なまじっか、一人の時よりは難易度が上がってしまった。

二人とも城内のレギオン共に気付かれない内に、この城から急速に離脱しなくてはならない。

しかしながら気付かれてしまう要素を大々的に孕んでしまっていた為、まずは武器保管庫の入り口に立っていた見張りの無力化―――

 

 

リ王:(―――よし、行くぞ、後に尾いて(ついて)くるがよい。

 

 

武器保管庫の扉を少しばかり開き、音も立てずに見張りを無力化させるリリア王とノエル。

これで一つ目の難関は突破できた―――ものと、そう思っていたら・・・

 

 

ノ:きゃああっ―――あぁっ・・・ぐぅっ!

 

リ王:ノエル―――!

 

ノ:おっ・・・お逃げをっ―――わ、私は自分でどうにかしますから・・・っ!!

 

 

やはり、何事もなく脱出できると思ってしまったのは甘い考えだったか。

それにレギオンも程度ばかり頭は廻るらしく、武器保管庫を多勢で囲まないだけマシだった。

確かに数でモノを言わせて不審者の身柄を確保か殺害にまでは至れたとはしても。

そうしなかったのは、少しばかり手を加えれば「要塞」と化せてしまえるこの城を、自分達が気付かない内に侵入を果たした者達。

単なる盗賊風情だったのなら、どこかで仕掛けた罠の餌食となり、無様な屍を晒していたものを・・・。

ただそうではなかったとすれば、この侵入者たちは余程の手練れだと思わなければならない。

そう思ったからこそ、敢えて逃し易くし、油断して出てきたところを捕縛る(とらえる)・・・しかし、捕縛え(とらえ)みれ―――

 

 

レ魔:なんだ・・・捕まえてみればまだ子供じゃないか―――それにもう一人は・・・女か?

 

リ王:「ウオー・シャドウ」か・・・なるほどな、気付かぬわけだ。

 

ノ:ああっ・・・く―――も、申し訳ございません・・・ッ

 

ウ:貴様ら、ここで何をしていた?

 

リ王:私自身の武器を取りに来ただけだ―――そう言ったら?

 

ウ:ほう・・・お前自身の武器―――だと? 面白いことを言う。

 

リ王:『面白い』―――か、何故だ。

 

ウ:この場所は、廃墟となって早700年にもなる、そんな場所に『お前自身の武器』だ、と?

  ならばお前は「ゴースト」か!?

 

リ王:フッ・・・まあ似たようなものだな。

   さて、貴様の質問に答えてやったのだ、そろそろ彼女の首にかけている手を離してもらえないものだろうか?

 

ウ:何を言っている! お前、自分の立場と言うものを・・・!

 

リ王:ここは、“私”の城だ、随分と昔の話になるがな。

   そして・・・()()警告―――うちに言葉ったほうがよいぞ。

 

ウ:ふざけるなぁあ!この場所が「お前の城」だとぉ?! 何の世迷い事を!!

  この場所こそは700年間無人の地、故に今ここを占拠したるは我等!

  そしてこの地を根拠に我らが覇を唱えるのだぁあ!!

 

 

別名を「影に潜みし者」、影ゆえに実態を持たず、だからこそ容易にノエルを捕えることが出来ていた。

しかも主導権は彼の者が握っており、ウオー・シャドウの手の様なものは確実にノエルの首を絞め上げていたのです。

けれど、人質を取られているというのに、余裕すらみせる彼方―――それ程までに自信が?

 

 

リ王:フッ・・・正直な事を言っておこう。

   礼を申し述べたい・・・これで、大義名分が立ったのだからな―――。

   見せてやろう、我が本来の武器―――『デュランダル』を!

   さあ覚醒(めざめ)火焔権能(チカラ)―――カイザー・フェニックス

 

 

自信は―――あるどころかはち切れんばかりに(みなぎ)っていた。

それにリリア王自らが言う「本来の武器」とは、まさしくリリア王ご本人ではないと、その剣の本来の能力の1/10も出せない。

それであるからがゆえに、この豪華すぎる剣を現在城を不当に占拠するレギオン達では扱うのにあぐねていた。

だからこそ武器保管庫の片隅で放置させられていたのです(宝の持ち腐れと化していたのです)

 

しかも・・・以前には見せる事はなかった『火焔の権能』、それと共に様変わりを果たすリリア王の容貌・・・。

「碧」だった眸はすっかりと「紅」に染まっており、『火焔の権能』発現と共に顕れたのは「フェニックス」だった。

しかしそれこそがリリア王本来の姿―――逆巻く火焔を剣身に宿し、魔を祓うとされている・・・

 

 

リ王:最後の憐憫だ―――今すぐ大人しくノエルの首から手を離せ。

 

ウ:ククク―――カカカ! 出来るのか?!お前に・・・ワレが手離さねばこの獣人の小娘毎斬ってみるがいい!

 

 

主導権を握られているのは判っている。

どんな強がりを言おうとも、黒豹人の少女を人質に取られているのだから。

だから・・・そこの処が判っているから―――

 

 

ノ:申し訳―――ございません・・・。

  この私の所為です・・・ですから!この私毎この者を斬って下さい―――!

 

 

このままでは―――自分どころか、かの「英雄王」にまで類が及んでしまう・・・そう思ったからか、ノエルは覚悟を決めました。

その眼に後悔の涕を含ませながら―――。

 

すると、かの「英雄王」からは。

 

 

#136;伝説の剣(デュランダル)

 

 

リ王:ああ―――そうさせてもらう・・・誰に言われずとも、な。

 

 

やはりそうだった、所詮自分達は「ニンゲン」と「魔族」。

だからこそ躊躇なくその行為、その言葉に及べたものか。

 

とは言えど、ノエルを人質に取ったレギオンも、そしてまたノエルも・・・

 

 

ウ:キャ―――ッカカカ!傑作だ!! いくら強がりを言おうが所詮我らは(かたき)同士!

  このワレ等を斬り伏せ、無事ここから脱することが出来たなら賞賛してくれるわぁ!

 

リ王:その約定―――必ずや果たしてもらうぞ!!

 

 

「英雄王」の実力も―――そして「黄金の剣」の事も、何一つ知らないでいた。

 

 

ノ:(・・・!)

  (・・・・・・?)

  ―――え・・・?

 

 

確かに今―――自分は人質に取ったレギオンと共に、斬り伏せられた・・・・はず?

だと思っていたのに―――自分だけが斬られていなかった。

けれど自分を人質に取ったレギオンは、末期の叫びすら赦されず焔に包まれ消え逝きました。

 

今、一体何が起こったのか―――そうした疑問もそこそこに。

 

 

リ王:無事だな?何ともないな?

 

ノ:えっ―――あっ、はい・・・。

  あ―――あの・・・

 

リ王:それよりここから脱する事を先決にしよう。

 

 

城内での急変を察せられたのか、自分達を追ってくる気配を感じ、早急に城からの脱出を試みようとするリリア王にノエル。

しかし、来た時に使用した馬までの距離があり、今度ばかりは正面突破を図らなければならない。

これは流石に進退窮まったものか―――と、思われた処・・・。

 

 

魔堕羅:{お待ちいたしておりました、早く背にお乗りを。}

 

ノ:魔堕羅殿・・・

 

リ王:ほう、用意が好いな恩に着るぞ。

 

 

一体どこから侵入していたのか―――と言うより、一体どこからの指令を帯びていたのか、リリア王とノエルの退路に現れていたのは饕餮の魔堕羅でした。

なぜこの魔獣が、こうも都合よく自分達の退路に現れているのか―――そうした疑問もそこそこに、

リリア王もノエルも饕餮の背に跨ると、立ち待ちの内にトップ・スピードとなり、まるで疾風の様に駆る魔堕羅。

 

今重要なのは立ち塞がる敵を薙ぎ払う事ではなく、あらゆる障害を避けて自分達の拠点へと戻ることのみ。

そして―――・・・

 

 

リ王:どうやら無事に戻れたようだな。

 

ミ:どこへと行かれていたのだ―――。

 

ノ:参謀殿―――

 

リ王:私自身の武器を取りに、私自身の城へと出向いておった。

 

ペ:あなた様の―――? ですがあそこはもう・・・

 

 

無事に帰還は果たした―――ものの、こちらは無事に済むかどうかは判らない。

事実鋭く手厳しい追及がミトラよりなされ、果たして事の顛末を要点だけを述べて切り抜けようとするも。

けれどペルセウスはリリア王のその弁明のみで気付く処となってしまったのです。

 

そう・・・リリア王ご自身の城は、もうない―――

あるとすれば、既に瓦礫と化した廃墟のみがあるハズ・・・

それに、リリア王ご自身の武器―――?

 

すると、この拠点を与る司令官が・・・

 

 

サ:そいつはどう言う事なのか、是非とも聞かせてもらいたいもんだねぇ。

 

リ王:是非もないようだな。

   まあ今回私が動いたのは、私自身の盟友の為にと働いてくれている貴君らの為だ。

   その為に私は無私自身の武器を、今一度帯びる事を決意した。

   そして、危惧していた通り、私の城は既にレギオンのものとなってしまっていた・・・。

 

ペ:なんと?! ううむ―――・・・

 

ミ:ペルセウス?!

 

ペ:ワシが気がかりとしていたことが現実のものとなっていたとはな―――。

  つまりワシらは、この方の軽挙が無ければ危うくニンゲンとレギオンにより挟撃されてしまうところだったのだ。

 

 

リリア王にしてみれば、自分自身の剣を得んが為―――でしたが、帰ってみればそれだけでは収まらなかった。

『軽挙』―――とは、確かにそうだったかもしれませんでしたが、そうした軽はずみさえもなければ、今頃自分達は苦境に陥っている処だったのです。

 

それに、よもや「ニンゲン」と「レギオン」とが手を結ぶことはない―――とはしていながらも、互いを利用する事はあり得るかも知れない。

けれど今、リリア王の城がレギオンの手に落ちてしまっているという事実を知ることにより、色々な準備が出来ようと言うもの。

 

・・・なのではありましたが、今ひとつ気になったのは、「あの言葉」。

 

 

ペ:まあその事は善しとしましょう―――ですが、あなた様は先程「ご自身の剣」を、と?

 

リ王:ああ、コレの事になるか。

 

ペ:おお! これは何とも美しい―――全身が黄金拵えの剣とは・・・。

  ではこれが?

 

 

リリア王ご自身の剣こそ、柄も鞘も剣身もまたその飾りも、純金で誂えたまさしくの「宝の剣」――だったのです。

 

 

 

つづく