≪参;その男―――の、過去≫
〔それはそうと―――この会話、まだ続くようですよ・・・?〕
左:・・・・普通ならな、それで万事が丸く収まるかもしれん―――
だがな、皮肉な事に、上のお方がお前の事を高く評価しているのだ!
この―――・・・ワシよりも・・・な。
素:・・・ああ〜〜―――あのおっさんかい・・・。
左:(ギクッ!)“おっさん”言うな!!
お前―――あのお方の御前でそれを言ってみろ!!それこそ―――・・・
素:(フッ―――・・・)おいらなんかの・・・馘(くび)の一つや二つでは済まされない―――ってかい・・・
むしろ、おいらには、そちらの方がいいんだけどねぇ―――・・・
左:・・・お前―――・・・やはり、あやつの事を―――
素:当たり前さ―――目の前で仲間を弑(や)られちまったんだ・・・
しかも―――その“仇”をみすみす見逃しちまって・・・
左:―――――・・・・・“カイエン”。
素:ああ―――・・・未だに、そいつの消息は、定かじゃあないらしい・・・
左:――――・・・・・・・・・済まん。
素:いいってことよ―――何も、お前がその責を背負うことじゃあない。
左:・・・あのとき―――ワシがいさえすれば、あやつを・・・・!!
素:どうにもならなかったよ―――所詮、格が違いすぎたのさ。
それに、あのとき―――お前は、別の処へ調伏に出てたって言うじゃあねえか・・・
左:だが―――しかし・・・!! あれは、お前が――――!!!
素:それによ―――“加藤”のおやッさんの娘・・・元気にしてるって話・・・だぜ?
左:あやつの―――娘?
素:アレから九年・・・年頃だってさ。
今度・・・会いに来たらどうだい―――目元なんか、おやッさんにそっくしだぜぇ。
左:ああ・・・そうだな―――そうしてみよう。
〔なな、なんと―――??只今の会話で、“おや?”と思うことがあったようですねぇ―――
しかも、先ほどまで熱い言葉を投げていたあの左近が・・・どうやらあることを契機に大人しくなったご様子―――
それに第一、どうもこの二人、全くの他人のようではなく、左近にしても、過去によほどの事があったのか、
かなり負い目に感じているようではあります。
しかもしかも―――過去の彼らには、まだほかに仲間がおり、そのうちの一人・・・
その者が亡くなったのが、この左近の負い目の一因となっているようではありますが―――
その仲間の一人の死をきっかけに、お互いが“自分”であること―――それが難しくなってきているようではございます。
それと―――気になるのは、その亡くなった仲間には、“娘”がいたようでして・・・
しかも、自分を『日暮』といった素浪人が、“今度会いに来たら―――”・・・とは??
それは―――まあ、それとしまして・・・では、その番所に一晩逗留した、その経緯は・・・?〕