その映像は、これからあるとされるフィギュアスケート選手権・・・『五大陸選抜選手権』
に備えて構成・演出された特別番組で流れたものでした。
それを偶然目にした璃莉霞は―――
璃:(うわあ・・・凄く綺麗―――)誰だろう・・・て、うわ、「イリス」―――って、名前がちょっとアレだけど・・・
この人のこの演技・・・えっ、ウソ―――14?? 私よりも年下でこの演技?!
璃莉霞も一瞬にして見惚れてしまった、その選手―――イリス=アディエマス・・・の、その演技こそ、
前回の大会で優勝した時に披露されたものでした。
まるで湖上から、一気に大空へと羽ばたいて行かんとする白鳥の様なフォルム―――
そこからの、女子選手の中でも成功例が少なく、最も難度が高いとされている四回転ジャンプを、
(危ういながらも)一発で成功させた―――・・・
満場が歓声で湧く中、その少女は恭しく頭を下げ、リンクを下りる・・・
勝ちを誇って慢心するでもなく、次に控える女王キシリアの演技にも注目する為か、自分の控室に戻ろうとしなかった・・・
続いて演技をする女王も中々のモノ―――でしたが、とある些細なミスが・・・
璃:(あ・・・っ)今―――左足首を捻った・・・?
璃莉霞は武術の心得があるから判った―――
その映像は過去のモノではありましたが、璃莉霞もさして興味を示さなかったため、
こう言った機会がないとフィギュアスケートの番組自体を見たことがありませんでした。
が・・・キシリアがジャンプ着地後のターンの際、僅かによろめいた・・・
それをみて、急激に左足首に負担がかかり、足首を捻ってしまった事を璃莉霞は知ってしまったのです。
だから、それからの演技も―――・・・
璃:ああっ・・・ああ〜―――勿体ないなあ・・・あそこで足首を捻っていなければ、このキシリアって言う選手が・・・
(ん?)あの子―――・・・
思えば、身体に変調を来たしてからの女王の演技はガタガタでした。
ガタガタでした―――が、そんな自分の身体の変調を覚られまいと、女王は意地のみで自分の演技を演じ切った・・・
けれど無理をしたからか、それともアドレナリンが切れてしまったからか―――痛み出す患部・・・
そんな女王を気遣うかのように、女王の前に演技をした少女が、どこか励ましているかのようだった・・・
そしてにこやかに、互いの健闘を讃え合う為、抱擁を求める女王・・・
それを見て璃莉霞も感動してしまうのです。
そんな感動的な名場面を見てからのログイン―――<現在時刻;22:50>
自然とクランメンバー達の会話も、そちらの方へと向かい・・・
リ:そう言えばさあ―――今年日本であるって言う、フィギュアスケートの世界大会の特集、見た?
ソ:見ました、見ました―――前回女王になったイリスって言う選手、私達よりも若いのに凄いですよね!
市:それよりも・・・前女王、残念でしたね。
ギ:そう言ゃあよ、二人とももう日本に来てるんだろ?
蓮:ああ―――夕方のニュースでやってたな。
ヒ:なんだかもう、既に火花“バチバチ☆”って感じよね!
リ:でも―――何かいいよね、ああいう関係・・・って。
市:ああいう関係?
リ:うん―――いい意味での好敵手・・・って、お互いを高め合う為にも“良い争い”―――って思わない?
ソ:言われてみれば、そうですね!
自分達がネット上でプレイしているゲームの様に、陰惨としたものではない・・・
その日の夕方のニュースで流された映像では、女王の座を奪われたからと罵り合うでもなく、また蔑みあうでもなく・・・
実に清々しい―――互いに正々堂々と技と技を魅せ合い、闘わせて行く―――
だからこその名勝負が繰り広げられるのです。
―――と、ここで少々説明的なのですが・・・
彼らの会話の中で、欠員があった事をお感じになられただろうか?
その欠員とは――――プリンとジョカリーヌ・・・
ではなぜこの2名が、この日にインしてこなかったのか・・・
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#107;押しかけ問答
実は―――同日の15:00前後、ある人物が居住しているマンションの一室の扉をノックする音に・・・
凛:はあ〜―――い・・・(あっ・・・)
聖:ちょっと上がらせてもらうわね―――
予期せぬ来訪とはこの事か―――まさかこの時期に、旧き友人が訪ねてくるなんて思ってもみなかった、半崎凛―――プリンは、
扉を開けるなり“ズケズケ”と中に入ってきた、聖護院聖里奈―――セシルに何も・・・注意すらできなかった・・・
なぜなら―――
凛:セシル―――
聖:(・・・)それ―――どっちの?
聖里奈が凛のマンションに押し掛けた理由―――など、ありすぎてどれの事か判らなかった・・・
それに、聖里奈も“今”の自分の事が判っていなかった・・・
けれど―――
凛:(・・・)セシル=グラディウス―――
聖:(はあ〜・・・)そう―――そっちね、判った。
現在の聖里奈自身は、どちらでもあった―――・・・
それに聖里奈自身、凛の様に魔族ではない・・・凛は言ってしまえば魔族なのだから、“違う個”が同居していても受け入れられる―――
けれど、聖里奈―――セシル=グラディウスは、ニンゲン―――人間なので、そんな状況に耐えうるように出来てはいなかったのです。
だからこそ―――
セ:宮廷魔術師イセリア―――これは一体どう言う事なの?
イセ:そこについては申し訳ない―――こちらも戦力を欲しているし、なにより彼岸の事情を知っている存在が欲しかったんだ。
セ:けれどそれって、完全に“そちら”の事情よね?
イセ:そうだ・・・本来なら、こう言ったやり方は掟破りも甚だしい。
けれども、それだけ情勢が逼迫しているんだ。
その事に対する批判は甘んじて受けよう。
だからどうか―――
セ:はあ・・・それで? あの『リリア』って娘が、王―――と、そう見ていいのね・・・
凛―――イセリアにより、彼岸での名で呼ばれた・・・からこそ、そちらで対応をする聖里奈―――セシル=グラディウス。
“彼女達”の関係とは、彼岸での種属を越えた友人関係でした。
片や―――北の魔女にして宮廷魔術師でもある、イセリア=ジェノーヴァ。
片や―――“王”なる者の近衛長である、セシル=グラディウス。
そのセシル=グラディウスより、ここ昨今の事態の説明を求められ、ニンゲン―――人間である聖里奈の内に、
“違う個性”が入っている説明がなされたのです。
けれどそれは、所詮魔族側の事情―――それを責めはするものの、何一つ隠さず打ち明けてくれたことに、
流石に悪びれたものと見え、セシル=グラディウス自身の主―――“王”が、リリアなのではないかと訊いたところ・・・
イセ:それは違う―――違えてはならない、近衛長。
セ:なっ?! どうして―――・・・
イセ:死したる者は蘇えりはしない―――けれど王の存命中に、王の魂と同質量のモノを持つあの娘に、
“私達”がどうして此岸の次元に来たのかの事情を知ってもらう必要があったのだ。
セ:そう・・・だったの―――
イセ:もちろん、そんな事もすべきではない―――言わば歴史に干渉する事態にもなり得るからな。
お蔭で色んなところで“タイム・パラドクス”が起こってしまっているようだ・・・。
セ:けれど・・・そうしなければならない程―――
イセ:ああ・・・それに、今の彼岸のニンゲン側の情勢は、混沌となってしまっている。
近衛長―――そなたも知っていようが、王は若くして亡くなられた・・・世継ぎの指名もないままに・・・
そう言う事だ、私達が守ってきた王の国など、もうないのだよ・・・。
セ:それでは―――・・・
イセ:ただ、私達魔族の方では、予定通りに新たなる魔王が立った―――
そして、公約に掲げた通りに、その時点からニンゲンとの戦争は、止められたのだ。
やはり―――王が亡くなってしまった事で、王の国は事実上の瓦解・・・
代わって台頭をしてきたのが、世にいう“群雄割拠”の戦国時代―――
強力な権力を有する統治者が君臨する国は、事の如何がどうであれ、地域一帯を治めることが出来る・・・
だからこそ、一つに纏められる事が出来ていた・・・の、でしたが、
王と言う“要”を失ってしまったが為に、実力のある諸侯が次々と頭を擡げ、個々の主張しかしない弱肉強食の時代となってしまったのです。
そうした彼岸の次元の事情で、やはり最初に標的とされたのが、長らくニンゲンを苦しめてきた魔族だった・・・
しかも、この度新しく立った魔王は、自分達を攻めてこない―――
更に加え、こんな弱腰の魔王に従う事を“よし”とはしない魔族が、挙って魔王の下から離れた・・・
言わば今、魔王は孤立し―――たった一人で自分の矜持を貫かなければならない為、奮闘をしている・・・
そう、凛―――イセリア=ジェノーヴァは伝えたのです。
聖:そう・・・判ったわ。
凛:すまない・・・セシル―――
聖:それはそれとして―――
凛:えっ? まだ何かあるの?
聖:今までのは、“近衛長”としての立場よ―――
そしてこれから話すのは、こちらとしてのセシルよっ!!
凛:(あ・・)あ・あ・あ〜〜〜っ・・・そっちかあ〜〜―――
聖:あなたこの前、『ちゃんと喧嘩をしよう』―――そう言ったわよねえ?
凛:い・・・言いました―――あい・・・。
聖:じゃ、ちゃんと喧嘩しましょう―――
凛:あい―――・・・
・・・と、まあ―――ここまでは、彼岸の自分がどうして一つの肉体に違う個性が宿ってしまっているのか・・・と、
現在の彼岸の次元の状況が述べられたのです。
そこはそれでどうにか納得してくれたようでしたが―――・・・
この2人の関係と言うモノは、ここへきて多様化・複雑化しており、『近衛長としての疑問』だけでは収まりがつかなかったのです。
そう・・・此岸の事情も、それなりに複雑化―――
なにしろ彼女達2人は、かつてアイドル・ユニットを組んでいた間柄だったのですから。
つづく