襲撃の一夜が明け、目覚めた時・・・ノエルはベッドの上に横臥(ねか)せられていました。

 

 

ここ・・・は?

私・・・生きている?

けど・・・あの人は?ローリエは??

 

 

目が覚めると同時に、残酷なあの光景が蘇える。

そのショックで大声を上げてしまったのですが、その異状を耳にした―――

 

 

ミ:どうしたの、大丈夫?

 

ノ:あなたは・・・参謀・・・殿?

 

ミ:辛いものを目にしてしまったみたいね。

  今はゆっくりと休みなさい。

 

 

この頃には既にミトラも参謀として―――そしてペルセウスも軍師として、魔王が居ない間のこの集落の防衛の指揮を執っていました。

それに、かれらはニンゲン―――であるはずなのに、魔族である自分達をよく助けてくれている。

この頃のノエルにとっては不思議な事ばかりではありましたが、現況を考えると例え敵であっても助けは欲しかった・・・。

それに、大切なモノを失くしたばかりのノエルに対しても優しい声かけ―――だからこそこう思ったのです。

 

 

この私の命はかけがえのない人によって救われた・・・

ならば今度は私が、他の人達にしてあげないといけない。

それにあの人も言っていた、『出来るのに出来ないと言っているのはダメだ』と・・・。

 

 

大切な人の死をきっかけに、大きく成長したノエル。

そしてノエルの回想が終わると同時に、現実に引き戻され。

けれども状況としては、あの時以上にノエルの身に危機が迫っていたのです。

 

それに今となっては、あの時とは大きく違っていた事。

あの時は、ノエルの身分は単なる一兵卒に過ぎませんでしたが、今現在では「子爵」付きの副官・・・

だからこそ積極的に狙われる立場になってしまっていたのです。

 

 

私も・・・これまで・・・。

ローリエ、寂しかったでしょう。

けれど、これでようやくあなたの下へと逝けそうです。

 

 

負傷し、木に寄りかかるようにして地べたに腰を下ろすノエル。

もう・・・あの時の様に、彼女を生命の危機から救える者などいない―――。

一人ぼっちで逝ってしまった友人を想いながら、観念したかのように目を瞑るノエル。

 

が・・・しかし―――

 

 

・・・え? まだ生きてる?

それにこれは―――何?

 

 

このままだとノエルの頭上には、レギオンの蛮兵の刃が容赦なく振り下ろされ、ノエルの小さな命は儚く消え逝くところでした。

が・・・いつまで経っても振り下ろされない刃に、「何故なのか」と瞼を開けてみると。

自分の眼前で止められた刃―――と・・・

 

 

これは・・・薄い光の膜??

 

 

信じられない事に、薄い光の膜の様なものが、自分に振り下ろされるはずの刃を阻み、ノエルの命を救った―――。

しかし、これは・・・?

 

 

リ:どうにか間に合ったわね。

 

ノ:リリ―――ア・・・?

 

リ:おい―――よくもノエルをこんなにしてくれたな。

  覚悟・・・出来てんだろうね。

 

 

なんとも凄まじい気迫―――いや、「鬼」迫と呼べばいいのか。

何とも表現し難い表情に雰囲気を醸し、蒼キ衣の剣士はレギオンの蛮兵達ににじり寄る。

いや、しかしながら―――・・・

 

 

ノ:なにをしているのです、早く逃げなさい! この者達は闘う事だけを求められて作られた、いわば強化兵なのですよ!?

  それがあなた・・・ニンゲンだとて―――

 

リ:ふぅ〜ん、あっ、そ、だからどうしたって?

 

ノ:えっ?

 

リ:そんな理由で許してやれ―――って、それはないよねえ?市子。

 

市:そうですね―――。

  それより看させて下さい。

 

ノ:市子も―――

 

 

そう、今この北東の拠点を襲い来たのはレギオンの一部。

しかも彼らは戦闘に特化するために改造(つく)られた「強化兵」だったのです。

攻撃力/防御力/体力/耐久力・・・そのどれもが一般の魔族の兵士よりも、そしてニンゲンの兵士の平均的な能力を凌いでおり。

故にこそ少数精鋭でも大軍にも匹敵していた・・・それに対抗する為に準備を推し進めていたものでしたが。

その準備が整う前に強襲された―――だからこそこうした未曽有の混乱を収めさせるのが先決なのではありましたが。

 

 

リ:それに丁度いい機会だ、お前らの強さがどれほどのモノか確かめてやる! だから泣かされても文句なんか言うんじゃないよ!!

 

ノ:(えっ・・・)あの―――

 

市:全く変わりませんね―――。

 

ノ:えっ?

 

市:リリア―――後で私も参じますので、少しは残しておいてくださいね。

 

 

すると彼方からは、『判ってるけど、あまり愚図愚図してると無くなっちゃうよ。』―――

 

ノエルは昔話で、「英雄」と言うものを知りました。

けれどそれは、物語り上での出来事。

ノエルが唯一、気を心を許した者も、いずれは成りたいとしていた「英雄」・・・・。

 

 

リ:展開―――≪晄楯≫、そして見せてやる・・・≪緋刀爾聯≫!!

 

 

#140;新たに紡ぎ出される英雄譚

 

 

元々ニンゲンには魔力と言うものは備わっていない・・・それがこの世界での「常識」でした。

けれども近年、魔族と性行為をし子を成す事によって微量ながら魔力を宿せるニンゲンも出てくることは出てきたのですが。

けれども、そうだとしても有り得ない現象―――

 

 

あれは・・・『魔力の盾』?!

そん・・・な―――魔族でもあれを形成させるには膨大な魔力を消費させることになると言うのに。

それに、『両刃の魔力の剣』・・・そんなモノを苦も無く発現できてしまうあなたは―――

 

 

ノエルの眼には、まやかしではない・・・現実として魔力の盾と剣を創造出来てしまえている、当代きっての英雄の姿がありました。

 

それにしても凄まじいモノだった。

蒼キ衣の剣士に群がりくる蛮兵をものともせず、総ての攻撃を防ぎ切り総ての防御を無効化させる―――

その動きに関しても洗練された舞いの様であり、立ち処に屍山血河が築かれた。

 

その凄まじすぎる武の在り方にさすがのノエルも息を呑むしかありませんでした。

が・・・ここで彼らへの処罰は終わりではなかったのです。

 

 

市:お待たせを致しました、準備はできましたよ。

 

リ:え〜〜もう終わり〜? もうちょっと―――

 

市:あれだけ発散させれば十分だとは思いますが?

 

リ:ちぇ〜〜判ったよ―――。

 

 

準備?一体何の・・・

それに市子―――あなたは先程まで目を開けていたというのに・・・

どうして今は両目を瞑っているのですか!?

 

 

ノエルには不思議でなりませんでした、先刻までは健常者の如き振る舞いをしていたのに、

なぜ蒼キ衣の剣士の相方は、盲人の様な振る舞いをするというのか・・・

 

すると、有り得ない光景を見せられる―――

 

 

市:

パチン―☆≪火竜

 

リ:うひょお〜またこれは派手に弾けたなあw

 

市:これだけではありませんよ?

パチン―☆≪紫電鎚≫

 

リ:おいおいおい、こりゃヤリ過ぎだってw

 

市:そうでしょうか?けれどまあいいでしょう―――

パァン☆≪万古幡≫

 

 

ノエルがまず目を疑ったのは、ニンゲンであるはずの市子が、魔族である自分でさえも扱う事が出来ないでいるとされている「ある術式」を扱えているという事実に、でした。

 

 

ノ:あっ、あっ、あっ―――あの・・・い、今のは??

 

リ:ん〜?凄いでしょ市子w ジョカリーヌさんが得意としていた術をあんなにまで扱えるようになったんだよ。

 

ノ:ジ・・・ジョカリーヌ?? あのっ、そのお名前って―――・・・(ワナワナ)

 

リ:あ〜〜そう言えば、こっちでは何て言われていたんだっけ。

  ああ―――そうだ・・・確か

 

『西の魔女』

 

ノ:かの四魔女のお一人!? そ・・・それが―――

 

リ:そ、私と市子のお師匠様でね。

  けれどもジョカリーヌさんオリジナルのよりかは、かなり威力は抑えられているんだけれどね。

  お〜〜い、市子―――何だったら手伝ってあげよっか?w

 

市:いいえ、あとまだとっておきのが2つ残っていますので。

 

ノ:あの人・・・怒っちゃっていらっしゃいます??

 

リ:あっ、判るぅ〜?w そりゃまー仲間傷付けられたら我慢できないよねぇ。

 

≪九竜神火≫

 

 

市子が内に秘めた怒りとは、それはもう凄まじかった模様でして。

繰り出されてしまった「封術」を見ても、割と威力が高めのモノを用意していたところからも、容易に察せられようと言うもの。

けれども、これでもまだ片方の目は瞑られたまま・・・それに最後まで残されていたのは、更にダメ押しの―――

 

 

市:それではこれにて幕引きと参りましょうか、総ての厄を祓い落として―――。

≪社稷山河図≫

 

 

市子が、瞑られていた最後の片目を開放させた時、今まで「封術」の火炎によって燃え盛っていた火が、リリアが築き上げた屍山血河が、

果てまたは生き残った侵略者さえも、「空間が呑み込んでしまった」・・・。

 

それこそが≪社稷山河図≫と言う、空間をも蝕む「封術」の中でも“禁忌”とされる業。

 

 

市:はあ・・・なんと虚しい事なのでしょう。

  世界の大きさに比べれば、所詮私達なんてちっぽけなものなのに・・・。

 

リ:まあまあw それに自分が有り得ない程に強くなっちゃうと、どこか虚しさを感じちゃうものだしね。

  それに・・・トリはやっぱり私でないと―――ね。

 

 

威力が強すぎる術を連発したからか、それとも強力無比な術を習得してしまった事で、自分でも信じられないくらいに強くなりすぎてしまったからか。

市子を襲ってしまう言い知れ様のない寂寥感・・・こうした理由もあり一時戦線を離脱する市子なのでしたが。

攻め手側となると、ここで「切り札」を出してきたのです。

 

大地を揺るがす巨体・・・とは言えど、ギガントやトロールなどの巨人ではない。

生物ですらない、無機質なモノで身体を構成し、(コア)に命を吹き込み稼働するいわゆる「魔法生物」。

 

 

ノ:ゴーレム・・・それも「スチール・ゴーレム」! あんなものを用意していただなんて・・・

 

 

ゴーレムとは、その多くが土塊(つちくれ)や泥、木から造られるのが常でした。

それに元々が生物ではないがゆえに、身体を構成する部分―――手や足が欠けたとしても、(コア)が無事である限り契約者の命令を遂行する忠実な兵隊。

しかも今回持ち出されたのは、耐久性の弱い土塊(つちくれ)木などではなく、「鋼」で出来たスチール・ゴーレムだったのです。

 

けれども、この・・・剣や槍や弓、更には魔法でもおいそれとはダメージを与えにくいこの難敵に、

英雄はたった一人で挑んでいったのです。

 

 

 

つづく