自分達は、知らない内に自分達の最終の敵―――ラスボスである魔王の為に、色々とやってきた・・・
けれど、それはそう―――
璃:それは違うよ―――市子・・・。
確かに“あの人”は魔王だ―――この世で一番、誰よりも弱く・・・そして強い。
その事を私は、彼岸に行って知って来たんだ。
市:“最弱”―――にして・・・“最強”? それって・・・矛盾してるではありませんか・・・。
璃:ああ―――笑っちゃうようだけど、本当だよ・・・。
もしかしたらソフィアさんでも楽勝―――な感じだろうね。
市:(は?)あの・・・そんな存在がラスボス―――って・・・
璃:だから違うの。
まあ言ったら・・・これまでの常識に捉われない方がいいのかもね。
それに―――魔王だからって、必ずしも悪じゃない・・・
市:どうしてそんな事が言えるの―――?
禍:それは、事実だよ―――市子。
市:(ジョカリーヌ様まで・・・)では―――
そこで璃莉霞は、事態がこうなるまでの経緯を話しました。
かつて自分と同じ名を持つ、孤独な王の事―――その王と、種を越えた友誼を交わした存在・・・
謀臣の謀により幾度となく生命を狙われながらも、やがて邂逅を果たした“運命の女”―――
思いは、たった一つ―――「戦争の回避」それでした。
けれど同時期に王は自らの死期を覚っており、謀臣が用意した毒杯を、“それ”と知っておきながら呑み干し、絶命をした―――
それに王には世継ぎはおらず、程なくして王国は滅び、王がいなくなったその事で実力ある諸侯達が頭を擡げ、
その世界は更なる混沌へと陥ってしまったのです。
一方魔族の方でも、新たなる魔王が登極はするものの、公約に掲げていた通りニンゲンとの戦争を即座に全面的に中止にさせ、
けれども今度は・・・
市:そん・・・な?!! ニンゲンが無抵抗な魔族達を・・・??
璃:ああ―――それを食い止める為に存在していたのが「南東の集落」・・・。
その場所は、魔族にとっては最終防衛ラインと言った処なんだ。
けど・・・
考えたくはなかった―――けれども考えざるを得ない・・・
そう、自分の真友はそこへと赴き、攻め立てて来ているニンゲン達に対し、退くように何度となく言い聞かせても聞こうとすらしない者達を・・・
禍:けれども・・・そうも言っていられなくなった―――度重なる疲労により、“太母”が倒れられたんだ。
市:マザー? マザーとは??
璃:第43代魔王―――エリス=ルベウス・ルクス=アンスラックス・・・
禍:私達の間では、“太母”と、そう呼んでいる・・・
そしてここで、市子もようやく知る―――現在の魔王の真名を。
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ニンゲンとの無益な戦争を止める為に、一方的に魔族側から仕掛ける事はなくなりました。
だとしても、戦争を仕掛けてくるニンゲン・・・
彼らの事をどうにか宥め透かし、目に付く戦闘まで発展させないようにはしてきたものの、それまでの無理が祟ってしまったのか・・・
過労によって衰弱―――ついには倒れてしまった・・・。
しかし、その事を知ったかと言う様に、ニンゲン達は反攻へと転じ、ようやく魔族側の最終防衛ラインである「南東の集落」を陥落させると、
自分達の侵攻最前線基地に組み上げようとした・・・そんな時に―――
リ:ここの責任者は誰だ―――?
兵:ああん? 誰だお前―――妙な格好しやがって。
リ:(・・・)そうか、妙な格好か―――
それよりお前達の指揮官に会わせて欲しい。
兵:ヒャッ―――ヒャッ―――ヒャッ―――w こいつ、傑作な事を言ってやがるが、お前は一体どこの誰なんだ?
哀しい事だ・・・かつてあんたが必死になって護ってきた―――その結果がこんなやつらか・・・
だけど今は短慮を起こしちゃいけない・・・多少頭にきたとしても、こんなつまらない理由で・・・
リリアも“イラッ”とはしながらも、その為の格好―――周りからは“妙”だとか“似合わない”だとか、そう言う理屈で脱ぎ捨ててはならない・・・
何故なら今リリアが纏いし服装こそは―――
すると程なくして別の兵士から聞き及んだものか、この集落を占拠至らしめたと思われる、このニンゲンの一軍の指揮官が現れ・・・
指揮:どうたのだ―――
兵:ああこれは、いえ実はこの怪しげなる女が、あなた様に会いたいと・・・
指揮:ふむ・・・? して、そこもとの名を聞こうか―――
リ:私の名は―――『リリア』だ。
指揮:なに・・・!? 伝説の英雄王と同じ名だと?!
だがしかし、その名こそは、そう―――既に後世に語り継がれるまでになった“伝説”・・・
その伝説の人物と同じ名のニンゲンがいる―――この事態に・・・
リ:・・・なぜ私を取り囲む?
指揮:伝説の御方が現代の世に居られるはずがない! 貴様は彼の御方を愚弄せしめただけではなく、我々ニンゲンを惑わそうとしておる!
直接攻め込むことはなくなったが、この様な手で我々を欺こうとは・・・化けの皮を剥がしてくれるわ、魔族め―――!!
リ:本当は・・・お前達に『退け』とだけ言いたかっただけだが・・・
そうか・・・それがお前達の覚悟だな―――そして済まない・・・師匠、私はまた一つ間違いを犯す!!
≪古廐薙:斬の閃裂・武刻斬波≫
高貴な蒼のドレスに重装の鎧、ドレスの色こそ違えど、その姿はニンゲン達の間で伝説までになり、語り、広められ、継がれてきた英雄の王―――
市:リリア・・・クレセントロード=オデッセイア!
璃:ああ・・・何の因果かは知らないけど、私はひょんなことからあいつと肉体を共有させた。
けれどそれは、今にして考えれば、私達があのゲームでやらされていた事と何ら変わりはなかったんだ。
市:では・・・こうなる事を予測して?
禍:その通りだ―――君達の中でも、璃莉霞は誰よりも一歩先に進んでいる。
だからせめて璃莉霞だけでも、事に至った真相を知っておいてほしかったんだ。
そして、その時機はようやくきた―――
璃:だけど・・・そんな私でも辛いんだよ―――他人を、他者を、他の存在を“殺す”と言うのは!!
だけど、そんなヤツらを、今までにも一滴の血すら流さずに追い返した人がいる・・・
市:それが・・・魔王―――
璃:強いだろう・・・? あんな、見かけの上だけではソフィアさんでさえ楽に勝てる人が、殺意・殺気を漲らせて群がりくる万からの敵を―――
そこで市子もようやく知ることになる・・・偉大なる魔族の王を―――
けれどその魔王が倒れてしまった・・・強大な力を行使し過ぎたその余波の所為か、徐々に蓄積された700年分の疲労を、
どこにも往なすことすらもせずに・・・。
だからこそ、市子は、改めて「思い」「知る」―――
市:そんな御方を敵としたなら―――・・・
璃:正直、考えたくもないな・・・そんなこと。
だってそうだろう? あんなにも芯の強い存在の根底から覆させるのなんて、700だろうが7000だろうが、いくら時間があったとしても足りはしない・・・。
それにエリス様には恩があるし、なによりあいつと固く手を握り交わしたんだ。
市:それがその服の―――
璃:秀ちゃんにも言われちゃったよ、『似合いもしないのに』って。
けれどそれは私でもそう思う・・・こんな足下まで隠れるような服なんて、動きにくくて仕様がないもの。
市子も、璃莉霞と同じくしてそう思いました。
自分の信念を曲げず、鋼よりも・・・ダイヤよりも硬いその矜持の下、一歩も退かなかった魔族の王たる真実を。
確かに、直接対決したなら誰でも勝てるのだろう。
けれども、その直接対決まで漕ぎ着けるのが至難の業―――なにより璃莉霞・ジョカリーヌの両名が口を揃えて言うのには、かの魔王は交渉の達人だとも言う。
そして思う―――そこは確かに“戦争”の一形態なのでしょうが、血で血を洗わない・・・流血がない戦争―――
相手から交渉材料としての情報を引き出し、それを提示することで退いてもらう・・・
“根気”と“意地”と“ハッタリ”の勝負―――まともな人間であれば、1年・・・保って2・3年で壊れてしまいそうなことを、
かの魔王は気の遠くなる時間、続けてきた―――
けれど、それももう限界―――
しかしそれに合わせたかのように、此岸での準備も整い始めていたのです。
市:それでは璃莉霞―――あなたがこれまでしてきた事って・・・
璃:そう―――エリス様の意志を継ごうとしたんだけど、この様だ・・・
本当に凄いよ、エリス様は―――私はこれまでに100・・・いや1000人以上を斬り殺してきた。
なのにあの人は・・・一滴の血すら流さず、あの場所からニンゲンの兵達を退かせてきたんだ!
禍:もう・・・自分を責めるのは止めなさい、璃莉霞。
あれはマザーだからこそ出来た事なのだから・・・
市:では・・・ジョカリーヌ様も??
禍:私だけではない・・・恐らく私の姉達もそうしてきた―――
判るかい? これが本来の魔族なんだよ。
なぜ、真友や師が挙って魔王の味方を―――肩を持つのかが判りました。
最弱ながらも己の信念を曲げず、いずれ来たる安寧の為に努力・邁進を止めぬ者・・・
魔王―――エリス=ルベウス・ルクス=アンスラックス
市子は、直接お会いしていないながらも、既に惹かれ・・・焦がれる気持ちを抑えられないでいるのでした。
#124;魔王―――その真実
つづく