自分達のPTのリーダーに呼びかけられた“名称”―――
それこそは、ある『称号』を示すものでした。
その名称を聞くなり、市子は驚愕の表情となったのです。
市:(え・・・?)ちょっと―――待ってください? サヤさん??
今・・・なんと?!
『称号』とは―――プレイヤー達に付随する“特殊なアビリティ”のようなもので、
「戦士」「剣士」「魔術師」「僧侶」「士」と言った様な、「基本的な職」に、「追加ボーナスを伴う能力」のことで、
特定の条件を達成すると修得可能となる―――数年前に実装された、新たなる「プレイヤーの能力値」の事なのです。
そんな中―――市子は、「wiki」や「攻略SNS」などで、「ある存在」の事を目にするのです。
その「ある存在」とは・・・「この世界」に於いての、「最上級プレイヤー」である“証し”・・・
言わば、「ゲーム内最強」・・・である―――と、言う“証し”・・・
それこそが―――
『清廉の騎士』
―――である、と言う事を。
そして今まさに、転移施設の前で、今回の事情の説明を求めるため、
自分達のPTのリーダーであるリリアに向かい、その「称号」を口にした、サヤ―――・・・
けれども・・・
リ:(・・・)それは、ちょっと違うんじゃないかな―――サヤさん・・・
サ:おい―――ちょっと待てよ、協力をしてやる・・・っていう、私にも言えないのか。
リ:そうじゃないよ―――私は、「今は」違う・・・
大体さ、私のキャラ紹介のどこに、そんなのがあるっての?
サ:(・・・)―――て、事は、「あの噂」は本当だったんだな・・・。
リ:(・・・)なにさ―――その「噂」・・・って。
中々―――その本心を話そうとはしないPTのリーダーに対し、さすがに業を煮やしたか・・・
サヤは抜刀し、リリアの首筋に刀の切っ先を突き付けてきたのです。
それこそは、まさに「一触即発」―――「本来の目的」の前に、しかも「PT内」、「街中」であるというにも拘らず、
物騒なことになろうとしている―――・・・
しかしリリアは、こうも言いました、「今は」「そうではない」―――・・・
つまりは、「現在」は違うけれども、「それまで」は「そう言う事だった」・・・と、言う「事実」―――
そのプレイヤーは、表情こそ見せはしませんでしたが、その背中は悔しさに滲んでいた・・・
かつては―――このゲーム内での「最強の称号」を手にしていたに違いはない・・・
けれども、何らかの事情が発生し、その称号を失ってしまった―――
それにどうやら、サヤの方でも、その辺の事情とも重なる「ある噂」の事を知っているようであり、
しかしなぜか、そこから先は、二人とも口を噤んでしまったのです。
それからというものは―――・・・
サ:はあ〜〜〜あ、ヤレヤレ―――どうにも今回は、「貧乏くじ」・・・ってヤツだな。
それに、あんのじじぃ〜〜この事を知ってやがって、ワザと私に知らせなかったんだな?
リ:ああ〜〜あの人ならやりそうなことだなw
サ:チッ―――ま、こっちも乗り掛かった舟だ、何があろうが最後まで付き合ってやるよ。
底意地の悪い自分達の「マスター」に、そこそこの悪態を吐き、PTを離脱するどころか継続をしてくれるという「子爵」サヤ―――
そこで市子は、この世界には、現実世界では希薄になりつつある、「信頼」―――「絆」とでも言うべきか・・・
それが“濃い”と言う事を次第に認知していくのです。
さても―――そんなことがありながらも、目的地である「シベリア・サーバー・エリア」に到着した一行は・・・
サ:へぇっくちょいっ―――!
あ゛あ゛〜〜〜寒っ・・・! 〜たくぅ・・・運営も変なとこにリキ入れやがってえ〜〜・・・
―――てかおい、何だお前・・・平気な面しやがって・・・
リ:えっ? ああ―――用意してなかったのか・・・ホレ
市:(??)な・・・なんなんですか? コレ―――
そう・・・彼の地こそ「シベリア」―――
現実世界に於いても、極寒の地にして厳冬の地として知られている場所・・・
けれど「ここ」は、「仮想の世界」であり、なのに・・・感じてしまう「寒さ」―――とは、どういう事なのか??
そう思っていた矢先、PTのリーダーであるリリアは、なんとも涼しい顔・・・
つまり、自分達が感じている「寒さ」と言うものを、全く感じているようには見えない・・・
ならばリリアは、寒さを感じないまでに鍛えているのか―――と、そうとばかり思っていたら、
彼女から手渡されたのは、何とも気味の悪い形をした「アイテム」だったのです。
リ:ああ―――それな、『龍の鱗』っての。
色んな状態異常をさあ――――
市:(は?)ちょ・・・ちょっと待って下さい??
今・・・なんですって? 『龍』の?『龍の鱗』??!
リ:ああ―――そう言ったけど?
そう―――そのアイテムの「名」こそ、『龍の鱗』・・・
しかし、その名を聞いた市子の頭の上には、大きな疑問符が乗っかったのでした。
『龍』・・・それこそは、伝説―――或いは、創造上の生き物であり、一説によれば人間よりも賢く、
良くありがちな「ファンタジー系のRPG」などでは、“ボス級”の役割を果たすために登場してくる・・・と言う、「最強のモンスター」。
それが、曲がりなりにも、一つのアイテム名として、この世界に存在していると言う事は・・・??
市:ちょっ・・・と?
あの―――??
一つご質問なんですけど・・・まさか「ここ」―――って???
リ:あれ?言ってなかったっけ?
市:聞いていませんよ―――?!
サ:ア〜〜レアレw ほーら、こう言う事になっちゃった〜〜とww
市:サヤさん?
もしかしてあなたは―――・・・
サ:一応、分かり易くリアクション取ってあげたんだけど?w 上手く伝わんなかった?ww
そう・・・今にして思えば、あの「大袈裟」とも思われた「リアクション」こそは、この事を―――
この「エリアのマスター」が、「龍」そのものか、また或いは「龍」に関係している存在であることを示唆していた・・・
しかも、PTのリーダーは、その事も承知の上で―――??
とは言え、それを今知らされたところで、もうどうする術も持ち合わせていない・・・
こんな処に置いてけ堀を食らわされても、迷惑な話しだ―――と、言う事で、一応市子も観念はしたようです。
では・・・彼らはこれからどこに向かうのか―――と、言うと?
#14;『焔龍の祠』
サ:ほわ〜〜〜ここかあ―――聞いてたより雰囲気出してんなあ〜
リ:ま、当然だろ・・・それに今回は特別だけど、普段だったらここは、『難易度AA』の「ダンジョン」だからな。
『焔龍の祠』―――このゲーム内に、数多くある「ダンジョン」の一つであり、その内でも難易度が高く設定されてある、数少ないモノの一つ・・・
けれど、このダンジョン名にもあるように、このダンジョン主は、「もしかしなくても」・・・
とは言え、今回はPTの一人が、このダンジョン主からクエストを受注しているため、この高難易度のダンジョンを攻略せずに済んだのです。
そして、辿り着いた「最下層」―――
そこに、その存在はいました・・・。
このダンジョンの主であり、この「シベリア・サーバー・エリア」の「マスター」である・・・
そして、“彼”の種族の長でもある、この人物・・・
リ:お久しぶりです―――マスター・エリヤ
エ:随分と早かったようですね―――我が友、リリア・・・
その人物も、彼の「玉藻前」を彷彿とさせるほど、上背の低い存在でした。
上背低く、チヂレ気味の「ブロンド」の長髪を靡かせ、「真紅」の双眸に、「真紅」の「ゴシック調ドレス」を愛用している・・・
その「存在」こそが、「シベリア」の「エリア・マスター」でもある、『焔帝』こと、「エリヤ」と言う存在でした。
そして、リリアが帯びていた、クエストクリアの報告を受け入れたエリヤは・・・
エ:そちらにいる方々が、今回のクエストの“成果”―――ですか・・・
まだ足らないわね。
リ:そこのところは承知しています―――けれど・・・
エ:とは言え、そう時間もかけられない・・・判っているのでしょうね、あなたも。
確かに、一応は細心の注意を払った上で、PTの構成を見定めた・・・その上での編成でしたが、
けれどリリア自身も、まだこれでは“足らない”ことは認識をしていました。
だからこそ、少しばかりの猶予を願い出ようとしたところ―――先制として、「その事」を封じられてしまった・・・。
それでは、リリアの打とうとしていた手は、失ってしまったか―――と、そう思われたのでしたが・・・
エ:そうそう―――そう言えば、こちらも丁度困ったことが舞い込んできてしまってね。
それを受けてくれる・・・と、言うのならば、「その事」を理由としてはいかが?
リ:(!)ありがとうございます―――!
やはり・・・どうやら、「少女」の存在は、「少女」の存在ではなかった―――
上級プレイヤーであるはずのリリアを、こうも巧みに手玉に取り、交渉をこなしていく姿に、
だからこその頂点に立ちうる存在なのだ―――と、市子は感じ入ったのです。
けれども、そう「甘い話し」は、“ない”―――
やはり、“裏”の裏は存在していたのです。
リ:それで・・・エリヤ様のお困り事とは―――?
エ:まあ待ちなさい。
―――入りなさい。
マスターから促され、これまた一人の“少女”が入室をしてきました。
上背は、エリヤとほぼ同等―――「サファイア・ブルー」の長髪を、両側頭部で結わえる、所謂「ツイン・テール」にし、
「サファイア・ブルー」の双眸・・・「蒼」と「黒」の「ゴシック調ドレス」を愛用する、この存在こそ―――
誰?:初めまして―――私は、エリヤ様だけの親衛隊・・・「高潔なる騎士団・紅焔」の「団長」を務めさせて頂いている・・・
キ:キリエ―――と、申し上げます。
なんとも、いきなりその種族の「No,1」「No,2」の降臨に、一層の緊張を張り詰めさせるリリア達・・・
ですが、その様相は、少しばかり違っていました。
何度も言うようなのですが、このゲームに於いての「初心者」は、蓮也・・・
そして蓮也よりは「熟練」―――だけれども、そこまでこのゲーム内の事情に精通しているわけではない、市子・・・
そう、市子も、ある意味では蓮也とほぼ同じでした。
だ・が―――?
ならば、こちらの二人・・・リリアとサヤは?
プレイ時間も相当長いと見られる、この二人のプレイヤーは・・・
一見して貞淑そうにも見える、この一人の少女の事を、彼女達よりも、よく知っていたのです。
つづく