

 

(確かに、何か釈然としない何かはあるものの、やはり笑いたい時は笑い、泣きたい時は泣いた方が、そして楽しい時には楽しんだ方がよいのです。

ここにいる人数は、(本来のより)少ないものの、彼らと彼女達は、この日を十分に楽しんだのです。      ただ一人を除いて・・・)

 

 

 

―――了―――

 

 

 


まえ                        あと