『五大陸選抜選手権』の予選が粛々と終わり、やはり結果は現・女王イリスが首位に立ち、僅差で前女王キシリアが追う―――
そうした構図となりました。
そして、明日の本番―――の前に、声援を送っておきたいと思っていた璃莉霞とその仲間達は・・・
璃:イリスさん―――・・・
イ:ア・・・マサキ
リリカ―――サン ニ・・・
市:私はこの方の友人で、細川市子と申します。
清:オレは、こいつとは幼馴染の、森野清秀だ。
豪:で、オレはこいつの仲間の清水豪志ってんだ。
聡:私は同じく、仲間の本條聡子といいます。
禍:そして私は、この子達の保護者―――神宮寺禍奈子だ。
ナ:私はナオミ=サード=アミテージと申します。
あなたの圧巻の演技、感動いたしました。
イ:(・・・)アリガトウ―――ワタシ アシタ
モ ガンバリマス!
この時点では、イリスも―――璃莉霞達も、お互いの事を良く知りませんでした。
ただ、先程あった予選での演技に感動を覚え、明日の本番も今日と同じか・・・若しくは劣らない演技を魅せてくれるよう声援を送ったのです。
「これで頑張らない訳がない―――」
「ありがとう・・・皆さん、私明日は全力で演じ切ります!」
「演じ切って、優勝した感動を、仮想内の『お姉サマ』にご報告を申し上げ・・・」
「キャ〜♡ もう、そこから後の事は言えませんッ!!」
・・・ん? ちょっと待って下さいよ? この娘―――って・・・(まあもう少しばかりのお付き合いをw)
―――とまあ、それはさておき・・・
璃:ねえ〜ねえ〜見たでしょう〜? ああああ可愛いわあ〜〜〜
市:そうですね、純粋と言いますか―――
聡:そうですよ、だから考え過ぎだと思います!
ナ:征木璃莉霞の心拍数上昇・・・なにかありましたか?
璃:えっ? ああ―――私ってさ、ああいう健気なの放っておけないのよ〜
清:そう言やお前、昔からそうだもんな―――
ナ:そうなのですか?
清:ああ、オレとこいつとは付き合い古いからな。
結構何でも知ってるぜ?
ナ:(・・・)あとでデータ・サンプリングをお願いしてもよろしいでしょうか?
清:えっ? ま、まあ―――構わないけど・・・
豪:それにしても明日が楽しみだなw 前の女王―――だったかのキシリアってヤツも、次点には甘んじたが・・・
聡:そうですね・・・意外にも点が伸びなかったというか―――
禍:けれどもそれは、それだけあのイリスと言う人の演技が素晴らしかった―――と、言うべきだろうね。
それとあと、明日の事だけど皆分かっているよね。
予選での熱量そのままに、皆それぞれ明日の事を想い、別れたものでした。
そして―――運命の決勝戦・・・
#114;対 ピアノ協奏曲第5番『英雄』x『白鳥の湖』 決
この大会の決勝に駒を進めることが出来たのは、前日の予選での成績順で8人・・・
けれど事実上は、新・旧女王の対決―――それでした。
午前中は技のコンビネーションや調整に余念がなく、それでいて夜の本番に向けての、無理をしない程度でリハーサルを終える新女王。
片や、やはり同じ時間帯にリンクに現れ、新女王のリハを見終え、自らも技のコンビネーションや調整をする旧女王・・・。
そこには、以前見たような“馴れ合い”は一切見えない―――
互いが好い関係での闘争心を剥き出しにした、そうした“ピリピリ”とした緊張感・・・
言葉は、交わさなくても分かる―――それに打ち克ってきた者こそが、“栄光”と言う名の冠を頭上に頂くのに相応しいのです。
そして・・・決戦の火蓋は切って落とされる―――
決勝のプログラムは、前日での予選の成績順・・・
つまり、首位に立ったイリスが“大トリ”で、次点のキシリアが“トリ”・・・
そこで璃莉霞達は息を呑む―――
互いの、プライドを賭けた女王同士の対決を・・・
璃:(これまで演技をしてきた人たちも凄かったけど・・・)
市:(昨日とはまるで雰囲気から違いますね・・・。)
豪:(スゲエな・・・これまでの6人が、完全に前座扱いかよ―――)
聡:(けれど・・・その6人も、予選よりは良かったんですけど・・・)
清:(それだけじゃ全然足らない―――って事は、このオレにも判るぜ・・・)
禍:(皆も感じているようだけど―――実にいい緊張感だ・・・)
ナ:空気の張りつめ方が、これまでと全然違います。
原因を察するに、これから演技を行う、あの2人の所為・・・
禍:良く視えているね・・・ああその通りだ。
この雰囲気こそは、彼女達2人が本気でぶつかり合おうとしている証しでもある・・・
氷のリンクが、演者や観客の熱によって溶け出す・・・その上で冷気が舞い、
その冷たさが、恰もこれからある技と技のぶつかり合いの雰囲気―――“緊張感”とそう捉えられました。
そして本気同士のぶつかり合いは、旧女王の―――この演技によって始められる・・・
程好い冷気の為か、引き締まった表情―――そして冷気と凍気を纏わせ、『氷上の美女』は、舞う・・・
豪:(う・・・おっ?!)こ―――この曲??
市:ピアノ協奏曲第5番・・・『英雄』!
璃:ああああっ・・・この人―――この大一番に、こんなにも繊細にして大胆なモノを・・・隠し持っていた?!
禍:(さすがだ・・・)しかもこの曲―――
ナ:はい、過去キシリア=アグリシャスが女王の座を―――
清:うおおおっ?! この人も四回転ジャンプ、きっちりと極めてきたぜ??
聡:それに・・・滑りの方も、段々シャープさを増してきてます!
かつてキシリアが数年に亘り君臨し、死守してきた女王の座―――
それをもぎ取った、キシリアにとっては縁起の好い曲―――
その曲の出だしと共に、滑らか且つ軽やかに―――時には優美に、時には繊細に、時には大胆さを魅せる・・・
けれども、キシリアも『この日この時の為に』と、猛特訓を積み、完成させることが出来た四回転ジャンプ・・・
これでもう―――イリスには主導権はない・・・
なぜイリスが、前大会に於いて女王と成れたか・・・その原因と分析を詳細に亘り行った結果、
やはり女子フィギュア・スケート界に於いて、成功例があまりない高難度技を成功させていたから・・・
だから自分も、差をこれ以上広げさせない為にも―――と、どうしても修得する必要があった・・・
成功をした―――あとは従来通りの、自分本来の滑りを見せるだけ・・・
素晴らしかった―――あの演技を魅せられては、自分を応援してくれている人たちは、もしかすると勝てない・・・そう思ってしまった。
けれど―――・・・
璃:イリスさん・・・笑ってる―――?
市:あの演技を見せられても?
皆・・・誰しもがそう思ってしまった―――
あんなにも素晴らしい演技を見せられて・・・
けれどしかし、現・女王には、不敵にさえ見えてくる“微笑み”が、その表情に充ちていた―――
けれどそれは、やはりそうであるかのように―――・・・
豪:(これは!!)
市:(『白鳥の湖』!)
ナ:新たなるデータを修得。
どうやらイリス=アディエマスは、「プリマ」のようです。
禍:(バレエの経験者か! なるほど・・・それでこの選曲―――)
璃:(ああっ・・・あ!あ!!あ!!!)これ・・・あの動画の―――
璃莉霞が、その外国人美少女の事を“凄い”と思った瞬間―――
それこそが、この大会の前段として放映された“特集”で見た、一連の動き・・・
まるで、湖上で静かに水面を泳いでいた白鳥が、一気に大空へと飛び立とうとする為、力強く羽ばたくそのフォルム―――
やはり、現・女王であるイリスも、キシリアとの雌雄を決する為に・・・と、その曲を持ってきた―――
その曲―――ロシアはチャイコフスキー作曲の交響曲『白鳥の湖』・・・
それこそ、イリスがキシリアから女王の座を奪った曲でした。
それに、これまで謎だったイリスの経歴・・・そしてこの曲こそは、同時に「バレエ」の名曲としても知られていた・・・
そう―――イリスこそは、今でさえフィギュア・スケートに重きを置いていましたが、その原点こそバレエだったのです。
そして―――・・・
キ:(あれは―――!!)
白鳥は、羽搏き―――飛び立ち・・・そして大空を舞う。
しかも、自分の最大の武器であった最高難度に、さらに磨きをかけてきた・・・
イリスの武器―――四回転ジャンプ・・・けれど今大会で披露したのは、半回転プラスに捻りを加えてきた・・・
しかも、それだけに留まらず、高難度でもある三回転半を、違う形で2回も・・・
その・・・先程までのキシリアの演技を更に上回るモノを持ってきた事で、観客も声を失ってしまった・・・
その限られた時間こそは、雑音は不要―――咳払いでさえも厳禁モノだった・・・
それ程までに、呑まれてしまった圧巻の演技―――
そして、その圧巻の演技を終えた者を待っていたのは、満場の・・・割れんばかりの拍手喝采―――
やはり女王は女王足りえた。
今、最大の強敵を下した者は、互いの健闘を讃え合うかのように熱く抱擁を求めた・・・
もう既に彼女達は“敵同士”にはない―――互いの事をよく知り、切磋琢磨をしてきた同志でもあるのです。
つづく