<七>
〔彼が放つ―――その一撃こそは、まさにその魂がこもるか・・・と、思えるほど、重々しいもの・・・
けれども―――婀娜奈はいとも軽々しげに受け流していたのです。
“二刀流”―――とは、得てして人間の両の腕(かいな)に一本づつを持ち、
見るからに攻撃特性としては、あがっているように見受けられるのですが・・・・
この型の一番の泣き所とは―――その・・・“腕(かいな)に一本づつ”と、いうそれであり、
つまるところ、相手からの重い一撃を放たれると、その衝撃に耐えることが出来ずに離してしまう・・・
そして“終(つい)”の一撃・・・・
でも―――それは“素人”だったれば・・・の、話。
では、その『泣き所』を追求し、弱点を克服していたらば――――??
攻撃する要素が多いだけに、この型の利点が最大限に活用される・・・・
――――と、いうことは・・・・?〕
小:ああっ―――あの清秀の一撃でも・・・あの人の竹刀が離れない!!
慈:すごい―――あの男の人の斬撃もそうだけど・・・
そういうのを喰らっても離さないでいるなんて・・・・
陣:そ―――そんなにすごいんですか?!!
慈:・・・うん―――私でも、一度目は耐えられるかもしれないけれど・・・
ああいう風に連撃でこられると―――ちょっと厳しいかもね・・・。
小:(な―――なんだって?! あ・・・あたしでさえ、清秀の剣撃を受けるのがやっとで、
今見ているのよりか、軽いモノで落としているのを怒られたりしたのに・・・・
それを―――こいつは“耐えられる”・・・って――――・・・
そうか・・・そういうことだったんだ―――あたしは、どう背伸びしようが・・・こいつには勝てなかった・・・)
綺:(フフ―――どうやら、薄々ながら感付いてきおったか・・・)
しかし―――・・・またあのときと同じになろうとは・・・・
いや、今回のは一度経験しているだけに、対応の策が垣間見れよう―――と、言うものだ・・・な。
慈:それ―――って・・・どういう事なんです。
綺:うむ―――・・・今の彼らの打ち合っている型は、八年前の死合いそのものを再現しているといっても過言ではないのだ。
ただ――― 一つだけ、決定的に違うことは、あのときは何もかもが目新しく、
当時の坊やは、自分の斬撃が利かないと知ってしまった時―――何も出来ずに、あやつの奥義を喰らってしまったのだ・・・
小:(え・・・)じゃあ――――
綺:(フッ)さぁな―――今回も同じ策が通用すると思ったのか・・・
そこはワシとて、あやつ本人ではないからどうとも言えん・・・琴乃成り行きに―――まかせるしか・・・ない。
〔このときジルは―――刻燻t範の、綺璃惠のこの言葉に、ある不安が頭の中を過ぎらざるをえませんでした―――・・・
その、ある不安とは・・・武道家にとって、一度対戦した事のある相手と、再び剣戟を交じ合わせるとき、
またも同じ伎をして相対峙する―――と、いうことは、『鬼道』・・・・いわゆる一番の 忌み であるということ・・・
これはつまり――― 一度目撃してしまった伎は、それが例え奥義と呼ばれるものであったとしても、
“見切り”をされている可能性が 大 であるので、その結果―――・・・
そう・・・ジルは、『もしかして婀娜奈は、この死合いにわざと敗北ける気でいるのかもしれない・・・』と、思っていた―――
でも、それは同時に、『わざと敗北ける』ということは、相手に対して大変失礼なことでもあるのでは・・・とも、思っていたのです。〕
―――了―――