ブラダマンテとセシルが彼岸の次元の西側にある廃墟を訪れていたと同じ頃、こちらでは・・・?
ドゥ:あぃてテテ・・・何よもう〜! クリューチッたらいきなり現れて、私をこん―――な・・・
ここ―――は・・・?
自分の同意もなく彼岸へと飛ばされてきたドゥルガー、しかも彼女は自分が所属するクランのメンバーから有無を言わせず為された事に少々腹を立てていたところ・・・でしたが。
自分が不意に飛ばされた場所―――そこに目を奪われてしまったのです。
なんだろう―――ここは・・・
季節の花々が咲き乱れ、世界中の花達がこの一ヶ所に集まっているかのよう・・・
それに・・・なんて落ち着いた雰囲気―――なぜかここでは、荒んだ心が鎮まっていくかのよう・・・
そう言えば・・・以前私は、これと同じ感覚に―――
濃い色―――淡い色―――甘い芳香りを漂わせ観る者を魅了させる百花繚乱。
それはドゥルガーの内に秘めている闘争心や警戒心も解かれて行く事となり、やがて闘う気すら失くなっていく―――。
これと同じ感覚をつい最近感じた事があるのを思い出し始めたドゥルガーの前に現れたのは・・・
#145;それぞれの思惑 ≪ドゥルガー篇≫
?:お待ちしておりましたよ、ドゥルガー。
ドゥ:あなた―――は・・・ユリア!? けれどどうして・・・
ユ:あなたはすでにわたくし達の貴重な戦力。
ゆえに敢えての敬称は略させて頂きます。
ドゥ:つまり、「同志」と言う待遇と言う事かしら?
ユ:はい―――早い理解でなによりです。
ドゥ:それより・・・「ここ」は?
ユ:ここは、わたくし自身の固有領域・・・何者にも冒されざるべくの―――。
彼岸の次元の東西南北それぞれに、固有としての領域を持つ―――それが「魔女」たるゆえんでした。
その中でもユリアは「東」の地に勢力を張る「魔女」の一人・・・。
けれども今―――
ドゥ:こっ・・・この揺れは―――なに?
ユ:無駄な事を・・・いくらここを攻め立てようとも、その事が未だ理解しえないとは。
ドゥ:攻め立てられている? 一体どこが・・・誰が・・・?!
ユ:わたくし達と同族でありながら、同調しようとすらしない「レギオン」・・・に、「ニンゲン」―――。
ドゥ:そんな・・・私達が!?
ユ:違いますよ?
ドゥ:え??
ユ:口で発する「音」は似てはいても、“アレ”はあなた達とは全く違う・・・全くの別物です。
以前はニンゲンの「英雄王」なる者が良くまとめてくれてはいましたが、そうしたまとめ役がいなくなると、こうも低俗にして卑俗に成り下がるモノなのですね。
ドゥ:(「英雄王」・・・)あの―――それってβテストでテストプレイされていた・・・それに、ゲームのチュートリアル以前に流されてたプロローグの・・・
ユ:いかにも―――あなたには考えられますか、現在よりも700年前、互いの・・・ニンゲンの代表であった「英雄王」と、魔族側の代表である「魔王」が、
その理念を一致し合えていた事を。
ドゥ:ニンゲンの「英雄王」だけならともかく・・・「魔王」が??
けれどその、一致しし合えた理念て?
ユ:『争乱のない世の中』・・・つまりはお互いに戦争を放棄する事なのです。
ドゥ:そ、そんな―――? だけど「魔王」って・・・
ユ:「魔王」は、絶対の悪ではありません。
「魔族」の「王」であるが故の「魔王」・・・そしてこのわたくしも、「魔王」と成るべく立った候補の一人でした。
ドゥ:ユリア、あなたが!?
ユ:けれどわたくしは、現在の「魔王」ではありません。
この事がどう言う事か、ドゥルガーあなたになら判るはず・・・。
それにわたくしも、所詮は「魔族」なのです。
なにがしかによる外部からの干渉により、大きく揺らぐもユリアは全く意に介する事はありませんでした。
そしてこの間に、ゲームの仕様ではない、この世界の真実が語られ始めたのです。
それに何より衝撃だったのは、色々な創作物やゲームなどでは絶対悪として描かれ、まずは最終にして最大の難敵である「ラス・ボス」として存在している「魔王」の在り方でした。
ドゥルガーもこのゲームをプレイし始めてからは、いずれはこの「魔王」を討伐するべく日々の研鑽をしてきたものでしたが。
今ここで、かつて「レイド・ボス」として敵対していた存在から、今までのそうしたイメージを払拭するかのような事が語られた・・・。
「魔王」とは、絶対としての悪などではなく、「魔族」の「王」・・・。
それに、マリアもテスト・プレイヤーとしてβテストをこなしたことがありましたから、“あの物語”の事も知っていたのです。
そして、ゲーム開始と共に流れた“あの”プロローグも・・・
だけどマリアは知らない、知っているのは実体験を通して見てきた事のある“あの人物”だけ・・・。
そして、今マリアの前に立つこの魔女も、かつては「魔王」の地位を望んだ存在である事までは理解を出来ましたが。
現在「魔王」ではないと言う事は、何らかの原因で断念せざるを得なくなった―――?
それに気になる『それにわたくしも、所詮は「魔族」なのです。』・・・
ドゥ:あなたが「魔族」―――と言うのは判ったけれど、それとコレとどう言った関係が?
ユ:ありますよ。
なぜならわたくしは、「魔王」と成った暁には、わたくしのスキルを使い、わたくしの意にそぐわぬ者も有無を言わさず従えさせ、そしてニンゲン共を滅ぼすつもりでしたから。
ドゥ:それが・・・「魔族」―――
ユ:そうです―――ですがこのわたくしとは全く違う考えを掲げた方がいたのです。
その御方こそが、今代の魔王―――。
あの方はこう仰られました・・・『こんな下らない戦争を際限なく続けていては、お互いにとっても利益にはならない』と。
あなたはご存知ですか、ドゥルガー・・・この世界には「良い争い」と「悪い争い」があるのを。
正直、判らなかった・・・。
だって「争い」に良いも悪いもあるなんて思いもしなかった・・・。
けれど目の前の魔族の一人が、訥々と語ったことはなんとなく頭に入って来た―――・・・。
「良い争い」とは、次に何かを産み出す、生産させることが出来る者のことを言い。
「悪い争い」とは、何も産み出さない・・・言わば先の見えてこない、無駄なモノのことを言う。
ああ―――そうだ・・・私達の世界にも、そんな事はそこら中に蔓延している。
超大国同士の無益とも思える意地の張り合いで、数を減少させるどころか益々その絶対数を増加させている核兵器。
またそうした「抑止力」なるもので、綱渡りに等しい「世界の平和」を謳い、そうした危ういモノの上で踊っている私達・・・
この私本来の職務にも言えた事だけど、一向に無くならないのは「銃の乱射事件」や「銃を扱った強盗や殺人」などは、挙げたら枚挙の暇がないくらいに勃発し続ける。
なぜ、あんなにも危険なものを規制すらせず、未成年でも携帯所持するのが許されているのか・・・
私達も、彼岸で言う処の「魔族」の様なものだ―――けれど、その「魔族」の中の異端児が、現在事実上のトップ―――と、言う事は・・・?
ドゥ:だとしたら―――そんなのは最早「魔王」ではないのでは?
ユ:いいえ、紛れもなくあの方は、わたくし達の・・・「魔族」の「王」なのです。
ゆえに背く者があってはならない―――だとするなら、今背いている者達は?
ドゥ:それが「レギオン」―――と言う訳ね・・・良く判ったわ。
ユ:理解をしてくれてなによりです。
それに外も益々騒がしくなる一方、ならば―――あの時ですら見せなかった、このわたくしの権限の一片をお見せ致しましょう。
≪来れ≫――≪暗黒大樹≫
どちらが「敵」で、どちらが「味方」なのかを知らしめられたか―――と言う様に、次第に目の前の魔族はその本性を顕わしました。
そう・・・「魔族」としての本分―――敵を力で圧する性分。
今、『東の魔女』の呼び掛けにより現出してきたのは、以前ドゥルガー自身が目にしたことのある清らかにして聖なる樹ではありませんでした。
全身が墨の様に黒く、生えている枝もどことなく刺々しくも痛々しい印象を与える『暗黒大樹』。
そしてそれに伴い、『東の魔女』の態も変ずる・・・
ドゥ:ユリア・・・あなた“それ”は―――!!
今にして疑問としていた処が晴れたかのようだった。
今ドゥルガーの前に立ちたる者こそ。
「黒衣の導衣」、「両の眸は紅く染まり」、「眼からは血にも似たような涙を思わせる徴」―――
彼の者こそ以前自分達を散々苦しめてきた「レイド・ボス」―――『四凶』としての『エニグマ』としての姿。
ですが―――・・・
ユ:以前のわたくしは確かに『暗黒大樹』の影響下にありました・・・。
が、あの時ですらも『暗黒大樹』の能力は借りなかったのですよ。
ドゥ:では・・・これから見せてくれるのが、あなたの―――
ユ:(フ・・・)厳命する―――今こそ解放せよ!
≪ソーン・ニードル≫
≪テンタクルス・ウイップ≫
≪アシッド・ミスト≫
あの―――自分達のクランで構成されたレイドPTを、幾度も崩壊の危機に晒せるほどの「暗黒魔術」を扱う「暗黒魔導師」としてのエニグマ・・・。
ただそれでもユリア本来の権限そのものではなかったことを、ドゥルガーはようやくにして知りました。
それによって理解せざるを得なくなった―――この外では『東の魔女』の固有領域を侵す為に張られている結界を壊そうと躍起になっている有象無象に罰を与える様も、
まるでどこか駄々っ子を躾けている様な感じすらあった・・・それでも、暗黒魔導師の時の威力より数倍もある感じがした。
今ですら戯れ―――ならばこの魔族の本性が顕れた際、一体どれほどの被害は産出されるのか・・・けれども。
ユ:つまらないわ―――これではまるで、わたくしが弱い者いじめでもしているかのようだわ。
ドゥ:えっ?!
ユ:このわたくしと対等に闘争を―――と言うのであれば、せめてもう少し歯応えがないと・・・ねえ、あなたもそう思うでしょう?
ドゥ:あのーもしかすると、そう言ったのも魔族・・・
ユ:そうですよ。
飽きっぽくて長続きはしない―――ゆえに魔族同士で闘争をしたところで、蟠りなど残りはしないのです。
ドゥ:あ゛〜〜〜なんだか、ある意味「平和」なんですね。
ユ:けれど―――ニンゲン共は違います。
彼らはわたくし達より短命ながらも、「想い」を遺し続ける―――ゆえに、わたくし達魔族に対する遺恨は世代を隔てても希薄にはならないのです。
ドゥ:だけど・・・ニンゲンの「英雄王」は、そうはしなかった―――。
ユ:彼の方こそ「英雄」の名に相応しい・・・違う種属であるわたくし達魔族が言うのですから。
それにわたくしだけではありません、このわたくし同様志を同じうする者達も、また彼の方に対してのみには賞賛しているのです。
ドゥ:その方の名は―――?そして良ければ「魔王」なる方のお名前も・・・
ユ:「英雄王」の名は、リリア=クレセント・ロード=オデッセイア。
「魔王」様のお名前は、エリス=ルベウス・ルクス=アンスラックス。
そして今でこそ、声を大にして言えます!
それこそが『総ては可能性の為に』―――。
ある時期に於いて爆発的にヒットした、誰もがプレイをしたことのある「オンライン・ゲーム」のキャッチ・コピーにして。
かの魔王が最初に掲げた偉大なる言葉なのでした。
つづく