「まさか」―――と、メンバーの誰しもがそう思っていた・・・
けれどそう、そう思われても仕方のないことだった・・・
何故ならそのメンバーは、自分達を罠へと誘い込み、荒ぶれる神に自分達を生贄に捧げようとしていたのですから―――
ドゥ:ワスプ―――バーディー!
ワス:ドゥルガー!?
バー:マリア・・・お前―――?
徐々に迫りくる3人の戦士―――片腕を失うと言うダメージを負い、動けなくなった相棒を救出する為駆け寄ったワスプ・・・でしたが。
この彼の突出した行動は、実は褒められるべき行動ではなかった―――逆に荒ぶる神の前には、格好の贄が2体・・・
この危機的状況を回避させるため、臨時指揮官のクリューチはクルセイダー・バンディット・ドゥルガーに彼女達2人の回収の指令を下したのですが、
ドゥルガーの恐るべき・・・いやここは優秀すぎた身体の性能により、彼女より先に行動していたクルセイダー達2人よりも先に、回収すべき対象に辿り着いた・・・
の、でしたが―――拳帝神皇は・・・
レ:(ヒョォオオ・・・)愚かもんが―――その行動が命取りになると知れい!!
クリ:消えた・・・? いや―――上空に回避?? けどバカな・・・あんな空高く―――
消えた―――わけではない・・・そう見えてしまっただけ。
驚くべき事に拳帝神皇は、信じ難い跳躍力を以て大空高く舞い上がった―――
それはまさしく、『水鳥』のように・・・
レ:『飛翔白麗』・・・我が拳は時として真空を纏い斬り付ける―――
遥か上空からまるで刃物を投げつけられたかというように、ドゥルガー・クルセイダー・バンディットの身体に斬り刻まれた痕が残る・・・
そして、ようやく知る―――
なんなんだあの人・・・あの人が闘う気になれば―――・・・
そう、闘う気になれば例え相手が何者であろうと、彼の者の征きし道を阻み行く者は滅せられるまで・・・
リ:カ―――ッカッカッカ!w どうした、もう終いかあ? 歯応えがないのう!
強者は、それゆえ高らかに嘲う・・・けれどそれが強者の特権―――
そして曝け出されてゆく、弱者としての自分達・・・
今まで通用していた自分達の闘い方が、通用しなくなる―――その瞬間。
そう・・・DIVA達に回復役はいない―――治癒する前に攻撃多過によって敵を殲滅する・・・
その根底が、今覆されようとしていたのです。
拳帝神皇が放った技により、前線にいる5人の体力が“レッド・ゾーン”に落ちる。
“あと一撃”で死亡は確定―――そうはさせじと、クリューチを除く他のメンバーが駆け寄ろうとした時・・・
レ:馬鹿たれがぁ・・・周りをよう視て動かんかい! おしおきじゃあ―――・・・
≪裂脚空舞≫
またしても―――今度は“脚”を用いた技で、残りのカリギュラ・バジリスクも同程度のダメージを負わされたのです。
まさか・・・たった一人に、これ程の苦戦を強いられるとは―――
そう誰しもが思った時に・・・―――
クリ:ねえ・・・あんた、なぜこんな処にいるんです?
あたしらの・・・こんな無様な姿、観る為だけにいる―――ってなわけじゃないですよねえ?
バー:クリューチ・・・なに―――を?
クリ:あたし・・・最初っから不思議に感じてたんですよ――― それはマリア、あんただ。
今回の一件て、そもそもがあんたが仕組んだ事なんだろ? あたし等に限界を感じて―――そして“元”エネミーにあたしらを売った・・・
そんなあんたが、なんであたしらと一緒に闘っているんだ?
バー:(ハッ!)言われてみれば・・・それは本当なのか。
ドゥ:それは本当よ・・・じゃあ聞くけど、あなた達あのレイドで少しおかしく感じた事はなかったの?
確かにあのレイドでは、ゲームのイベントとしては勝った事にはなっているけど・・・けれど内容としてはどうなの?
だから私は思う処があって、今回用意させてもらったけど・・・なによコレ―――全然ダメじゃない! やはり私達に必要なのは、回復役なのよ!!
そこは、指摘されるまでもない―――メンバー全員が感じていた事・・・
けれどもう、変われはしない―――変えることが出来ない・・・永く染み込んだ“クセ”。
それをこの時期になって“変える”と言うのは、得てして難しい話し・・・だからこそ―――
ドゥ:見せて下さいませんか―――“本当の”あなたを・・・
ユ:・・・わたくしを―――?
ドゥ:そうです―――
ユ:・・・なぜ―――
#127;これは純粋なる“魂の契約”だからです
すると彼方の表情が、これまで以上に和らいだ・・・
“あの時”とは―――レイドボス四凶の一柱である『エニグマ』の時とは考えられないくらいの、穏やかさ―――清々しさ―――神々しさ・・・
エニグマを象徴させていたのは「黒」―――そして誰が名付けたか、こう呼ばれていました・・・『黒衣の未亡人』と。
けれどこの場にいたのは、「黒」とは正反対の「白」―――白を基調として、淡い色で存在性をアピールする、『東の魔女』・・・
ユ:スキル解放―――来れ『癒しの大樹』!
≪ユグドラシルの薫風≫
彼の者からの召喚に応じ大地より突然現出してきたのは、数ある伝奇ものの中でも「世界樹」として知られる大樹でした。
そしてスキルを解放すると、いずこより爽やかなる風が吹いてきた―――そう感じたかと思うと・・・
クリ:(!)こっ―――これは?
バー:どうしたクリューチ―――
クリ:毎時2秒毎に500の脈動回復?? 有り得ない・・・あたしが持ってる脈動系の回復術のデータは、最大でも100か200そこらなんですよ!
バジ:なんだ・・・と?!
クリ:ドゥルガー・・・この人、一体何なんですか??
クリューチ以外、傷を負っていないメンバーは一人としていない・・・
けれど、“元”エネミーだった存在が行使した魔術とは、あの時自分達を散々苦しめた『暗黒魔導術』ではなかった・・・
“世界”を象徴とする大樹―――「ユグドラシル」・・・その大樹から流れてくる薫風には、“治癒”や“回復”の効果が含まれており、しかもなによりも継続して行われていた・・・
だからこそ―――
レ:フン―――・・・相っ変わらずいびせなあのが、いなげな事をしくさってくれるよぅのう。
ドゥ:あの・・・レヴェッカ様―――もしかすると・・・
レ:ワシらとこんないつとは、相性が悪い―――ちゅうもんじゃないんよ。
もちろん、敵としてじゃがのう―――考えて見いや、ワシらが片っ端から蹂躙かますのに、片っ端から治していきよるんでえ?w
今は敵対としている存在から、らしくもない思わぬ発言に誰しもが耳を疑いました。
しかしそう―――今拳帝神皇が発したのは、自分達が与える攻撃以上の回復の量を誇る術のそれ・・・
そしてようやく気付く処となる―――・・・
クリ:なんて事だ・・・この人、何もかもが突出し過ぎてる!
気を付けてください、この人・・・いや、この“何者か判らない者”は人間じゃありません!!
ユ:そう・・・わたくしこそは魔族―――名を、東の魔女ユリア=フォゲットミーノット=クロイツェルと申し上げます。
バー:な・・・に? 魔族―――だ・・・と?
バジ:いや、だがちょっと待ってくれ? ではなにか? オレ達はその魔族の手によって・・・
クル:活かされもし・・・また殺されもしている―――?
バン:一体どっちを信じりゃいいんだ!?
レ:どっちもほんまよぉ! 今はワシがおどれらを殺す側で、あんないつが活かす側―――そう心得い!
≪千手壊拳≫
“理屈”によってではない理解に及ぼすには、やはり実体験が一番―――とでも言う様に、またしても拳帝神皇の剛拳が炸裂し、5人が死亡―――
の確定に至るまでに、やはりそれを阻んだのが・・・
ユ:このわたくしが戦場に立ちたるからには、ただの一人も死なせはしません!
≪ユグドラシルの葉脈≫
信じ―――られない・・・5人同時に死んだと言うのに、やはり同時に死を予期していたかのように間髪を入れず5人全員を蘇生させられるだなんて!!
蘇生の術は個人一人を復活させるのも大変・・・それと言うのも、蘇生の術を発動させたとしても、確率性としての問題もあり、
なにも蘇生術を唱えれば100%復活させられる保証などないのです。
なのに、東の魔女は同時に死亡した5人を、100%の確率を以て・・・しかも同時に蘇えらせたのです。
そして東の魔女を苦手とする拳帝神皇は・・・
レ:(チッ)やはりのぅ・・・ワシ一人じゃキツいわい―――
バー:なんだと? まだ他にも??
クル:そう言えばクリューチ・・・あんた確か『エネミーは2体』って・・・
クリ:ええ―――そうですよ・・・けど「もう一つ」はあれから全く動きがなかったもんでね・・・そこまで警戒してなかったんですけど・・・
ドゥ:ジゼル? あなた・・・震えてる?
クリ:ええ―――今すぐにでも逃げ出したいくらいにはね・・・。
へへへ―――けど、なんだこれ・・・バリクソ面白れぇ!ww
クル:あんた・・・ちょっとイッちゃったんじゃないでしょうね―――
クリ:さっき、あんた達全員が感じた「地震」ありましたよねえ?
あれってさあ、少し妙だとは思いませんでした? ここ・・・仮想の世界なのに、『地震なんかあるんだ』って・・・
バー:あ・・・ああ―――それは私でもすぐに感じたが・・・
クリ:あの地震さあ―――すぐにその原因は判ったんですよ・・・。
あれってね、天変地異の自然災害の―――じゃないんですわ・・・
今自分達の目の前に見えているのは、1体のエネミー・・・だけでしたが。
クリューチは当初事態がこうなる時に、エネミーは2体だと明言していたのです。
で、あるにも拘らず、実際に姿を見せているのは「拳帝神皇」のみ―――
すると、相棒からの要請に応答えるように、また動き出した・・・
優れた情報分析官が認知していたのは、彼の2体がこちらに向かっていた時、クラン全員が感じていたと言う「地震」の時から・・・
この世界は、現実とはかけ離れた場所に、“仮想”として創造られた世界―――だからこそ、運営開発側が意図としてなければ、突発的な自然災害は起こらない・・・
しかしそれこそはまさしくしてそうだった―――この地震は、天変地異や況してや自然災害などではなかった・・・
バー:て・・・天変地異や自然災害ではないとしたら、一体何なんだこの揺れは!!
クリ:「一つの存在の仕業」・・・つったら、一体どれくらい信じてもらえます―――?www
いやあ〜〜こりゃ規格外も規格外―――!w もはやチートレベルじゃ済まされないくらいだわ!ww
クル:な・・・なに言ってんのよ! ジゼル!! あんたこの非常時に・・・
クリ:だってこんなん笑えてきちゃうでしょ?w 全長50m 体重10t その拳や脚はあの「エアーズロック」よりも巨いんですよ??
バー:そ・・・そんなバカな??
その存在の事を『破神壊帝』と呼ぶ―――
仮想内の世界で起きたとされる、起こり得ない自然現象―――「地震」を起こした張本人であり、
破壊の申し子とも言われた巨大な存在が歩み出した影響により、「地震」が起こったものだと誤認識させられた・・・
そして、知ったからには知らなければならない―――彼の者を要警戒する際には、降り注がれる拳や脚自体が、「破壊」の手段なのだと。
つづく