#102;睡眠(まどろみ)より覚醒(めざめ)し頃

 

 

 

深い睡眠(まどろみ)より覚醒(めざ)めた―――此岸(こちら)とはまた彼岸(あちら)世界知り得事・・・

彼岸(あちら)にいたもう一人自分、その世界でのつの種属事実上トップ―――

ではあるものの、孤独にして孤高―――まるでかつての自分の有り様を見せつけられているかのようだった・・・。

 

そう・・・“かつて”は自分もそうだった―――

仲の良い友人もいなければ、相談する相手もいない―――だからこそ現実世界から目を背け、“ゲーム”と言う仮想世界にのめり込んだのです。

 

なにより、“仮想”と言うのは、一個人を特定できるようなものはなく、総てが“匿名”“秘匿性”の強いものであっただけに、

現実世界では出来ないような振る舞いが出来ていたのです。

 

だからこそリリアは、仮想世界では“最強”でいられた―――

なにしろリリアは“その気”になれば、人を殺められる(すべ)心得ていたですから。

 

 

なのに―――・・・一変してしまった環境・・・

自分に与えられた『因縁の宿敵』に敗れ北った(やぶれさった)により、唯一取り柄としてきたことまわれてしまった気分ったものでした。

 

そして、これからどうしようか―――と、思っていた矢先の出来事・・・

 

 

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いまだ行方不明の、自分の母の知り合い―――だと称する一人の人物・・・

暗闇色のゴシック・ロリータ調のドレス、銀雪色の縦ロールの美少女である、()()―――

 

 

 

ミ:(ナレ)リリア―――だな。

 

リ:ああ、そうですけど? 誰・・・あんた。

 

ミ:ワレは(ナレ)よく者。

 

リ:(!)母様の? 母様がどこにいるのか・・・

 

ミ:そう騒ぐな、(わめ)くなるな

  (ナレ)いかなる困難苦難・艱難を冷静だった

  それよりどうだね、己の自信を打ち砕かれた感想は。

 

リ:(・・・)最悪ですよ―――私は、この世界では一番だ・・・そう思ってたのに。

  それに―――一番に信じていた人からも裏切られて・・・正直もう、「どうでもいいや」・・・そう思いましたよ。

 

ミ:(・・・)フッ―――ならば話しは簡単だ。

  諦めて、その母より給わったキャラクターを“デリート”してしまえばよい。

  だが・・・(ナレ)逡巡をしておる―――うかね

 

 

 

それが、ミリティアとリリア―――最初の邂逅でした。

とは言え、初対面のはず・・・だったのに、向うは自分の事を事前に好く調べていたものとみえ、

次々と明らかにしてくる事実を前に、リリアも次第に耳を傾けたものだったのです。

 

それにそう―――この時のミリティアの言う様に、この苦しみから逃げられる簡単な方法・・・

「キャラクターのデリート」・・・これが、その当時抱えていた悩みを解決するのに、最も手っ取り早い方法・・・なのではありましたが―――

征木璃莉霞が、その母征木阿重霞から受け継いだ・・・今となっては忘れ形見のようなモノに、愛着さえ湧いていた・・・

また同時に、そう言ったモノを軽々と消そうものなら、唯一母と繋がっているモノも消えてなくなりそうだと思ってしまった・・・

リリアの逡巡は、まさにそこのところにあったのです。

 

するとミリティアは、そうしたリリアの悩みを、既に分かっていたかのように・・・

 

 

 

ミ:(ナレ)諦めぬと言うのなら、ワレから一つの案を提じよう。

  まず、(ナレ)近にれ、上辺ではないれるを。

  そして4人の仲間にて“シベリア・サーバー・エリア”を(おとな)がよい

 

 

 

いきなり会って、いきなり無茶ブリしてくる人もいたものだ・・・

 

リリアの、ミリティアの最初の印象とはそんなものでした。

第一に仮想の世界のフレンドなんて、所詮は上辺が目的・・・互いを「信頼し合って」なんて―――

そんな顔真っ赤になるような恥ずかしい奴なんて、これまでにも見てきた事がない・・・

それに、このミリティアが言っていた“シベリア・サーバー・エリア”・・・

そのミリティアの自己紹介を見てみると、出身は“モスクワ・サーバー・エリア”・・・

以前市子が指摘していたように、この両サーバー・エリアは対立状態にあり、

その一方からの依頼に、リリアも思う処と成ったのですが・・・

その事以上に、自分が奪われてしまったモノを取り戻せることが出来ると言うならば・・・と、思い、受ける事にして―――

そして“現在”がある・・・

思えば色々と会った―――「因縁の宿敵」と言う強敵を打破、そしてかつて師と慕った人も討ち果たした・・・

それからは、自分が心から“信”じられる“友”も、数を増やしていき・・・

 

そして―――・・・

 

 

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その日璃莉霞は、普段通りの日常を過ごして、いつものようにログ・インするのですが・・・

 

 

 

リ:市子―――ちょっと話がある、一緒に来てもらえないかな。

 

市:えっ? ええ―――・・・

 

 

 

“友”からの誘いに、市子は嬉しくもありましたが、どこかこう・・・いつもとは雰囲気が違う―――

その事に市子は気付きました。

 

それに、“いつも”の服装とは違う・・・“いつも”ならば、軽装で肩当やガントレットにひざ当てくらいしか防具は装備しない―――

それに動きやすさ重視でスカートの丈も短めなのに・・・

 

その時の出で立ちは、まるで違う―――まるでどこかの・・・?

 

そんな市子の思いとは裏腹に、リリアと一緒に行動をしていくと、次には―――

 

 

 

リ:プリンさん、ちょっといいかな―――

 

プ:えっ? いいけど・・・どうしたの?

 

リ:うん、ちょっとね―――

 

 

 

同じクランに所属し、リリアもフアンだという経緯もあるプリン―――そんな人も伴って、どうしようと言うのだろう・・・

 

 

市子は―――知らない・・・このゲームの、“真”の成り立ちを・・・

 

それは、リリアからのこの一言から始まったのでした。

 

 

 

リ:そう言えばさあ―――2人て、このゲームのβテストって、したことある?

 

市:えっ? いえ―――・・・私は・・・

 

リ:そう―――プリンさんは?

 

プ:―――・・・。

 

市:(えっ?)

 

リ:どうしたの・・・プリンさん、βテスト―――・・・

 

 

 

普通に第三者が、この三人の会話を見ていた・・・聞いていた()()なら、なんのことはない・・・

普通にして一般的なリリアの質問―――「ゲームのβテストを、したか・・・していないか」・・・

もちろん市子は、サービス開始から随分と間があってからのプレイ開始でしたから、βテストがどんなものかは知りませんでした。

だから、プリンも、「その答え」で充分だったのです。

 

けれど、答えを、すぐには返さなかった・・・

 

そうかと思えば―――

 

 

 

プ:このゲームのβテスト・・・それは、ある王国での出来事が、ストーリーとして描かれていたはず・・・

 

 

 

その昔―――ニンゲンと魔族は、互いに無益な戦争ばかりを繰り返していました。

それを、新しく立ったニンゲンの王が、こんな無益な戦争をいつまでも続けることの是非を、

国中の兵達に呼びかけ、魔王率いる魔族軍との最終決戦に臨み、そして勝利を得ました。

けれど、ニンゲンの王は程なくして亡くなり、魔族にはまた新たな魔王が立ちました・・・。

 

あなたは、このゲームをプレイする一人の戦士として、王の遺志を継ぎ対立する魔王と決着をつけなければなりません。

 

さあ・・・今こそその手に剣を取り、この世界へと羽ばたいて征くのです。

 

 

プリンが、βテストを受けたかどうかは定かではありませんでしたが。

市子は、プリンが説明した、このゲームを始める時に流れたストーリーの導入部を思い出していました。

 

 

確かに―――そうだった・・・

確かに、このゲームの進行上でのストーリーはそうだった・・・

けれど―――それを? なぜ今になって・・・

 

 

もう、この頃になると、また新たにキャラクター・クリエイションなどして、サブ・アカウントを作らないでいる限りは、

ストーリー・モードとしてのクエストは総て終えている・・・なのに、ここに来てのストーリー導入を臭わせると言うのは??

 

市子が、その時に感じたのは違和―――ですが・・・

 

 

 

リ:(・・・)そうだな―――そうだった・・・すっかりと忘れていたよ。

  なにせ私は、サービスの開始当初から、始めていたものな・・・

 

――――だから・・・すっかりと忘れていたよ、孤独な王の事を・・・

 

 

そのリリアからのセリフを聞いた時、瞬時に市子は判ってしまいました・・・

 

 

そう言う事なの―――? この人は・・・私の信友は、何かを思い出した??

けれど、一体何を・・・?

 

 

 

リ:その事を知るため、私はこれからある人を訪ねるよ。

  2人とも、付いてきてくれるね。

 

 

 

市子はまだこの時、リリアが何をしようとしていたのかは判りませんでした。

 

今日も普段通りに学校生活を終え、何気なく一日が終わるはずだったのに・・・

それに、なぜリリアがプリンを誘ったのか・・・その理由も不明のまま―――

 

しかしこれから先、リリア達が訪れた処で、衝撃的な事実が明かされていくのです。

 

 

 

つづく