“ニンゲン”の軍事施設である『東南の砦』から逃避してきたと思われる者達を確保し、この2名もの不審な人物達をどうすべきか―――を。
自分をサポートしてくれる2名の帰還を待つため、この拠点の責任者とみられる子爵自身の部屋―――。
この拠点内では少しばかり見栄えの良い建物の一室に招かれたリリアと市子。
けれどそう・・・いまだ「自分達」は不明―――どこの勢力に所属しているかも判らない・・・のに、客人待遇とは。
その事に市子は薄々ながら勘付き始めている様なのですが・・・ならばリリアは?
子爵:ん〜で、何だお前・・・ジロジロと他人の顔を見つめやがって。
当のリリアと言えば、ある時点から当の子爵に不審がられるまでには、彼女の顔を見つめ過ぎていたのです。
そう・・・まるで何かを確かめるかのように―――
するとリリアが何かを言いかけようとした―――その時、けたたましく開かれた部屋の扉、と共に入ってきたのは。
#133;軍師と参謀
?:子爵殿!一体どこをほっつき歩いていたのですか!!
豹耳:(あ゛〜)戻られたようですねー。
子爵:うっわ、こりゃすんごい剣幕だことw
?:笑いごとで済まされますかッ! 全くあなたと来たら・・・
?:よし給え―――
?:でっ・・・ですがしかし―――
まるで鬼も裸足で逃げ出しそうな形相をする女性の豪傑が、入室をするなりの怒鳴り声一発。
するとこの女傑とは夫婦・・・なのだろうか? 少し落ち着いた雰囲気の男性。
いやしかし、この二の存在を見るなり。
市:おば様?森野のおば様では??
リ:それに・・・お父―――さん?
市:ええっ?
リ:あっ、そうか市子は知らないんだっけ・・・。
あの男の人、杜下の大旦那様だよ。
そして私の―――・・・
見間違うはずもなかった。
市子は、森野家の現当主であり、清秀の母である「森野婀娜奈」から、息子の事を宜しく頼まれていたのですから。
そして璃莉霞は、ある機会に自分の実の父である「杜下 驍」と再会し、長年の蟠りを解いたことがあった。
なのに??
ここは「彼岸」、「此岸」とは全く異なる次元―――であるはずなのに・・・なぜこの2人が?
けれど、そんな市子にリリアの思惑とは裏腹に、状況は流れて行き―――。
子爵:まあまあ―――そんなん額に青筋立てんでいいじゃん、「ミトラ」ちゃんw
ミ:(ぐ・ぬ・ぬ・怒・怒・怒)全くあんたと言う人は―――昔っからその性格、変わりませんよねえ?!
子爵:オイオイ―――勘弁しろってよw 生まれてこの方のこの性格、変えられるもんだったら変えてもらいたいわあ〜w
豹耳:私だってそう思います。
是非とも、こういう性格変わってもらいたいものです。
子爵:う゛っへ、お前・・・随分と言う事が辛辣になってくるじゃねえの゛。
豹耳:ならばもう少し、あなた様の副官たる私の手を煩わさない様にして下さいな。
?:もう、そろそろよろしいかな?
子爵:あんたは・・・また随分と変わっちまったなあ〜。
以前は随分と私寄りだったのに、どーしてこうも淡泊おやぢになっちまったもんだかなあ―――「ペルセウス」。
しばらくこの4人のやり取りを見ていて判ってきた事。
2人の「魔族」に、2人の「ニンゲン」?「人間」? いずれにしろこの4人は互いに気心の知れた仲。
しかも「人間」と見られる2人は、少なくとも「魔族」である子爵に下に仕えているかのようだった・・・
自分達のように、苦楽を分かち合った事のある「友」―――
すると、何かの呪縛が解けたかのように・・・
リ:「サヤ」・・・? そうだ―――思い出した! 子爵、あんたの名前、「サヤ」でしょ!!
市:(え・・・)えっ?! ・・・小夜子?
私も思い出してきた―――そうだわ、あなたは・・・
サ:ヤァ〜レヤレ、どうやらしくじっちまったみたいだな。
どうにも苦手なんだよ、術式ってやつは。
ミ:サヤ、これは不手際では済まされませんよ。
サ:はぁーいはい、判ってござんすよ婀娜奈さんよ。
ま、私の正体なんぞは後回しだ。
んーで、そろそろ聞こうか、ターさん。
「ようやく思い出してきた」かと言う様に、リリアと市子にかけられていた記憶の封印が解かれてしまった。
以前「此岸」の次元で友としての誼に契りを交わした人物。
名を「橋川小夜子」、けれど彼の者も、また彼の者が所属していた「家」も、言わばまやかしも同然だった。
たった今知れたように、魔族であるヴァンパイアの―――それも貴族としての階級「爵位」を持つほどの実力者が、自身の事を眩ませるのに大した労力を要さない。
来たるべき時が来れば自分達の様に記憶に封印を施し、自らの事を曖昧にさせる。
しかしこうして封印は解かれました。
解かれた・・・のではありましたが、サヤは自らにかけられている疑惑よりも前に、「軍師」と「参謀」から現在の状況の把握のためにと、報告を求めたのです。
ペ:先程入った斥候からの情報により、何者かがニンゲンの勢の「東南の砦」に侵入・・・捕えようとしたところを、十数名を斬り伏せ逃亡を図った模様―――との事です。
ミ:なんでも、その「何者」かとは、2人の女性であったそうな。
それで、この者達は?
サ:さぁ〜ってなあ?w まあ、確かに私がバックレ・・・・ん゛、ん゛っ!見回りに出ていた時に、バーッタリと出くわしちゃったもんでさあw
ミ:ほ・ほ・ほぉ〜う? 何ぞ面白い事を言うじゃありませんか?子爵殿。
そもそもここの司令官であるあんたが!なぁーんで自分の拠点をほっぽらかしにして見回りなぞっちゅ〜うものを??
ペ:止めなさい―――ミトラ・・・他人前だぞ。
ミ:ペルセウスなぁぜ止めるのです! 軍師たるあなたからもキツく言ってやってくださいっ!!
ぺ:(ううム・・・胃が痛い―――)そうは言ってもなあ。
ならばどうしてお前は、その「何者」かという未明の存在を、この者達に結び付けようとしておるのだ。
ミ:状況からして間違いないでしょう? 報告された「時間」―――逃亡を図った「時間」―――そして「何者」かの行方を追った兵士の悉くが・・・
サ:ああ〜そいつらならね、いま魔堕羅のやつの腹ン中―――。
ミ:(・・・)なんですと―――?
豹耳:ああそれでですか、魔堕羅殿そとで“ケロケロ”やってましたよ。
ペ:何か、言っておりましたかな?
豹耳:『もう脂っこいもの、勘弁願いたいです・・・。』とか―――。
ミ:だ、そうですが・・・(ジロリン)
サ:判った判った、そんな白目で見つめてくるなって・・・。
だって仕方ないぢゃん?こいつら追われていたんだしぃ。
ミ:しかし、これで一応の踏ん切りがついたと見るべきですかな。
リ:あのぉ・・・すみません―――
ミ:あなた達、あの場所で自分達が何をしでかしたのか、判っているの。
リ:いえ―――・・・
ミ:でしょうね。
判っていたなら斬り伏せたりしないのでしょうから。
サ:その辺にしといてやれ―――。
どうだ、判っただろ、これがこの私達の世界の現状―――ってやつさ。
なまじっか首を突っ込ませない様にしておいてやったものをなあ・・・。
市:では小夜子―――私達はあなた達にとって迷惑・・・
サ:そんなワケゃねえだろ―――。
本当は、嬉しいのさ・・・私の「忘却」の術式にも負けず、ここに辿り着けてる―――って事が。
ただ、これはあのゲームとは訳が違う、だからもう一度言う、引き返すならここが最期の機会だ。
ここで引き返さないなら、私はあんた達を一つの戦力と見なす―――それでもいいのか。
すると「此岸」2人は、その意志の強さを示すかのように、一歩として退かなかった・・・それこそが「覚悟」とでも言う様に。
しかしながら虎口を脱する為に自分達がした行為が、殊の外大きな波紋となって影響を与えたと知るとなると・・・
リ:あのっ・・・私達がやった事って、そんなにまずかった事なのですか?
ミ:(・・・)どこまで話します?
サ:いいんじゃない?別に、全部でも。
ぺ:つまりだな、いまだここの情勢は定まっておらぬのだ。
リ:どう言う事・・・なんです?
ミ:あなた達も、一体どこまで判っているかは判らないけれど。
現状だけを話すと「魔王軍」と「ニンゲンの軍」、この2つの勢力が対立を深めさせて「戦争」と言う状況を創り出そうとしている・・・・
市:はい―――そこまではどことなく理解できます。
ペ:ところが、「魔王軍」内に現在魔王の地位におられる方のやり方が気に食わないからと、離反した連中がいるのだ。
リ:それ・・・確か『レギオン』といいましたよね。
ぺ:そうだ。
つまりこの世界では二者ではなく三者が睨みを利かせ、互いの版図を拡げようとしているのだ。
ミ:だが・・・魔王殿は、一方的にニンゲンの勢力とは争わない事を、決定された―――。
そこはそれで素晴らしいお考えではあるのだが、そうしたところを今現在ニンゲン共につけこまれているのだ。
市:あの?ちょっと?? ちょっと待って下さい―――ならばここは? ここはどう言う処・・・
ヤレヤレ―――聡いヤツだ、もうその事に気付きやがったか。
そう、この世界こそは三つ巴―――強大な勢力ながらも半ば一方的に戦争を放棄してしまった「魔王軍」。
そんな魔王軍にこれまでに幾度となく侵攻と言う恐怖に曝され続け、魔王軍が攻めてこないと判るや一転して反攻に転じてきた「ニンゲン軍」。
そして消極的な現在の魔王を見限り、独自の方向性で漁夫の利を狙っている、“ハグレ者”の集団「レギオン」。
ニンゲンが元は魔王の直轄としていた「南東の集落」を攻め陥し、急遽自分達の軍事最前線基地たる『砦』に仕立て上げたのも、
レギオンの出方を牽制すべく―――として取られた方策であることが知れたのです。
ならば? 「戦わない」としていた魔王に反するサヤ達が詰める、この「北東の拠点」の存在とは。
市子の疑問はまさにその一点にでしたが、実はこの時リリアにある変調が訪れようとしていたのです。
つづく