【其の三;墓参り】

 

≪壱;人斬り騒動≫

 

 

〔ここは―――下町長屋のある一角・・・その住居人のお一人である、しの―――の間借りにて、

彼女はある悩みを抱えていたようでございます。

 

それというのも―――?

 

現在より二日前のこと、彼女自身が開いている寺子屋で、子供を迎えに来た母親連中から、

とある噂を、耳に挟んだことからの語りでござりまする―――〕

 

 

母:いやぁ〜〜ねぇ――――また、出たんだってよぉ?

母:おや、おキヌさん、あんたも聞いたのかい―――?

母:世の中、なんだか物騒になっちまったもんだよねぇ―――。

 

し:(あら?)あの―――なにかあったんです?

 

母:おや―――女先生、知らないのかい?

母:先生も―――若くてお綺麗なんだから、気をつけなよ?

 

し:は――――はあ・・・ありがとうございます・・・。

  ところで、何の話をしてたんですか??

 

母:それがねぇ――――・・・余り大きな声じゃいえないけど・・・

母:出たんだってよ――――“人斬り”がさぁ・・・・

 

し:ひ――――“人斬り”??

 

母:ああ〜〜〜―――そうなんだよ・・・

  なんでもさぁ、夜毎、辻をうろついて・・・お侍だろうが、浪人だろうが、女子供だろうが―――

  “人を斬って棄てる”・・・っていう、悪辣なヤツでさぁ?

母:そうだよぉ―――これじゃあまた、九年前に逆戻りだぁねぇ〜?

 

し:(九年・・・前――――)

  あのぉ―――・・・ところで、その“人斬り”、名をなんていうんですか?

 

母:そうさねぇ――――確か・・・・

 

 

〔その下手人たる“人斬り”の名を聞くに及び、しのは自分の身体に電流が迸(ほとばし)るのを感じたそうです。

 

なぜならば―――・・・

九年前・・・自分の父が行き方知れずになったばかりでなく、

後日に、近くの河原で無惨にも変わり果てた姿で、打ち上げられたのを見てしまったといいますから―――

 

そして・・・・その時偶然にも耳にしたある者の名―――

=カイエン=

 

そう・・・・おそらく、自分の父を害した存在と、近日、母親連中を騒がしている存在が、同じ者であると分かり、

しのの身体には、“復讐”と名のつく業火が、その血とともに滾(たぎ)っていたというのであります。〕

 

 

し:見つけた――――ようやく見つけたわ・・・!!

  あたしの父を弑した憎いヤツを!!

 

  待ってて―――お父さん・・・仇敵は必ずとってあげるからね!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>