その場では、ある一風変わった光景があったモノでした。
ノ:さっさとついてきて下さい―――。
リ:あっ―――ハイハイハイ・・・。
ノ:「はい」は、ひとつでいいです。
リ:えっへへへ、敵いませんなぁ〜ノエルさんには―――(トホホ)
成人―――まではないものの、それに成ろうとしている者が、自分より年下の(様にも見える)者に、まるで「丁稚」の様に従う。
そんな珍妙にして好奇な光景がありました。
そんな光景を、リリアの真友が見てしまうと―――
市:何をやってるの、リリア―――
リ;えっ?あっ、いや―――これにはちょっとした深ぁ〜い事情が・・・
ノ:そこで何をしているのですか、「カイ・・・・
リ:ああっ!はいぃ〜〜申し訳ございませんですぅ! えへへへ・・・
『これはまた、何かやらかしましたね?』とは、まあ市子にも容易く見破られるくらいの態度でしたので、何が原因なのかを手透きになった頃合を見計らい、質して見ると・・・
市:それ―――で?何があったのです。
リ:えーーー、あーーー、ちょっち恥ずかしい処見られちゃいまして・・・
市:そんな処だろうと思いましたよ。
特にあの子、あなたにしてみれば見事なまでに「ど・ストライク」なものですものねぇ。
だから、嫌われまいと?
リ:―――はい。
市:あなたも・・・ねぇ、そんな弱点無かったら―――なんですけれど。
それにしてはまた、どう言った弱みを握られたのです。
リ:言わなきゃ、ダメ?
市:別に言わなくてもいいですけれど―――。
まあ大方、その剣が原因なんでしょうけれどね。
リ:相変わらず市子の勘て鋭いよなあ〜。
まあ正直言っちゃうと、私にはかの「英雄王」の魂が宿っているでしょう?
それにあいつが言うのには、あいつ自身しか扱えない剣―――それを、あいつ自身の城から取って来たんだ。
市:それでなのですか?この拠点―――少しばかり動きがあるのは。
リ:うん・・・そしてこれが、あいつ自身しか扱えない剣『デュランダル』。
この剣をあいつの城から脱出する時、扱う処を見せられたんだ。
そしてそれは、私達のOUSに近かった・・・
市:私達の固有技能である、アレをですか!?
リ:そう言う事―――それに先程から言っているように、この剣はあいつ本人でないと扱う事が出来ない。
私のお父さんであるペルセウスの手に渡った時、黄金に輝いていた剣が、まるでメッキが剥げて錆びついた様になっちゃってね。
市:ふむ・・・少し貸してみて下さい―――あ、本当・・・
リ:けれど、私の手に戻ったら―――
市:元に、戻った―――・・・
リ:それで、私でも扱えないものかなあ〜〜って、試す為に数回素振りをしてみたら―――驚いたよ・・・私が今まで装備していた剣より数段扱いやすい。
純金で作られているというのに、その重ささえも感じない、だからそこからほんのちょっと慾がでちゃいまして・・・
市:例のスキルを試そうと?
リ:そぉ・・・そ〜れが見事に空振っちゃって、恥ずかしいやらなんやら・・・。
しかもノエルちゃんにバッチリ見られちゃってさあ〜〜
大体の、事の真相と言うものは掴めてきた。
そうつまりリリアは、お気に入りの娘に嫌われたくない一心でノエルの言う事を聞いている様なのですが・・・
実は、市子の眼には、リリアの背後に―――
ノ:私、あなたに“ちゃん”づけされる覚えなんてないのですけれど?
リ:(うぴゃっ!)あっ・・・こっ、これはノエルしゃまぁ〜〜
ノ:ふぅぅ〜〜〜〜〜ん、私の眼が届いていないと、私の事をそう言うう呼び方をしているのですね―――カイザー・フェニックス。
リ:ごめんなしゃい・・・ヌミマセン・・・(深々と土下座)
『まあ何と言いますか・・・可愛らしい顔をして、イイ性格をしていますね。』
かつては、あるゲームの世界で『最強』として名を馳せた一代の英雄が、豹耳をした可愛らしい魔族の少女に平伏している―――。
と言う、これまた滅多と見られない珍事ではあったようです。
#138:ノエルの回顧
それはそれとしてのある日の一幕―――。
最近得た武器を、どうにか自分のモノにしようと鍛錬に励むその姿に。
あ・・・またやってる―――
そう言えばあの人もそうでしたね、自分には実力がないからと、誰からも認められようとする為に足掻いていた姿。
けど、あの人は、もう―――・・・。
実はノエルには、苦楽を分かち合える存在がいました。
けれど“今”はもう、いない―――そこのところで察するべきでしょうが・・・
雨の降る中でもただ直向きに剣を振るうその姿に、ノエルはその存在と重ね合わせていました。
すると―――
市:いかがです。
ノ:市子さん・・・
市:あの姿こそは、この私だけの英雄の姿。
私も以前は、彼女と出会う前までは孤独でした。
ノ:あなたが―――
市:ええ―――けれどある機会に断たれようとも断たれはしない、そうした断金の交わりと言うべき絆を手にしたものです。
降りしきる雨がより激しさを増す中でも、飽くことなく振られる剣―――
けれど、ノエルが心許した存在よりも確かなる武を持つ者でも、已まぬ、弛まぬ努力。
それを目にしたノエルの胸に去来したモノや、いかに。
それはそうと、程度の激しさと成って来たのでさすがに切り上げるリリア―――。
リ:こいつは随分と扱いやすいな―――あいつが言っていた事も満更嘘でもないみたいだ。
{中々のものではないか、やはり私が見立てた通りだったようだな。}
リ:お、サンキューな。
これで私が修めた流派と掛け合わせれば、私を苦しめた事のある“あいつ”程度なら楽勝だろう。
{ああ、ゼンウとやらか、私も驚いたよ―――まさか宰相と同じ名を持つ者が、お前の前にも立ちはだかろうとはな。}
リリアの練武を観ていた者が感心したのは、自分よりもかの剣を手足の様に扱える者の武にありました。
それにリリア王の思惑・・・自分が見せた「火焔の権能」までではないものの、あらゆる武器の頂点に立つとされているその剣を。
自分以外の赤の他人が振れでもすれば立ち処に鈍以下に成り下がるはずが、やはり自分と同じ魂を、そして肉体を共有したことがあるからか。
いわゆる「通常モード」での使用が可能である事が判ってきたのです。
が・・・―――
リ:{しかし―――いかんよなあ〜〜慾を出し過ぎると言うのは。(プククw)}
あんたもかよ―――悪かったな。
けどさあ、試してみたくなるもんじゃん、そこをノエルさん〜〜〜・・・に、バッチリ見られちゃうなんてさあ〜トホホ・・・たよ。
リリア王もせせら笑ってしまうリリアの大失態。
けれどリリア王は気付いていたのです、彼の者から注がれる熱い視線に。
だからこそ、リリアの大失態を見ていた―――けれどああした態度に出ていたのも、就中にしてみれば意識していた事に外ならなかったのです。
そして「その時」は、遠からず来てしまった―――。
この魔族の拠点「北東の拠点」が、ニンゲンの東南の砦と、図らずもレギオンの手に落ちてしまった元「英雄王」の城への、対処の準備に追われていた最中。
敵襲〜! 敵襲〜!
ミ:なに?いずこよりの手の者だ!
蜥蜴:判りません―――依然、不明!
未明の敵が現れ―――北東の拠点が襲撃をされている・・・。
それにこの拠点は、いまだ立場を明確にしていなかった為、周りから見れば目障りの何者でもなかったのです。
けれどこの拠点には、「軍師」に「参謀」が交代制で常に詰めていた。
あたら武のみで押し込むことをせず、智で弄玩をし尽す―――。
今も参謀ミトラの采配により、どこからの方角でどのくらいの規模でここを襲撃しようとしているのか・・・
そうした者達の勢力を割り出しながら迎え撃つ―――。
これは、そうした中で起きた出来事だったのです。
この場所こそは、「拠点」・・・とは言っても、平時では元々の住人達が暮らしている「集落」としての役割を担っているため、
こうした襲撃などの戦闘行為の際には、非戦闘員である住人達を免れさせようと安全地帯まで誘導をする者の中に、
あのノエルの姿がありました。
ノ:皆さん慌てないで―――私達の指示に従ってください。
大丈夫ですか?こちらに―――・・・
親に手を引かれて行く子供―――足腰も弱くなり満足に歩けないでいるお年寄り。
力無き者が真っ先に戦禍に呑まれ、そして散って逝く・・・。
それは―――「あの時」も同じでした。
?:あっという間に火の手が回っちゃったね―――
ノ:手分けして逃げ遅れた人達を先導しましょう、「ローリエ」。
ロ:うん、判ってる―――死なないでね、ノエル・・・。
どうして今、あの時の事が鮮明に―――・・・
それは、時と場所は違えど、やはり同じように襲撃を受けていた「東南の集落」での一場面でありました。
以前に述べた事がある様に、ノエルにはたった一人だけ心を許していた、苦楽を分かち合った存在がいました。
ノエル自身の境遇と同じ―――「戦災孤児」、名を「ローリエ」、「エルフ」の女性でした。
けれどもう・・・彼女はいない―――
なぜならば―――・・・
ノ:キャアアッ!あぁっ・・・ぐぅっ・・・
猪:グハハハ―――死ねい!
ロ:ノエル―――!
誰に言われたわけでもない。
自ら率先してか弱き者達を安全な場所までの避難を誘導していた―――。
そこを目聡いと見られたか、同じ魔族の中でも野蛮な者に見つかってしまい、襲われてしまったノエル。
地面に転倒したノエルを襲い来たのは、皮肉にも彼女と同じ獣人族の蛮勇でした。
本来ならば、そこでノエルの生は終わっていた―――。
当時としては、現在と比べるとさほどの練武を修めていない・・・言わば一般の魔族と同じ彼女達。
それでもエルフの女性―――ローリエは、自らが義勇の士として東南の集落の防衛に当たっていました。
とは言え正規の兵士ではない、飽くまでも自らの意志によって志願した一人に過ぎなかった。
つまりはそう―――戦い方も満足には知りもしない・・・。
だからこそローリエは足掻いたのです、彼女自らも気を、心を許した存在ただ一人を護る為に。
つづく