<九>
〔――――と、まあそんなことがありながらも、とりあえずは店の奥まで通された三人・・・
すると、そこに来ていたのは―――〕
慈:ああ〜〜っ!師範!?
綺:おう―――遅かったじゃあないか、お前たち。
陣:ええっ―――でも、お店の人・・・随分と偉い人が来店してるような口ぶりだったんですけど・・・
綺:・・・・悪かったな、ワシ如きで―――(ズズ〜)
婀:まあまあ―――そうとんがらずに・・・それよりもおいしそうですねぇ、抹茶小豆。
綺:・・・・キサマには喰わせんぞ―――
婀:いいぢゃないですかぁ〜〜――― 一個ぐらい・・・
綺:“ぐらい”とはなんだっ!
この前はワシの好物を忘れたばかりではなく・・・なにやら判らんものを持ってきおってからにぃ〜〜・・・・
いいか―――黒江崎・・・キサマの罪は未だ拭われたわけではないんだからな!!
婀:え゛・・・ええぇ〜〜―――っ! ちびしぃなぁ〜〜もう・・・・
圭:まあ―――まあ―――そういわはりませんと・・・。
せめてわっちの敷地内に来たときぐらい、仲良うしとくれやすぅ〜。
ほい―――婀娜奈はんのも、ちゃんと用意させてもろうておりますきに・・・
婀:・・・悪いねぇ、お圭――――
圭:いいえ〜〜―――これも、古うから知った仲でヤンすから〜。
綺:フ―――・・・まさに『大黒天』様々・・・だな。
慈:(・・・え?)あの―――師範? 今・・・『大黒天』って?!
綺:うん?ああ―――あいつの・・・お圭の、昔からのここでの通り名・・・だよ。
陣:それにしても―――確かここの屋号も『大黒堂』で・・・あの女将さんの苗字も『大黒屋』・・・
それに―――『大黒天』・・・って、もしかしなくても、<七福神>の“大黒サマ”のことですよねぇ?
綺:ああ―――まさにその通りだな、いいところに気がついたな、陣・・・
〔なんと―――彼らより先に大黒屋に上がって、好物を召し上がっていたというのは、
ご存知、刻燻t範―――塚原 綺璃惠―――その人だったようです。
そして、ここで二・三やり取りが交わされていくなか―――ジルはある気になる単語に気がつき始めたのです。
そう・・・ここの“屋号”でも、女将の“苗字”でも、その“通り名”でも使用されている『大黒』という単語・・・
でも、それは商売をする上での縁起を担いでの―――ともとれなくはないのですが・・・
そこにいる若者二人が知らない事実――――<七福神>の“大黒様”に隠されたある逸話など、
まだまだ知る由もなかったのです・・・。〕
―――了―――