「私たちは・・・一体何を見せられていたんだろう―――」

今ではすでに、『大公爵』なる者からの術式は解け、平常空間へと戻り「表彰式」の場に移っていたものでした。

 

けれど、“現実”に戻される―――

自分達は、「決勝戦」に行けはしたけれども、結果としては敗退―――準優勝に甘んじてしまったものでした。

けれど、これでは「部の存続の条件」は“充た”されていない―――

今回はどうしても、優勝を狙わないといけなかったのに・・・

 

それは同時に、部員達もそうでした。

今まで以上に厳しい練習を積み重ねたというのに・・・“結果”としての“実績”が残せないでいたのですから。

 

だから、「準優勝は出来た」―――と言う喜びの半面、「優勝出来なかった」事の無念さが、その表情にでていたのです。

 

けれど、柊子は思うのでした。

それは、自分“だけ”が、部員達よりも違うものを“見せられ”ていたことに・・・

 

果たして自分達は―――本当に「厳しい練習」をしていたのだろうか・・・と。

世間では、璃莉霞の様に、人知れずして受け継がれゆく流派を会得した者もいるに違いない―――・・・

ならば、自分達がこれまで励んでいたものとは、何だったのだろう・・・

 

そんな彼女が抱いた疑問を、当の本人に投げかけるため、閉会式が終わってから探ってみようとしたところ・・・

 

 

柊:(えっ?!)もう帰った―――?

部:ええ・・・「あとはよろしく」―――って。

 

 

「逃げられた・・・」

柊子にしてみれば、そう思うより(ほか)はありませんでした。

けれど、判らなくもなかった・・・

 

普段は―――いや、普段から自分を偽る“芝居”を打ち、なるべく目立たないよう「地味」に振舞っていた存在・・・

それが、何のきっかけをして、“本来の”彼女が出てきたのか・・・

 

そして、同じ疑問を抱いていた“こちら”も―――・・・

 

 

市:その様子では、まんまと逃げられたようですね。

柊:あっ―――細川・・・会長様

  あの、もしかするとあなたの方も・・・?

 

市:ええ―――そうですよ。

  “あんなモノ”を見せられて、それまでこの私の目を(くら)ませていたのですから・・・。

  ですから、問い詰めようと思っていましたのに!

 

 

その人の憤懣(ふんまん)やる方なし―――と言った雰囲気は、彼女自身のものを上回っていた・・・

それはやはり、細川家の出であるその方を、どう言った意味であれ、(たばか)(おお)せていたことを表していたことでもあり―――

ですが、しかし―――・・・

 

 

 

#12;「質問攻め」を(けむ)()

 

 

 

運が、悪かった―――と、言っていいのか、それとも、良かった―――と、言っていいのか・・・

二人は、今回の一件の、もう一方の当事者である人物を見かけ、

自然とその足は、そちらに向かい・・・そして開口一番―――

 

 

市:橋川さん―――“あれ”は一体どう言う事なのですか!?

 

小:あら・・・これは―――細川さん、ご機嫌麗しく。

  それにしても・・・どうされたのです? 私に向かっての一言目が「“あれ”は一体どう言う事」・・・などとは―――

 

 

その人物の事は、あまりよく知らない―――・・・他校の生徒でもあるのだから・・・

けれど、“あの事”を知ってしまった二人にとっては、驚愕“そのもの”と言ったところでした。

 

市子も普段から「財閥のお嬢様」泰然として振る舞いをしているものでしたが、

そんな市子以上の振る舞いをする、「橋川財閥のご令嬢」・・・『橋川小夜子』―――

 

“あの時”、間違いなどでなければ、「捨ての大将」と互角以上の“死合(しょうぶ)”を・・・亘り合った(わたりあった)存在―――

 

ですが―――・・・

 

 

市:(とぼ)けるのもいい加減になさって下さい―――!

  少なくとも、私たちは知っているのですよ・・・あなた方がどう言った存在であるか―――を・・・

  ならばこそ、今は“その事”に対する説明をなさるのが、“筋”というものでしょう―――!

 

 

直情的―――まさしくのストレートな物言いに質問を、市子は小夜子にぶつけてきました。

けれどそれは、普段からの彼女を知っている清秀や柊子にしてみれば意外にも思えたのです。

 

そんな・・・彼ら彼女たちの思惑を、見透かしていた―――からなのか・・・

 

 

小:ウッフフフ―――w おやおや、怖いッたらないんだからww

  けれど、“それ”を今、ここで話すワケにゃいかないの。

  言ったら―――この私でさえ、「被害者」・・・ってところだからねえ?w

 

市:「被害者」? なぜあなたが・・・どう言う事なのです?

 

小:私もさ、この度の「依頼」がなけりゃ、普通に大人しくしていたものなのだわ。

  普通通りに―――竹刀振り回して、普通通りに―――勝つ・・・

  そして普通通りに―――深窓のご令嬢として、振る舞い(お芝居)続ける・・・

 

  退屈なもんだよ―――実際・・・ああ〜〜息が詰まりそうだ。

  そんな事、あんたは思ったことはないのかい? 細川さんよ―――

 

 

総てが“創り物”―――剣道の「真似事」をし、深窓のご令嬢の「真似事」をする・・・

そんな窮屈さを感じたことはないか―――と、小夜子は市子に問い掛けたのです。

 

そこで一時(いっとき)、市子は思考を巡らせましたが、不思議と“そう”は思わなかった・・・

それが彼女の―――市子がこの世に生を受けてより17年間、(はぐく)んできたことだから・・・

だから窮屈さは元より、不便すら感じたことはなかった・・・

するとまたもや、“そこ”も見透かしたかのような、小夜子のこの一言―――

 

「やれやれw 幸せなことだw 何の苦労も知らずに、育ってきちゃったんだねぇww」

 

それこそはまさに“挑発”―――今までの自分の総てを否定されたかのような物言いに、市子は触発されてしまうのでしたが・・・

 

 

女生:あ〜〜れあれ☆コワイコワイw

   ど〜したんですか?細川サマ☆

市:(?!)あなたは―――

柊:確か・・・璃莉霞の事を、「先輩」って呼んでた子よね?

 

女生:ニヘヘ〜〜ドモ〜〜☆

   あたし、「加東しの」ってゆいます〜〜今後とも、お見知りおきをッ☆

 

 

自分の発奮を、小夜子に差し向けようとした時、何とも緊張感を()ぐかのような“声”が・・・

その“声”の張本人こそが、「加東しの」なのでしたが、ならば一体・・・この高校一年生は、どこから出現(あらわ)れたのか・・・

 

 

し:そぉ〜んなことよりもっ☆

  うちらんとこの「エリマス」ちゃんから、お話しがあるってよッ☆

柊:「エリマス」?? なんなの―――それ・・・

 

 

その後輩の高校一年生の女子生徒の口が紡がれた言葉―――「エリマス」。

正式な名称は「エリア・マスター」と言い、とあるゲームをプレイする上で、特定の地域一帯をまとめる、

云わば「統括者」・・・

 

そう、柊子はそのゲームを始めて、まだ間もなかったため、よくは知らないでいたのですが、

(“それ”は、清秀も同様なのではある)

プレイ時間が柊子達よりは若干長い市子は、さすがに知っていたものとみえ・・・

 

 

市:「エリア・マスター」? まさか・・・この「トウキョウ・サーバー」を統括している者が、この会場にいたと?

し:いたよ〜ン☆

  (クスw)だってさあ〜〜そこのお二人さん、先輩や橋川サマからの強烈な気中(きあた)りによって、怯えてたジャン☆

  だったらさァ〜〜そんな恐怖、取り払ってくれた人・・・って、誰なのかなァ〜〜〜?☆

 

 

現在、市子や柊子達がプレイをしているサーバー、「トウキョウ」を統括している「マスター」が、

奇しくもこの大会場に来ていた・・・?

そして、それを証明するかのような説明が、しのの方からありました。

 

すると―――・・・

 

 

た:ほッ―――ほッ―――ほッ―――戯れはそこまでにしておくがよいぞ、しの・・・

市:(!)あなたが―――?

 

た:いかにも―――このワシこそが、このエリア・・・「トウキョウ・サーバー」を統括しておる、『生稲たまこ』と申す。

  ちなみにじゃが・・・仮想(あちらの)世界では、別の名前ではあるのだがの。

 

小:へえ―――あんたが・・・

  いや、今回は世話んなったようだよ、うちんところの「じじぃ」も、感謝してることだろうさw

 

た:ふむ・・・ならば、「大公爵」にこう言って置かれよ。

  これは「大きな貸し」―――じゃとな・・・

 

 

いつもの普段とは、またどこか違うような―――そんな相好(そうごう)を崩し、気持ちのいい笑顔と共に返事を返した、橋川家のご令嬢・・・

 

そう、つまりは今回の「死合」を“観る”事を許された存在は、かのゲームにログインできるキャラクターを作成・保有し、

少なくとも「リリア」の一件に(たずさ)わっている者達・・・

それから、「リリア」の師匠筋に、違うエリアから来訪したエリア・マスターを出迎えるべくの存在・・・

つまり、この「トウキョウ・サーバー」一帯を統括する「エリア・マスター」に、その「護衛役」・・・と、

これからの様々の事情を、これから知らされていくと、不思議と得心していく、市子達の姿があったのです。

 

 

それは―――その当日のログイン光景・・・

その場所、ギルドの酒場の一角では、今回の件の関係者全員が(つど)っていたのでした。

 

そしてリリアに対し、まさしく今―――自分が抱いている疑問をぶつける市子が・・・

 

 

市:さあ―――説明してもらいますよ、色々と・・・

リ:(・・・)してやりたいんだけど―――それは後回しだ。

  それに、そんなことは道中でもできるしな。

  それより蓮也、私が課しといたヤツ、出来るようになったのか。

蓮:ああ―――まあ・・・大体は・・・な。

 

リ:・・・ま、不安は残るけど、そいつも道中で出来なくもない―――

  それからエリマス・・・「玉藻前」様、今回は迷惑かけちゃったな・・・。

玉:フ・・・気にせずとも好い、それにお主の事情、知らなくはないのでな。

 

リ:すまねぇ―――それともう一つ、済まないついでなんだけども・・・

玉:ほッ―――ほッ―――ほッ―――「ヒイラギ」殿のことであろう?

  そちらも、心配せずとも好いでな。

 

リ:ありがたいよ―――ついてはこの借り、この後誠心誠意を(もっ)て返させて頂く。

 

 

市子からのストレートすぎる質問を上手く(かわ)したリリアは、

今件関わってしまった「ヒイラギ」や「玉藻前」「忍」に、改めての感謝の(ことば)を述べるのと共に、

「あんな事」があったとはいえ、プレイを続けてくれているヒイラギを、(しか)るべく成長させるために、

「トウキョウ・サーバー」の「エリア・マスター」である「玉藻前」を頼ったのです。

 

 

それよりも―――本題は“これから”・・・

どうしてリリアが、自分達と“(えにし)”を発生させ、同道を求めるようになったのか・・・

その事が、これから話し合われようとしていたのです。

 

 

 

 

つづく