#104-1-②;サトゥルヌス中盤戦
宙空より描かれたる炎の魔法陣より出で来たるのは、リリア達も良く知る“少女”の姿ではない―――
その身を近未来的な鎧で身を固め、その槍の刀身部分には焔の揺らめきそのもの・・・
供には“ファイア・ドレイク”を引き連れた「竜の麗人」―――その名こそ。
サトゥ:エリヤ=プレイズ=アトーカシャ!
エリ:久しぶりね、サトゥルヌス・・・。
我が友が苦戦しているとの一報を聞き及んだのでね・・・
それに、これ程の闘争を私に“おあずけ”を喰わせるなんて、ない話し・・・でしょう?
サトゥ:ぬぐ・・・くくく―――まさかお前が参戦するとは!
エリ:さあ、我が僕『ゲイフォルグ』よ、心ゆくまであの狂獣の相手をしてやれ―――!
サトゥ:おのれぇ・・・あと少しの処で―――罰を与えてくれる!
≪フィーンディッシュ・シェイヴ≫
エリ:フッ―――小手先が! 私にも通用するものと思うな!!
≪火力顕現;クリムゾン・ノート≫
恐らくは、焔帝一人だけでも事足りただろう・・・そう思えるほどの実力と実力の交差。
思えば、自分達がエリヤの居住である『焔竜の祠』を攻略―――相対峙した時でも、ここまでの技の披露はなかった・・・
これが―――この方の真の実力・・・
市子はようやく覚りました。
所詮自分達が死力を尽くそうとも、この方々には敵わないのだと。
しかし、そうした市子の不安を拭うかのように・・・
ジョ:大丈夫だよ―――市子・・・私達は、そんな風には思っていない・・・。
第一君達は、この私を打倒できたじゃないか・・・だから自信を持って―――
リ:そうだよ、市子。
自分に自信を持つ―――そう言い聞かせてたじゃない。
市:そうでしたね・・・私としたことが。
ならば今は、私の為し得る総ての事を注ぎ込みます!
いい意識―――それを良い方向に転換できたものだ・・・。
だが、まだ足らない―――君達が死力を尽くすべきは、まさに“これから”なのだからね・・・
かつては“一”だった存在の意義を自ら分割った者は、成長著しき者達をその双眸に焼き付けるも、
まだ更なる「その先」を嘱望したのです。
なぜなら・・・現時点での彼らの実力を以てしても、“一日”を生き延びれるかどうか・・・
それ程苛烈な“彼岸”―――だからこそ・・・
サトゥ:フン―――手抜かりはせん
≪アンディレイション≫
失道者が“それ”を唱えた途端、空間が歪み―――毒や凍結、麻痺などのバッド・ステータスが付与され・・・
そして―――
サトゥ:
〔汝 その諷意なる封印の中で―――
ジョ:くっ・・・ここに来てその呪文! ならば―――
《転化;万古幡》
サトゥ:
―――安息を得るだろう 永遠に 儚く〕
〔セレスティアル・スター〕
容赦なく、PT全体を襲い来る光の柱・・・
いつぞかは竜のキャスターだったスターシアが、敵対する者に放っていた光属性究極の魔術・・・
それを、今回は敵対する者から見舞われるとは―――
けれども、こちらもジョカリーヌの定番ともなっている、重力場を形成しての回避・・・
ここでどうにか凌げはしたのでしたが・・・
サトゥ:フフフフ・・・かかったな? その封術―――再び使うには時間を置かずにはおられまい!
ジョ:くっ―――・・・
サトゥ:これで仕舞いにするとしよう―――
≪エーテル・ストライク≫
そう・・・ジョカリーヌが行使する封術は、高性能ではあるのですが・・・こうした高性能な術式の反復作用として考えておかなければならないのは、
「再使用時間」・・・
ジョカリーヌも、その事は判っていました・・・判ってはいましたが、そこで行使しなければ全滅は必至・・・
だから、使わざるを得なかった―――
こうした行動原理を理解した上で、更なる大技を用意していたなら・・・
そしてここに、進退窮まるか―――そう思っていたら。
エリ:フン―――何を焦っている?サトゥルヌス・・・。
この私がいると言うのに、少しばかり決着を急ぎ過ぎてはいないか?
それとも・・・舐めているのか、この焔帝を!
《エクステンション・フォース》
ジョ:(よし・・・ここだ!)キャスター全員は、火属性魔術を集中して対象へ!
ギ:おうっ―――≪ファイアー・ランス≫
市:≪火尖槍≫
プリ:<廻る輪唱>
するとここに来て、焔帝エリヤが自身に対しての火属性付与の段階を上げる特殊スキルを行使させると、
ジョカリーヌもその特殊スキルの性質が判っていた為、指示によりキャスター全員に火属性のみの攻撃魔術の集中砲火―――
更にはバードのプリンによる『輪唱』スキルにより、付け入るスキを与えずに重複させた・・・
そしてジョカリーヌは―――
セシ:(片目を・・・つむった?!)
ヘ:(フフフン・・・なるほど)“アレ”がくるね?
セシ:“アレ”・・・?
プレ:ヘレナ―――貴様・・・何を知っている!
ヘ:ぼやぼやしてるんじゃないよ―――“坊や”に“フロイライン”。
死にたくなけりゃ・・・回復魔術のセット・アップくらいしとくもんさね。
ブ:な・・・何がこれから起ころうと言うのです?!
ヘ:はははは―――焔帝サマも仰っていただろう? 勝ちを急ぎ過ぎたのさ・・・サトゥルヌスは。
あの“戦場の属性変動”さえなければ・・・こうはならなかったものをねえ!!
今現在の戦場の属性は―――『混沌にして悪』・・・
この属性が齎せる効果とは、“混沌”と“悪”の活性化―――それは、サトゥルヌス自身への指向性もそうなのですが、
もう一つには魔術効果の底上げ・・・
つまり今―――ギルバートに市子が詠唱した火属性の魔術は、おりからの焔帝の特殊スキルによって、
本来の効果より2乗―――更には・・・
ブ:(くっ?!)この場所・・・なんだか、戦端時より熱くなっていません?
ヘ:そりゃあ当然だろう―――? 焔帝サマは、“コレ”を見越した上で、あの特殊スキルを発動させたのさ・・・
この密閉された空間で、200℃近い高熱の術を連発してご覧よ・・・その結果、どうなるか―――
セシ:あああっ―――!!
ヘ:ククク―――見物だよ♪ 久々に見られるんだからねぇ・・・
プレ:ヘレナ・・・貴様、一体どちらの―――
ヘ:焔帝エリヤは、あんた達の事なんか“これっぽっち”も考えてやしない・・・
なにしろあの人の頭の中は、常に闘争の事しかないからねえ?w
それに気付かないのかい? ただでさえ少ないあんた達のHPが削られてきているのを・・・
セシ:そ―――そんなバカな?! 焔帝様は我々の事を・・・
ヘ:おめでたい奴もいたもんだ・・・エリヤは言っていただろう? 『我が友が苦戦している』と聞き及んで、
こちらが呼びもしないのに戦場往来を果たしている事を!!
公爵のその言により、あの時の状況を反芻させ、愕然としてその場へとへたり込むセシル・・・
そう―――公爵ヘレナが言う様に、焔帝エリヤはこちらが要請してもいないのに、応援にかけつけ・・・
そして今、眼前の敵を滅ぼすためなら、自分達を無視してでも大威力の技を解放しようとしている・・・
ただ―――そんな彼女に声をかけたのは・・・
プリ:セシル―――諦めちゃダメ・・・
セシ:プリン・・・(・・・?)
かつて、同じアイドル・ユニットを組んだ仲間であり、友人―――いや、しかし・・・?
その時セシルは不思議な感覚に陥っていたのです。
この“状況”―――それに・・・友人のこの“表情”・・・?
始めて・・・では、ない?
けれど―――私・・・は・・・
自分は・・・これまでにも、この人物とゲーム内で、協力して戦闘に臨んだことなどなかった・・・
なのに―――? この感覚・・・
自分は―――この人物と・・・数多の戦場を駆けてきた来た・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
セシ:(ハッ!)私は・・・何を―――?
プリ:封印が解けたかね? セシル=グラディウス・・・
セシ:宮廷魔術師殿!? 私は・・・ここは?
プリ:ここは―――“戦場”だよ・・・セシル。
≪ヒール・キュア・ブライト≫セットアップ・・・
セシ:あっ、はい―――!
ふと、何かと繋がったのか・・・と言うように、今までの言動とは著しく異にする者がいました。
かつての、彼岸での記憶が―――人格が呼び起されてしまったか、今は吟遊詩人であるはずの人物を、また違う・・・
それでいて、自身が良く知っていたが如くの存在を嘯く・・・
そして―――・・・
ヘ:フフフ―――すっかりと、あっちゃこっちゃで出来上がり始めたようだ・・・
来るよ・・・かつて、彼岸で“ある一帯”を焦土と化した焔帝の・・・
焔帝の特殊スキル―――またそれによって効果が相乗された火属性の攻撃魔術・・・
だったこれだけで―――戦場は地獄の窯の底の様に成った・・・
そして、公爵自身が語る・・・
その昔、自分達のいた次元で行使された―――行使されてしまった・・・“禁呪”。
それにより、竜の一族と対立していた一つの魔族の軍団の消滅・・・
あの時の状況もそうだった―――・・・
竜の一族の族長が“禁呪”を行使した時も、竜の一族のキャスター達は皆挙って火属性の魔術ばかりを詠唱していた・・・
それによって、戦場は異常なまでの熱さ―――しかも、焔帝の魔力の前に屈し、溶け・・・蒸発して逝く者達・・・
それが敵対する者ばかりか、味方の竜の一族でさえも・・・
その後、その“禁呪”は、こう呼ばれ―――全魔族の畏怖の対象となったのです。
《狂乱の焔》
つづく