『セイレーン』は歌い上げる・・・伝承に在るが如くに―――

 

かつて一人の漁師に恋をした乙女は、その美声を以て想い人を振り向かせようとする・・・ものの、

かの漁師には既に将来を誓い合った恋人が居り、その事を知り悲観に呉れた乙女は、

やがてその本性・・・魔物へと変じ、総ての存在を“(つい)”へと(いざな)ったと言う―――

 

そして、この魔物の正体こそが、『セイレーン』―――・・・

 

この伝承と同じ名称を持つ、スキル・ホルダーが“そう”であるかまでは、定かではない―――にはしても、

彼の者の事を、彼ら彼女達よりも良く知っていた者は、こう嘯くのです。

 

『“その気”になれば』―――と・・・

 

“その気”・・・つまりは、スキル・ホルダー自身の判断一つで、存在を“活かす”も“殺せる”も・・・

 

 

 

#117;天使の歌声(セイレーン)

 

 

 

セ:盛大な拍手、お願いしまあ―――す!

  皆さぁ〜ん、コンバンハ―――! CECILが帰ってきましたー!

  え〜と、言う訳でね―――本来でしたら、“生”でのライブを行いたかったんですけれども〜

  大人の事情と言うヤツでw 急遽仮想内(こちら)でのゲリラライブの敢行〜! と、言う訳になったんですよ。

  いや〜〜けれど、こんなにも皆さんにお集まりいただいて―――有り難う御座いま〜す!

  そこで、今回“サプライズ”として来て頂いたのが・・・以前私とユニットを組んでいた事のある、プリンで〜す!

 

プ:皆さ〜ん、コン・バン・ハ〜〜〜! いや〜〜それにしても良く集まりましたよね―――

  さすがに海外でも有名なCECILが戻ってきた―――て言う告知が、大きかったんだろうと思いますよ〜?

 

セ:何言ってるの―――でも、サプライズを仕込んでいた甲斐というものがありましたよ。

  どうでしたか? 皆さん・・・頭からパンチの効いたモノでしたよね〜〜

  この曲は、私達のユニットがデビューしたモノなんですけれども、今プリンが1人で歌っていたのを、気付きましたか〜?

  何を隠そう―――プリンは、『セイレーン』と言うOUSを持っていたんでーす!

 

プ:あのさあ〜〜〜本来OUS・・・って、内緒のハズなんだけれどなあ〜〜まあいいや!w

  では、お次は―――CECILの出番だよっ!

 

 

 

上手くMCでこの場を盛り上げ、更にライブを熱狂的なモノへと(いざな)う―――

この時、リリア達以外で一体どれだけが気付かされただろうか・・・

 

そして一旦、自分の出番が終わり舞台の袖にハケたプリンを―――・・・

 

 

 

リ:プリンさん―――・・・

 

プ:フフッ―――驚いたかい? 私のスキル・・・

 

リ:うん・・・でもどうして―――

 

プ:“危険”―――だからだよ、それ以外の何者でもない・・・。

 

市:“危険”・・・と言われても―――

 

プ:私のOUSってね、突き詰めて言ってしまえば、「存在の生殺与奪」さえ赦される―――そう言ったモノなんだ。

  そしてそれを、私はかつて使った事がある・・・

 

リ:(そんな・・・)ジョカリーヌさん―――

 

ジョ:この事を、あのセシルと言う人もそこまでの事は知らない・・・。

   彼女自身は、ここまで築き上げてきたモノが壊れていくのが怖かったのだろうね・・・

   その事に気付いたこの人が、その危険性を知りながらも、“友”の為に使おうとした背景を考えてごらん・・・。

 

 

 

その時になって、ようやく気付かされる―――

どうしてこの人が、こんなにも凄いスキルを持っているのに、大々的に表へと出てこず、細々とシークレットライブなどを通じて活動をしてきたのか・・・

どうして、あまり目立ちたくなかったのか―――・・・

 

けれど、組んだことのあるユニットのメンバーであり、尚且つ彼岸(あちら)でも深い関わり合いを持った人の、“熱い”想いの前に根負けをしてしまった・・・

 

その為には、なるべくその影響を、最小限に抑える為にも・・・

 

 

 

プ:ジョカリーヌ・・・度々ですまないが、“万が一”の時は、宜しく頼むよ・・・

 

ジョ:ああ―――下準備は既に済ませてあるよ・・・

 

プ:そうか、では―――また行ってくるよ・・・

 

 

 

スキル・ホルダーが、いくら理性で以て自我を抑えたとしても、“生舞台(ライブ)”と言う魔物は時として演者自身に襲い掛かることさえある―――

それが“プレッシャー”であったり、そして“フアンからの熱”であったり・・・

 

 

 

プ:いやあ〜セシルさん―――さすがでしたね〜〜圧巻の“シャウト”!!

  皆さんお愉しみ頂けたでしょうか?

 

セ:やっぱいいですよね〜〜演じるのはライブに限りますよ!

  スタジオでも悪くはないんですけれども、内に内に籠っちゃいますからね〜〜

 

プ:そうそう―――だ・か・らあ〜? や・は・りい〜? ライブは―――さいっこうでーーーーす!!

 

セ:では―――続いてまいりましょう、プリンで〜〜

 

 

 

セシルも持ち前の曲を披露し、“シャウト”の限りを尽くしました。

そして・・・の選手交代―――けれどここで、観衆はそれまでの認識を改めざるを得なくなる・・・

なぜなら、次にプリンがチョイスした曲こそ―――

 

 

 

リ:(!)これ・・・CECILさんのだ!

 

 

 

フアンの一人よりその証言が為される・・・

これまでプリンは、その生来からの“幼な声(ロリごえ)”の所為もあり、とても大人びた歌は歌えないモノと、そう認識されていたのに・・・

それにこのライブは、CECILが生まれ故郷である日本に、一時帰国して開いたモノ―――

だからこそ、そこはCECIL一色でなければならない・・・

 

それに、そもそもプリンには、苦手なジャンルなどなかった―――

 

CECIL本人すら顔負けの、情熱的な抑揚―――感情あるがままをぶつける“シャウト”。

視れば歌う時の表情すらも、普段の彼女を知る者達からすれば、意外性に富んでいたモノだったのです。

 

 

 

セ:イヤ〜〜プリンさん、何しちゃってくれてるんですか〜w

  この私より凄くないです?

 

プ:だから言ってたでしょう〜皆のお株を奪いたくなかったから―――

 

セ:はいはいw それでは次行ってみましょう〜私CECILで〜〜

 

 

 

徐々に会場全体の熱(ボルテージ)が上がって来る・・・

その会場には、CECILのフアン―――だけではなく、彼女達が所属していた『スゥイーツ・シャルマン』時代のフアン・・・

そしてどこから嗅ぎ付けたのか、サプライズ・ゲストであるプリンのフアンまでもいたのです。

 

しかも、それまで秘匿とされてきた“秘密の暴露”と共に、混沌と成ることさえも危惧していた―――

 

けれども、蓋を開けてみれば、その“秘密の暴露”が好い意味でのきっかけ―――スパイスとなり、

予想していた以上に白熱してきたのです。

 

 

 

ナ:(・・・)少し危険です―――

 

リ:・・・え?

 

ブ:何が危険だと?

 

ナ:この会場の興奮―――異常です。

 

ジョ:ふうむ・・・私も予想はしていたけれど、ここまでとはね―――

 

市:(え?)ジョカリーヌ様・・・?

 

ジョ:一応、気にはしていたんだ。

   これが私達のためだけのライブなら、私が出張ってくる必要などなかったのだからね―――

 

ギ:お・・・おいおい、ちょっと待ってくれよ―――それじゃ・・・

 

ジョ:そう・・・その事を予め見込んでの“下準備”だったのだが・・・

   市子、ナオミ、申し訳ないが協力を頼む。

 

 

 

別に、自分達だけなら、ジョカリーヌの出番など最初(ハナ)からなかった・・・

けれども、相手としなければならなかったのは、フアン達・・・

 

フアン達の熱が、抑えていたプリンの理性の箍を外した時―――

そこで何があるか・・・までは、ジョカリーヌでさえ予測は不能だったのです。

 

けれども、だからこその“下準備”・・・

最悪を免れる為の―――・・・

 

 

かつて魔王を除外した時は、そのアライメントを<混沌にして悪>に下げてしまったが為、東の地域一帯を「死滅の大地」と化してしまった・・・

けれどもそれは、アライメントを下げ過ぎてしまったからこそ、起こり得てしまった事象・・・

現在のアライメントは、<中立にして中立>を、辛うじて保っているようなものの・・・

 

それを、危険性を臭わせるかの様な、アンドロイドからの警句―――

 

そして・・・

 

 

 

プ:やはり、こうなってしまったか―――少し手を変えなければならないかな。

 

リ:プリンさん? あの・・・手を変える―――って??

 

プ:フフフ―――私とて、何もジョカリーヌに丸投げしようとは思っていないよ。

  自分で出来る範囲の事は、自分でするさ。

 

市:ならばどうしようと?

 

プ:(・・・)少し予定より早いけれど、“アレ”をするしかないようだ―――

 

キ:ウフフフフフ♪ ようやくその本領を発揮するのですか?

  ノリの好い観客を待たせるのはよろしくありませんよ?

 

ブ:キリエ殿―――あなた、何を??

 

キ:あら、私言っていなかったかしら?w

  私達はまだ、3人分しか聴いていないのですよ?

 

リ:(3人分・・・?)―――と言う事は・・・!

 

 

 

今日は―――誰しもが幸せを願う“聖夜”・・・

 

この聖らかな日にして御目出度い日が、血生臭くなってははいけない・・・

 

そうした想いもセイレーンにはあったのかも知れません。

 

 

 

つづく