<九>
〔あ、それはさておきまして――――
日も改まったある日の出来事―――場所は、橋川家剣道場『光臨館』にて・・・〕
清:本日の稽古はこれまで―――!
門:ありがとうございましたぁ―――!!
〔今日も一日の稽古を終え、各自の家路に戻る門下生達。
でも、この家の娘である小夜は、門下生達が帰った後でも、師である 青木清秀 に稽古をつけてもらえる・・・
と、言う特権があったのです。
でも―――どうやらその日だけは違っていたようでして・・・〕
清:さぁ――――・・・どうした、かかってこいっ!!
小:はいっ―――
ぉおおお――――!!
〜どぉ―――ん〜
小:っっ―――くっ!! ま・・・まだまだまだぁ!
清:てぇいやぁぁ――――!!
小:うわぁっ!
清:・・・・どうしたんだ、剣が死んでいるじゃあないか――――
小:は・・・はい、すみません―――
清:さぁ――――こいっ!!
小:・・・・・。
〔どうやら、その日――――と、いうより、ここ二三日の間・・・稽古に身の入っていない様子の橋川小夜。
それゆえに師の口から出た『剣が死んでいる』との言葉は、かなり痛感したようです。
そして・・・ここ数日より気になっていたあることを、師に告げる小夜・・・〕
小:・・・・あの―――
清:(―――うん?)
小:あの―――清秀、ちょっと聞いていい?
清:・・・・どうした―――
小:・・・あの―――清秀は・・・黒江崎婀娜那・・・と、言う女の人を知ってる?
清:(ピク―――)な・・・に――――?!
小:あ・・・ああ―――いや・・・し、知らないんだったら―――いいんだ・・・
清:・・・・その―――黒江崎某・・・その者がどうかしたのか―――
〔それは・・・とてもいえないこと―――
自分の失態で、ヤクザ者に拉致・監禁・強姦されそうになった事を――――
でも・・・彼の者については、こう―――告げるにとどめておいたのです・・・〕
小:ぐ―――偶然・・・その人の持ち物を拾ったんです。
清:そうか―――・・・じゃあちょっと見せてもらえませんか。
小:ちょっと待ってて―――・・・・はいっ、これです。
〔当たってほしくなかった、悪い予感―――― 見覚えのある、免許証の写真の顔・・・・
7年前に、辛酸を嘗めさせられた・・・顔と―――同じ名前・・・
初めは、ただ単に同じ名前もいたものだ・・・・とも思っていたけれど―――
ただ一ついえたことは――――・・・
その・・・“同じ者”が、今、この町に帰ってきている――――と、いう“事実”・・・・〕
清:―――――・・・・。
小:あっ―――あの・・・清秀?
清:・・・・ああ―――いや・・・すまない。
小:あの―――っ・・・どうか・・・した?
清:・・・すまないが、今日はここまでだ―――
小:ああっ―――清秀!!
〔何も言わずに道場から去る自分の師・・・
そのことに、自分のしたことが、何か悪いことだったのか―――とでもいうように、
その日の小夜は、気落ちをしてしまい、道場を後にしたのです・・・。〕