≪弐;分かってはいるけれど―――≫

 

 

〔さても―――そんなこんながありながらも、話の筋をちょちょいと端折(はしょ)りまして、

しの、これからとこぞかへ出かけるようでございます。〕

 

 

し:それじゃ―――ちょいと出かけてきますからね、お留守頼みましたよ。

蝉:へいへぇ〜〜い。

 

し:(―――んっとにもぉ・・・気のない返事ねぇ)

  では、行ってきます―――。

 

 

〔ド派手に喧嘩をやらかしたからなのか・・・(とは申しても、ほぼ一方的に―――なんですが(笑)

自分が居候をしているところの大家さんが、所用にて出掛けるに際しても、以外に素っ気無い素振り・・・

本当に、末永くやっていけるんでございましょうか。

 

―――と、そう思いましたらば、実はそうではなかったようにございます。〕

 

 

蝉:・・・・なぁ―――黒鵺よ・・・

黒:――――・・・。

 

蝉:あいつは―――しのは、まだ あの道 から足を洗わんねぇのかい。

黒:・・・申し訳ございやせん――――

  旦那方の素姓を分からせたほうが、手っ取り早いとは思ったんですが・・・

 

蝉:(ポリポリ)・・・・まぁ、しゃねぇか―――

  今まで一緒にいさせてもらって、分かったことといやあ―――おやッさんよりも頑固で意固地みてぇだから・・・な。

 

 

〔然様―――蝉ノ介こと秋定が、素っ気無かったのも無理はなく・・・

―――と、いいますのも、自分は南町奉行所の筆頭与力、鷹山秋定である―――・・・

と、しのの父、団蔵の墓前にて詳らかにしたにも関わらず、未だしのは“義”賊より、足を洗わないでいたというのであります。

 

 

―――と、いうことは・・・彼女が出向いた先というのも・・・

 

どうやら、お江戸の紙屋町方面にて、とある大店を臨んでおります、しのの姿ありき―――〕

 

 

し:すみませぇ〜ん、お蕎麦いっぱいいただけます〜?

 

爺:へぇぇ〜〜い・・・・へい、お待ち―――

 

し:有り難う、お爺さん。(ニコ)

はふはふ ずるる〜〜―――

(ふむふむ・・・路地はああいう風に入り組んでて〜〜―――両隣の家屋の屋根との間隔は・・・・と、どうにかなりそうね。

 

それにしても〜〜―――早くこの稼業から、足を洗わないと・・・

だって―――今、あたしのとこには、南町の筆頭与力サマを居候させてんだもの・・・

 

それに―――あちらのほうからも、なんにも言わない・・・だ、なんて―――・・・)

分かって―――分かっているのよ・・・

 

 

〔確かに、今回標的にせんとする、大店の下見に出てはいるようなのですが、

どうやらしののほうでも、良心の呵責と言うものに苛(さいな)まされてはいるようでございます。

 

所詮―――“盗み”を働く【賊】・・・と、それをひっ捕らえんとする“捕り方”の【奉行】・・・

その両方が、同じ屋根の下にいながら、<義>なる【賊】がお縄にならないのも、

(ひと)えには、かの筆頭与力の温情があったればこそ―――だったのでございます。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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