プ:さて・・・一体何から―――どこから話した方がいいのかな・・・。

  ふむ、だがやはりそうだね―――()()()()べきだろうセシルグラディウス

 

 

するとその瞬間―――眠っていた記憶が呼び覚まされたのでした。

 

 

 

#129;呼び覚まされた記憶

 

 

 

それは、王の死去以降のお話し・・・

強力な権力を有し、ニンゲンを纏めていた国家の主たる者が、その“後継”を決めないままに奸臣逆賊の徒の(はかりごと)によってくなってしまった・・・。

しかも奸臣逆賊の徒も、また何者かによって繋がれていた牢獄で首ナシの状態で見つかる始末。

 

これによってニンゲンの国は、瞬くの間に分裂をしてしまいました。

 

そんな最中(さなか)―――かつては王の近衛長を務めていたセシルも、今では使えるべき国と主を失い流浪の身となっていました。

 

 

王―――リリア様が亡くなられて、こうも容易く瓦解してしまうとは・・・それに宮廷魔術師イセリア殿も行方を眩ませる始末。

それに私は、今まで一体何の為に為すべきを為していたと言うのだ。

 

 

セシルの去就もいかばかりか・・・為すべき事の大義を失い、今では各地を転々とする有り様。

けれどそこで気付かされることも儘にしてありました。

 

自分達はニンゲンの国の都に暮らし、しかも自分は宮仕え―――ゆえに知る由などなかった地方の状況。

自分はこれまで飢えた事など一度としてなかった―――なのに・・・

今でさえ地方では餓死者が出ているこの実情に。

 

 

私は生まれてこの方、この両の眼で一体何を視てきたのだろうか・・・

都では小さな子供が快活に笑い―――元気よく遊んでいたモノなのに・・・

それに、その事こそが“常識”だと思ってさえいたのに―――

今まで私が巡ってきた村落・集落では、小さな子供でさえも貴重な労働力・・・

そして未だに纏わりつく、物欲しそうに見つめる幼い視線や、怨みを募らせた視線―――・・・

王は、この事を知っておられたのだろうか・・・それに、宮廷魔術師は?

 

 

自問自答をしてはみるものの、その何れ(いずれ)らない・・・

知ろうだにしてこなかったから判るはずもない・・・

セシルは(つい)には、その視線えかねなる歩み出・・・

セシル放浪の実は、そんな処にあったのです。

 

 

* * * * * * * *

 

 

そんなセシルも5年の歳月をかけ、放浪をした果てにようやく落ち着ける場所に身を置くことが出来ていました。

かつての身分を棄て、一人の民として暮らし始めて更に3年の月日が流れた頃、セシルの居住を訪ねて来た者がいました。

 

 

セ:はあーい、どなたです―――・・・宮廷魔術師・・・。

 

イ:ようやく見つけ出した―――セシル、私と一緒に来てもらいたい。

 

セ:は・・・あ―――けれど一体どこに?

 

イ:私の、『固有領域』だよ。

 

 

不意に分かれた、ニンゲンではない友の来訪に、当初セシルも驚きはしましたが。

どうやらイセリアの方もセシルの行方を捜していたらしかったのです。

 

それに久方ぶりに会ったと言うのに、急いた(せいた)様子イセリアセシル招待したのです

そう―――北の魔女たる自身の・・・『固有領域』へと。

 

そして知る―――イセリアが・・・宮廷魔術師が、本来何の魔族であったかと言う事を。

 

 

セ:(こっ・・・これは―――)聖典(バイーヴォ)記述られるような・・・楽園(エデン)

 

イ:本当は・・・こう言う造りにはしたくはなかったのだがね―――どうあってもこう言う造りにしないと気が落ち着かなかったよ。

  これも・・・自業自得と言う奴なのだろうね。

 

 

自嘲気味に笑いはするものの、そこにはどう見立てても教会の聖典や聖堂のフラスコ画に見られるような、

『楽園』=『天国』を想起彷彿させるモノがそこにはありました。

 

それにイセリア自身は(一応は)否定はするものの、ニンゲンであるセシルには()()えてしまう―――

それと同時に、自分のニンゲンではない友が何の魔族であるか気付いてしまった・・・

 

 

セ:宮廷魔術師イセリア―――まさかあなたは・・・“神”?

 

イ:ふうむ・・・やはりそう思えてしまったか。

  セシル、それは間違いであると言ってよいし、また正解だと言ってよいだろうね。

 

セ:な・・・何のことを? 私にはさっぱり―――

 

イ:確かに私はね、かつて「神の種属」に属していたのだよ。

  だがね、そんな彼らだとて、一括りにしてしまえば「魔族」である事に外ならない。

  いいかいセシル―――この世界で知的生命体としては、概ね2つの種属しか存在しない。

  それが君達の「ニンゲン族」であり、もう一つが・・・

 

セ:あなた達の「魔族」―――

 

イ:そう言う事だ。

  ではこの二者の違いはどこにあるのか・・・長らく付き合いのあった君なら、もう察している事だろう。

 

 

そう・・・それが「魔力の有無」―――そして「生命体として持続できる時間」・・・

けれど「神」を至上として崇める宗教は、いつどこの世界でも存在し、事実セシルも毎日毎朝の礼拝を欠かした事がなかったことから、

「神」=「魔族」と言うのはどうしても受け入れがたい処があったのです。

 

それにまだ更には―――

 

 

セ:宮廷魔術師イセリア―――あなたが言っている事はいまだ判らない事が多い・・・が。

  あなたは先程『属していた』と? 『属していた』とはどう言う事なの・・・ならば今はそうではないの??

 

イ:結論から言ってしまうと、そう言う事になる。

 

セ:なぜ・・・?

 

イ:いいかね―――セシル・・・。

  これから私が言わんとしている事は、今まで神と言うものを崇拝してきた君にとっては、到底受け入れがたい事だからなのだよ。

  なぜなら・・・神が(まこと)『正しい』とはらないから

 

セ:まさか・・・? 神は神聖にして正義―――なのですよ・・・? 私はそう・・・教会で―――

 

イ:それはまあ、教会としては「神の正しさ」を教える処だからね。

  では一つ伺うとしよう―――神が(まこと)万能ならどうしてこうも不平等なのだろうね。

 

セ:そ・・・っ―――それは・・・神は私達に・・・

 

イ:過酷な試練を与え、より正しきに導く為―――かい。

 

セ:そっ―――そうです! それこそまさに神の教えにして配剤・・・

 

イ:君―――それが少し異常だとは思わないかい?

 

セ:―――は??

 

イ:(・・・)まあいい―――そこから先の事は、また話す機会もあるだろう。

  それに、君の大元の質問の答えとはなっていないしね。

 

セ:え??

 

イ:ほら、君も言っていたじゃないか―――なぜ私が、今は「神の種属」ではないのかと言う事を。

  君も敬虔な信者にして、神を崇拝し教会に足を向かわせた事があるなら、聖典を一回くらいは読んだ事があるだろう。

 

セ:もちろんです! 何度も何度も読み返し、それはもう内容を諳んじ(そらんじ)るくらいにまでは・・・

 

イ:ほほう―――それは感心、熱心な勉強家だ。

  ではセシル=グラディウス―――聖典564ページには何が書かれてあったか、思い出せるかね?

 

 

564ページ目・・・? 確かその項は―――・・・

 

『かつて天上に内乱有り、天に仕えるべき御使いが、全知全能なる天に背き、地の底へと堕とされん。』

 

聖典の内容とは、概ねそうでした。

表現上としては所々を上手くボカしているものの、そこの処は教会の司祭や神父たちにより付加の教義として広められ、

今となっては神の御使いに扮した悪魔が、神の御座を揺るがそうとしたのだとか・・・

 

では―――? 宮廷魔術師は・・・北の魔女たるイセリアは、天に・・・神に弓を引いたのか―――?

 

そうも思いたくもなるのですが・・・

 

 

イ:君が―――私の事をそう思いたければ、そう思っても構わない・・・。

  私もね、「あの時」が来るまでは、信じていたのだよ・・・『神』を―――

  だが「あの時」を境に、私が信じるものは奪われた―――だからこそ“失道”し、「魔女」として生きる選択をしたのだよ。

 

 

余りにも衝撃的な告白―――それも、イセリアはその意思とは関係なく、天上の内乱に巻き込まれてしまった・・・?

しかも巻き込まれただけならいざ知らず、冤罪に落とされてしまった・・・

 

では一体、イセリアが言っていた「あの時」とは何を指すのか・・・

そして、どうして崇高なる「神の種属」としての地位を棄てなければならなかったのか。

 

そこは興味の対象となる処なのでしたが・・・

 

 

* * * * * * * *

 

 

ここで場面は―――一転して現代の仮想内・・・クラン・ナユタ教の「ルーム」に移り・・・

 

 

セ:思い・・・出した―――なにもかも・・・

 

ブ:セシル卿、大丈夫なのですか?!

 

セ:ええ・・・大丈夫です。

  けれどプリン、ならばなぜあなたが一つの存在性を割かなければならなかったのです。

 

プ:それを―――「これから」話そうと言うのだよ・・・だがまあ、大凡(おおよそ)しはついているのだろうけれどね・・・。

 

 

 

つづく