焔帝エリヤは、装備しているその武器―――『焔鎗;スカーレット・ブリューナク』を扱う事から、“鎗師”と思われていました。
しかしそう・・・それはそれで間違いではないのですが―――彼女の最大の業が、鎗のものかと言えばそうではなく・・・
エリア最大の業こそが、《狂乱の焔》・・・
宇宙に規定されている「万物の法則」によれば、低温の絶対値は存在する・・・それが『絶対零度』。
あらゆる物質は、この『絶対零度』に達すると、形成している原子・分子は働きを停止させ、やがて崩壊にまで至る・・・
が、しかし―――ならば高熱の絶対数値は??
それは知らぬが華―――ただ、参考までに、岩石の“融点”は・・・
リ:にっ、2万℃!!
ジョ:そう・・・けれどそれも、“目安”の話し―――ご覧、周りの状況を・・・
市:巨大な岩が・・・融けずに蒸発!!?
へ:ハハハ―――愉快・・・全く以て愉快だ!
どうした事だいエリヤ・・・あの時よりも、威力が増してきている様じゃないか!?
エリ:フッ―――そう言うお前は、あの時よりもお喋りが過ぎるようね・・・。
あの時に、つかなかった決着―――ここで着けるとしましょうか?
ヘ:そいつは横紙破りも甚だしい事だ、この私が何のためにここにいるのか・・・知らない訳じゃあるまい?
エリ:それはこの私も同じ事―――『総ての可能性の為に』・・・
この、崇高なる理念の為、私は私の役割を果たすまで!!
ヘ:それでこそだ・・・“強敵”よ―――これが終わったら、また一当て闘ろうじゃないか。
そしてまた・・・お前の麗しき竜の血で、私の咽喉の渇きを潤しておくれ!
エリ:バカな事を言うものね―――この私の血を呑むなんて・・・
この溶岩よりも熱き血潮、呑めるものなら呑んでみるがいいわ!!
この2人・・・本来は仲が好いのか、また悪いのか・・・
ただ、その舌戦の在り様を見るならば、彼女達の事情を知らない者達は呆然とするのですが・・・
しかし、事態がこうなる事を見越していた者からしてみれば・・・
今―――ジョカリーヌの瞑られた片目が開き・・・
ジョ:
《乾坤圏》
プリ:(よしっ―――)ヒーラー全員は、全体回復魔術を発動!
市:(えっ・・・)ですが―――ヘレナ様達は・・・
プリ:心配は無用だよ―――市子・・・
そうだろう? ヘレナ。
ヘ:フフン―――勝手に耄碌されてると思われちゃ適わないかねぇ。
市:―――と、言う事は・・・
ヘ:知れた事―――減った分の体力は“こう”するまでさ!
では・・・見せてあげよう―――真の、ヴァンパイアの闘争と言うものを・・・
ヘレナとサヤの種属は、言うまでもなくヴァンパイア・・・闇の眷属にして、不死の種属。
そして、こう言った者達には回復魔術は不要・・・と言うより、回復魔術は“不死”の属性を持つ者には、攻撃の手段にさえなるのです。
ならば―――?
ヘレナにサヤは、このレイドPTに組み入れられたのか・・・
彼女達以外は“生者”であるがゆえに、“個別”ならまだしも、
現在の状況の様に全体に回復魔術を行使せざるを得ない状況となるには判り切ったハズ・・・なのに?
だが・・・そう―――判り切っているハズならば、味方からの全体回復魔術により自分達がダメージを負ってしまうことなど・・・
既に織り込み済み―――織り込み済み・・・だからこそ、発動される忌まわしきヴァンパイアの外法・・・
ヘ:
≪裏面肆拾玖号解放;ワード・オブ・ペイン≫
その“別称”を『傷みの言葉』と言う・・・しかしてそれは、自らが負ったダメージを、対象に与える―――と言う、“呪術”の一種。
それに、いくらレイド・ボスといえど、HPバーが存在するならば・・・
サトゥ:ぐ・・・ガハッ―――!
リ:(血・・・)血だ―――
市:レイド・ボスにも血が??
ヘ:活きているんだ・・・当たり前だろう!
そして・・・だからこそ私達は活きていられる―――
生血の流るる戦場で、流血莫き闘争なんて茶番にも等しい・・・
故にこそ私達は、飽くなき闘争を―――次の戦争を・・・次の為の戦争を・・・求めて已まないのさ!
“吸血鬼”や“竜”が、他の自分達と一線を画す理由は、ここに知れました。
この方々は・・・一歩間違えれば、私達の敵―――
敵になり得たモノを、ならばどうして―――?
そうした市子の疑問を、こちらの存在が宥めるように・・・
プリ:ああは言っているけれど、それは過ぎる心配―――と言うモノだよ・・・
市:プリンさん―――
ソ:けれど、どうしてそんな事が?
プリ:彼女達も、判っているものさ・・・
彼女達がこれまで培ってきた経験と言うモノが、いかに“下らない”モノだったのか・・・
それに、まだ油断しない方がいい―――この闘争は、まだ終わっていないのだから、ね・・・
その―――プリンからの言葉を受けた時、市子は“ハッ!”とするのでした。
そう言えば・・・今回のレイド・ボスは、「もう一人のこの方」との事でしたが・・・
ならば? ならば―――次の手が判っているのでは・・・
市子とリリアは、この前日に、リリアが感じている事を確かめる為、ある人物・・・
モスクワのエリアマスターであるミリティアの下を訪れていました。
そこで知る事となった、「プリン」「イセリア=ジェノーヴァ」「サトゥルヌス」の同一性・・・
なのに―――プリンは「プリン」として、今回のレイド戦に挑み、「クラン・ナユタ教大司教イセリア」は「サトゥルヌス」として、自分達と敵対すると言う・・・
少しばかり複雑な関係を為していたのです
たからこそ、つい―――・・・
市:ならば・・・この先何が―――
プリ:(・・・)ジョカリーヌ、後を頼む―――
ジョ:(・・・)判りました―――
市:プリンさ―――
リ:市子、よく見ておくんだ・・・
市:リリア? けれど・・・
リ:大丈夫―――大丈夫だから・・・
その言葉が“きっかけ”だったか、意を決したかのような彼方からの言葉に、いくら自分達が言葉を尽くそうとも覆らぬことに、同朋は承わざるを得なかった・・・
そして、自分の事を気遣うかのような声に・・・
満ち足りたよ―――それで十分だ・・・
けれど、君達が死力を尽くすのは、まさにここから―――!
プリ:<システマチック>―――管理者権限を譲渡せよ!
“我が名は聖霊の階位1位、第7天使にして下位の天使を統率する者『権天使』である”!
彼の者が自己を顕示化させたことにより、神聖なる騎士たちの身が固まってしまいました。
そう・・・彼らは、“神”に仕える身―――而して“天使”とは、神の御使い・・・
今までレイド・ボスとして敵対していたサトゥルヌスは次第に実像を薄くさせ、完全に消滅してしまった・・・
代わって戦場に降臨ってきた者こそ、光り輝ける2対4枚の翼を持つ、イメージ通りとしての『天使』そのものだった・・・
権天使:これよりはワレが与える試練―――さあ・・・人間の勇者・英雄達よ、見事ワレを撃破してみせよ!
リ:ブラダマンテ―――セシルさんにプレザンスさん、気をしっかり持って!
私達がやらなければいけない事は、ここにこうしてある―――!
プレ:だっ・・・だが・・・我々は―――
リ:一つ言っておくよ・・・『神もその大義では魔族』。
ブ:けっ―――けれど・・・
リ:出来ない―――って言うなら強制はしない・・・けれどもう、振り向きはしないよ・・・。
これは、私達がやらなければならない事―――ぐすぐずなんてしていられない・・・。
私達が、こうして足踏みをしている間にも、“あの人”は彼岸で孤軍奮闘しているんだ・・・
ギ:リリア―――お前ぇ・・・
ソ:何のことを言っているのですか?
私は知っている―――・・・
この人達の仲間の内でも、一番弱いとされている人が、強大な力を得ながらも、今は“たった一人”で敵に立ち向かっている事を・・・。
私達は、“その人”を救う為に集められた―――『可能性を秘めし者達』・・・
“その人”はこう言っていた・・・『こんなにも無益な戦争は、すぐにでも止めるべきだ』・・・って。
それを掲げてしまったために、味方からも反発をされて“孤立無援”“四面楚歌”の状況の下、長い時間・・・気の遠くなるような時間を堪えてきた・・・
そんな中、“その人”の崇高な理念に賛同したこの人達が此岸へと来て、“その人”を救う手立ての一つとして、このゲームのシステムを構築させ、
私達プレイヤーの知れない処で『可能性』の見極めをしていた・・・
この『四凶』と言うのは、そもそもは私達に秘められた『可能性』―――それを引き出す為のものなのさ!
そこからは・・・まさしくの、そう言った意味での闘争となりました。
市子が―――ギルバートが―――ソフィアが―――ブラダマンテが―――プレザンスが―――セシルが・・・
それぞれの持ちうる総てのスキルを解放し、終に『四凶』の一柱を撃破・・・
そして―――・・・
セシ:プリン・・・北の魔女!
プリ:フフフ・・・見せてもらったよ、君達の本気―――
ああ・・・それにしても、気分がいいものだ―――これで、胸を張って南の魔女に誇れる・・・
ジョ:お疲れ様です―――北の魔女・・・
プリ:ジョカリーヌ・・・西の魔女―――どうやら君に次いで私が逝くようだ・・・
だけど・・・
リ:すぐに帰って来て―――そしてまた、素敵な歌声を聞かせてよ・・・
プリ:フフフッ・・・ああ・・・リリア―――きっ・・・と・・・や・・・く・・・・・そ・・・・・・・
最期の結びの言葉は、そのまま虚空に―――
けれど、きっとまたすぐに戻ってきてくれる・・・そう信じたからこそ、泪は見せなかったのです。
#104−1−3;サトゥルヌス終盤戦
つづく