少しばかり時間が経ち、幾分か快復傾向にあるリリアから、ようやく事の真相が述べられ始めました。
リ:私には、かつてお世話になった人がいてな・・・
プレイ・スタイルも、プレイヤー・スキルも、他人より群を抜いていた・・・そんな人だった。
それに、付き合い始めさせて貰ってからは、その人の“性格”―――って言うのか・・・
その素晴らしさに感心することしきり―――だったんだ。
「だから私は決めた―――この人に師事しよう・・・って」
「そしてそれから、私はその人を「師」と崇めるようになった」
「強く―――賢く―――それでいて人当たりも優しい・・・」
「どちらかと言うと、詐欺にかかって人に騙されるタイプ・・・」
「けれど、その事に決して腹を立て―――」
「そう言えば・・・見たことがなかったな―――あの人が、怒っているっていう姿・・・」
リリアからの、その証言により、見え始めてきた、その「人物像」・・・
しかしてそれは、まるで創られたかのような「聖女」「聖母」像―――
けれど、ほんの僅かとはいえ、付き合ってきた―――と言う、友人が物語るのに、
とてもそうは思えなくなった・・・
けれど、しかし―――?
リ:あれはいつの頃だったか・・・
私とその人とが付き合い始めてから3年が来ようとしていた頃、
その人に妙な噂が付きまとってきたのさ。
それは、リリアが「師」と崇めた、あるプレイヤーに纏わる噂・・・
しかし―――所詮、“噂”は噂・・・その人の事を妬んだ輩の、誹謗であり中傷に違いない―――そう思っていました。
それが、“例”のアップデート・・・「因縁の宿敵」が実装された、“例”の―――
その直前になって、“噂”が噂ではなくなった瞬間を、リリアは目にしてしまったのです。
あの“噂”は―――噂ではなく、「真実」・・・?
その時目にしてしまった疑わしい事実を前に、リリアが事の次第を問い質そうとした、その瞬間―――
市:「強制退出」―――?
リ:うん・・・まさに今、その場で起きようとしていた事の確認をするために、声をかけた途端に―――ね。
まさに、「まずいところを見られてしまった」―――とでも言う様に、強制的に閉じられてしまった回線・・・
なにも疚しいことがなければ、そこで弁解をすればいい・・・なによりその人は、弁舌の方でも達ていたのだから。
けれど、それすらも叶わない・・・強制的に閉じられた回線は、「弁解する気すらない」意思を表しており、
なによりまた、再び回線が繋がった折に、再ログインした時には、既にフレンドは一方的に解除されており、
それは、「師弟」の関係も、最早言うまでもなく・・・
つまりは―――・・・
サ:ああ―――そう言う事さ、その事は「自分はクロ」だ・・・って、認めた証しさ。
サヤからの一言は、非常に厳しいものでしたが、それこそがまさに“そう”であり、他に表現が見当たらなかった・・・
けれど、そのプレイヤーが本拠としているサーバーは知っていたので、色々準備を整えた数日後、そのサーバー・・・
市:「ペキン・サーバー・エリア」の「ラクヨウ」?
サ:そう言う事さ、古代中国に於いて、幾度も都が置かれ、幾度も蹂躙・崩壊してきた・・・つまるところの「魔都」だ。
そしてその場所は、「ペキン・サーバー」の“一部”・・・これ、どう言う意味だか、分かるな。
古代中国史上、最も多くの王朝が都として使用してきた場所・・・
けれど、その場所に「エリア・サーバー」が置かれているわけでもなく、言わば広大にして巨大な、一つの「建造物」なのです。
そして、その場所・・・「ラクヨウ」に辿り着いたリリアは、事の真相を確かめるため、
自分の「師」であったその人物―――『ジョカリーヌ』に会うなり、直接自分の思いを伝え・・・た?
いえ―――伝えようとしたその直前、何者かの侵入を許してしまったのです。
そして、その「何者」かこそ、『単于』―――
そして、自分の目の前にポップする新たな表示こそ―――「因縁の宿敵」・・・
自分が「師」として慕う人に纏わる不評を―――
事の真偽を確かめるために、質問しようとした自分を遠ざけた理由を―――
まさに、その事を訊くためだけに「ラクヨウ」に訪れたというのに・・・
「それ以上近づいてはならない」―――とでも言う様に、妨害工作を企ててきた・・・
そして、自分を阻むかのように出現してきた者こそが―――
例のアップデートから実装された、リリア自身の「因縁の宿敵」『単于』・・・
けれど―――その当時、「最強無敵」を欲しい儘にしてきたからなのか・・・
この程度の障害なら苦も無く払える―――と、思ってしまっていた・・・
そう、自分は、普通一般の人間とは違う戦闘技術を修得している・・・
だからこそ普通の大会にも出ないし、体育の授業でさえも、大幅に手を抜いたりなどして誤魔化していたというのに・・・
だから、この世界で、今まで隠していたものが、隠さないでいいと分かった時、どれだけ嬉しかったことか!
リリアは文字通り、自分が持ちうる技術の総てを、そこで発散させ―――最強無敵を誇ってきた・・・
だからこそ―――だった・・・のに・・・
意外にも、相手を「手強い」と感じてしまった―――??
相手は、防御無視で攻撃ばかりを仕掛けてくる、所謂「脳筋」スタイル―――
しかも、“パターン”もなにも、あったものではなく、リリアにしてみれば単于の“動き”というのは見え見えだった―――
けれど、いつしか捌き切れない攻撃によって、ダメージを負わされていた―――?
それに、ふと気が付くと、かつての「師」が・・・慕っていた人が―――
自分に掌を差し向けて、何かをしている―――??
その事に疑問を感じたリリアは、すぐさま―――
リ:ジョカリーヌさん?
あんた―――何をして・・・
いつしか―――その人の表情は、目元はキツくなっており、「小豆色」だった長髪も「漆黒」に変じ、
どこか人が変わってしまったように感じてしまった・・・
その瞬間―――その人が発した能力によって、自分を防御る為に展開していた『晄楯』が、強制的に解除されてしまった?!
これではまずい―――と思ったその瞬間、その隙を逃さなかった単于からの強烈な一撃を喰らい・・・
身を防るモノを失い、強烈な一撃をもらったリリアは・・・その場にもんどりうって地に沈みました。
それに見れば、今の痛恨の一撃により、体力の大半を消失させており、これ以上続行が不可能とも思われた・・・
事実リリアは、立ち上がることすら出来ないダメージを負ってしまっており・・・
そんな「敗北者」の眼前に、「征服王」は立ちはだかる―――
こうした状況が分からないでいるほど、自分は“初心者”では、ない―――・・・
だからと言って―――
リ:い・・・イヤ―――止めて・・・お願い・・・
「最強の称号」を持つ女性のプレイヤーが、まるで乙女の様に・・・まるで処女の様に乞う。
そんな姿ほど、邪なる者にしてみれば、これ以上そそる“言葉”に“仕草”はありませんでした。
そして、リリアに迫る「魔の手」―――
これから、自分の思い通りにするための、「服従」の儀式を迫る為に・・・
―――と、そうしたところ?
体力・精神力がギリギリに磨り減らされた頃合を見計らわれたか―――
また「何か」を仕掛けられた―――?
リ:(なに・・・を、された・・・の?)
単:うん?なんだ、こいつは―――お前、こいつに何をしやがった・・・
謎:それは、妾が仕掛けたモノ―――「“鉛”の呪縛」というものじゃ・・・
“鉛”は、「総ての魔術効果を打ち消す」―――
無論、「攻撃」は故より、「回復」も、「マジック・アイテム」なども・・・な。
単:あ〜〜〜ん?そいつは結構な話しだが―――
確かあんた、この女の事を大切に育てたって聞いてたが?
それがなんの風の吹き回しなんだか―――まあ、オレにゃ関係ねえが・・・な!
謎:分かったのであれば、早々にスキルを奪え―――
単:フ・ン―――フハハハ!w まあいい、あんたとこいつの関係がどうなのか、知ったこっちゃねえ・・・
それに、今まで「最強」と呼ばれてやがった女が、鼻に衝いたのでな―――
それより―――おい、もうちっと、愉しんでもいいだろう〜?
フ・フ・フ―――さっきから妙に“そそる”仕草をしてるもんでなぁ・・・しかも、いい軆つきをしてやがる・・・
謎:止めておけ―――単于よ・・・
うぬは、所詮・・・今回限りの“契約”に過ぎぬ。
それに、「その者」は、この妾の獲物じゃ・・・手を出すことは罷りならぬぞ―――
#21;“因縁”の経緯
遠くなる意識の狭間で、聞こえていた二人のやり取り―――
「そう言う・・・事だったんだ―――」
「信じていたのに・・・私はずっと、この人の事を信じて、付いてきたって言うのに―――!」
「裏切られたんだ・・・」
今ではもう・・・その人の顔を見たくても、見ていられなくなった―――・・・
これから、邪なことをしようと企むヤツからの欲求を払ってくれたことには感謝したかったけれど、
依然として、逃れられない宿命の下にある・・・
「それにしても、どうして――?」
「どうして私を、罠に嵌めようと思ったの―――?」
「どうして私を、裏切ったの―――?」
「どうして―――どうして―――・・・!」
「お願い・・・答えて―――ジョカリーヌさん!!」
謎:(・・・)「小娘」よ―――「リリア」よ・・・
妾は、「ジョカリーヌ」などでは、ない―――・・・
妾が名こそは―――
――『女媧』――
リリアが今回、その真偽を質すために訪れていたのは、「ジョカリーヌ」のはずでした。
けれど実際に会い、目にしていたのは・・・全くの別人? で、ある―――「女媧」だった・・・?
しかしながら、不思議に感じていたことは、「逃れられぬ宿命」だったはずのリリアが、
なぜ今―――ここに・・・?
リ:私は―――助けられたんだ・・・それまで、看過していた運営に・・・
サ:なるほどなぁ―――それが、お前が助かっていた・・・っていう、事の真相か。
身も心もボロボロにされ、後は「悪しき者」のなすがまま―――なされるがままだったリリアを救ったのは、
それまで事の推移を看過してきた、運営でした。
その“真相”を受け入れた市子達は、さながらにして「他人には知られたくはない」・・・
しかも、急に親しくなった友人には、打ち明けるべきではない―――と、なったものでしたが・・・
だからと言って―――・・・
市:見損なわないでください、リリアさん―――今、あなたが打ち明けてくれたおかげで、私も覚悟が決まりました。
リ:えっ・・・覚悟?
市:ええ―――絶対に、こんな事態、見逃しておくわけには参りません!
私も一緒に闘いますから、諦めずに立ち上がりましょう!
「「諦めない」―――か・・・いい言葉だ」
「確か、うちんとこの「マスター」も、度々“その事”を口にしてやがったな・・・」
サヤは、今回の事に関わる説明を、ある程度―――種族の長である「大公爵」より聞かされていました。
それは、リリアが虎口を脱している経緯も―――
とは言え、ある程度の「最悪の事態」も、想定していないといけない・・・
何よりリリアは、一度単于に敗れてしまっているのですから。
それに、「このクエスト」の大因が、どことなく見えてきた・・・
取り敢えずは、リリアの「因縁の宿敵」『単于』を打倒―――したとしても、彼を唆した存在がいる・・・
その名が「女媧」―――
この存在こそは、古代中国の伝説上の「帝王」であり、“仙人”とも“神”とも讃えられたこともある存在でした。
けれども、ある「伝奇物」では、総ての事象そのものを破壊するべく現れた「悪しき者」として、描かれていることもあったのです。
つづく