リリア達がPTを組んで以降、相手としなければならない「最大の難敵」・・・
彼の“存在”の事は、市子はもちろん、サヤも直接対面した事などなかったことから、知らないのも無理はありませんでしたが・・・
よく「SNS」や「攻略掲示板」などに寄せられる投稿や情報によると、その存在の事を仄めかすようなモノがあるのです。
曰くに―――「他人の思考をよく詠める」と・・・
その事は、現実の世界でも「異能」の極致として認識されており、それが仮想の世界に於いては・・・?
いくら対象が近くにいたところで、同じ場所からログインしているわけでもなく、所謂「能力者」とは程よい距離は保たれている―――
だからこそ、「他人の思考を〜」とは、少しばかり口が幅ったい感じはしているのです。
けれども、ネット上の告白のどれもが、そんな都合のいいものを粉砕していた―――
所詮、“噂”は「噂」・・・真実味は、どこにも“ない”―――はずでしたが・・・
やはりその地域は、以前訪れた「シベリア」と同じく、極寒の地でありました。
そして、その地にある、まるで「宮殿」―――御殿のような建物・・・
それが―――・・・
サ:(は・は・・・)さぁ―――っすが、「モスクワ」を統括する人の居住まい・・・って、少し違うわ。
市:(・・・)――――。
リ:サヤさん、気を付けろ・・・「もう」「始まっている」・・・
それから市子さん、余計なことを考えちゃダメだ―――あと、蓮也もそうだ・・・。
「モスクワ・サーバー・エリア」に“本拠”を構える者の「屋敷」・・・
広大な敷地内に、遠く霞むように見える小さな“モノ”―――
けれどそれは、「遠近法」によって、“そう”見えるだけで、近づくにつれ、その威容が確認されてきたのです。
自分達がこれまでに見たことのない程の大きさ―――
入口の門から見た時には、“豆粒”程の大きさ・・・だったのに―――
なのに、何時まで経っても辿り着かない道程・・・
それでようやく、そのお屋敷に辿り着ける―――と思った時には、まだ行程の半分だった・・・と、PTのリーダーから知らされた時、
初めてその屋敷の広さの規模と言うものが判ったものだったのです。
そして、ようやく辿り着いた時、今まで凍えそうな寒さだったものが、そのお屋敷に入った途端に払拭された・・・
まるでここは「異世界」か―――? ・・・と、まるで冗談とも思えないことを、頭に巡らせながら、
早速「モスクワ」の「エリア・マスター」の部屋を訪れたリリア達・・・
するとそこには、今回会うべき“存在”がいるのでした。
リ:(・・・)お久しぶりです―――「モスクワ・サーバー・エリア」のマスター・・・
その“存在”―――も、やはり、「エリヤ」や「キリエ」と同じく、上背の低い存在・・・
頭には「白銀」の長髪を「縦ロール」に仕立て上げ、「琥珀色」の双眸・・・
よく見れば、下肢が不自由なのか・・・「車椅子」に座していました。
しかしながら、このゲームの世界で、上に立つ存在の総てが、こんな少女のような小さな者達なのか・・・
―――と、そう思ってしまった瞬間!
誰?:ク・ク・ク―――・・・そうか・・・汝も“そう”おもってしまったか・・・「蓮也」
その、少女のような存在から紡がれた言葉に、市子は―――サヤは―――過剰な反応を示してしまいました。
すると―――またもや・・・?
誰?:フッ―――そう怯えずとも好い・・・「市子」に「サヤ」よ。
すでに『豎子』より、「レクチャー」を受けているのであろう?
リ:(!)おい―――余計なことを・・・
誰?:黙れ、豎子―――どうやら汝の躾が、なっていなかったようだ・・・なあ?
市子に、サヤが・・・一様にして怯えてしまったこと―――
未だ自分達は、この人物に紹介すらされてもいない・・・“のに”―――?
なぜか、知るが如くに呼ばれてしまった「名」・・・
それに、蓮也が不用意に「思って」しまったことが、相手に筒抜けとなったこと―――
そう・・・とどのつまりは、あの“噂”は、噂なのでは、ない―――
純粋なる真実・・・なのです。
しかしながら、如何ばかりかの疑問も湧いてくるのですが、それは“今”すべきではないことだと考え、
取り敢えずの処は、後回しにすることにしたのです。
誰?:フ・・・フ・フ・・・フフフ―――それは「賢明な判断」だと言うものだ、な。
それで?ワレになんの用なのだ?
リ:(・・・)実は―――「シベリア」のマスターからの依頼で、こちらに伺った次第です・・・
「マスター・ミリティア」
#17;“或る”因縁
ミ:ほぉう―――「あの者」が、ワレに会いたい・・・と?
果たして、何をするつもりであろうな―――?!
かつて、帝国の都に坐し、あの者の一族が栄華を極めた「この地」を・・・
「シベリア」の一農民に過ぎなかったワレの祖先に牛耳られたのが、殊の外堪えたと見える―――!
それを、このワレ・・・『ミリティア=セルゲイビッチ=ラスプーチン』に、会いたいと申すか―――!!
なぜ―――「SNS」や「掲示板」などで、この2つのエリア・マスター同士の不仲説が持ち上がるのか・・・
それが今、ようやく分かりました・・・。
かつて、ロシア帝政の時代、栄華を極めた「貴族」の末裔―――
その帝政を、中枢にまで潜り込み、崩壊させる“きっかけ”を作ったとされる、とある「祈祷僧」―――
その“名”こそ、『ラスプーチン』・・・
そして、その末裔が、かつての帝政の都にて、居座り続ける―――と、言う“事実”・・・
だ・・・と、したなら―――?
ならばエリヤは、どう言った理由でミリティアとの面談―――会談の交渉を、リリアに託したのだろうか・・・
それも、すぐに判ってきたことだったのです。
リ:我が「ホスト」よ―――今は、そんな事を言っている場合ではありません!
何卒・・・私の友の―――・・・
ミ:(・・・)「嫌だ」―――と、ワレが申したら?
リ:・・・それでは、私との間で交わした契約の破棄―――と、なるのでは?
その、リリアからの言葉を受けると、ミリティアの目が細まりました。
“それ”こそが「満足のいく返答え」とでも言う様に・・・
そう、ここに「モスクワ・サーバー・エリア」のマスターは、一人のプレイヤーの提案を受け入れたのです。
それにしても、リリアが現在、「ホスト」と仰いでいたのが、ミリティアだったとは・・・
道理で、この高難易度のクエストを、よく引き受けたものだ―――と、さながらにして思ったのです。
そして―――・・・
ミ:それにしても、ご苦労であったな―――
リ:(・・・)いえ、こうでもしませんと―――
ミ:フ、「大願成就」は成らぬ・・・か。
「三日も会わざれば成長する」とは、よく言ったものよ・・・なあ?
征木璃莉霞
突如として、その人物の口から漏れた言葉に、衝撃を受ける―――市子、蓮也、サヤ・・・
そう、今確かに聞き違いなどでは無ければ、自分達の地域にある「ある家の名」を耳にした・・・?
「征木」―――それは、自分達が住んでいる地域では、「御三家」の一つとして知られ、
ですがしかし―――数年前、その家の当主が突如として謎の失踪を果たし、
そこの“一人娘”の行方も、同時に・・・?
それが、自分達の地域とは、こんなにもかけ離れた異国の地の人物が、なぜ・・・?
すると―――・・・
ミ:フッ・・・なんだ、己の仲間にすら、未だ話しておらなんだのか。
リ:・・・すみません―――
ミ:そのような覚悟で「あの者」と対峙しようとしておるのか―――
リ:・・・判っています―――
ミ:判らぬものよ・・・なあ―――
汝がそのような覚悟では、救える者も救えぬのだぞ―――
リ:・・・そこも―――
ミ:判っているならなぜやらぬ―――!甘ったれるな!!
だからこそ汝は「豎子」なのだ。
「また―――・・・」
「また・・・だ―――」
「また、この人物は、私達のPTのリーダーの事を、“そう”呼んだ・・・」
「豎子」―――とは、「愚者」「未熟者」「赤子」・・・と、その意味としては、あまり評価が良くない時に使われる言葉・・・
けれど、それなのに―――その場はどこか、一風違った感じに聞こえていた・・・
ただこの人は、「契約」だからと言って、リリアを貶めているわけではない・・・
これは「叱咤」―――これは「激励」―――
その関係性が垣間見れた時、現在リリアが背負っているモノの大きさと言うものが、ようやくにして理解できたのです。
そう―――それでも「ようやく」・・・
「嗚呼―――なぜ私は、この人の為になってはいないのだろう・・・」
「この人自身の悩みと言うものを、もっと吐露してもらえないのだろう・・・」
「どうして―――・・・」
ミ:(―――)それはな―――市子よ、「だからこそ」なのだ。
リ:ミリティア―――ッ!
ミ:リリアよ・・・征木の娘よ―――ワレの至高にして最高だった“友”の娘よ・・・
なぜ汝は遠慮をするのだ―――なぜ、汝自身の“友”に、頼らぬのだ・・・
はっきりと言え―――“友”に、頼れぬと・・・
市:(えっ―――・・・)
「頼“ら”ない」のではなくて、「頼“れ”ない」・・・
それは未だ、自分達が信用されていない―――と、言う証し・・・
そう思うと、市子の胸の奥が痛みました・・・
「私は・・・「名家」の生まれ―――だからこそ、立ち居振る舞いも、上品でないといけない・・・」
「けれども“それ”は、周囲りから見ると、鼻に衝くものだった・・・」
「そこの処は、判っている―――」
「だから“つい”虚勢を張ってしまう―――・・・」
「そう・・・現実の私は、虚勢を張らなければ、“私”という「立場」や「地位」を保っていられない・・・」
「だからこそ、周囲りに“敵”を作り、周囲りに一層、他人が入り込む余地を作らせない・・・」
「「孤独」―――“私”は・・・現実での私は、孤独なのだ・・・」
「けれど、仮想の世界と言うのは、なんと伸びやかなのだろう―――!」
「「家」も「立場」も「地位」も捨て、柵のない自由気ままに振舞える、自由と放埓の世界―――!!」
「この世界で、交友した関係の中に、現実でのライバル校の有名人もいるけれど・・・」
「どこか現実とは違った性格―――いや、きっと、“こちら”での方が、彼女本来の性格であるに違いない・・・」
「そして、この世界で最初に交友の関係となった「この人」も―――・・・」
「確かにまだ、付き合い始めてから半年も経っていないのかも知れない・・・」
「けれど私としては、深く付き合っていた“つもり”だったのに―――」
「“それ”は所詮―――私“だけ”の“つもり”だったのか・・・」
市子は、リリアに頼られていないことにショックを受けていました。
確かに自分は、プレイを始めて半年余りは経ちましたが、未だに知らない「システム」の事とかがある・・・
それを、丁寧に教え、指導を受けていたのは、他ならぬリリアだったのに・・・
なのに―――「頼られていない」・・・?
この市子の思考は、立ち処にミリティアの知れるところとなり―――・・・
ミ:(―――)市子よ、「それ」は違うのだ・・・
ワレの徒弟が、汝達に頼れぬのは・・・
そこで初めて知る―――リリアが背負いし「重き」モノを・・・
だからこそ“言えぬ”―――事の重大さ・・・
ゆえの「頼“れ”ぬ」―――
けれども、こうして「第三者」を介することで、リリアに関する「重大なクエスト」の内容が、
いよいよ明らかになってきたのです・
つづく