地域の剣道大会当日―――女子団体戦に於いて、青柳柊子が「部長」を務める、

「白鳳学園女子剣道部」は順当に勝ち上がり、「決勝戦」まで残りました。

 

そして―――・・・「だから」なのか、それとも「やはり」なのか・・・

そこに立ちはだかる大きな存在が・・・

 

自分達が通う「白鳳学園」永遠の“ライバル”「雷鳳学園」・・・

 

これまで自分達が、部活の存続を願い、寸暇を惜しんでの鍛錬に励んできたというのに―――・・・

それらを(もろ)くも崩す、強大な“敵”―――

 

厳しい現実だけを伝えるなら、そこには圧倒的な差―――0勝4敗の無情な結末が・・・

 

そう・・・ここに柊子達の願いは、(もろ)くも崩れ去ってしまったのです。

 

これでは“実績”が残せない―――「実績を残す」というのは、今大会に於いて「優勝」しなくてはならない・・・

柊子は―――白鳳学園理事長である、細川市子の祖父より、そのように言いつかされてしました。

 

「お前達の部活の存続を願うならば、実績で示し、見せてみよ。」

 

“実績”―――「優勝」ができなかった・・・

所詮は、淡くも(はかな)い“夢物語”・・・の、ようなものだったのだ―――

無惨にも強敵に希望を打ち砕かれ、涙する部員達―――

 

けれど―――

 

なぜかそこに、一人だけ落ち着きを払った存在が・・・

 

これまでの対戦成績は全敗―――「安パイ」と言われたこの構成でも、完膚なきまでに叩きのめされ、

見事なまでに敗北を喫し・・・それは、敢えて副将に収まった柊子でさえも―――

 

もう・・・自分達には希望すらない―――

なのになぜ―――・・・

こんなにも絶望的な立場に追い込まれているというのに―――

あなたはどうして、落ち着き払えているの―――?

 

そこには―――“不名誉”とさえ言われている「捨ての大将」として据え置かれ、

だとしても、きちんとした居住まい・・・あるべくしての姿勢を崩そうともしない「捨ての大将」の姿が・・・

 

けれどそれは、まさしくの―――これから始まらんとする“異変”の「(さき)触れ」でもあったのです。

 

 

 

#10;疑惑の決勝戦

 

 

 

そして“こちら”は―――・・・

この「大会場(たいかいじょう)」の最上層にて、今までの事の推移を見守っている(ふた)の存在が・・・

その一方は、“あの”松元璃莉霞の「師匠」でもある―――神薙麗華・・・なのですが、

ならば、このもう一方の―――?

 

 

麗:ヤレヤレ―――おどれに助太刀を()うたんが間違いじゃったか・・・

  こりゃあ〜ドえらい高利の利息―――じゃわいのう。

誰?:フッ・・・まあそんなに怒るな―――

  余とて同胞(はらから)の弟子から()われては、無下にもできぬ―――と、いうもの。

 

麗:(ケッ!)おちょくるなら止めとけや―――

  それに、()るべき舞台は整うた、さっさと済ませや。

誰?:ククク―――言われずとも、そうさせて頂く・・・

 

 

この(ふた)の存在の会話こそが“始まり”でした―――

そう・・・今の今までの試合は、「前座」でしかなかった・・・

“そう”思えるくらいの―――

 

そして、感じ行く―――“現実”が、現実ではなくなる“瞬間”・・・“仮想”が、仮想ではなくなる“瞬間”・・・

「彼」が組んだ『術式』で、その場は一変するのでした・・・。

 

 

大:余の術式『裏面式』の発動と解放を、余の種族「ヴァンパイア」のマスターである「大公爵」・・・

  (すなわ)ち余自らが承認する―――

裏面伍拾式;アナザー・ディメンション

 

 

「ヴァンパイア」・・・そう確かに言った―――

「彼」は、紛れることもなく、また間違えることもなく、“そう”言ったのです。

 

“これ”が酔狂の類ではなく、「本心」から―――?

 

そして、“こう”も言ったのです―――『「ヴァンパイア」の「マスター」』だ・・・と?

 

そう―――「彼」こそは、ある種族の(マスター)・・・またの名を「大公爵」・・・

さらに言う―――「現実」としては、あろうはずもない『裏面式』なる“術式”の行使と解放を??

 

果たして“これ”は、「現実」のものか―――はたまたは「仮想」のものなのか・・・

けれど、“我々”は認知せざるを得ない―――

「大公爵」が行使した“術式”によって、変貌(へんぼう)()げてしまった「現実世界」を―――!!

 

しかして“それ”は会場全体に蔓延(はびこ)り、来場していた観客をも呑み込んだ―――??

 

けれど、“これから先”の事を、“観る”ことを許された者にしか、この効果は波及しない・・・

そう―――「観る事を許された」・・・

そこには、ある意味としての、「招待状」を渡された者のみが「観戦」を許された、

現実の時間軸から切り離された“場”が用意されていたのです。

 

そして―――この「観る事を許された」者の(なか)には・・・

 

 

市:(こっ―――これは?? 昨日・・・何者かからの不可解なメールが届いていましたから、開けるために触ってみたら・・・

  触れた途端なくなってしまった・・・これは何かの偶然なの?)

 

 

市子は、昨日ログインした際、何者かから届いていたメールを読もうとしましたが、

アイコンに触れた途端に霧散してしまった・・・

あれから特段として可笑しな事は起きませんでしたが、日を改めた今日―――こんな出来事に巻き込まれるなんて・・・

 

それは、同じくこの会場にいた清秀もそうでした―――が、

その一方の“こちら”は・・・

 

 

し:すっごいですよね―――コレってアレですよね?☆

  ほら〜・・・“あっち”の世界の〜〜〜「ヴァンパイア」って言う種族が得意としてる〜〜――

た:フ・・・まあの―――それにしても、心憎い演出をするものよなぁ。

  さすがは「大公爵」といったところのようじゃの。

 

 

こちらの二人は、しかしこの出来事を理解していたのです。

それもそのはず、この二人・・・『加東しの』と『生稲たまこ』こそは、かの“ゲーム”のプレイヤーでもあったのですから。

 

そして、この『生稲たまこ』は、ある“役目”でもあるため、この大会場に来場をしていた・・・

では、その“役目”とは一体―――?

 

それよりも注目するべきは、当事者同士が剣を交らせる為に・・・と、立ち上がったその時―――

 

 

柊:璃莉―――・・・

  (えっ??!)こっ・・・これは―――何??

 

 

もう・・・団体戦としての勝敗は決しているというのに、勝負の檀上へと立ち上がろうとする者に、

柊子はその人物の名を呼びかけようとしました・・・

 

その、呼びかけよう―――と、した刹那、

なにかの“異変”を感じた・・・

 

まるで、“ここ”だけが、現実の時間軸から切り離されたような感覚・・・

現実世界が一瞬にして闇色に染まり、あれだけ湧いていた歓声も―――観客席にいる観客や、隣にいるはずの部員達も・・・

いなくなってしまった―――?

 

いえ・・・目を凝らすと、“いる”ことは、いるようには見える―――だけれども・・・

どこか違う―――姿形(すがたかたち)こそはいつも見慣れたもののようには感じるけれども・・・

どこか録画の静止画を見ているかのような感覚―――

 

・・・と、それよりも、柊子や市子がそんなことに気を取られていた間―――

以前感じたことのある“殺気(モノ)”を、また再び感じた・・・

 

けれど“ここ”は現実世界―――のはず・・・

なのにどうして、“あの時”・・・仮想世界であるゲームの(なか)で感じたことのある“殺気(モノ)”を、

「ある存在」から感じられるようになった・・・?

 

その疑問を、当事者に訪ねようとする柊子なのでしたが―――・・・

 

 

柊:璃莉―――霞・・・? あな・・・それ―――・・・

 

 

けれど無情にも、彼方からの返事は、一切なかった・・・

(おぞ)ましい限りの“殺気”を全身に(みなぎ)らせ、相手を斬り殺さん―――と、しようとしている同級生に疑いの目を向けるのでしたが、

そこで柊子は、また有り得ない光景を目の当たりとしてしまっていたのです。

 

それもそのはず―――捨ての大将の相手方でもある、雷鳳学園の大将までもが・・・?

 

 

柊:(どっ―――どういうことなの? 璃莉霞だけでなく、橋川さんまで・・・?!!)

 

 

普通の人間なら、強烈な気に(あた)っては、やるべきことが出来ない―――

それは、柊子や市子が証明しているようなものでした。

 

なのに―――雷鳳の大将である橋川小夜子が、動けているのは・・・なぜ

()じることなく歩を進め、璃莉霞と対峙しようとしているのは・・・なぜ

そして璃莉霞と同じ“殺気(モノ)”を漂わせているのは・・・なぜ???

 

その数々の疑問は、物を語らずとも、これから二人が証明をしてくれる―――

 

片や―――「殺人剣の伝承者」として・・・

片や―――「ある種族の立場有る者」として・・・

 

 

小:ン〜〜〜フッフッフ―――♪

  いやいや―――ついつい嬉しくなっちまうもんだよねえ〜♪

  だってそうだろう―――私ら“そう言う意味”で「イイ子ちゃん」してなくちゃならなかったんだからさあ〜。

  これでも・・・感謝してるんだぜ―――?

 

璃:・・・―――。

 

小:オヤオヤ、あんたはこれでも「イイ子ちゃん」ぶろう・・・って魂胆かい?w

 

 

「橋川小夜子」―――市子や清秀、柊子や璃莉霞達と同じ地域に住まう、

その地域での有力な家柄の一つ・・・「橋川家」に生を受け、

市子と同じく「お嬢様泰然」とした暮らしをしてきた存在・・・

 

事実小夜子は、雷鳳では「お嬢様」らしく振る舞い、言葉遣いも柔らかいモノ・・・だった、のに―――

「大公爵」による術式解放のお陰もあるからか・・・

いつも“隠し”“抑えて”いたものが払われたからか・・・

少しばかり不適切なモノへと変わっていた―――・・・

 

それに小夜子は、やはり“そう”であるかのように、この“殺し合いの場(舞台)”に上がるのを許された存在でもあった・・・

 

それは、これからの璃莉霞の言葉に集約されていたのです。

 

 

 

つづく