彼岸の次元の“西側”に転移してきたセシルとブラダマンテ。
同じくして“東側”に転移してきたドゥルガー。
―――と、ほぼ時を同じくしてこちら・・・地域区画としては、セシルとブラダマンテと同様“西側”に位置するという場所に、転移してきたこの2つの存在は・・・?
プレ:ヌうぅぅ・・・どこだ、ここは―――
ヘ:(ふぅ〜ヤレヤレ―――)
プレ:ヘレナ!黙っていないで説明しろぉ! オレ達は先程まで―――
ヘ:ギャーギャー喚くんじゃないよ、坊や。
どうやらこの2人―――プレザンスとヘレナは、こうなる直前まで互いに熱い闘争を展開させていたようで。
それがいつの間にか自分達は元いた場所から別の場所へと、強制的に転移させられていた―――と言う表現がしっくりくるくらいの周りの状況の変化に、
ついぞプレザンスはヘレナに食って掛かるのでしたが。
どうやらヘレナには、現在の状況が判ったみたいで―――。
プレ:な、なんだと!お前・・・
ヘ:フフッ―――もう少し、坊やとのお遊びを楽しみたかったんだがねぇ?ここまでのようだ―――と言う事なのさ。
まあ付いてきな。
プレザンス自身の大いなる疑問を余所に、これから起きる事・・・いや既に起こっている事をいち早く理解した「公爵」の促されるがままに、
今いるこの場所―――古めかしいゴシック建築様式の「古城」と言う雰囲気が似つかわしい建物を闊歩したのです。
プレ:それよりもヘレナ―――ここは一体どこなのだ?
すると「公爵」ヘレナは、“はた”とその足を止めプレザンスの方を振り向くと、不敵な笑みを浮かべながらこう答えたのです。
ヘ:“ここ”は―――言わば私達の生まれ故郷・・・。
そう―――「ヴァンパイアの領域」、通称を『ヴァルドノフスク城』と呼ばれる処・・・だ、よ。
プレ:こ―――ここがお前達の本拠地!だぁぁが、そんな場所にオレを迎え入れたのは誤算だったなぁ?
ヘ:勘違いをするんじゃないよ―――あんたは私達の貴重な戦力でもあるんだ。
プレ:なっ・・・?なんだと! このオレがお前達の??
ふっっざけるな!オレはお前達を狩る「異端審問官」なのだぞ!!
ヘ:それも勘違いだねぇ? まあ、私の言い方も悪かったが、言ったら先程の「私達」と言うのも、私達の種属ヴァンパイアを含めたその他大勢・・・
つまりは「魔族」全体って意味なのさ。
プレ:なんだと!それはますます以て聞き捨てならん!なぜ人間であるこのオレが、貴様の様に穢れた魔族なんぞに・・・
ヘ:ああそうそう―――ついでだから言っとくけど、坊やがプレイしてるゲームを創ってるの、魔族だからねえ?w
プレ:な・・・ッ―――!
ヘ:それにプレザンス、あんたは色々間違っているよ。
そりゃあんたが信じて已まない宗教では、「魔族」や「魔王」は絶対的な“悪”として描かれ、そうしたものだと刷り込まれている。
だけどね、今代の魔王様は彼岸のニンゲン共との直接対立を完全に避けている・・・さあ、坊やにはこれがどう映る?
次から次へと今まで自分が信じてきた世界観―――価値観―――常識が、根底から覆されて行くプレザンス。
今までは「悪魔」「魔族」「魔王」等と言う者達は、絶対なる悪だとそう教え込まれていた。
それだけに今現在の現職の魔王がしている事とは、自分達ニンゲンとは直接的な対立―――つまり「戦争」を避けている・・・?
だとするなら絶対的な悪とは言い切れなくなって―――
そうプレザンスが思いかけた時、目的の場所へと着いたからか、ヘレナの足が止まり・・・
ヘ:着いたよ―――
プレ:着いた・・・だ、と? どこにだ。
ヘ:そう言えば、坊やもお目にかかるのはこれが初めてになるかねぇ?
私は、この存在の事を敢えて「お父様」と呼んでいる・・・。
プレ:なんっ、だ、と?!では―――・・・!
ヘ:ああそうさ―――この私の爵位は「公爵」・・・だけれど、元はニンゲンだった私を見初め、私の血を吸ってくれた事で永遠を・・・不死を与えて下さった方。
「大公爵」エルムドア=オズマ=ヴァルドノフスクその人だよ!!
#146;それぞれの思惑 ≪「大公爵」と「公爵」≫
不覚な事に自分は、この女性ヴァンパイアの「父」なる者に会わせられる為に“のこのこ”とついてきてしまった?
それに今更引き返そうにも、固く閉じられた重厚な扉が歪な音を立て、開かれて行くとそこには・・・
ヘ:急なお召喚立てにより参りました―――お父様。
部屋の中は光さえ呑み込んでしまいそうな“闇”・・・そこに、ほんのりと灯りがともされ、「公爵」ヘレナの父であるとされる「大公爵」エルムドアの姿が浮かび上がっていたのです。
それでも肩から上の部分―――つまり顔はいまだに闇の中にあり、それ以下の半身が反映されている・・・。
そして手塩にかけた娘を待ち侘びるかのように、ゆったりめの椅子に腰を下ろしていた存在は、閉じていた眸を開けるや。
エ:待ち兼ねたぞ―――ヘレナ・・・この余の、愛おしき娘よ・・・。
闇の中に灯る紅き光が2つ。
それはまさしくのヴァンパイアの眸でありました。
それに「大公爵」は、このお話しが始まって以降も明確に目立った動きはさほどしてこなかったため、実在しているかすら疑わしかったのでしたが・・・
ようやくここにきて自らの出処進退を明らかにしてきたもののと見え―――
ヘ:それで・・・急なお召喚立てにより参りましたが、いかがなされたのですお父様・・・。
エ:フ・フ・フ・フ―――お愉しみの最中を邪魔され、少々おかんむりなのかね?ヘレナ。
“父”なる「大公爵」から揶揄され、可愛らしくふくれっ面をする“娘”なる「公爵」。
しかし依然として「大公爵」の全体像は杳として知れず、ただその声のトーンを聞く限りでは、渋く重みのある重低音の印象の限りではかなりな年配の男性と思われた・・・
それにしても“白い”―――
ヘレナはいつも「宵闇のローブ」を纏っていたから、暗く黒いイメージでしかなかったが・・・
この「大公爵」なる者はどうしてこうも“白い”のだ?
そう、一部だけではあるものの、プレザンスはその視覚的な印象としての「大公爵」を、次のように捉えていました。
低く・・・重みのある渋い声―――であるがゆえに、かなり年配の男性だと。
しかも娘が羽織っている服飾とは真逆の、「白いドレススーツ」。
けれど彼は知らない―――あまりにも知らなさすぎる・・・ヴァンパイアの種属を。
すると徐に腰を上げ、自分達に近づいて来た者の容姿・・・とは?
プレ:お前・・・?お前・・・が??お前が「大公爵」!!
エ:ああその通りだ、それがどうかしたのかね?
信じ・・・られなかった―――なによりそこにいたのは、“娘”なる「公爵」よりも
プレ:貴様・・・は、ヘレナの“父”であるはず―――なのになぁぜ?!なぜ“娘”であるヘレナよりも若いのだ!!
しかもなぜ少女の姿を騙る!!
エ:フフフ―――ククク・・・そんな事か。
こんなものは単なる“戯れ”だよ。
余にとって、更には我々にとって外見など取るに足らぬ。
よいかね、こんなものは我々にしてみれば“戯れ”以下でもあるのだよ!
それに言っておかねばなるまい・・・「真祖」たる余や娘を、“殺し”“滅する”など茶番にも等しいと!!
プレ:なんっ・・・だ、と?!ではオレ達がしていた事とは―――
エ:汝はつき合わされていたにすぎんのだよ。
余が愛する娘の「親愛なる者」として!
プレ:くっ・・・ふっっざけるな!ならばこのオレの憎しみも、憎悪も愛憎も総て仕組まれたものだと言うかあぁ!
エ:吠えるなジュダース・ブリースト! だから何だ、だからと言って気付かぬではあるまい!
余の娘を傷付け、その血を受け入れた汝にはな!
プレザンスの前に立っていたのは、やもすれば“娘”なる「公爵」よりもうら若いと言う印象を与えがちになる、“少女”を象どった一人の魔族。
ヴァンパイアの「大公爵」なのでありました。
しかも更に彼の言うのには、彼らほどの強い魔力を有する者達にとっては、「若さ」も「性別」も思いのまま。
―――のようで、しかしその事自体を“戯れ”や、それ“以下”ともしていたのです。
それにヘレナやエルムドアほどにもなれば、例え神のご加護を受けた聖騎士だとて、容易に滅することは出来ない。
例え手足を斬られ、胴を分かち、馘を断たれたとはしても―――また陽の光に晒され灰になったとはしても、復活出来てしまえている特性。
創作小説などに記されている「聖水」や「銀の武器」、果ては「ニンニク」でさえもものともせず。
剰え種属特有の強力な魔術「裏面式」を操り、態も「霧」や「使役する者達」に変じ、人狼や人虎すらも従える。
事実上最強とも言える種属こそ、ヴァンパイア・・・。
けれども彼の者達にも唯一の弱点があるとすれば、他の魔族以上にニンゲンと言う種属に恋愛感情をいだいてしまうと言う事・・・。
それは、エルムドアも“そう”であり―――またヘレナも“そう”だと言えたのです。
つづく