【其の一;太平の世に忍び寄る魔】
≪壱;おしこみ≫
〔時機は太平の世・・・永かった争乱の時代は終息を迎え、『将軍』と呼ばれた一人の男によって世は治められ、
“幕府”と呼ばれる統治機関が出来、機能し始めた頃のお話でございます・・・
さても―――いくら“太平の世”を謳(うた)っているとは云え、初期の頃なので、まだまだ治安も悪く、
“盗賊”“ごろつき”果ては“妖魎”たちが、各都市に跋扈していたようであります。
そして―――それはここ・・・この“幕府”が置かれた、この国の中心都市―――江戸―――でも・・・〕
盗:へぇ〜〜―――っへっへぇ〜! 大人しく金目のモンだしなぁ!!
娘:きゃ〜〜――――っ!!いやぁ〜〜〜――――っ!! 助けてぇぇ〜〜〜!!
盗:ぬりゃぁ〜〜―――!!
娘:ぎゃぁぁ――――・・・
父:あぁっ・・・・ああ!! ワ、ワシらの娘に何をする!!
盗:うぅるせぇ!!がたがた騒ぎやがると、こいつのようになるぜぇ・・・・
大人しく金目のモンを出しな!!
〔どうやら・・・たった今、『越前屋』という大店(おおだな)に、強盗たちが押し込みに入ったようです―――
しかも、可哀想な事に、そこの娘が大声で助けを呼ぼうとしたところ、バッサリ・・・と斬られたようです。
―――と、このように、世を統治する機関が出来たとはいえ、市中の人々が安心して暮らせるのは、
まだまだ当分先の話―――と、いえたようです。〕
盗:けっ―――なんでぇなんでぇ、たったこれっぱかしかよ・・・案外シケてやがるぜ。
だが、まあいい―――これだけありゃあ、暫らくの間は遊んで暮らせる。
おい!ヤロウ共!! そうと判ったらさっさとここから引き上げだ!!
ずらかる前に・・・ここにオレ達が押し込んだ証拠を遺さず消すんだぜ―――
父:そ―――そんな・・・あ、あんた等の欲しいものは手に入ったんじゃあないのか・・・
何もワシ等を殺す事は――――
盗:けっけっけっ―――バぁ〜カか、てめぇは・・・
おれ達の顔を見た者を、生かしておくわきゃねぇ〜〜――だろが。
まァ・・・・これもオレ達“クチナ”に当たった不運を嘆くんだな・・・・
父:そ―――そ・・・ん・・・な・・・
〔自分たちが押し込んだ形跡を須らく消すために、顔を見た全員の殺害はもとより、店家屋に火をかけるよう指示するとは・・・・
この盗賊集団は、非合法な手段をとる事などは厭(いと)わなかったのです。
ですが――――その時・・・・〕
―――お 待 ち な さ い―――