ニンゲン達の拠点である『南東の砦』から逃走を図り、着の身着のままに進んでいたものの。
その先―――リリアが逃走先にと選んだその向こう側から、ニンゲンの侵入を監視、もう少し平たく言えば「阻止する為」に警戒に出ていた、
ある「人」ではない存在と遭遇してしまった。
一つは自分達も知るオオカミの姿をしながらも、実際のオオカミよりも巨大で獰猛にして残忍な、固有名を『魔堕羅』と呼ばれる饕餮と。
その饕餮すら手懐け飼っているかのような印象さえ与える「もう一人」・・・
藍色の太い2つの三つ編み、琥珀色をした闇でも一際目立つ煌々と光る眸、口から覗いて見える牙を思わせる犬歯、
肌の色は暗くてよくは見えないけれど、恐らく思い描いているように青褪めているのだろう・・・
そう―――この存在こそ間違いなく・・・
?:それ・・・で? あんたら何でこんな処にいる、この先に何があるのか・・・それを判った上でこっちへ向かっていたと言うのかい?
饕餮ほどの魔獣を手懐けるのもそこそこに、自分達がなぜこんな処にいるのか―――と、厳しくも鋭い質問が突き付けられる。
そこでどう答えたものか・・・と、リリアが迷っていると。
魔:{子爵様、その事に関してなのですが・・・}
このやり取りを見させられた途端、リリアの警戒レベルが2段引き上がりました。
有り得ない―――信じられない・・・リリアは、この饕餮が為したことに、ただ怯えました。
そのことに、普段なら怯える事のない真友が怯えている事を知り、市子は・・・
市:どうしたのです?
リ:気を付けろ・・・あの饕餮・・・私達の言葉を―――「人語」を解し、また使っている!
その告白と同時に市子にも動揺が奔りました。
「人語」を理解しまた話せると言うのは、自分達と同等の知能を兼ね備えている・・・と、言う事。
しかしながら彼の二の存在は、彼女達の事には興味がないとも言いたげに・・・
魔:{この者達は、彼の砦より逃げ来たものと思われます。}
震えは・・・止まらない―――
それにこの魔獣は、自分達が今どうしていたのかをさも知るかのごとくに、自分の主人である『子爵』―――・・・
『子爵』??! ヤバい―――ヤバい、ヤバい、ヤバい!!
本来なら魔獣がそう呼んだ時に気付いておくべきだった―――
それが気付いたのが遅れた途端、リリアがこれまでにもない怯えた表情を体現させたのです。
リ:気をっ・・・つけて―――こ、こいつ・・・っ、ヴ・・・ヴァンパイアだ!!
市:ヴァンパイア? けれどどうしてそんな事がわかるんですか?!
リ:ある人から聞いた事があるんだ・・・魔族の中でも貴族の階級を彷彿とさせるモノを持っている存在がいるって事を・・・。
その存在こそヴァンパイア―――そしてその階級こそが『子爵』!
貴族の階級を示す『爵位』と言うモノがあります―――「公」「候」「伯」「子」「男」・・・
その中でも目の前にいる魔族が、「ヴァンパイアの子爵」だと言う事が知れました。
けれどリリアはその事を知ったのと同時に、ある不思議な感覚に陥ったのです。
あれ・・・? そう言えば私―――誰からその事を聞いたんだっけ・・・?
そうだ・・・確か藍色の太い2つの三つ編みが特徴的で・・・
あれ―――? そう云えば、どことなくこのヴァンパイアに・・・似ている??
初めて会った―――と言うのに、そう思えない。
まるでデ・ジャ・ビュ。
しかし、そんなリリアとは対照的に、こちらは―――
子爵:ふう〜〜〜ん、つまり―――上手くバックれたと思ってたのに、何か面倒臭い・・・ヨケーな拾いもんをしちまった・・・と。
魔:{(はあ〜・・・)子爵様、口のお慎みを―――}
子爵:わあーかってるってよ、そう煩く言うな。
で? どうする―――面倒ついでだからあの砦に“お返し”しとくかあ?ww
魔:{子爵様・・・お戯れも程々に。}
子爵:判った―――判った・・・おい、お前ら、こいつの背に乗んな。
リ:えっ? わ・・・私達が??
子爵:あ゛ん゛? まだ他にもいるのかよ。
市:いえ・・・私達だけですが。
子爵:だあーったら、つべこべ言わずにさっさと乗れ。
さもないと本当にあの砦に返すっぞ。
なんとも拍子抜け―――とでも言った方がいいのだろうか?
そんな、まるでコントのようなやり取りを二・三交わせると、自分達は魔獣の背に乗せられ・・・
揺られながらその魔族「ヴァンパイアの子爵」が拠り所としている場所へと連れて行かれたのです。
この道中にさらにリリアが気付いたのは―――
あ・・・この子爵って人の三つ編みのリボン―――私が以前ある人に贈ったのと同じだ・・・
自分達を先導し、背を向けている子爵の姿に、リリアはどこか見覚えのある“あるモノ”を目にしていました。
それがリリアが以前に“ある人”に贈ったモノ―――けれどもどうしてもその“ある人”の事が思い出せない。
何かこう・・・強力なプロテクトでもかけられているかのように―――
#132;魔族の拠点
そうこうしている内に深い森を抜け、開けた場所に出ると、その先に一つの“集落”の様なものが確認されました。
リ:あの・・・少しいいですか―――
子爵:ん〜〜? なんだ―――・・・
リ:「アレ」って一体・・・
子爵:「アレ」? ああ―――私らの「拠点」だが?
リ:「拠点」・・・て?
すると子爵はこちらを“じろり”と見ながらも、けれども返答はしませんでした。
そう・・・自分達は魔族でもなければニンゲンでもない―――言わばの「第三勢力」・・・の、ようなもの。
そんな存在に自分達の重要な情報を漏洩させる者がいるものか―――とでも言いたげな表情をするものでしたが・・・
しかしそれにしても、自分達は一切拘束されていない・・・逃げようと思えばいくらでも逃げれる―――が、しかし・・・
如何せん知らない土地は不慣れな上に、事情はまだそれ以上に知らない、だからこそ大人しくしている以外にないのです。
そして拠点に入―――場???
蜥蜴:おお―――子爵様がお戻りになられたぞ!
鰐:魔堕羅殿もご一緒だ!
オーク:いや待て、それにしては様子がおかしい。
人狼:ああ・・・あれは―――ニンゲン?
人虎:ニンゲンが・・・なぜここに―――?
子爵:待ちな―――こいつらは一見ニンゲンの様にも見えるが、ニンゲンじゃあない。
それより『軍師』と『参謀』は?
豹耳:それはないですよ―――私達の「中隊長」であるあなた様が、定時の会議に現れないものですから・・・
子爵:あ゛〜〜〜・・・さすがにまずい?w
豹耳:知りませんよ――――参謀殿、目を吊り上がらせていましたから。
子爵:な・・・なああ〜〜〜またいつもの様に・・・
豹耳:イヤです! またあなた様達の巻き添えは御免被りたいです!
この場所に子爵が戻るなりに、皆口々に囃し立てる―――それに少しながらこの子爵の立場と言うモノが理解してきた・・・
この子爵こそは、この拠点を与る者にして統率者―――そして責任ある立場であると言う事は理解してきたのでしたが・・・
それにしても、あのニンゲン達の砦とは一変して、雰囲気が違っている・・・
ニンゲン達の砦は陰気で、誰もが会話を交わそうともしない・・・たまにそうした場面に出くわしたとしても、“ヒソヒソ”と人目を憚るかのようなモノばかり。
いつも“誰か”を疑い―――味方であっても味方でないような気すらしてしまう・・・
なのにこの魔族の拠点は、種属は皆それぞれが違うけれども、表情も明るくどこか陽気で気軽に誰とでも会話を交わし合ってる。
またそれでいて“縦”の繋がりとしてもちゃんと機能しており、上官の帰還と共に喜びに沸く者達―――
ああ・・・そうだ・・・これって、あのゲーム内での雰囲気と同じだ―――
いいなあ・・・やっぱ、こうでなくっちゃ―――
リリアは、今回観させられた対象は違ってはいても、自分がプレイをしていたゲームと同じモノを観せられ、少し安堵をしました。
とは言え、そうであってもどうやらこの子爵は、問題行動を起こしていたようで。
その事を獣耳が可愛らしい少女―――どうやら子爵の副官を務めていると思わしい彼女から痛烈に批判されていたのです。
しかし―――そう・・・ここは「拠点」。
普通に過ごす場所であれば、「街/町」でよかろうものを、ならばなぜ軍事施設の様な言い方をしたものか・・・
それに、『軍師』に『参謀』・・・
そうなのだ、やはりこの世界は戦乱の只中、この場所が一つの軍事施設であり、「中隊長」としての役割を与えられた子爵―――
その「中隊長」に、何らかの“戦術”“戦略”を提供する者達がいる・・・その二の存在にこれからの方針・指針を求める為、子爵はその者達の帰還を待つことにするのですが・・・
取り敢えずは―――・・・
子爵:少し待ってな―――それより何か飲むか?
市:い、いえ―――別に・・・
子爵:あ〜〜〜っそ・・・で? 何だお前―――さっきから他人の顔をじろじろ見やがって・・・
どこの誰とも分からない自分達を、こうも手厚くもてなし警戒を解かせようとしている、この拠点の責任者。
それに市子は少々疑問に感じ始めたのです。
未ず知らずの私達に、こうまで優しく接してくれるものとは・・・
先程のニンゲンの砦では、こうまでならなかった―――なのに・・・
それに―――この方・・・以前どこかで会った事があるような?
市子でさえ、徐々にそう思えてきた―――ならばリリアは?
リリアは・・・先程から“まじまじ”と、子爵の顔を見つめていたのです。
つづく