レギオン達にしてみれば、目障りとも言える拠点を潰す為にとられた方策としてのこの切り札は、妥当と言えました。

しかし相手が悪かった・・・なぜなら、お気に入りの娘を傷付けられ、また美味しい処を真友に横取りされ、やり場のない怒りを持続させていた存在がいたのですから。

 

 

リ:や~っぱトリは私でないとね。

  イイ子ちゃんして大人しくしてた甲斐があったと言うもんだよ。

 

ノ:何を呑気な! アレを倒すのは生半可では不可能だと言うのに・・・!

  それに、あなたの武の凄まじさと言うのは私も認めますから―――・・・ですから!

 

リ:ふぅ~ん、ようやく認められてもらえたんだ・・・それだけで十分嬉しいよ。

 

ノ:え?あなた一体何を・・・

 

リ:ノエル・・・ずうっと私の事を見ていたでしょ―――。

  まるで誰かと重ね合わせるかのように・・・

 

ノ:あなた・・・その事に気付いて―――

 

リ:うん―――気付いてたよ・・・。

  それに、私もノエルに笑われたままじゃ気が済まないしね―――ッ!

  だから・・・抜かせてもらうよ―――あいつの剣を!!

 

 

大きな障害に立ちはだかるその背を見させられた時、ノエルにはかの「英雄王」の姿を目にしました。

 

 

何て雄々しい・・・あの昔語りの本の挿絵なんてモノの比ではない―――

ローリエ・・・ここにあなたが目指した英雄の背が―――

けれどリリア、あなたは「英雄王」自身の剣は・・・炎の剣は扱えないはず―――

 

 

恐らくこの鋼鉄製のゴーレムは、今回のレギオン側の肝いり。

それに万が一、軍勢が壊滅させられたとはしても、それを十分補えるほどの戦力を有している。

そして万が一の事が起こり、かくてこの拠点を蹂躙する為に起動させられ、これによって魔族側は敗北必至となるはずでしたが・・・

 

そこでリリアは、リリア王の剣である黄金の剣―――『デュランダル』を鞘から抜き放つと、剣はどこかリリアの闘気に呼応するかのように“紅み”を帯び始めた・・・?

けれどノエルはその眼で視てしまっているのです。

リリア王の剣が扱えるモノか否か素振りをしていた時、調子に乗ってしまって「火焔の権能」を解放しようとするも、空振ってしまった経緯がある事を。

 

 

ノ:リリア―――止めて!? あなたではその剣は扱えない・・・

 

リ:ああ―――そうだろうね・・・私じゃ、あいつの権能の解放なんてできやしない・・・

 

ノ:その事を判っておきながら・・・なぜ?!

 

リ:だって、あいつが扱えていたのは、あいつ自身の言葉で・・・それに、彼岸の次元(こちらのせかい)言葉だったからね。

 

 

リリアが、リリア王の権能を解放させようとも、それは土台無理な話しというモノでした。

なにより彼女達は―――リリアに市子は、彼岸の次元(こちらのせかい)ニンゲンではない・・・。

ゆえにこそ言語体系が違うから、リリア王の権能など開放する事など出来るはずもなかったのです。

 

けれども―――?

 

 

リ:私達の世界の言語で、私自身が紡いだらどうなのかな・・・?

≪来れ鳳凰≫――≪鳳燐剣≫

 

 

すると、あの時は虚しく空に響いただけのモノだったのが、今度ばかりは天空より炎を纏った一羽の禽が、リリアの下に舞い降りた―――

 

 

ノ:(見える・・・この私にも、それにあれは―――!)

 

市:(鳳凰・・・)それにしても成る程、今にしてみれば思い当たる節ばかりです。

 

ノ:どう言う事なのです?

 

市:以前、私達の仲間同士で、とある服飾の見せ合いをしましてね。

  その際リリアが纏っていた服飾の柄こそがまさに「鳳凰」だったのです。

  それはもう見事な刺繍で縫い付けられ、今にもその服飾から羽搏いて征かんとする勢い―――それに私達は目を奪われるばかりでした・・・。

 

ノ:そんな事が・・・

 

市:けれどそれは所詮上辺だけのもの、けれど私は今至りました。

  そう、リリアの家に代々伝わるイメージ・シンボルこそ鳳凰だったのです!

 

 

そう、いくら彼岸の言葉で呼びかけようとも答えてくれるわけがない。

そう思ったリリアはある仮説を立てたのです。

 

ならば私達の世界の言葉で―――

 

そして、その仮説は仮説ではなくなった・・・

今リリアの世界の―――リリア自身の言葉により呼応したかのように舞い降りた鳳凰・・・

それにより、あの時のリリア王の様に神器に焔が宿る・・・。

 

 

市:そして、これも天よりの配剤なのでしょう―――

 

ノ:えっ?

 

市:私達は、私達自身の師より以下の事を教わりました。

  この世界には世界を形成する「元素」と言うものがある―――それが“木”“火”“土”“金”“水”。

  これら5つは互いに反目し合い、互いを助する関係だとされています。

  それが「相克」と「相生」、それによると『火は金に打ち克つ(火克金)います。

  彼らにとっての鋼鉄製のゴーレムは確かに切り札だったのでしょうが、所詮相手が悪かったと言うもの・・・。

  さあ―――リリア、その木偶めに思い知らしめて上げて下さい!!

 

リ:ああ―――言われるまでもないさ! 燃え尽きろッ―――!

≪紅蓮閃≫

 

 

リリアの剣が宙空に弧を描いた時、不浄を掃う焔に包まれるスティール・ゴーレム。

そして瞬くの間に燃え尽き、消え逝く脅威。

 

こうして今回の拠点防衛は収まりを見せたのです。

 

 

#141;暴かれる真相

 

 

その一方のこちら・・・欧州サーバーでは。

新たに自分の正体を明かせたプリンの下に呼ばれた2人の騎士が。

 

 

セ:お呼びにより参じました。

 

ブ:わたくし達になにか。

 

プ:ふむ、そろそろ頃合いだと思ってね。

 

セ:すると彼岸(あちら)

 

プ:うむ、それに私達があてとしていたモノが、もうしばらくかかりそうでね。

 

ブ:あなた様があてとしているモノは?

 

プ:大方は察しているのではないかな?ブラダマンテ殿。

 

 

自分達の目の前に存在している者を相互に理解し合えたと言う事で、プリンから持ち掛けられた話し。

それこそがセシルとブラダマンテの2人を彼岸の次元派遣する―――と言う事でした。

しかしブラダマンテが疑問としていた事とは、『なぜこの時期に』それも『自分達2人だけを』??

ところがこれがどうもプリン達側が「あて」としていたモノの、完成への進捗が思うように進まなかった―――と言うのが原因の一つとしてあったようで・・・

 

 

ブ:そうですね―――わたくし達はこうして来たるべくの時の為に試練を課されてきました。

  けれどもそれは、わたくしやセシル卿だけではないはず―――。

 

プ:その通りだ―――。

  だからこそ、今すぐにでも君達の様な者達を彼岸へと派遣させたい―――とはしているのだがねぇ。

  その為に必要な「あるシステム」を、私達の同志に任せてはいるのだが・・・どうにもその完成を故意に遅らせているみたいでねぇ。

 

セ:なんと不快な―――斬りましょうか。

 

プ:セシル=グラディウス、どうして君はそう物騒なんだろうかねぇ。

  曲がりなりにもその者は、私達の味方でもあるのだよ。

 

ブ:そうは申されますが、随分とあなた様は気長ではありませんか。

 

プ:ハハハ―――無駄に5000年近く生きてきたからね。

  気も長くなると言うものさ。

  とは言え、まあ・・・これ以上待たされると言うのも癪だからね、これから私自身が彼の者のダレている尻を引っ叩きに行こう―――と、こう言う訳さ。

 

 

淡々とした表情で述べられた真実、『5000年近くを生きてきた』―――

それこそが彼女が魔族なのであり、また天使でもあり、魔女だとも呼ばれてきた証しであると言えたのです。

 

そして―――2人の騎士を自分達の世界へと送り出した者は、とあるサーバーにいるとされている、とある人物を訪ねていたのです。

ではその人物とは・・・そのサーバー、「ロサンゼルス・サーバー」にて・・・

 

 

プ:もうそろそろ―――出来ているんじゃないのかね?

 

クリ:ん~~~?だぁれ?あんた・・・

 

プ:ふむ―――自分のスポンサーの顔を忘れてしまうとはねぇ?

 

クリ:スポンサー?あたしのスポンサーって、ミリティアって人なんですけど~~。

 

プ:私はね、そのミリティア―――いや、「南の魔女」からの要請を受けてきたのだよ。

 

クリ:「南の魔女」ぉ?w なぁ~ンすかそれ、笑えるったらww

 

 

「ロサンゼルス・サーバー」に活動拠点を置く『DIVA』。

その一員(メンバー)であるクリューチ表敬訪問したプリン意図どこに?

 

それに奇妙なのは、プリンはミリティアの事を「南の魔女」だと言っていた事・・・

なぜ―――此岸の次元の一住人に過ぎないクリューチ(ジゼル)彼岸次元でしか通用しない名前だのか

それについては、クリューチはニヤけてしまうもののどこかその瞳は笑ってはいなかった・・・。

 

しかし―――確かにプリン達があてにしていたモノとは、「あるシステム」と言う彼岸の頭脳の集大成にして、

来たるべき日の為にヴァンパイアの「子爵」の手により厳重に保管されていた「設計図」。

それはよろしく(大悪魔)へと、そして彼岸一のマッド・サイエンティストとの声高人物にとってず・・・だったのですが?

 

ならばならぜ、プリンは関係性が全く見えないクリューチを表敬訪問したのでしょうか。

 

 

 

つづく