≪拾壱;団蔵最期の瞬間≫
左:ああ―――それより、幾分か話が逸れてしもうたの・・・。
実は―――九年前のあの日に限っては、いかなワシといえども、結界の外に出ることは能(あた)はず―――じゃったのじゃ。
秋:それを―――おいらが判ってやれなくてよ・・・。
あの日、取り締まりに出てこなかったこいつを、おいらが大人の連中から目を盗んで、
無理矢理外に連れ出そうとしたのが。そもそもの間違いだったんだ・・・
左:そこを―――あやつは見逃さなんだ・・・このワシの身に封じておる あやつ は―――な・・・。
し:・・・・瑰艶――――
秋:そう―――・・・。
不意に沸いてきた、自分にとっての天佑を、手放してなるかとばかりに、ヤツは顕在化を始め―――・・・
定華のやつの体を乗っ取ろうとしたんだ・・・
左:そのとき―――ワシは・・・自分の左の腕(かいな)に、秋定を捉えておった・・・・
一瞬――――何かの間違いではあるまいか・・・と、思うておったが―――・・・
秋:そん時―――ヤツは見せてたのさ・・・より早くお前を絶望させるためになァ・・・・
だァが・・・そこはそれ―――団蔵のおやッさんが・・・
『そんな小せぇガキんちょより、霊力もたんまりつまってるオレを啖らったらどうかい―――』
そう・・・言ってなぁ――――・・・おいらの代わりに・・・
し:そ―――そうだったの・・・
左:じゃが―――今、ワシらがここにあるのも、また団蔵のおかげでもあるのだ・・・。
し:えっ―――? どういうことなんです・・・?
秋:・・・おやっさんが啖われる寸前―――おやッさん自らの身に仕掛けていたある術・・・
断固相殺;天魔覆滅
そいつによって、ヤツの器だった定華の身体から、瑰艶の魂だけ離脱させ―――・・・
左:そこを―――秋定と、残りの仲間で瑰艶の魂を討誅せしめた・・・と、言うことなのじゃ。
じゃが・・・ワシの身に遺った―――この忌まわしい形態と、瑰艶の能力そのものは、
ワシが取奪せしむる・・・と、言う形でなぁ・・・。
〔然様―――九年前、左近が当時 拾弐 であったとき、周囲りの対応が がらり と変わっていたというのであります。
自分という存在が、生まれてこの方拾二年・・・いつもと違う雰囲気―――
手前の部屋に貼られたる呪符の様相も仰々しく―――・・・その年ばかりは、一歩も外へ出るということはまかりならなかった・・・
その理由とは――――その年が左近にとっての 天中殺・凶会の日 だったのでございます。
そのことを、当時の妖シ改メの大人連中は存じていたようなのですが、この事実を未だ年端も逝かない者達に知らせる事もない―――と、し、
その年ばかりは、左近をお役目から外すという形で進行させてはいたのですが、
当時―――やはり若いというには若すぎた秋定が、独断専行に走り、半ば強引に左近を幽閉部屋から連れ出し・・・
あわや一大事へと発展したのでございます。
そのことを―――己の生命の危機に晒された時機、秋定は知ってしまうのでございますが、
この未曾有の危機を救ったのが、己の身体を犠牲にした団蔵だった・・・と、いうのであります。
左様―――ここに来て、ようやく団蔵の死の真相が明らかとなったのではありまするが、
そこには自分の不注意から招き、引き起こしてしまった事象に悔いる男と―――
いくら注意をしていたとしても、結果、封じていた相手に身体を乗っ取られ、その存在を丸呑みにしてしまった者がいたということ・・・。
そのことに、この両名は、未だに悔恨していたというのでございます。〕