#110;お祭り数週間前の夜A あの日の真実
今回ある催しの為に一時的に日本へと来た者―――
12/24〜26ノ3日間に亘り開催される、フィギュアスケートの世界選手権の為に訪れた、イリアとキシリア・・・
だけでなく、実はあと一人―――やはり同じ時期に、同じ日本の東京で“ある催し”・・・その為にと訪れていたのが、
聖護院聖里奈ことセシルだったのです。
それに聖里奈―――セシルは、ある思いを抱いていました。
その“きっかけ”を作ったのは、パーソナル・レイドサトゥルヌス戦の前、セシルに“あるモノ”・・・
自分が作った詩と、簡易な旋律をつけた“モノ”を添付・送付し、セシル自身のモノとするようにした、かつてのメンバーに対し。
今度こそ自分がずっと胸に秘めていた事を打ち明け眼為に―――だったのです。
けれど自分達2人だけでは逃げられてしまう―――だからなるべく、多勢の人に知ってもらわないといけない・・・
セシルは―――“ある出来事”があるまで、メンバーの一人に「そんなもの」が備わっている事など知りませんでした。
“ある出来事”・・・そのある出来事があったお蔭で、私達は救われた―――
では、その“ある出来事”とは―――
リ:あの・・・セシルさん、『これは想定外』って、どう言う事なんです?
セ:今日あなた達はインが遅めだったけれど、それはあれでしょう? 今月の24〜26日にあるって言う・・・
実は私もね、同じ時期に『クリスマス・ライブ』を予定しているのよ。
リ:(えっ?)あの・・・それって??
セ:それも、東京でね。
リ:(!!)ええ〜〜っ?! そ、そ、それじゃあ・・・
市:普段はトウキョウサーバーを使わないあなたが、本日ここにいる―――と言う事は・・・
ギ:お、おい―――ちょっと待ってくれよ。
その「セシル」・・・って、確か欧州じゃ有名なロック・シンガー「CECIL」だよな?
―――てことは・・・やっぱ、チケット“プレミア”がついてるじゃんか!!
リ:ハハハ・・・ギルバートさん、見た目通り“ハード系”がすきだったんだねぇw
て―――・・・そうかあ、日程カッチリ被っちゃってるよなあ。
セ:そ―――そこは諦めるしかないわねえ。
リ:(??)それ、どう言う事なんです?
フィギュアの選手権あったって、関係ないと思うんですけど・・・?
セ:私が今回日本へと来てる理由・・・それは、この人と関わりがあるの。
市:プリンさんが・・・要領を得ませんね? なぜそこで、プリンさんが出てくる必要が?
セ:確かあなた・・・スゥイーツ・シャルマンのフアンだったのよね。
リ:えっ? あっ、は、はい―――
セ:私達がユニットを結成して5周年の記念ライブの事、覚えている?
リ:(!)ああ―――確か野外でのライブでしたよね!
ああ〜〜良かったなあ〜〜あのライブ、私、あの会場まで行ったんですよ―――
セ:そう・・・あなたもいたのね、あの会場に―――・・・
プ:―――・・・。
市:(えっ?)
それは、スゥイーツ・シャルマン結成5周年を祝しての、野外の特設会場でのライブ―――そこで起こった出来事でした。
それまでは、“その出来事”は、『部外公表』はされていない・・・
それは、ユニットが解散をした現在に於いても、誰にも語られる事のなかった“真実”が、そこにはあった・・・
そして偶然か否か、いや・・・フアンだったから当然・必然だったのか―――璃莉霞も同じ会場に来ていた・・・
そこでセシルは、リリアに“ある事”を訪ねたのです。
セ:あなた・・・“あの時”、なにか変に感じた事はなかった?
リ:(へっ??)いえ―――別に・・・なにも・・・み、皆さん素敵でしたよ?
ほら、メンバー個別の、“ソロ”の歌も用意されてて・・・
セ:違うの―――それ・・・
リ:ち・・・違う―――って、何が・・・?
セ:私―――あの時、歌えなかったんだもの。
リ:ええっ?! でっ―――でも・・・セシルさんの曲も、私聴きましたよ?
衝撃の告白―――
セシルは、あの記念すべきライブで、歌えなかったことを年月が経った今日話したのです。
けれど璃莉霞は、セシルの曲も聴いていた―――激しく、魂を揺さぶるビート・・・その咽喉より絞り出されるシャウト―――
そのどれをとっても、他のロック・アーティストに引けを取らないモノだったのに・・・
それが“歌っていない”―――???
セ:歌えるわけがなかったのよ、だって私―――あの時扁桃腺が腫れてて、満足にメンバー達と会話すらできなかったというのに??!
市:(!)まさか―――・・・
セ:あのライブでの、私のパートは・・・全部―――
『セイレーン』のOUSを持っていた、プリンがしてくれた事なの。
「道理で・・・プリンさんの表情がさえないと思ったら―――」
「それに、どうして同伴をさせたのかは、これで理由がはっきりしましたね。」
「それにしても・・・ならばどうして表情が冴えないのでしょう?」
「あと・・・『セイレーン』とは??」
歌えるはずもありませんでした。
大事な記念ライブだと言うのに、当日になって歌えない・・・
その事に―――自分の至らなさ、申し訳なさに、泣いて詫びるセシル・・・
マネージャーも、プロデューサーも頭を抱え、残りのメンバーも何をどうしていいのか・・・呆気に取られる始末―――
この危機的状況を救ったのが、まさにプリンでした。
『大丈夫―――私が何とかするから・・・』
「なぜそんな事が言えるの―――・・・?」
「あなたは、その幼な声の所為で周りからバッシングに晒されているというのに・・・」
けれどそれは同時に、そのメンバーの事を何一つ理解していなかったから、そう言えた・・・
そして、無情にもライブの始まりを告げる幕は上がる・・・
それと同時に目にする、数多のフアン―――
これまで、屋内で開催された、ドーム会場での観客動員数2万―――
それをはるかに上回る、野外での野外ライブ―――
これまでドーム会場を“満員”で埋め尽くしたシャルマン達でしたが、その数を5倍と上回る動員数・・・
初めて呑まれた―――客の多さ・・・と、絶対に失敗は許されぬ生本番での緊張に、
咽喉を痛めてしまったセシルでなくとも、歌えそうになかった・・・
その“危機”を救ったのが―――
セ:(この声・・・“私”―――?!)
ルリ:(でも・・・セシルは今日―――えっ? この声は・・・)
マロン:(ルリの? それに・・・“あたし”のも―――??)
セシルを含める他の2人も、会場の雰囲気に呑まれ声を失ってしまった状態になってしまった・・・
けれど、気が付けば、自分達3人の声が―――???
圧倒的な“パフォーマンス”―――プリン自身のパートでは、客席の方を向いていたけれど、
他のメンバーのパートに移ると、背を向けたり口元を上手く隠したり・・・
それでも魅せ付ける―――
セ:ねえ、あなた達・・・『セイレーン』て何か判る?
リ:えっ、でもそれって・・・よくあるRPGの設定では・・・
ソ:漁師たちをその魅力ある歌声で惑わし、海中へと引きずり込む“魔物”ですよね?
市:(そう・・・一般的に知られている『セイレーン』とは、その域を出ないモノ・・・)
・・・だとするなら、解釈が違う?
セ:いい勘しているわね。
そう・・・その説明は、『セイレーン』の一部のスキルを誇張しただけに過ぎないのよ。
本当の『セイレーン』は・・・
プ:(はあ〜ぁ・・・)『遍く総ての者を魅了し、己の意のままに操れる者』・・・
それが私が、“彼岸”から持ち込んできたスキルの正体さ。
リ:えっ? だけど、それ・・・
プ:そう・・・今まさに君達が思っている通りの事を、あの当時の私はしたんだ。
咽喉を傷めてしまって声が出なくなってしまったセシル―――
客や雰囲気に呑まれてしまったルリやマロン―――
あの状況で歌う事が出来たのは私一人だけだった・・・
折角4人で築き上げてきたものを、壊したくなかったんだ・・・
だけど、それは逆に間違いだったことを、思い知らされたものさ―――
あの頃からだったんだ・・・メンバーの間に歪みが生じ始めたのは―――
けれどね、会社側からしてみたら、そうした私達の感情なんて、不要だったんだ。
でも私達は、それでも一時的には救われた・・・。
本来なら、シャルマンはあそこで終わっていたのに、それを救ったのはあなただったのに―――!
結局は、“なにもかも”から逃げていたのは私達だったの!
救ってくれた恩人に程度の礼すらもせず、声を掛けようにも・・・すでにあの頃からメンバー内では、暗く悪い雰囲気が漂っていた・・・
あの二人も、もう(芸能界には)戻っては来ないけれど・・・だけど私は、あなたにお礼がしたいのよ。
お互いとお互いの気持ちのすれ違い―――
それが、“お嬢さま”だった頃、大人の事情すら知らない少女だった頃、可憐にして純粋だったからこそ“すれ違う”―――
今はもう、“酸い”も“甘い”も“辛い”も“苦い”も、噛み分けた今となっては、判ってくることだらけだけれど・・・
時間の経過とは斯くも無情なモノか―――
時間が経ち、大人に成った分だけ・・・“酸い”も“甘い”も“辛い”も“苦い”も噛み分けられたから、逆に素直になり切れないでいる―――
とはしても、“恩知らず”にはなりたくない・・・だからこそセシルは―――
市:「お礼」・・・ですか―――
セ:今となっては、随分と遅くなっちゃったけれどね。
だから、この『クリスマス・ライブ』に、プリンを“サプライズ・ゲスト”として呼ぼうとしたんだけれど・・・
リ:ええ〜〜っ! それ絶対行きたーーーい!!
けど・・・そうかあ〜〜〜―――
ギ:ああっ・・・! ちっきしょう! 完全にスケジュールかち合ってんじゃないかよ!!
セ:そう言う事・・・だから言ったでしょう? 『想定外だ』―――って。
そこでようやく理解が繋がりました。
セシルが言っていた『想定外だわ』―――
自分は恩人に恩を返そうとしていたのに、“個人”と“世界”とでは規模も格式も違う―――
折角画策していたのに、これでは無駄足・・・徒労に終わってしまう。
ものかと思っていたのですが―――?
ここでようやく動き出してきた、「第三の思惑」・・・
それは彼岸で“北”と同程度の権限を有している、“西”の導きによるものだったのです。
つづく