リリアに見送られ、ミリティアとウイッチの姿は揺らめき・・・そして消えていきました。
確かに少女は下肢が不自由で、移動の際にはおつきのメイドに車椅子を押してもらわないと不便そのもの・・・なのですが、
ミリティアは実に多くのスキルを修得しており、今回は「その一つ」である≪瞬間移動≫を駆使したにすぎないのです。
そして、ミリティアを見送って、再びエリヤの下に参じた時・・・
エ:今回はご苦労様―――
私も、なっていなかったようね・・・。
リ:えっ・・・?
エ:だって、本来なら“敵”と言って差し支えない人から、声援を送られたようなものなのですもの・・・。
何やら恥ずかしいものを見せてしまった―――とでも言う様に、エリヤの方からも達観したと取れるモノが紡がれました。
事実、この「二者会談」をきっかけとして、この後の出来事が大きく・・・しかも加速していくのですが、
その話しは別の機会として―――・・・
取り敢えずの処としては、クエストを達成したこともあり、多大の報酬や経験値を得たリリア達。
けれど・・・リリアにしてみれば、「多大の報酬や経験値」は、“もののついで”―――でしかなかった・・・
そう、PT内のメンバーは、判ってしまったのです・・・
本当の意味での、リリアの目的を―――
エ:それはそうと―――判っているわね。
リ:ああ・・・「ヤツ」の居場所は、相変わらず「あそこ」だな。
リリア本来の「目的」こそ、リリア自身に深く関わる問題―――
≪「因縁の宿敵」を打倒し、奪われたモノを取り戻せ―――:EX≫
『因縁の宿敵』・・・ここ最近のアップ・デートで導入された、「新しいシステム」・・・
自分よりも強大―――かつ凶悪な敵を打倒することで、新たなる境地・スキルの獲得・・・と、強化・・・
と言った様な謳い文句でしたが、このシステムにはマスキングされた部分があるらしく、
一様にして賛同していいものではなかったようです。
その証拠がリリア―――
その当時、最強の称号を持つ彼女が自分の「因縁の宿敵」に敗れ北り、剰えOUSを奪われてしまった・・・
そこの処を見る限りでは、“そう”思うしかなかったのです。
そして、知ってしまう事となる・・・リリアの「因縁の宿敵」の居場所―――
それこそが・・・
市:「ウランバートル・サーバー」?
リ:そう・・・そこに“ヤツ”がいる―――
それに、ここ数日動いていない・・・ってことで、いいんですよね。
エ:ええ、私の「紅焔」の団員である『ラゼッタ』からの報告ですから、まず間違いないでしょう。
リ:分かった―――色々ありがとうございます、それから・・・
エ:ええ、それも分かっているわ。
なまじ私のエリアの膝元を、騒がせることになり兼ねないのですものね。
蓮:え―――っ、それじゃ今回・・・
エ:つまりはそういうことなのよ。
そちらのお嬢さんは、分かったみたいですけれどね。
「彼の者」の居場所が判ってきたことで、至れたことがありました。
それが、「ウランバートル・サーバー」・・・現実世界では、「モンゴル国」の首都・・・
つまりリリアは、その場所へと赴き、自分の「因縁」を断ち切ろうとしていた―――
けれどその場所は「シベリア」に程近く、自分達が発生させる混乱の余波が押し寄せるかもしれない・・・
だからこそリリアは根回しに根回しを重ね、自分が事を起こしても、後のトラブル軽減を図るために、
「モスクワ」と「シベリア」のマスター同士が手を結ぶ必要があった・・・
そこで、母の昔の伝手を頼り、「モスクワ」とは仮初めの“契約”を結び、「シベリア」との仲を取り持った・・・
これで少なくともトラブルは少なくなるはず―――
後は、自分と相手との関係性だけ―――・・・
しかし―――蓮也は未だ、リリアの相手方のことについては、皆目見当もついていないみたいでしたが・・・
市子は、「その場所」を教えられたおかげで、どことなくリリアの「因縁の宿敵」の全体像が見えてきたのです。
そして翌日―――現実の世界では、またしても市子が璃莉霞の下を訪ね・・・
市:璃莉霞さん―――お話しがあります、来てください。
璃:(・・・)―――はい。
学園の生徒会長が―――またしても目立たないクラスメイトに、何の用だろう?
・・・と、クラスメイトの誰もが色めき立ちましたが、清秀はそうではありませんでした。
実は彼は、あれからも自分が疑問としていることを市子に訊いても、それには答えてはもらえなかった・・・
それどころか、今の今まで質問の答えを持ち越された形となっていたのです。
だから彼も、市子が自分の幼馴染を呼びつけたのには、おそらく「その事」に関わりがあると思ったから・・・
珍しくこの予想は、清秀にしてみれば“大当たり”でした。
そこで二人の後を尾行して、生徒会長室に入るなり―――
市:早速ですが、答えて頂きますよ、「征木」さん―――
璃:(・・・)あの―――私・・・
市:ええ、理由はどうあれ、“今”のあなたの姓は「松元」・・・ですが、
その事自体はじきに明らかとなってくるでしょう。
それより、私が確認しておきたいことは、あなたの「因縁の宿敵」のことです。
“まずは”―――の「先制攻撃」として、その人本来の“姓”で呼んだ・・・
けれどそこはそれ―――自分の優秀な“忍”に調べさせていたのだから、
そこの経緯はいつかは明らかとなってくるはず・・・
そんなことよりも市子はたった一つだけ、確認しておきたかったことがあったのです。
それが、リリアの「因縁の宿敵」・・・
「彼の者」が本拠を構えるその場所を知ったおかげで、知るまでに至った・・・
そう―――「ウランバートル」・・・現実世界での「モンゴル国」の首都・・・
しかしながら、古代中国では、度々「ある者達」の侵略を受け、その度毎に屈してしまっていた・・・
その「ある者達」とは、『匈奴』『夷狄』と呼ばれた「異民族」―――
そして、この者達の正体とは、モンゴルの大草原に勢力を張っていた、部族の総称―――
その、異民族の部族間でも、衝突はあったのでしたが、この異民族間でも、「ある伝説」が存在し得ていたのです。
その伝説に曰く―――数多ある部族間を一つに纏める者・・・
その者の名こそ―――
市:『単于』―――そうで間違いありませんよね。
璃:―――。
蓮:「大草原の王」・・・?
璃:違うよ―――秀ちゃん・・・あいつは、「王」なんかじゃない、
あいつこそは―――
#19;略奪者
市:間違えてはなりません―――清秀
確かに、「大草原の王」とは、聞こえはいいですが、古代中国の歴史に於いて、彼らは・・・
唾棄すべき「侵略者」にして「略奪者」なのです。
己の気の向くまま―――好きな時に殺し、好きな時に奪い、好きな時に犯し、そして好きな時に侵攻し続ける・・・
所詮そんなものは、人間の所業ではありません、まさしくの「野獣」の理論なのです!
いつになくその弁舌に熱を帯びる市子―――
やはりその裏には、自分の友人が侵略を受けていた・・・と言う事にでした。
そして、ようやく明らかになった、リリアの「因縁の宿敵」―――『単于』、
彼の者こそは、侵略や略奪を主とする者達の「王者」だったのです。
しかも「この存在」は、ここ最近で騒がれ出した者達の一人として、名が知られており、
リリアが敗れた当時、最強の称号である「清廉の騎士」を持っていたリリアを破ったことからも、
かなりのプレイヤー・スキルの持ち主であることも判ってくるのです。
そして、かつて対戦をした事のあるリリアだからこそ言えることがある・・・。
それこそが、彼の者が所有するOUS・・・
璃:それから、ヤツのことについては、もう少し詳しく・・・
ヤツが持っているOUSこそ、まさに『プランダラ』―――
これは、「スキル・ティカー」の上位互換版だと思っていいよ。
市:「スキル・ティカー」・・・「能力の略奪」―――?
・・・と、言う事は―――
璃:そう―――私が当時所有していたOUS・・・『无楯』は、今はヤツに奪われて、ヤツのモノになっている・・・ってこと。
そう―――単于のOUSこそ、『略奪者』・・・しかも、この凶悪なスキルは、
倒した相手から強制的に相手のスキルを奪う・・・「能力強奪」―――
これだけでも十分すぎるほど凶悪でしたが、この「スキル・ティカー」の“上位互換”ともなれば、
実際その憂き目に遭わされた本人からの証言によって、最悪の度合いを濃くしていくのです。
璃:でも大丈夫だよ―――だからこその対策を練ってきた・・・
考えてもご覧よ、どうして一プレイヤーであるはずの私からの要望を、
「地域の支配者」が聞き入れてくれたのか・・・
市:(!)そう言う事だったのですか―――
では、今までの成り行きは、総てこの為の布石・・・
今にして、思い当たることばかり・・・やもすれば、危険すぎる出来事の強行を、半ば強引過ぎるモノ―――と、ばかり捉えていましたが、
今の璃莉霞の証言によって、エリア・マスター達が、過ぎるほどの理解を示してくれたことの疑問が、払われてきたのでした。
そして―――その日のログイン・・・
予め指定していた集合場所に、次々と・・・その時点での最高の装備に身を固め、集まるPTの顔ぶれ・・・
市:リリアさん―――その武器は?
リ:私の友―――“焔帝”様から貸与された、一級品―――
銘を『ファフニール』!
「そこで知る―――この人の覚悟を・・・」
これまでが、「まやかし」・・・とまでは言い難いけれど、普段使いで勝手のいい二級品のモノを使っていた・・・
けれど、今回ばかりは“そう”はいかない―――
だからこそ、一時的に帯びることを許された業物―――『ファフニール』・・・
伝い説えによれば、古き竜の鋭き爪より研ぎ出された長剣で、長さ重さ共に常人の扱える品ではない・・・
それを軽々と振り回す様相こそは、まさしく当代きっての「最強の剣士」の証しだと言えたのです。
つづく