渦巻くは・・・互いの“負”の気―――
“殺気”と“殺意”の交錯―――
そんな中で、普通の人間である市子、清秀・・・そして特に渦中の間近にいる柊子は―――
例え“そう”ではなくても“そう”してしまうものなのでした。
「気持ちの悪い」・・・そう―――なんとも形容し難い“気持ちの悪さ”・・・
身の毛が弥立ち、身震いが止まらない―――
“例え”て言うにしても、いい“例え”さえ見つからない・・・
蛞蝓や海鼠の類を触った時のような感覚―――?
いや、違う・・・
自分達が苦手としている、多足の節足動物や、“黒い物体”を見た時のような感覚―――・
いや、違う・・・
“これ”は、その“どれ”にも当てはまらない――言わば、「生理的」なモノのそれでは、ない・・・
もっと的確な表現―――
そうだ、これは・・・「動物的」「生物的」な、“生命”に迫る危機―――に、よる“それ”・・・
自分達は、例えるならば、そう―――・・・
「時代劇」などにもよくある一場面―――
殺気立った剣士同士の、往来での斬り合いに立ち会ってしまったのだ・・・
けれども、“あれ”は「芝居」―――
斬り合う剣士二人の―――「役」
遠巻きにして、この行く末を見過ごすしかない―――「役」
不運ながらも、剣士同士の斬り合いに遭遇し、巻き込まれ―――腰が砕けてしまった村娘の―――「役」
ならば、そんな「役柄」が、次にどうすればいいか―――は、総て「台本通りの事」・・・
自分の身に迫りくる生命の危機に対し、あらん限りの嬌声を上げる柊子―――
それを見ていた“こちら”は―――?
た:やれやれ―――仕方のないことよ・・・の。
「大公爵」よ、これは「一つ借り」・・・と、言うことにしておいてしんぜようぞ・・・
大公爵が仕掛けた術式の「穴埋め」―――と言った様な感覚で、
『幼女巫女』は己が最も得意とする術式―――『荼吉尼道』を行使し、
恐怖を振り払う儀式礼術を発動させたのです。
するとすぐにでもその効果は現れ、なぜか平穏を取り戻せた柊子達・・・
その一部始終を見ていた「大公爵」は―――・・・
大:フッ―――フフフ・・・さすがはこの「トウキョウ・サーバー・エリア」を統括する「マスター」と、言ったところか・・・
それに、思わずの「貸し」も作ってしまったようだ―――
あっさりと自分の不手際を認め、手助けをしてくれた者に対し、感謝の辞を述べるも、
大公爵はまたしてもこう言ったのでした・・・。
「この「トウキョウ・サーバー・エリア」を統括する「マスター」」
だ・・・と―――
そう、「幼女巫女」たる「生稲たまこ」こそは、かのゲームでの「この地域一帯」を統括する「責任者」でもあったのです。
つまりは―――
一見すると関係のないように思われた「加東しの」と「生稲たまこ」が、この会場に来ていたというのも、
それなりの理由があったから・・・。
そして―――未だ差し向かい、相手の出方を伺っているかのような決闘者に対し・・・
大公爵は―――
大:さあ―――なにをしておる! お膳立ては整えてやった―――疾く始めたまえ!
そして、余を満足させてくれたまえ・・・汝らの研ぎ澄ませたるモノによって・・・
さあ・・・始めるのだ―――闘争を!!
『闘争』・・・
「闘い」「争う」ことこそが、その者達の“本分”―――
呆れるほどに「頑強」で―――呆れるほどに「不死」―――
そうした者達が終ぞ追い求めたるモノこそ、『飽くなき「闘争」の探求』・・・
そして・・・だから―――なのか・・・
#11;死闘の幕切れ
璃:フッ―――フフフ・・・あんたの「マスター」が、ああ言ってるよ?
なら・・・こっちもさっさと―――幕を下ろそうじゃねえの・・・?
『子爵』
「子爵」―――とは、とある種族における“序列”“階級”に関わるもので、
「公」「候」「伯」「子」「男」―――とあるように、5つの段階があるのです。
(斯く言う「大公爵」とは、「公爵」の更に上に位置する)
その・・・「子爵」と呼ばれた存在は―――?
先程まで、愉悦に浸っていたかのような表情・・・
口角が上がっていたモノを下げ―――・・・
だからこそ伝わってきてしまうのです―――緊張と言うものが・・・
そして、張り詰めた“糸”は、必ずどこかで「切れる」―――
“それ”が、開始の合図とでも言う様に―――・・・
“それ”は―――“それ”こそは、猛獣と野獣の猛り・・・
二つの獣が、今まさに己の生命を賭けてぶつかりあう・・・互いを牽制し合う時の、“それ”―――
そして、柊子は知っていました・・・。
いえ、その場には、璃莉霞と同じ高校に通う、市子に清秀も知っていたこと―――
普段は物静かにして、そんなにお喋りをしている認識などなかった・・・
だからてっきり“そう”だと思っていたのに―――
今ここで、なされている咆哮は、一体どこから・・・?
そんな痩身のどこに、隠されていたのか―――と、疑わしくなるくらいの声量・・・
ただ・・・そう―――これは「咆哮」なのだ・・・
“野獣”が「野獣」である証し―――“猛獣”が「猛獣」である証し―――
そんな・・・互いに牽制し合うモノを発していた―――か、と、思えば??
「え・・・? そ―――そんな?バカな??」
今―――聞き違いなどではないとしたら・・・「鉄」の“それ”?
現代剣道に於いては、使用する武器とは、「竹刀」―――
「竹」という“木材”を使用し、大凡「本物の刀」とは程遠い、木で出来た刀・・・
だから“それ”同士がぶつかり合った際に発生するのは、当然「木」の“それ”でしかなかった・・・
“はず”なのに―――?
それに、そんなものは自分達がこれまでにも何度も耳にしていた・・・
聞き慣れていたモノ―――で、あった・・・
“はず”なのに―――??
今、自分達が耳にしたのは、紛れもなく・・・
柊:なぜ・・・なぜ―――?
竹刀同士がぶつかり合ったはずなのに・・・聞こえてきたのは「鉄」―――?!
金属同士のぶつかり合い・・・って、けど“それ”って―――!!
思いも寄らない、金属同士のぶつかり合い―――しかし“それ”は、まさしくの「真剣同士のぶつかり合い」の“それ”でした。
しかしなぜ、こんなにまで常識外れの出来事が、自分達の目の前で展開されているのか―――
柊子も・・・況してや市子や清秀にも分かりだにしませんでしたが、ただ一つ言えたのは・・・
小:フフフン―――いいねえ〜〜いいよ、本当に!
やはりさあ・・・こうでなくっちゃ―――闘争というものは!!
璃:フン―――どうやらお気に召したようでなによりだよ・・・「子爵」!
また一つ言葉を交わし合わせると、再び交わり合う剣撃―――
しかしそれにしても、全く以て「剣道」とはかけ離れた“流儀”―――
現代剣道に於いては、「小手」「面」「胴」と言う“決まり手”があるのですが、
しかし二人が互いに狙っているのは、足下や首筋を容赦なく狙い定める―――そうした“流儀”・・・
そんな“流儀”を修めているものだから、大人しく猫を被っていなければならなかった・・・?
余り他人とは会話をせず、「地味」を演じていなければならなかった・・・?
そう思わせざるを得なくなる程に、柵から解き放たれた者達は悦び合う―――
今は・・・今のこの瞬間だけは―――なんら遠慮することなく発散し合える・・・と、言う事に
そして“終演”もいきなり訪れたのでした。
大:フフフ―――実に心地よいものであった・・・
そして、見せてもらうべきものは見せてもらった・・・
よかろう―――! 汝からの申し出、この大公爵が受諾しよう!
麗:聞こえたか―――!ほならこの“茶番”も、さっさと終わらせぇ!!
そして、我らが流派、『古廐薙』の技の一つの解放を、このワシが承認しちゃろう!!
またしても―――轟く声・・・
自分達が聞いたこともない「大公爵」に「古廐薙」なるモノの存在に・・・
深い―――闇の帳に閉ざされた、異空間の死闘の果てが、ようやくにして訪れようとしていたのです。
そう・・・“それ”は、突如舞い降りた「死合」の幕切れ・・・
そこで柊子達が見たモノとは―――・・・
まさしくの、自分達が修得してきた「道場剣法」にはない、「その流派」ならではの“流儀”にして、“真髄”―――
「道場剣法」の“型”にはない“型”―――
相手を襲い来るは、首筋を狙う「横薙ぎ」―――それにて、相手の防ぐ剣を払い、
そこからの「右袈裟斬り」―――続いて足下を「斬り払う」動作・・・
然して“これ”こそが―――
璃:これぞ―――我が流派・・・
古廐薙流“斬”の一刀―――【断宙】
鮮やかなる―――言い例えるなら、英字のアルファベット最後の文字、『Z』の軌跡を描き・・・
宙を舞い、そして地に沈みゆく対戦者の姿・・・
この大会の「決勝戦」―――大将戦の他は、総てに於いて敗北を喫してしまったものの、
今までは、その一戦までの総てに於いて自身の役目・・・「捨ての大将」を果たし、全敗を喫していた者が、
地域一と言っても差し支えのない「天才剣士」を前に、勝利した―――と、言う、
今回の諸事情を知らない者が見聞すれば、なんとも不可解にして摩訶不思議な出来事だったのです。
つづく