≪撥;素浪人と士(さむらい)≫
〔ところで―――あの居候の素浪人は・・・と、いうと、どうやら川のほとりで釣りをしているようでございます。〕
素:・・・・ほいっ―――と・・・。
あらら――――まァたエサだけ獲られちまったい。
はぁぁ〜〜あ・・・『太公望』決めるってぇのも、中々に難しいもんだァね―――・・・
そ〜〜かといって・・・あそこにいたって、厄介者扱いされるのが落ちだしなぁ・・・
困ったもんだよ―――・・・(はぁぁ〜・・・)
〔この素浪人、朝に言われたことを気にして、名誉挽回するためか、食材でも獲ってきてやろう―――と、しているようなのですが・・・
依然として、釣り糸を垂らしてはいるものの、釣果は上がらず、つまりはエサのムダ―――・・・の、ようになってはいたようです。
―――と、普通一般なら、これが良識・・・・ですが―――今―――この一介の素浪人の背後に・・・
脇に大小二本の刀を差し―――
頭には菅笠を頂き―――
身には黒の陣羽織―――
そして
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その背に抱きたるは・・・
―――左違え鷹の羽―――
の、紋所・・・
そう―――つまり、どこからどう見ても、この素浪人より、立派な出で立ちの=お侍=サマが・・・
立っていたというのです―――。
すると・・・・〕
士:―――――・・・・。
〜チャリン チャリン〜
〜チャリン チャリン チャリ チャリ チャリン☆〜
素:――――・・・・。
〔別段何をするでもなく・・・暫らく水面(みなも)を見つめていたお侍―――
・・・という事は、この素浪人の釣りの腕前を見ている―――と、いう風にも取れなくはないのですが、
この素浪人の釣りの腕前は、前述の通り―――だから、強ち“冷やかし”では・・・?
そう思われた矢先―――徐ろに自分の懐から、“あるモノ”を落とし始めたのです・・・それも、音を聞く限りでは、“計六個”。
すると―――その後のこの素浪人の反応が・・・・〕
素:・・・・今夜か―――、しゃあねぇな・・・。
分かってるよ、行きな―――(ススッ・・・)
士:―――――・・・・。(ス・・・)
〔それは―――これがあの素浪人か、と疑いたくなるくらいの凛とした声に、驚きはするのですが。
むしろそのことより、立派な出で立ちのお侍が、一見して頼りなさげな素浪人を、“当て”にしているということ・・・。
しかも、お侍から落とされたものを、後ろ手で拾い上げると、なんとそれは―――『六文銭』だったのです・・・。
そう―――『六文銭』・・・これの意味するところとは・・・?
それは、現世と黄泉とを隔てる“河原”『賽の河原』・・・そこを越えるための“最低料金”・・・
だとしたら、それをかのお侍から受け取った、彼は一体―――???〕