「シベリア」のエリア・マスターからの要請を受け、「モスクワ」のエリア・マスターが、エリヤの本拠を訪いました。
しかしながら、明確な「敵対」関係にはないものの、明らかに「対立」関係にある者達が、
渦中に現れたとなると当然―――・・・
キ:フッ―――よくここへと来れたモノね?!
ミ:―――・・・
キ:(!)待ちなさい! この私を無視するとは、いかなる料簡からか!!
エリヤの「高潔なる騎士団」の団長、キリエ―――
以前は“伝説のM”という不適切な呼ばれ方をされていた彼女が、主人に仇なす存在に対し、敵意を剥き出しにする・・・
けれど、それが本来の役目―――役目であることは分かるのですが、
それすらも受け流して素通りを決め込もうとする無礼者に対し、キリエは一層に敵意を剥き出しにしました。
しかし、それすらも「我が意に解せず」を決め込み、更に素通りを決め込もうとする者に、とうとうキレてしまった―――
この、まさしく想定していたことが、鮮やかに描かれようとしていた、その時―――
―――止めなさい、“クゥオシム”―――
キ:(!)猊下?ですがしかし―――・・・
キリエがミリティアに躍りかかろうとしていた刹那、彼女を止めたのはエリヤでした。
(しかしこの時エリヤは、キリエを“別の名”で呼んだようですが・・・?)
それはそれとして、ようやく交渉の場に着いた両名は・・・
エ:すみませんわね、こちらの躾がなっていなかったようで・・・。
ミ:フ・・・別に気にせずとも好い、どこの組織にもいるものよ、「はみ出し者」と言うのは・・・な。
エ:・・・。
ミ:それに、謝罪をせねばならぬのは、こちらであるやもしれぬ。
そちらの“番犬”が吠え立てたのも、ワレの“番犬”が威嚇していたのだからな。
自分の部下の不始末を、まず最初に詫びるエリヤ―――でしたが、
エリヤの護衛であるキリエが、異常な反応を示してしまったのも、ミリティアの“番犬”―――
いやしかし、今回ミリティアが、「シベリア」訪問に際し、付いてきている者と言えば・・・
サ:え゛? あの人の“番犬”―――て、ひょっとしなくても、あの「クソメイド」?
サヤの口から出た、不適切な表現―――「クソメイド」
実はこの存在は、前回のお話しの時でも、いたことは“いた”のです。
ですが、余りに特徴のない存在感に、記述する価値もない―――
容姿も極めて端正でなければ、身体的にも特徴的ではない・・・
あるとすれば、その者は「メイド」であるにも拘らず“不細工”だった・・・
お客人であるリリア達に対しても、よく熱いお茶を引っかけたり―――
給仕をするに際しても、手を滑らせるなどして、ナイフなどが飛んできていた―――
そんな、よくもこんな危険なことをするメイドを雇っておけるものだ・・・と、反面感心したりはするのでしたが、
たった今、その主人からはあり得ない言葉が―――
そう、このメイドは、不器用・不作法などではなく、それらは本来の自分を隠すための「隠れ蓑」に過ぎなかった・・・
だからこその「殺気」―――
だ、とするならば?
ミ:フッ―――安心するがよい、この者は、ワレがよく躾けているのでな?
周囲りには「威嚇」止まりにはさせているのだよ。
ただまあ・・・その“牙”を休めさせておくには、少々もったいないのでね―――
その主人の―――思わぬ言葉に、“ある存在”を彷彿とさせてしまう・・・
そう、自分達の予想が正しければ、この「メイド」は―――
エ:フ・・・噂では聞いていましたけれど、本当に「飼い犬」に成り下がったようね、『ウイッチ』・・・
#18;緊迫の会談
「ウイッチ」・・・それこそは、その「メイド」の、本当の「プレイヤー・ネーム」
「ウイッチ」・・・それこそは「魔女」を言い表し
「ウイッチ」・・・それこそは、2つの世界にまたがる「暗殺者」の「コード・ネーム」
ならばなぜ、その「暗殺者」が、一人とは言え少女の「メイド」に成り下がってしまっているのか―――?
けれども、その情報に経緯は、方々に錯綜しており、とても真に迫るモノに辿り着くには難しかった。
とは言っても、大きな“指向性”としては、一貫としてあるようで、
どうやら・・・ミリティアを害するように依頼を受けた者は、標的を害する前に、「取り込まれて」しまった・・・
しかもそれは、ミリティアが所有する「OUS」だと気付くのに、そう時間はかからないことだったのです。
それはそれとして、エリヤは決断をしなければなりませんでした。
なにより、彼女自身がその事を望んだがゆえに、リリアを交渉役に立てたのですから。
そして―――無為に差し伸べられる、ミリティアからの手・・・
「この手を―――握ってしまったら、私は“私”ではなくなる・・・」
「この手を「握る」ということは、私が“この者”に屈してしまうという証しにもなりうる・・・」
「本当は、「握り」たくはない・・・」
「けれども、知ってしまった―――」
「私の友人の一人娘が、現在どんな苦境に立たされているかと言う事を・・・」
「奪われてはならない―――また、奪われるはずもない、自分だけの「宝」を・・・」
「「奪われてしまった」―――と、言う事実を・・・」
「差し伸べられている手を、「握らない」と言うのは―――私自身の“プライド”が、そうさせてしまっているから」
「差し伸べられている手を、「握らない」と言うのは―――私自身が未だ、「貴族」であることの証し」
「私の“プライド”と、友人の一人娘の苦しみ・・・」
「果たして“大事”なのは、どちらなのか・・・」
その事を自問自答した時、自然とエリヤの手は、ミリティアの手を握り返していました。
そこにはどれだけの“想い”があったのだろう―――・・・
どれだけの、重々しいものが―――・・・
“それ”が判っているのかいないのか―――果たしてミリティアからは、意外に過ぎる言葉が・・・
ミ:下らぬものよ―――な・・・。
エ:えっ?
ミ:「下らぬものよ」―――と、そう申し上げた。
所詮ワレらが引き摺りしモノは、ワレらさえよく知らぬ昔の人間のやらかしたことだ。
それを未だに背負い、引き摺っているワレらが、「下らぬ」と言ったのだ。
少女は―――達観をしていました。
自分達を取り巻いている、この“得体のしれない”モノ・・・
ある意味での「祖先からの呪縛」―――
もし自分達が、それぞれの家の出でなければ、こんなにも因縁めいた呪縛は、なかったのかもしれないのに・・・
だからこそミリティアは、そんな得体のしれない呪に対して縛られていた自分達が、
とても下らなく、とても滑稽に見えてきた・・・
そのことを説かれたエリヤも、先程まで自分が抱いていた感情が恥ずかしくなってきたものと見え、
少しばかり顔を上気させてしまったのです。
それを見かけたミリティアが、どこか揶揄い半分に―――
ミ:汝はそれで良い―――汝が感情に翳りを見せれば、汝も能を存分に発揮は出来まい。
感情晴れやかに・・・時に乙女、時に少女のように晴れやかに振舞うがよい。
さすれば、いずれ・・・汝は真の王者となれるだろう―――
それこそは―――“啓示”・・・?
“神”が、人の心を開いて、教え与えたるもの―――??
しかし、“少女”は“神”ではない―――
けれど、その言の葉に中り、どこかエリヤの眉が晴れた気がした・・・
これは「どうしたことなのか」―――と、リリアはミリティアが去る際に訊ねると、
するとミリティアからは―――・・・
ミ:・・・豎子か―――自分の事はさておいて、他人の事を心配しおるか・・・
変わらぬものよ―――なあ。
リ:えっ?
ミ:まさに今の汝は、汝の母がしていたことを、そのまましているだけなのだ。
蛙の子は所詮蛙―――鳶が鷹を産むはずもなし・・・か。
なんだか、分かったような―――分からないでいるような・・・そんな事を述べられたものでしたが、
一つどことなく分かってきたのは、今自分がしたこととは、幼い頃にいなくなった母と、限りなく同じことをしていると褒められた気がした・・・
普段から、自分の事を褒めた試しのない人が、自分の事を褒めてくれた・・・?
それはそれで嬉しくなるようなことでしたが・・・
そこで知ることとなったのです―――
リリアが、モスクワを訪れる以前、何があったのか・・・
頼って欲しい友人が、自分に頼れない理由―――それこそは・・・
ミ:(―――)市子よ、“それ”は違うのだ、ワレの徒弟が汝達に頼れぬのは、
ワレの徒弟が所有していたOUSを、“ある者”に奪われたからなのだ。
市:(!?)そんな―――バカな?
ミ:汝が驚くのも無理はない・・・このワレですら、その事実を知るに際し、この耳目を疑ったのだからな。
驚愕の真実―――“絶対不可侵”であるはずの、自分自身の宝を侵され、剰え“奪われた”・・・?
当初ミリティアも、そのことを知らされた折には、「悪い冗談」の類だとばかり思っていました。
けれどその事実は、リリアのフレンドに洩れなく伝わった―――
斯く言う「玉藻前」然り、今回の「エリヤ」然り―――
多寡が一人のプレイヤーに対し、なぜにこうも上に立つ者がこんなにも協力的なのか・・・
どことなく判ってきた―――
ですが、そう・・・「判って」はきたのですが―――
ミ:厄介なのはな、豎子が己のOUSを過信、慢心しすぎ・・・「彼の者」と対人戦で敗れたことにあるのだ。
リ:そう言う事・・・つまり私は、当時「清廉の騎士」という“称号”を母さまから受け継いでいて、
このOUSも同時に受け継いでいたの。
その事に天狗になっていた―――・・・
この“最強”の私が、どこの誰とも分からないヤツに、敗れるはずがない―――って、ね・・・。
けれど、“それ”が間違いだったんだ・・・
リリアが、友人達に頼“れ”ない理由に―――今回のそもそもの発端となっていた出来事がありました。
その出来事が―――結果論として、無謀にも不用意にして、未知の相手と一人で立ち向かい、
そして敗れ北ってしまった・・・
それに、信じられないことに、「絶対不可侵」とまで言われていた“絶対領域”を侵犯され、「略奪」の憂き目に晒されてしまったのです。
そう・・・「一人で立ち向かってしまっていた」―――
これは、リリア“個人”の問題であり、他人が・・・「第三者」がどうこうという問題ではなかったのです。
つづく