単:フン―――ようやくオレの(もと)に、戻ってくる気になったか、小娘!

リ:うるさい―――私はもう、あの時の私じゃないことを、思い知れ!

 

単:フッ―――フフフ・・・威勢だけは好いようだなあ?

  結構なことだ・・・だぁが!!

リ:うっ―――くうっ・・・!

 

単:はぁ―――っはっはっは! どうしたぁ?足下(あしもと)覚束(おぼつか)ないようだが?

 

 

単于が居座るフロアまでには、どうにか全快復出来ていたようで、

しっかりとした足取りに、しっかりとした受け答え、

けれどしかし―――単于からの“気”を受け入れると、どこか変調の前触れ・・・とでも言う様な仕草を見せるリリア。

 

これではあの時の二の舞・・・またしてもリリアは、単于に敗れてしまい、今度こそ「服従」を誓わされてしまうのか。

 

 

単:クワ〜〜〜ッハッハッハ! (ざま)はないな、リリア・・・

  再びお前は、オレに屈し、今度こそお前を、下の(はら)でヒィヒィ善がり狂わせてやるわ!!

 

 

「征服王」は吠える・・・一度は自分に屈した、最強の女性プレイヤーに対して・・・

 

けれどそれは―――「リリア」が、リリアだったらの話し・・・

 

―――「リリア」が、リリアだったらの・・・「話し」??

 

これは一体、何を意味することなのか―――その疑問もさながらにして、

破られるのはなにも、“こちら”だけではなかった・・・?

そう―――つまりは、“あちら”も機会を(うかが)っていたのです。

 

身体が思う様に動かせない、一人の女性プレイヤーに対し、卑劣漢は増援を呼び寄せ、

今度こそ、この頑強な意志を―――信念を(くじ)くべく、数で圧倒しようとしていたのです。

 

果たして―――定められていた掟は、ここに破綻しました。

 

規定(ルール)」と言う、“縛り”を真面目に守った善良なプレイヤーは、またしても卑劣な手に屈してしまうのか・・・

 

しかし―――そこには、単于の想定外があるのでした。

 

 

(さかのぼ)る事数分前―――やはりリリアは、単于との相対距離を縮まらせるにつれ、どこか辛くなる表情を浮かべたモノでした。

するとそこへ―――・・・

 

 

玉:ふむ―――やはり、辛いと見ゆるな・・・

市:(!)あなたは―――まさか?

 

 

自分達の他にも、このダンジョンを訪れていた者が、いる・・・?

しかも、市子か見た時、その者達とは、トウキョウ・サーバー・エリアのマスターである、「玉藻前」と・・・

 

 

忍:先ぇん輩☆ 大丈夫ッスかあ?

 

 

リリアの事を「先輩」と呼ぶ、この「忍」・・・

そう―――“彼女”の事は、市子達は知っているのです。

 

リリアの現実での姿―――松元璃莉霞の事を、やはり「先輩」と慕っていた、一つ下の女子高生・・・

確か、名前は―――

 

しかしそれにしても、なぜ彼女達は、リリア達のPTが潜ったこのダンジョンに現れたのか、

その理由と言うのも―――・・・

 

 

玉:ほッ―――ほッ―――ホッ・・・若いのぅ、いや実に若い。

市:玉藻前様?

 

玉:「若い」と言う事は、(けが)れを知らぬ―――と言う事に通ずる。

  (けが)れを知らぬ―――と言う事は、正しくある・・・と、言う事に通ずる。

  善哉(よいかな)善哉(よいかな)―――「若い」内はそれで善いのじゃ。

 

  じゃが―――年を経るにつれ、「(けが)れ」を知ることになる・・・

  (けが)れを知る―――と言う事は、正しくに(あら)ず・・・なのじゃ。

 

蓮:なに言ってんだか、さっぱり―――なんだが?

 

 

玉藻前は、ある摂理をそこで説きました。

その節理こそ「若さ」・・・「若い」と言う事は、それだけモノを知らず、また及んでいない―――

けれど、だからこそ物事に対し実直に受け入れ、「正しさ」と言うものを実行できる。

 

それはそれで、善い事―――なのではありますが、それは逆を返せば、

玉藻前や単于のように、老獪(ろうかい)にして手練手管の存在からすれば、「カモネギ」に似たことであることを知らせようとしていたのです。

 

 

玉:お主らのなしよう―――まこと「正しく」ある・・・と、ワシが認めよう。

  だがの?総て額面通りに捉えんものぞ?

市:まさか・・・私達は、既に彼の者の術中にあると―――?

 

 

その、市子からの質問には答えませんでしたが、その事が逆に、覆しがたい真実を物語っていた・・・

その事を、肌身に感じるのですが―――

 

 

蓮:くっそう―――ならオレ達は、またリリアが嬲られる様を、ただ指を(くわ)えて見てろ・・・ってことなのかよ!?

 

 

蓮也からの憤り―――それは、このクエストは、リリア自身が解かないと意味がない・・・ことを指していました。

しかし・・・で、あるにも(かかわ)らず、このPT以外の二人がいるというのは、

このクエスト自体を・・・いや、ルールを自分なりに曲解し、なし崩し的に背こうとしている「征服王」の魂胆を、

潰すため―――・・・という目論見が見え隠れしてきたのです。

 

それでは、彼女達二人は、一体どのようにして単于の魂胆を潰そうとしていたのか・・・

それは―――

 

 

忍:ちょ〜いと失礼しますね―――先輩☆

市:あなた・・・なに―――を?(え・・・ええっ?)

 

 

リリアの事を「先輩」と呼んだ忍が、リリアの顔に自分の(てのひら)(あて)がい、その(てのひら)を自分の顔に(あて)がった次の瞬間―――?!

なんとそこには、「もう一人」のリリアが??

容姿―――体型余すことなく・・・しかも、現在リリアの身体に纏わりついている「呪紋」も“そのまま”に・・・

つまり、対象の者と寸分(たが)わず成れる術―――≪忍術:(かけす)の物真似≫・・・

しかし―――なぜ忍が、リリアに成ろうとしたのか・・・

もしかすると、この後輩は、先輩の身代わりとなるために・・・?

 

しかしそれは、どうやら違うようで―――

 

 

玉:ふむ―――取り敢えずはそれで良い・・・

リ‘:いやしかし―――受けてみると結構辛いもんだニャ〜★

  先輩ってば、よくこんなのに耐えてた―――って感じスよ★

 

玉:我慢せい―――そなたがしくじれば、事態が最悪になることを知るがよい。

 

 

それから時間は進み―――・・・

リリアが苦悶に耐え切れず、その膝を地に着いた処を見計らい、

自らの部下を呼び寄せ―――“一対一”を“多対一”にしようとした・・・まさにその瞬間―――?

 

 

リ‘:ニヒw や〜っぱ“こう言う事”だったか〜☆

単:なに?貴様・・・あの女じゃないな?!

 

リ‘:おや?バレちった?w このあたしとあろうものがww

忍:けーど・・・妙だとは思ってたンすよね〜☆ なぜなら―――以前は「ペキン」の「ラクヨウ」だったのに、

  なーんして今回は「ウランバートル」?

 

  もしかすっと、以前の協力者から契約打ち切られたとか―――?w

 

単:(・・・)フン―――余計な詮索をするものだな。

 

忍:でもさあ・・・あんた逆に、喜んだろ?

  「これで気兼ねなく、あの女を凌辱できる」―――って・・・

 

単:ああ―――そうさ! あの「(じょか)」ってのにゃ、感謝はしてるが、一々注文の多いヤツだったんでな・・・。

  お前の言う様に、「契約」とやらは一方的に打ち切られちまったが、これでオレを縛るモノはなにもない・・・

  それにしても、物好きな小娘だ、お前も一緒にあの女のように可愛がってくれるわ!

 

忍:いっやあ〜ン☆ こっわあ〜いン☆

  なあ―――ンてなッ☆ てか、むっつりおっさん、あんたあたし一人がこんなことをしてる・・・って思ってた?w

 

 

てっきりリリアだと思っていたのが、リリアではなかった・・・。

単于はその事を、目の前の「リリアの姿をした何者か」が、リリアの声でなくなった時に知るのです。

 

けれどこれは、リリア側の策略の一つ―――忍自身が修得した「術」と、優れた諜報活動によって、

裏の裏を洗いざらい調べ上げた―――それを声高にして報告したとき、単于の顔色が少しばかり変わった・・・

 

そこで、満を持して現れたのが・・・

 

 

 

#22;災禍ふりまきし者

 

 

 

玉:ほッ―――ほッ―――ほッ、このワシの思惑通り事が運ぶとはな。

  逆に感謝しておるぞ、「征服王」・・・。

単:ぬん?なんだお前・・・お前は―――?

 

 

(おく)れてその場に出てきたのは、頭に「白金」の長髪に、「狐」の耳―――「巫女装束」の背後(うし)ろには、「狐」の尻尾が見える、

トウキョウ・サーバー・エリアのマスター「玉藻前」・・・そしてその両脇には、男と女の「武者」の姿をした者が・・・

 

この4人PTで、リリアの仇討か―――と思われたのですが、いかんせん単于側は、数十人規模では、

これではいくらPTを組んだとしても、意味がないように思われるのです。

 

そのことが理解(わか)り、急に高らかに笑う単于―――

 

 

単:ガハッハッハ―――! 哀れなり、トウキョウ・サーバー・エリアのマスター「玉藻前」!

  大方(おおかた)PTでも組めば、このオレに対抗することが出来ると思ったんだろうが・・・規模が違うわ!

 

玉:“そう”思いたければ“そう”思うがよい・・・

  じゃがの―――「知らぬ」とは、まこと可愛ゆきものよ・・・

  現にお主は、数の多寡(たか)で勝利を確信しておる、そのことが(たま)らなく―――・・・

 

 

何十人対4人・・・確かに通常で考えるならば、玉藻前達は圧倒的な不利を前にしており、

立ち待ちの内に多数に呑まれ、敗北してしまうのは必定―――そう思われたのです。

 

しかしそれこそが、そもの間違い―――

 

なにしろ、そこにいるのは、一つのエリアのマスターにして・・・

 

 

玉:“それ”が堪らなく許しがたい―――!!

  お主は()が許しを得て、ワシの友の娘に手を掛けた!!

  ワシはそれが、我慢がならぬ―――!!

 

 

その場にいたのは・・・幼い形をした、「狐」の耳と尾を持つ存在ではなかった・・・

(つい)ぞ怒りを(あら)わにし、己に課していた「呪縛」を解き―――往時をして世間を畏怖、恐怖の底に陥れた存在が・・・

容姿は匂い立ち、「妖艶」そのもの・・・(からだ)つきも「幼女」のそれではなく、(むし)ろ「妖女」に近かった・・・

 

そして、伝説の“あの名”の如く、「金色(こんじき)」の長髪に、「白面(はくめん)」の顔・・・「九つ」の尾・・・

『金毛白面九尾』

それこそが、『玉藻前』の真の正体なのです。

 

その存在こそ、強大―――強大にして、畏怖を振りまける「災禍」・・・

その者の怒りの波動だけで、近くにいた単于の部下は()ぜ―――飛び散り、その10%を消失させてしまったのです。

 

そしてこれで、数の多寡は無意味なものとなった・・・しかも、また更には―――

 

 

玉:ワシはな、リリアが敗れた経緯、知っておった・・・。

  じゃが、“それ”は“それ”―――お主との対決に敗れたのは、偏にリリアの過失によるものだからな。

  ()()・・・お主は今回なにを(たくら)んだ? それを知ったがゆえに、ワシはお主の事を許せぬのじゃ!!

 

 

玉藻前の「怒り」こそ―――忍の諜報活動によって知り得た事実・・・

この不逞(ふてい)輩こそは、今度こそ最強の女性プレイヤーを、我がモノとする為に動いていた・・・

それを知ることにより、怒りは頂点にまで達し、ついにはエリヤ・マスター自身が動くことを決意せしめたのです。

 

しかしなぜ・・・? 一つのエリヤのマスターである玉藻前が、プレイヤーの一人でしかないリリアに、これほどまでの温情を・・・?

そのことを紐解くに際し、思い出してもらいたいのは、玉藻前自身の友人のこと・・・

(いま)だその事は、リリアの母親―――とまでしか判ってはいないようなのですが、

そこもどうやら、「友人」一括りにはできなかったようなのです。

 

そして発動される、玉藻前最大の秘儀―――『荼吉尼(ダキニ)術』

――§――オン・ダキニ・ササハラキャンテイ・ソワカ(大いなる荼吉尼の神よ、恐れ敬い、奉り申し上げる)――§――

この“真言”を唱えた時、更に30%、単于の部下が消失しました。

 

しかしそう―――それは、玉藻前一人でも、この者達を()(はら)えると言う事・・・

 

ならば―――?

 

なぜリリアの身代わりとなった忍の他に、男女の「武者」が?

 

そして・・・リリア本人は、いずこに―――?

 

 

 

つづく