人気のない街道を――― 一人の士が歩いている・・・
彼の目的とは何なのか・・・己の武を極めんとする、「究武の輩か」・・・
余人は、知る由も
ない―――
何故ならば、「この世界」こそは、『現実』ではない、『仮想』の“それ”なのだから。
そう、この士が歩を進めている「世界」こそ、『仮想世界』―――つまり、所謂ところの、「ゲームの世界」なのです。
今日、通信網が発達した「現実世界」では、こうした『オンライン・ゲーム』が様々としてあり、
この『お話し』では、世界中の様々な人達が、ネット回線に接続して“プレイ”をする―――
その数にして、実に数億数千万規模といわれている【Odysseia−OnLine】での物語なのです・・・。
#1;仮想と現実
それよりもまず、この“ゲーム”としての概要としては、「コントローラ」を握り、とある「電子遊戯筐体」を介し、「画面」に投影をしてプレイをする・・・―――と、そう言った様な手法ではなく、
近年開発・・・爆発的に流行を果たした、『VRヘッドギア』なるものを装着し、“ネットにダイブ”する―――
所謂、≪VRMMORPG≫の手法に則った、“ゲーム”なのです。
さて―――それより、冒頭に出てきた、「人気のない街道を歩く、一人の士」のことなのですが・・・
この士こそ、この“ゲーム”を“プレイ”する為に、“ログ・イン”をしている『プレイヤー』
そのキャラ名を〖蓮也〗―――・・・
誰が謳ったかは知らないが・・・
剣の道 修羅の道 幾度か斬り結び
生き残る事こそ 最強也―――
この狂歌を胸の内に刻み、蓮也が向かう先には―――・・・?
蓮:(この辺りのハズなんだがなあ・・・チッ、さっさと済ませて、先に進みたい―――ってのによう・・・!)
「彼」、蓮也が今回帯びている依頼の内容とは・・・≪街道に出没する賊を討伐せよ;D≫
依頼の内容としては、軒並みで、こうした「オン・ラインゲーム」では在り来たり・・・
その難度も、比較的易しいとされている「D」・・・なのですが、この彼のセリフにも有るように、
この比較的簡単な依頼を・・・失敗している―――? それも何度も―――??
では、この「彼」・・・蓮也は、比較的簡単な依頼をこなすことのできない「新人ちゃん」なのか・・・?
それとも、「チンパン」なのか―――とも思いたくもなってくるのですが・・・
只一つ、彼の弁護をするならば、蓮也はこの数日前に『キャラ・クリエイト』を、し、“プレイ”を始めたばかりの『新人/初心者』ではあったのです。
・・・が―――
実はそう、彼が幾度となく失敗しているというのも、それなりの「経緯」というものがあったのです。
蓮:(!!)来やがったな―――?!
いつの間にか、周囲りを囲まれ、窮地に陥る蓮也―――
しかし彼は、NPCの賊如きには、後れは取らない・・・簡単に払えていたのです。
だ・・・と、したなら―――??
蓮:(ちィ・・・)現れやがったな―――
誰?:フ・ン―――相変わらず・・・だねぇw
蓮:なんだと―――!
誰?:つべこべ言う暇があったら、かかってきたらどうなんだい―――
蓮:言われずとも――――っっ!!
NPCの賊が全滅―――したかのように見計らい、出現してきた一人の『プレイヤー』・・・
そして、そのプレイヤーの出現とともに、クエストの難度が途端に「D」→「AA」に跳ね上がったのです。
また、それと共に、クエスト自体の内容も・・・≪出現した敵を全滅させよ;AA≫
確かに、内容そのものとしては、実に簡潔―――分かり易いのですが、
いきなり「初心者」が、装備も整わないまま、ランクAAのクエストに挑む―――と、言うこと自体が無謀というもの・・・
ならばなぜ、蓮也はこのクエストを避けなかったのか―――その理屈は実に簡単・・・
蓮也以外のプレイヤーは、このクエストを受けても、こうした「他のプレイヤーの介入/乱入」は、なかったのですから・・・。
ならば―――???
蓮:(く・・・ッ)貴様―――なぜオレを付け狙う! う・・・おッ―――!!
誰?:ホ〜ラホラ―――喋くってる間、足下お留守になってんよ―――ww
蓮:手ん前ぇぇ〜〜―――!
(そ・・・んな、“また”―――?!)
そう・・・ならば、眼前の「傭兵」の格好をした「女性プレイヤーキャラクター」が、蓮也を付け狙っている??一体何のために??
けれど、そんなことは分かり切ったこと・・・装備の整わない、知識もまだそんなにない―――そんな「初心者」ばかりを狙う『新規狩り』というのは、
どこのオンラインゲームにも存在していたのですから。
だから「オレも狙われた・・・?」そう蓮也は思ってしまったのです。
〔現実として、ここ最近のこのゲームでも、新規プレイヤーというものが育たず、こうした『新規狩り』を契機に、早々と辞めていく傾向があったようではある。
しかし、この実情を看過させてはならない―――と、運営側も対策を講じ、「サポートシステム」なるものを立ち上げたのではあるようですが・・・
どこの世界にも、厳しい法の目を掻い潜り、悪さをする人間というのは、また新たな運営の頭痛の種にはなっていたようです。〕
ならばやはり―――この「女傭兵」も、『新規狩り』に倣い、蓮也を付け狙っているのか・・・と、そう思っていたら?
傭:なにやってるんだ―――さっさと立ち上がりな!
蓮:(え―――?)
傭:・・・ったく―――折角見込んでやってんのに、そんな態度をされたんじゃ、興が殺がれるよねぇ・・・
蓮:(え・・・?今なんて―――?)このオレを・・・「見込んで」―――?
だがしかし―――女傭兵からの返事は、ありませんでした。
自分が、今の段階で出来得る限りの強烈な斬撃を、片手一本で受け切る女傭兵・・・。
その事に、すっかり意気消沈している蓮也に投げかけられた言葉に、思わずも耳を疑ってしまった・・・
しかし、そんな彼に振り下ろされたものは、容赦なかったのでした―――。
こうして、またも依頼失敗に終わってしまい、けれど―――女傭兵の言葉に思うところがあったのか、
自分の疑問を晴らすために、自分を「この世界」へと誘ってくれた人の下に向かった蓮也は・・・
誰?:―――どうか、なさったのですか・・・
蓮:いや・・・実は―――
度重なる依頼失敗の報告をする・・・これほどプレイヤーにとって、屈辱的なことはありませんでした。
それを、『ホスト』と呼ばれるプレイヤーにしなければならないとなると、やはり返ってくる答えも分かり易かったことであり・・・
誰?:(・・・)その様子だと、「また」なのですか―――?
蓮:は・・・あ・・・
誰?:気のない返事ね。
けれど、可笑しな事もあるものです、本来ならすぐにクリアできる内容なのに。
蓮:そのこと・・・なんだが。
誰?:(・・・)どうやら事情は違っているようね。
蓮:(!)あんた―――知っていたのか?
誰?;いえ、私も今しがた知ったことではあるのですけれどね。
手厳しい―――と言えばそれまでなのですが、蓮也の『ホスト』役のプレイヤー・・・
キャラ名を〖市子〗と言うこのプレイヤーも、リアルでは蓮也の知り合いのようであり、
「彼」(?)に見込みがあったから、誘ったのに・・・こんな簡単なところで躓いてもらっては、『市子』自身の沽券―――
所謂、自分に「見る目がない」ことを示してしまう・・・だからこそ、厳しい言葉を敢えて使っていたのです。
しかし―――市子も、単に「簡単なクエストを何度も失敗している」事で蓮也を責めるだけなら、三流のプレイヤー・・・
なぜ蓮也が、こんなにも簡単なクエストを、それも何度も失敗するのには、何らかの問題が・・・原因が隠されているのではないか―――そう思い、
市子自身の総力を掲げて、その“原因”を突き止めようとしたのです。
そして―――・・・
蓮:それで―――“お嬢”、何か分かったのか?
市:(キッ!)・・・ふぅ―――まあいいでしょう・・・。
今、気にすべきところはそこではありません。
蓮:す―――すまねぇ・・・
市:あなたは・・・このクエストを遂行するにあたり、“何者か”に阻まれていますね?
それも“同じ人物”に・・・
蓮:そ、そうなんだ! しかもそいつ―――
市:ならばなぜそのことを報告しないのですか!
全く・・・「報」「連」「相」は、組織に於いては必須でしょうに・・・。
図らずも―――知られてしまっていた・・・
「同じ人物」による、「妨害」とも思える行為・・・
ならばなぜ、「ホスト」である自分に報告しなかったのか・・・
けれど当初蓮也にしても、「こんなことを報告しなくても」と思っていた節もあり、事実そうしなかったのですが―――・・・
そこでようやく、蓮也は今回のことを話してみることにしたのです。
市:―――えっ?
蓮:本当なんだ! なんでもそいつの言うのには、このオレのことを「見込んで」いるらしくってなぁ。
市:(・・・どういう事? まさかとは思うけれど、「新規狩り」ではない・・・としたら・・・)
蓮:おい? お嬢―――?
市:その“呼び方”は「止めなさい」―――と、何度も・・・!
蓮:あ、あっ―――いや、けど・・・
市:あなた・・・その「女傭兵」なんと言いましたか。
自分が誘った「新人」が言う―――彼を阻むかのように立ち塞がる「熟練」プレイヤーが、「新人」“如き”に放った言葉を・・・
それは、「新規狩り」を心底愉しむ―――と言った様な、“外道”の性根ではなく、
紛れもなくその「熟練」プレイヤーが、一人の「新人」を『認めた』という証し・・・
しかしそれは、蓮也を誘った、「ホスト」の市子にしてみれば、心穏やかならざる話しでもあったのです。
言うならくの“それ”は―――「ヘッド・ハンティング」「スカウト」・・・
市子にしてみたら、蓮也は、「配下」のようなもの・・・
彼を、横取りされては適わない―――だからこそ、心穏やかならずにいたのです。
そしてこれは―――・・・
その“話し”は、その話し如きで終わっていれば、何のことはない―――
「終わらなかった」からこそ、彼らを取り巻く環境も一変してくる・・・
それは、その熟練プレイヤーの「名」と、彼ら二人以外、その話し合いを聞いていた、「プレイヤー」によって・・・
つづく
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