年が改まり、短い冬期休暇も終了、再び学生たちが登校し始めた時、異変がありました。
璃:うるさい! 所詮あんたは出来ないじゃないか!
市:なんっ・・・ですって?! もう一度行ってみなさい璃莉霞!
その異変こそは異変足りえていました。
日頃は腹を割って話せるほどの仲なのに、突如として吐いて出た暴言―――
普段言われ慣れていないモノだから、つい“売り”言葉に“買い”言葉となり・・・
璃:何度だって言ってやるよ―――あんたには覚悟が出来ていないから、連れて行く事だって出来ないんだ!
市:“覚悟”・・・? 覚悟なら出来ていますよ―――?
璃:なんの“覚悟”だ? それは・・・じゃあ確かめてやろうか―――
ここに居る全員・・・
――殺してみせろ――
市:(―――っっ!)そんなこと・・・
璃:出来るわけないよな・・・? そう言う事だよ―――そんな覚悟が・・・
禍:征木さん―――
璃:神宮寺先生・・・
禍:(・・・)あとで生徒指導室に来なさい、私が直接聞きます。
珍しい事に、仲の良い2人が喧嘩―――それも互いを怒鳴り合うなど・・・と、そんな違和を一般の生徒でも感じ取り、
璃莉霞のクラスの副担任にして実習生の禍奈子に報せが及び―――そして駆けつけてみると、
一人の女子生徒にはあるまじき言葉・・・『クラスの全員を殺して見せろ』―――
普段は大人しく、そんなことを言うはずもない一女子生徒が、どうしてそんな強い言葉を発せたのか・・・
とは言え、それだけでも問題だったため、征木璃莉霞は生徒指導室に呼ばれたのです。
それよりも、事の発端は―――?
それは単純ではあったのです。
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それはお正月三が日が過ぎた辺りの出来事でした。
普段通りログインし、クランメンバー達も集まってキャンぺーン・イベントを消化させようとしたところ・・・
市:(あっ・・・)リリア、今日は皆さんと一緒に―――
リ:ゴメン・・・ちょっと今日もやらなきゃならない事があってさ―――
ギ:なんだあ? あいつ・・・ここんとこ急に付き合い悪くなっちまったなあ。
ソ:それに・・・装備の方も今までとは違っていますよね。
まるでどこかの―――・・・
蓮:ああそうだな、まるでどこかの王侯貴族のお姫さんのような―――似合わねえのにな。
“鈍ちん”とされている蓮也でさえも感じ取れていた事・・・急に仲間達との付き合いが悪くなり、“何か”を一人でしているようにすら見える。
しかも似合いもしない高貴そうなドレスをその身に纏い・・・
それに、付き合いが悪くなったと言えば、何も仮想内だけの話しではなく・・・
ソ:えっ? 現実内でもですか?
市:ええ・・・いつもならば私が誘えば一緒に―――でしたのに・・・
ギ:何かあったのか?
市:いえ、私にはとんと・・・
本当は、その時点で気付いておくべきでした。
急に付き合いが悪くなったにしろ―――イメージ・チェンジをしたにしろ―――どこか寂しそうでやりきれない表情をしていたのを・・・
それが気になって、ある日その原因を突き止める為に聞いてみたのです。
市:ねえ璃莉霞? 何か悩みがあるのなら話して頂戴? 相談なら乗るわよ。
璃:(・・・)相談―――? 相談・・・なんて、ないよ―――
市:そんなはずはないでしょう? 私、あなたの事なら判るもの。
今だって何か抱えているものがあるんじゃない?
ああ・・・なんてことだ―――気付かれてしまってたんだ・・・
そりゃそうか・・・誰だって、“こんな”表情してれば―――
況して私の事を理解してくれている真友には、判り過ぎるくらいに判ってしまったんだろうから・・・
けれど・・・ダメだ、この人に“あんな事”は出来ない―――させてもいけない・・・
私と同じ・・・****を―――
そして話しは、冒頭へと繋がって行く―――
強く拒み、突き放しさえすれば、真友も私の事を見限ってくれるだろう・・・
何しろ、この手は・・・もう―――
一転して禍奈子から生徒指導室に呼ばれた璃莉霞は・・・
璃:ジョカリーヌさん・・・
禍:(はあ・・・)滅多な事を口にするものじゃない。
確かに彼女は、君からすれば覚悟は足りていないのかもしれないが・・・
既にその場は、現実から切り離された空間でした。
その構成は、いつもジョカリーヌが他の姉妹たちと話し合いをしている―――あの空間と似た存在・・・
そんな空間で、彼女達は一体何を・・・?
禍:(・・・)それより―――聞こうか・・・
――一体何人殺してきたんだ。――
この場にいるはずもない存在は、あらぬ事を師より聞かされた―――
けれど、この空間に呼び出された者は、師からの質問に答えず、口を噤み黙して語らない・・・
禍:(・・・)聞こえなかったのかな―――一体、何人殺してきたのか・・・答えなさいリリア。
聞き間違いではない―――確かに師はそう言った・・・けれどもまだ信じ難かった・・・
そんな気持ちとは裏腹に、真友は絞り出すのがやっとの声量で、こう答えたのです。
璃:―――100人・・・
禍:そうか―――
今の私達の会話が、どう言ったモノか・・・君なら判ったハズだね。
璃:・・・え? 何を―――言っているんです?
すると師は、薄いヴェールを剥ぐかのように、そこには絶対いてはならない人物を、璃莉霞の目の前に現出させたのです。
璃:(! !! !!!)い・・・市子―――!!?
ジ・・・ジョカリーヌさん? なんで―――・・・
その場にいたのは、衝撃的な事実に晒され、固まっている市子がいました。
けれど・・・これで“何故”なのか、ようやく理解が出来た―――
何故あなたが人が変わったかのように周りを拒み始め―――
何故私を、ああまで強く突き放す態度に出たのか―――
けれどその先は、頭の中だとて言う事さえ憚られた・・・
禍:そんな事は知れている―――言わば市子も、また私達が賭けるべき“可能性”の一人なのだから。
璃:けれど―――だからと言って、市子にこんな・・・っ!! こんなにも・・・辛い事を、押し付けなくたって・・・!
禍:それは君の甘えだ! 確かに君はレヴェッカの教えにより、効率よく人体の急所を破壊し尽せる術を心得ている。
そんな君でさえ、躊躇なく・・・・・・・ゴメン―――今言うべきはそこじゃなかったね・・・。
ああ・・・そうだ―――私には全然足りていなかった・・・出来てすらいなかった・・・
他人を―――他者を―――他の存在を・・・“殺す”と言う行為の意義を・・・
殺人剣を会得している真友ですら、その行為を躊躇なく―――しかしながら、その行為に及んでいる・・・
けれども自分は?
実際にも他人に傷を負わせたこともなければ、死に至らしめた事すらない。
そして、今でこそあの言葉が蘇える―――
『なんの“覚悟”だ? それは・・・じゃあ確かめてやろうか―――ここに居る全員・・・殺してみせろ』
出来るはずもない・・・激しく怨み、嫌っていたとはしても、クラス全員と言う訳には―――
けれど、そう言う事なのです、“そう”割り切らなければ・・・行為に及べようはずがない―――
けれど、ならばどうして―――?
#123;わかりあえること
市:バカ! なぜそう言う大切な事を私に話してくれなかったの? 私はあなたの何なの? 真友じゃなかったの??
私の・・・勘違いだったの?
璃:違うよ・・・私は市子に―――市子の手を血塗れにしたくはなかった・・・
市:何を言っているの! 私はあなた・・・あなたは私! あなたと同じ道を歩む事―――それが私の希み!
それがどんなに困難な道程だろうが、朱に塗れていようが、あなたの横を同じ歩幅で歩まなければならないの!!
その途端―――堰を切ったかのように、堪えていたモノを溢れさせる2人・・・
そこには、誰が悪い―――と言った様な感じは一切ありませんでした。
突き詰めてしまえば誰もが悪かったのですから。
そしてようやく和解をした2人に、師は―――
禍:私にも落ち度があったようだ―――市子・・・君がそんなにも思い詰めていたなんてね。
(・・・)リリア―――これまでの経緯を話してあげなさい。
璃:(・・・)はい―――もう市子も知っているだろうけど、敢えて言うよ。
ジョカリーヌさん達はこちらの世界の人間じゃない―――いや、人間じゃなくて「魔族」なんだ。
市:その事は判りますけれど・・・「魔族」?
私達が常日頃、ゲームや小説などの世界で悪役に指定されている・・・あの?
璃:そう・・・けれど、私が知ってきた事実はちょっと違うかな―――
禍:うん・・・私達は彼岸もそうだけれど此岸のニンゲンや人間達にはない、“あるモノ”が産まれつき備わっている。
それは「魔力」と呼ばれるものであったり、数百・数千年を生きられる時間にしてもね。
市:けれど・・・それは「エルフ」?
禍:その解答では半分正解―――彼らエルフもそうであると言えるし、更に言えば「神」もある種「魔族」と言って差し支えない・・・。
市:(!)神ですらも??
そう・・・私達の世界では、主に二種類の知的生命体がいる―――
魔力を有し、長命の「魔族」―――
魔力はなく、短命の「ニンゲン」―――
ただここだけを比較してしまうと、魔族の方が優性種の様に聞こえるけれど、ニンゲンにはニンゲンの良さというものがある。
そこに目を付けたのが、私達魔族の長―――『魔王』なんだ。
師より語られたその言葉で、しばらく市子の頭は回りませんでした。
そん・・・な? 私達―――いえ私が師と慕ってきた方が魔族だと言うのは、百歩譲って好しとはしましょう・・・
けれど―――師の言う、魔族の長・・・『魔王』が? 魔王がやろうとしている事を、私達は手伝わされていた・・・?
やはり市子も、最初はそう思うしかありませんでした。
市子自身はプレイをしたことはありませんでしたが、同級生の男子や女子が挙ってプレイをしているゲームの内容を話し合っているのは自然と耳に入ってきていた・・・
その内容も実にありきたりのもので、『どこぞのダンジョンの攻略』―――だとか、『あのモンスターが経験値やお金やアイテムを多く落とす』のだとか・・・
そして極め付けが、『最終ボス魔王の攻略法』・・・だとか―――
そう―――魔王は、絶対的な悪であり、自分達人間が最終的に倒さなければならない存在・・・
その存在を倒さなければゲーム内の世界に安寧は訪れないし、ゲーム自体も終わらない・・・
それが今までの、自分達が知る「魔王の定義」―――なのです。
つづく