<三>
〔さて、その一方で、高等部の慈瑠華は・・・と、言うと?
ちょうど、放課後の時間に、こういうことがあったようなのです。
一人の、剣道部らしき女子が、彼女になにやら相談を持ちかけているよう・・・なのですが?〕
柊:(青柳柊子(あおやぎとうこ):女子剣道部の一員であり、部長。二年生)
これ―――このとおり・・・・お願いッ!!
慈:え・・・・っ、だ、ダメよ・・・。
ち、ちょっとカンベンしてくんない?!
柊:そこを・・・・何とか!!ね?!
慈:う・・・・う゛ぅ〜〜ッ・・・。
〔滅多な事では断りを入れない彼女が、今回に限って・・・とは、珍しい事があったようですね。〕
徒:あら?どうしたの?ジルのヤツ、珍しく断りいれてるようだけど?
徒:あぁ―――それがね?女子のほう、明後日の団体戦、一人ケガで行けなくなったみたいなのよ。
徒:ええっ?!明後日―――って、全国の予選兼ねてる・・・って言う、あの??
徒:そう―――その通り、あの子なら・・・って事で掛け合ってるらしいんだけど・・・
徒:そうよね、そういえば、ジルのヤツ・・・不思議と武道系は避けてるってゅうか・・・
〔なんと、そうだったのです。
この剣道部の部長の柊子さん、欠員補充のため、慈瑠華に頼み込んでいるようなのですが、その誠意虚しく断られているようなのです。〕
柊:ねぇ・・・お願い、お願いだから!!
慈:(ぅう・・・っ)で―――っ、でも・・・さぁ・・・・
柊:な・・・何よ!他のとこはいいって言うのに、私達のところはダメだって言うの??!どうしてよ―――どうして・・・
皆、明後日の試合のために・・・どれだけ血の滲むような練習積み重ねてきたか・・・
慈:(くぅ・・・っ!!)ごめん―――でも、出来ないものは・・・出来ないの・・・。
柊:―――そう、分かったわ・・・。
所詮、他人に頼ろうとしていた私が甘かったのよ・・・ゴメンね、邪魔して・・・。
慈:―――・・・。
〔彼女が必死になって頼み込んでいるのに・・・・慈瑠華には、何かよほどの理由があったのでしょうか、それとも・・・???
やはり、級友の言葉に見られるように、“武道系は避けている”、つまりは『野蛮』だからなのでしょうか?
いや、それよりも・・・〕
徒:でもさぁ〜〜あの・・・・女子剣道部?部員数もそういないし、今度、実績上がらなかったら廃部・・・って言うじゃない。
徒:へぇ〜〜〜ッ・・・・
慈:(ピクッ!)(―――そうか・・・それであんなに・・・・悪いこと、しちゃったかなぁ・・・。)
でも―――私には・・・・
〔やはり慈瑠華、それをしない―――と、いうのには、なにやらワケがあるようです。
では、どんな理由が・・・?
それよりも、肩をガックリと落とした、慈瑠華が帰宅したようです。
ここで―――この慈瑠華の自宅・・・と、言うのが、立派な日本家屋で、
まるでTVの時代劇に出てくるかのような『武家屋敷』のような造りをしているのです。
しかも、その景観もさることながら、もう一つ目を惹くものが・・・それはなんと――――
『練武館』
と、書かれた看板がある、これもまた大層な道場の存在だったのです。
(いや、しかし・・・これはどう見ても、普通の道場ではなく、言い換えるなら『武道場』のようです。
しかも、この屋敷の外からは見えず・・・その存在も、外部の者にはあまり知られていないようですが・・・・。)〕
慈:(はぁ・・・・)―――・・ただいま・・・。
母:あら、お帰りなさい。
―――・・・どうしたの、珍しく元気がないわね。
慈:うん・・・・ううん、なんでもないの。
それよりも、師範もう来てる?
母:そういえば―――まだこっちには来ていないわね。
慈:ふぅん・・・・そう・・・。
じゃ、私、一足先に道場のほうに行ってるから・・・。
〔なんと―――先程剣道部の助っ人の断りを入れた、彼女の実家には『武道場』が・・・
しかも<師範>らしき人物までいるようなのです。
(すると、そうなると・・・彼女自身は違うのでしょうか???)
それから彼女自身、白の道着に、黒い袴・・・に着替えた模様です。(どこからどう見ても、武道の経験者・・・に見えるのですが?)
そして、その人物(師範)が見えるまで、床を雑巾がけしているようです。
すると、そうこうしているうちに、慈瑠華の・・・
彼女のこの家に訪れた人物がいるようです。(ひょっとすると、この人が?)〕
綺:―――・・・こんばんは、おばさま。
母:あら、綺璃惠ちゃん。
最近ずいぶんと遅いのねぇ。
綺:ええ―――まあ・・・クラスの委員長をしていますので・・・その関係上です。
母:そうなの・・・。
あ、それより、あの子帰ってきてるわよ。
綺:――――そうでしたか・・・・分かりました。(ニコ)
〔どうやら、ここを訪れた人物―――って、綺璃惠ちゃんのようですね。(何かの間違いでしょうか?)
しかも、ここのお母さんとも面識が深い―――とは、ひょっとすると彼女はここの居候さん?
いいえ―――実は彼女こそ・・・・
その彼女も、今は刺子の道着に、紫紺の袴をその身に纏い、この『練武館』に来たようです。〕
ス・・・・
綺:―――・・・遅く・・・・なりました。
慈:(あ・・・・っ!!)し、師範!!ち、ちょっとお話しが・・・!!
〔そう・・・彼女<塚原綺璃惠>こそ、誰あろう―――この慈瑠華のいる、高坂家代々に伝わる武道
『刻燉ャ』(こくていりゅう)
の師範、その人だったのです。
そして―――この道場に入ったときから、彼女の口調が、がらりと一変してしまったのです。〕
綺:・・・・その話、後にしましょう。
――――今日は、何をやる?!
慈:できれば・・・・“剣”のほうでお願いします・・・!!
綺:ふむ、良かろう・・・では防具をつけろ。
慈:・・・・はい。
〔そして、今日はなんと、剣道をやるようですが?
それには、あのお決まりの防具≪面・胴・小手≫をつけなければなりませんが・・・
慈瑠華はそれをつけていても、綺璃惠ちゃんのほうはそれをつけないようなのです。(なぜ・・・?)〕
きゅっ・・・・きゅっ・・・・きゅっ・・・・
綺:さぁ・・・・・来いッ―――!!
きゅっ・・・・きゅっ・・・・
慈:哈あぁぁ・・・っ! やあっ!やぁっ!てぃやぁ―――っ!!
ブン! ブン! ブゥゥ・・・ン!!
スカ スカ スカ
きゅっ・・・きゅっ・・・
慈:(ふぅ・・・っ、ふぅぅ・・・・っ・・・・ふっ・・・・)
きゅっ・・・・きゅっ・・・・
綺:(・・・僅かながら、呼気の乱れがあるな・・・・)
きゅっ・・・きゅっ・・・
慈:―――ぃぃ・・・やあっ!けりゃぁ!ちぇぇ――――すとぉぉっ!!
ビュン ビュン ビュゥゥ・・・・
スカ スカ スカ
きゅっ・・・・きゅっ・・・・
綺:(・・・足の運びにもムラが多い・・・・何かあったな)
―――打ち方やめぇいっ!
慈:はぁぁ・・・・・はぁぁ・・・・・ふぅぅ・・・・・
綺:・・・・どうした、これしきで息が上がってしまうとは。
そんな鍛え方はしていないはずだろうが。
慈:はぁぁ――――・・・っっ・・・・
ぁ・・・あ、あの・・・お願いがあるんです、師範・・・!!
綺:・・・・・なんだ。
慈:ち、ちょっと―――友達で困っている人がいて・・・ですから、お願いです!
私を・・・私を明後日あるという剣道の地区大会に、出させてください!この通りですっ!!
綺:(ち・・・・っ)情に、絆(ほだ)されおって・・・・
慈:彼女達・・・一生懸命にやってきて・・・・それで部の一人がケガで欠けて・・・人数が・・・人数が一人足りないって言うんです!
ですから―――私は、彼女達の手助けをしてあげたい・・・・それだけなんです!!
綺:(ふぅ・・・)それは―――部の者がケガをしたというのは、自己管理の甘さからであろうが、
お前が、その責をしょう必要性は、どこにも・・・・ない。
慈:わ、分かってます――――でっ、ですが・・・
綺:もうよい、それより稽古の続きをする・・・打ち方はじめぇぇい!!
きゅっ・・・きゅっ・・・
慈:(・・・・っ、くぅっ!!) 哈ぁぁ・・・・ぃやあぁっ!!
綺:(キッ!!)けぇぇやぁっ!!
ガッッ・・・
シャキィ―――ン!
クンッ
ザシュィ―――ン!
〔綺璃惠ちゃん、鍔迫り合いから、切り返しの後に、素早いまでの斬撃を――――!!
でも、つけている面や胴、小手には一切かすりもしていないようなのですが??〕
慈:ぅわぁっ!
ドオンッ!
綺:―――今、これが木の刀だったからよかったようなものを・・・・これが真剣だったなら、どういう事になるか分かるか、師範代。
慈:(うぅぅ・・・・っ)(ジンジン) は・・・・はい、斬られて―――いました・・・。
綺:今、斬れぬ刀で、小手・面・胴などとやりあっておるのは、ワシらからしてみると、単なるお遊戯よ。
これがどういうことか・・・・
慈:―――はい、私達の流派は常に『真剣勝負』“死して屍、拾ふなかれ”が信条の・・・
綺:そうだ、そんなモノが町の道場剣法とヤり合ってみろ。
結果は自ずと分かってくるであろうが。
慈:はいっ・・・・分かります・・・。
でも・・・彼女達の無念さも、痛いほどよく分かるんです!!―――私!!
綺: (チッ!)――――剣を取れ。
慈:・・・・・はい。
綺:この、ワシから“一本”取れたのなら―――考えてやろう・・・。
慈:(え・・・?)し・・・師範??
綺:二度は言わんぞ!来いっ!!
慈:は・・・・はいっ!(あ、ありがとうございますっ!師範!!)