<六>
綺:・・・確か、ワシは“勝負ありそれまで”―――と、言ったはずだった・・・なぁ?
聞こえて―――いなかったのかな。
婀:・・・・・いや――――
綺:・・・ならば―――どうして、関係のない者までをも啖らわんとしていた・・・
坊や一人では、腹の足しにはならんか―――?
婀:・・・あの者は―――私に刃を向けようとしていた・・・だから・・・だ。
綺:そうか・・・・その存在は、そなたの目障りにならぬよう、師範代が下がらさせてある。
さあ―――・・・そなたも、下がられよ。
婀:(にィィ・・・)――――判った・・・・
〔そこにいたのは、紛れもなく――――修羅を啖らふという羅刹でした・・・。
己れの身に降りかかる災厄でさえも、須らく身の糧としてきた存在・・・・
だから―――倒された師の前で、竹刀を構えた弟子でさえも啖らおうとしていた・・・
でも、そこは今回の意にはそぐわないことだから―――・・・と、この道場の師範に諭され、
しかし、シブシブではなく、寧ろ得心が行ったように、その羅刹も刀を納めたのでした・・・。
ですが――――・・・〕
小:ああ・・・・清秀〜〜―――せいしゅう〜〜――――・・・(ゆさゆさ)
清:(うぅ・・・)痛ッ―――
小:せ・・・清秀―――!!? い・・・生きてる・・・?
清:あ―――ぁ・・・お嬢・・・小夜・・・・
――――そうか・・・オレは、また・・・敗れたのか――――
今度は・・・今度こそは勝てると思っていたのに・・・・
すまなかった――――師として、こんな無様な姿しか晒してやれないオレを・・・・
小:・・・いや―――やっぱり、清秀はあたしの師だ・・・
今、こうしているのも、少しも無様なんかじゃ――――ない・・・。
慈:(ほ)ああ――――よかった、一時はどうなることかと・・・
陣:でも―――なんだか本当に殺しかねないところでしたよね。
綺:(フ・・・)何を言っておる―――だからこその“死合い”なのだ。
我等の前に立ちはだかる者は、いつでも真剣勝負―――
それゆえに、その辺にある『町道場』や、『ルールに縛られての試合』に出るのを禁じておった。
小夜とやら―――あなたも判ったことだろう・・・あの県大会の試合の後で、ワシが云って聞かせた事が・・・
小:それじゃあ―――やっぱり・・・あのとき、あたしは・・・・斬られてたんだ・・・・
綺:(フ――・・・)まあ、その辺の詳しい話を、客間でしてやろう。
〔あの・・・凄まじいまでの斬撃で、早、息絶えたか・・・と、思われた青木清秀。
しかし、彼に身を寄せ、今にも泣きそうな声ですがりつき、どうにかして身体を揺り動かせていたら・・・
彼は息を吹き返した――――いや、意識を取り戻したのです。
(まあ―――早い話、本当の意味での『真剣』勝負ではなかったので、木の刀で叩かれたくらいでは死なんよね・・・普通。)
そのことにひと安堵つくジルたちなのですが―――・・・
ナゼひとえに、キリエがこの試合の事を“死合い”といっていたのか・・・と、
やはりこの試合には、浅からざる因縁となった、県大会での試合の後の、気になる一言・・・
“もし―――斬れるはずのない刀で、相手を斬れる者がいるとしたなら・・・”
このことをよくよく判らせるために、ジル以下三余名を別室へと移らせるのですが―――・・・〕
慈:(あれ―――?)あの・・・師範??
綺:・・・・そっとしておいてやれ――――
慈:(え??)――――って、ことはぁ〜〜ひょっとするとぉ〜?♪
綺:いいからこいっ―――!(ぎゅぃい〜〜)
慈:あいててて〜〜〜―――し、師範〜!耳引っ張んないで下さいよぉ〜〜!!
〔そう―――ここで一つ忘れてはならないことは、もし彼らが移動してしまったら、
この道場という空間には、今回の試合の当事者二人・・・・と、いうことに。
そのことに気付いたジルは、キリエにそれとなく聞こうとしたところの、あのセリフ―――・・・
近年において、 そういうこと に多感になっている少年少女にとっては、
例えそうではなくても、そう思ってしまうのが常のようでして・・・
そこを―――“いらぬ気を廻すな”・・・と、ばかりに、綺璃惠に耳を引っ張られて、退場したジルがいたのでありました。〕