海外でも屈指の実業家との会食を終わらせた翌日―――
やはり市子の周りには、それなりの盛り上がりがありました。
取り分けて、同じ高校に通う、同級生の男子からは―――
清:なあ、市子さんよ―――うちのお袋も驚いてたけど、今来日してる実業家・・・ってのと・・・
市:そうですよ、それにあなたの家だけではありません。
橋川様や千極様にもご推挙させていただいたのです。
もう今の市子には迷いと言うモノが・・・また、それに伴う自信の無さと言うモノはありませんでした。
けれど、この“きっかけ”で驚くほどの成長を果たし、信友が知ってくれれば、さぞかしそれは市子にとって誇らしい事に違いはなかったのです。
ですが・・・市子の信友である征木璃莉霞は、その場にはいなかったのです。
それはそれで少し寂しいものでしたが、その寂しさが引き換えになるくらい嬉しくなることがあった・・・
それは、ようやくにして想い人に、認めてもらえたこと―――
それに市子も、この“きっかけ”を基に、彼らの中でのリーダー・シップを執るようになるのですが・・・
それはまた、別の話し―――
それとあと、気がかりだったのは、市子自身も友人の一人と思っていた者・・・
この人物からの反応がなかったことに、市子は疑問を感じていたのです。
なぜ・・・橋川さんからの―――
もしかすると、私のしたこととは、余計だったのでしょうか・・・?
市子は、その性分故に、過ぎる心配をする嫌いがありました。
・・・が―――
実は、小夜子に関してはそうではなく・・・
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#101;現実と仮想“紙一重”
あの、細川とロックフェラーの会食後、出回った“怪文書”―――
それがなぜか、橋川家にも届けられており・・・
小:(チ・・・)やはり見間違いじゃなかったか―――
KAIN・・・なんのつもりで入国って来たかは知らないが、こちらも“一族”の沽券がかかってるもんでねぇ・・・。
当家のご令嬢である橋川小夜子―――
その彼女のスマフォに、“彼”からのものと思われる、一つの不敵すぎるメール・・・
いや、この表現では些か生温い―――
これこそは、「予告状」―――にして、「挑戦状」・・・
それも、小夜子の家である“橋川家”・・・にではなく、まさしくの“彼女”が所属する、ある種属の“一族”に対しての宣戦布告・・・
それに、小夜子の認識として間違いがなかったのは、例のホテルにて見かけた者こそが、“とある目的”を持って入国をしてきたという事実・・・
それを示すかのように、立て続けに起こった、「決して知られてはならない物件」の、盗難事件・・・
小夜子は―――いや・・・『サヤ』は感じていました。
その数件も、自分が保有している「決して奪われてはならない物件」を盗み出す為の、ウオーミング・アップだった・・・と、言う事を。
そう・・・KAINこと、カイン=ロックフェラーは、市子との会食の後、明らかに意図的に橋川家のみには、主旨の違うメールを送っていたのです。
つまりは、小夜子にしてみても友人の様に思っている市子のしたことに関しては、評価はしたかった・・・
けれど、今はそれどころではなくなったのです。
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そして・・・決行の日となったAM3:00・・・
草も―――木も―――眠ると言われている夜半・・・
侵入を開始した者は―――
K:フ・フン―――不用心だぜぇ? お嬢さん・・・
サ:(・・・)何をしに来た―――
K:(・・・)“お宝”を、頂戴しに来たぜ―――
サ:フン・・・何のことやら―――
K:それにしても驚いたもんだぜ。
なんせこの家にゃ、防犯システムってモノは―――
サ:必要ないからな―――
K:(・・・)じゃ―――あんた自身が、“防犯セキュリティ”・・・て、事でいいのかな―――『子爵』。
そう言うなり、彼方から剣閃が迸る―――
しかし、その剣閃が斬り裂いたのは・・・
サ:(チ・・・)立体映像―――こんなチンケな手にかかるようじゃあ、この私もまだまだ・・・ってとこだね。
K:冗談キッツいぜえ―――
そう言うあんたが、オイラの背後に回ってるの―――どう説明する。
サ:フ・ン・・・あんたも、白昼堂々は仕事はやりにくいだろ。
だが、この時間にご来訪とは―――大した余裕っぷりだねえ。
知らないわけじゃあないんだろ―――私ら、“闇の眷属”が能力を発揮する時間帯の事を・・・
K:知らないわけじゃあないサ。
ただ・・・難関突破してありつけた“お宝”は、何者にも代えがたいモノになるからねぇ・・・。
暗キ闇の淵でも、煌々と光る「子爵」の琥珀の瞳・・・
この橋川家には、防犯のためのセキュリティは必要ない―――
この・・・闇の帳に閉ざされた空間こそは、「子爵」サヤの固有領域なのだから・・・
けれどサヤは、KAINを誘った・・・
明らかなる、「予告状」に「挑戦状」を叩きつけ―――られたにも拘らず・・・
何故かサヤは、わざわざ“彼”を招き入れた―――
サ:“一つ”だけ質問をする―――間違えれば、“ナシ”だ・・・
K:そいつは、オイラの命も―――ってことなのかい?
サ:ああ、そう言う事だ―――
お前はなぜ、私が保有しているモノを欲しがる・・・
K:単純な事だと思うぜ? 泥棒が狙うのは、“お宝”・・・だからさ。
サ:“それ”では答えになっていない―――話せ・・・総てを、包み隠さず・・・
参ったもんだねえ〜〜奴さん、聞いていた以上に“本物”だ・・・。
かの伝奇小説のように、他人の血を喰らい、生き続けてきたという正真正銘の・・・本物の“吸血鬼”だ―――
珍しくもKAINは息を呑む・・・こんな緊張は、いつ以来だろうか―――
差し向っている、少女の形をしている者から発せられる、圧倒的な気に圧され、終にKAINは・・・
K:“依頼”・・・が、あったからさ―――
サ:“依頼”? 誰からの―――
K:そいつぁ―――教えるわけにゃいかないなあ・・・
サ:依頼人との義理―――とでも言いたいのか・・・?
判らんもんだねえ―――・・・
最終的な手段―――これは、余程に切羽詰まった状況以外には、使うまい・・・と、思っていたのでしたが、
今自分の前に立ちはだかるセキュリティを突破する為には、ここしかない―――と感じたKAINは、
それでも依頼人の名まで明かしはしませんでしたが・・・
サ:ク・ク・ク―――ハ・ハ・ハ―――ハハハハ!
K:(?!)
サ:あんた―――この私が、何も知らないおバカさんかなにかと、思ってやしないか?
K:どう言う事だ―――?
サ:フン―――この後、鬼姫・・・いや、大悪魔ジィルガに伝えときな。
「回りくどい事をするな、欲しけりゃ手前ェで来い」―――って、な。
先刻承知―――とでも言う様に、今回KAINが訪日をした“きっかけ”を作った、ある人物の名指しがあった・・・
そのことにKAINも、一瞬“ハッ!”とし、たじろいだモノだったのですが・・・
そう―――そもそもの原因は、あの“鬼姫”からの依頼があったからなのです。
とは言え―――・・・
K:なぜ―――・・・
サ:うん?
K:なぜ―――オイラの依頼人の事を、知ってんだ?
サ:お前・・・依頼された相手の事を、よく知らないまま受けたのか?
K:いや・・・? まあ―――一応、情報屋にはリサーチかけたけど?
KAINにしてみれば、なぜ子爵・・・サヤが、自分に盗みの依頼をしてきた人物の事が判ったのか、不思議ではありましたか・・・
いや、そもそも・・・KAINもその人物の“通り名”―――「鬼姫」の事は知ってはいましたが、それを「大悪魔」だとは・・・
すると、子爵の口からは―――・・・
サ:足らんよ、それだけじゃ―――多寡だか、こっちの次元の情報だけじゃ、ヤツの事を知るには程遠い・・・
いいか、良く聴け―――こいつは“大サービス”だ。
ヤツこそは、私らの次元じゃ、名の知れた「大悪魔」なのさ・・・
「大悪魔」・・・だ、と?
一体どうなってやがる―――・・・
正真正銘の吸血鬼がいるかと思えば、今度は大悪魔??
信じられない・・・現実世界での“そう言った存在達”は、総て創作の産物・・・と、そう思っていたのに。
それがいつしか、現実と仮想の“境目”が、判らなくなるまでになってしまった―――?
―――いや・・・なくなってしまった?
それはいつの頃から・・・?
しかし、思い起こせば、なくはない話し―――
一説には、エンターテイメント性の高い「映画」等は、よくその時々の世相を反映させているのだとか・・・?
そう言えば、ここ最近のSF物を鑑賞していた時に感じていた、「出来過ぎ」感・・・
全体を通して鑑賞ば、まさしくのエンターテイメントのフィクションと言えたモノが、
その所々で隠されている、意味深な“ロジック”・・・
これは、今の安穏としている我々への警鐘なのか―――と、思えるほどの・・・
だか―――真に驚くべきなのは・・・
その者、子爵が自分の肚を割り、そこから出てきた“モノ”・・・
子爵自身が、保管していた“モノ”・・・
それこそはまさしく―――の、「宝」だったのです。
つづく